パート勤務で、扶養の範囲内に収まるように就業調整をしてもらっている人も多いでしょう。1カ月だけ収入が多くなってしまった場合、すぐに扶養から外れてしまうのでしょうか?外れる条件や厚生労働省が打ち出す特例措置について解説します。
扶養を1カ月だけオーバーしても大丈夫?
社会保険の扶養に入るには、各保険者が定めた収入基準を満たす必要があります。被扶養者が基準となる月収を1カ月だけオーバーした場合、扶養からすぐに外れてしまうのでしょうか?
基本的に1カ月だけなら外れない
社会保険の被扶養者として認められるのは、各種手当やボーナスなどを含む年収が130万円未満(月収換算で10万8,333円以下)の人です。雇用契約上の年収が130万円未満の人が1カ月だけ上限を超えても、扶養から外れる心配はないでしょう。
健康保険上の扶養認定は、申請時から向こう1年間の見込み年収で判断するのが一般的です。1カ月だけ上限をオーバーしたからといって、見込み年収が130万円以上になるとは限りません。
見込み年収が130万円以上になる場合でも、一時的な収入の変動であれば、政府の特例措置によって扶養を継続できるケースがあります。
なお、被扶養者の認定基準については、加入している健康保険によって異なるため、各保険者に確認する必要があります。
1カ月だけ扶養範囲を超えるケースとは
扶養の範囲内で働きたい人は、年収が130万円未満になるようにシフトを組んでもらっているはずです。収入が1カ月だけ扶養範囲を超えるのは、どのようなケースでしょうか?
- 繁忙期で残業が多かった
- 受注量の増加により、人手が不足した
- 従業員が休職・退職した
- 突発的な業務が生じた
手当の増額や昇給など、恒常的に収入が増える見込みがある場合は、被扶養者に該当しなくなる点に注意しましょう。
一時的な収入変動を証明する方法
厚生労働省は「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」を特例措置として打ち出しました。事業主による「一時的な収入変動の証明」があれば、一時的に年収が130万円以上でも被扶養者として認定されます。
健康保険の保険者へ事業主が証明書を提出
扶養を継続するには、一時的な収入変動である旨を記載した「事業主の証明書」が必要です。事業主が各保険者に証明書を提出するため、労働者が自ら手続きをする必要はありません。証明書には、以下のような内容が記されます。
- 雇用契約上、本来想定される年間収入
- 人手不足による労働時間の延長などが行われた期間
- 期間内の労働による収入額(実績額)
あくまでも一時的な収入変動が対象であるため、申請は同一の従業員につき連続2回までが原則です。
出典:被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動」に係る事業主の証明書
扶養から外れてしまう条件とは
扶養から外れるかどうかは、健康保険の各保険者が総合的に判断します。どのような収入基準が設けられているのかをあらかじめ確認しておきましょう。
協会けんぽ(全国健康保険協会)
協会けんぽの被扶養者として認定されるには、年収が130万円未満で、かつ被保険者の収入により生計が維持されている必要があります。
被扶養者が被保険者と同一世帯の場合は、年収が130万円以上になる見込みがあると、扶養から外れてしまいます。
収入の増加が1カ月間だけであれば、扶養認定は取り消されないと考えられますが、増加した月が連続した場合は、一時的な収入変動と認められず、扶養から外れる可能性があるでしょう。
出典:被扶養者とは? | こんな時に健保 | 全国健康保険協会
共済組合
共済組合には、公務員や教職員が加入します。地方公務員の場合、職種や市町村などの区分によって、加入する共済組合が決まっています。
被扶養者は「組合員の収入により生計を維持している者」と定義されており、見込み年収が130万円以上になると、扶養から外れるのが一般的です。
例えば、防衛省共済組合の場合、繁忙期で収入が一時的に増えても、引き続く12カ月の収入が130万円未満であれば問題はありません。ただし、恒常的に10万8,333円を超える月収があると判断されれば、超えることになった日から扶養は取り消されます。
その他の健康保険組合
健康保険組合とは、厚生労働大臣の認可を得て設立された公法人です。中小企業は協会けんぽに加入するのが一般的ですが、規模の大きな事業所の従業員は、独自に設立された健康保険組合に加入するケースがあります。
被扶養者として認められる収入基準は、組合によって異なります。一時的な収入の変動であれば扶養は継続されますが、以下に該当した場合は扶養から外れる可能性が高いでしょう。
- 見込み年収が130万円以上になる場合
- 直近3カ月の平均月収が10万8,333円を超える場合
税制上の扶養の場合
税制上の扶養とは、所得税や住民税が控除される制度のことで、代表的なものには「配偶者控除」「配偶者特別控除」「扶養控除」があります。
所得税法上の控除対象扶養親族がいる納税者は、年間の所得金額から一定額を差し引けるため、所得税や住民税の納税額が少なくなります。
納税者が配偶者控除を受けるには、その年の配偶者の給与収入が103万円以下でなければなりません。103万円を超えると控除適用外となるため、世間では「103万円の壁」と呼ばれています。
納税者の配偶者の年収が201万6,000円以上になると、配偶者特別控除が受けられなくなる点にも留意しましょう。一般的には「201万円の壁」と呼ばれています。
扶養の範囲内でパートをしている人は、税制上と社会保険上の両方の扶養を考慮する必要があります。
出典:No.1190 配偶者の所得がいくらまでなら配偶者控除が受けられるか|国税庁
税制上・社会保険上の扶養の条件
扶養から完全に外れると、納める税金が増えたり、社会保険料を負担する義務が生じたりします。パートで働いている人は、扶養の条件をきちんと確認した上で、職場に就業調整を依頼する必要があるでしょう。主な条件とポイントを解説します。
税制上の扶養
税制上の扶養には、「配偶者控除」や「配偶者特別控除」「扶養控除」などががありますが、ここでは、配偶者控除について解説します。
一般の控除対象配偶者の場合、配偶者控除の控除額は13万~38万円です。控除を受ける納税者本人の合計所得金額が900万円以下であれば、控除額は38万円となります。控除を受けるにはその年の12月31日の現況で、配偶者が以下のような要件を満たしていなければなりません。
- 民法上の婚姻関係にある
- 納税者と同じ財布で生活をしている
- 年間の合計所得金額が48万円以下(給与収入のみの場合は103万円以下)
- 白色申告者の事業専従者でない
- 青色申告者の事業専従者として、年間を通じて給与の支払いを受けていない
社会保険上の扶養
被扶養者の範囲や収入基準は、保険者ごとに異なります。ここでは「協会けんぽ」を例に挙げます。
被扶養者になれるのは、被保険者の直系尊属・配偶者・子・被保険者の3親等以内の親族などです。配偶者の場合、主として被保険者の収入により生計を維持されている必要がありますが、必ずしも同居の必要はありません。
被扶養者として認定される収入基準は、以下の通りです。
- 被保険者と同一世帯の場合:年収は130万円未満で、かつ被保険者の年収の1/2未満であること
- 被保険者と同一世帯でない場合:年収は130万円未満で、かつ援助額より少ないこと
事実婚の配偶者も社会保険の扶養に入れます。詳細は、協会けんぽに確認しましょう。
出典:被扶養者とは? | こんな時に健保 | 全国健康保険協会
年収の壁一覧
先に紹介した「103万円の壁」と「201万円の壁」のほかに、4つの年収の壁があります。これらの年収を超えた場合、税金の負担が増えたり、社会保険料の支払い義務が生じたりして、手取りが少なくなる可能性があります。
100万円の壁
給与収入がある人は、年収がおよそ100万円を超えると、住民税の負担が生じます。100万円を超えないように就業調整をする人は多く、世間では「100万円の壁」と呼ばれています。
住民税とは、道府県民税(東京都は都民税)と市町村民税(東京23区では特別区民税)を合わせた呼び名です。前年の所得に応じて負担する「所得割」と、所得の多寡に関係なく負担する「均等割」があります。
なお、住民税がかかる年収は、自治体によって若干の差があるため、事前に確認しましょう。
106万円の壁
「106万円の壁」とは、社会保険の加入義務が生じる年収の目安です。
勤務先の従業員数が101人以上の企業等において、一定の要件を満たしたパート・アルバイトは社会保険の加入対象となります。2024年10月からは、従業員数51人以上の企業などにも社会保険の適用が拡大予定です。
所定内賃金が月額8万8,000円以上であること(通勤手当・残業代・賞与などを除く)が要件の1つとなっており、そのため年収106万円を超えない範囲で働く人が多く見られます。
106万円の壁への対応策として、厚生労働省では新たに社会保険の適用を行った事業主に対し、労働者1人当たり最大50万円を助成する「年収の壁・支援強化パッケージ」を打ち出しています。
出典:社会保険適用対象となる加入条件|厚生労働省 | 社会保険適用拡大 特設サイト
130万円の壁
「130万円の壁」とは、社会保険上の扶養から外れる年収の目安です。年収130万円以上になると、国民健康保険や国民年金、勤務先の社会保険に加入しなければならず、保険料分の負担が増えます。
前述のように厚生労働省は「年収の壁・支援強化パッケージ」の中で、「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」を打ち出しています。人手不足による残業などで年収が130万円以上になった場合でも、事業者がその旨を証明することで、扶養が継続されるという内容です。
ただし、本措置はあくまでも「一時的な収入の変動」に対するもので、同一の者につき連続2年までが上限です。
150万円の壁
「150万円の壁」は、税制上の扶養に関するボーダーラインです。例えば、夫が正社員、妻がパートの場合、一定の要件を満たせば、夫は妻の収入に応じて「配偶者控除」または「配偶者特別控除」が受けられます。
控除を受ける夫の合計所得金額が900万円以下とすると、妻の年収が150万円であれば、配偶者特別控除で38万円(満額)の控除を受けることが可能です。
しかし、年収が150万円を超えると控除額が段階的に減るため、一般的には「150万円の壁」と呼ばれています。
妻の年収が150万円超155万円以下の場合、夫の控除額は36万円です。妻の年収が201万6,000円以上になると、夫の控除額は0円となります(201万円の壁)。
出典:家族と税|国税庁
収入が見込みよりオーバーしたらパート先へ相談を
収入が見込みよりも増えそうなときは、できるだけ早くパート先に相談しましょう。事業主が健康保険の保険者に証明書を提出すれば、一時的に年収130万円を超えた場合でも扶養の継続が可能です。
社会保険の扶養を1カ月だけオーバーしても、すぐに扶養から外れる心配はありませんが、被扶養者の収入基準は保険者ごとに異なります。詳細をしっかり確認しておきましょう。
求人情報一括検索サイト「スタンバイ」は、扶養の範囲内で働ける求人を多数掲載しています。