アクチュアリーになるには・年収・資格・難易度・全国の求人

アクチュアリーとは

パソコンを見ながらの打ち合わせ

(出典) photo-ac.com

アクチュアリーは、数理業務のプロフェッショナルとして統計学などの金融工学の数理的知識や経験を駆使し、生命保険商品や損害保険商品などの金融商品を設計する仕事です。

日本語では「保険数理士」「保険数理人」などと訳され、アクチュアリーの仕事をしている人を「アクチュアリー」と呼ぶこともあります。しかし、日本においては一般的に、「公益社団法人 日本アクチュアリー会」の正会員のことを指します。

アクチュアリーの仕事内容と主な活動分野

データを解説する

(出典) photo-ac.com

アクチュアリーは生命保険事業、損害保険事業、年金事業のほか、リスクマネジメントや企業の資産運用など、金融の世界で数理を扱うフィールドで幅広く活躍しています。

生命保険分野

生命保険とは、人の生存や死亡など生命に関わる有事に備えて、保障を提供するサービスです。また、将来運用益を受け取る貯蓄型の保険もあります。数十年もの長期にわたって、加入者との契約関係を維持し将来の保障を約束することがその特徴であることから、生命保険会社は常に収支のバランスを保ち、生命保険事業を取り巻くさまざまな環境変化に対応していかなければなりません。

生命保険分野のアクチュアリーは、会社の健全性を保ち、保険金等の支払能力を確保するのが仕事です。そのために保険数理的手法や幅広い知識を生かして、会社全体の収支分析や責任準備金などの計上、保険料の算定といった業務を行います。

損害保険分野

損害保険とは、偶然の事故や災害によって発生した経済的損害を補償するサービスです。主な損害保険商品は、自動車保険や火災保険、傷害保険で、多種多様なリスクに応じた保険商品を取り扱うという特徴があります。

損害保険分野のアクチュアリーは、それぞれの事故や災害の発生頻度、保険数理に基づいて損害率を分析し、商品開発や商品内容・保険料の設定、リスク管理を行います。

年金分野

年金分野のアクチュアリーが扱うのは、企業が従業員を対象として実施する年金制度「企業年金制度」がメインです。企業のニーズを踏まえ、企業年金の制度設計や掛金率の計算、企業年金制度を健全に運営するための定期的な財政検証などを実施します。また、企業年金の財政運営に関する事項や退職給付制度全般の設計や変更などについて、企業年金を取り巻く環境や顧客のニーズに沿ったコンサルティングを行うことも少なくありません。

リスクマネジメント分野

アクチュアリーはリスクマネジメント領域に携わるため、数理的な知識だけでなく、アクチュアリー行動規範に従う専門職能者としての倫理観など、個人の資質も必要です。特に近年では、企業などが業務遂行上のあらゆるリスクに関して、組織全体の視点から包括的に評価し、企業価値の最大化を図るERM(Enterprise Risk Management)が注目されています。今後はますます、ERM分野でアクチュアリーの貢献が期待されるようになるでしょう。

その他の分野

近年では、数理的な知識を生かし、外部コンサルタントとして保険会社の経営管理や収益管理、商品開発に関するコンサルティングを行うケースや、監査法人に所属し保険会社の財務状況に関する外部監査を行うケースなども増えてきています。

クオンツとの違い

クオンツもアクチュアリーと同様に、統計学や数学の知識を生かしてデータ分析を行う仕事です。両者はしばしば混同されますが、仕事内容や資格などの面で違いがあります。

まず仕事の面から見ると、アクチュアリーの活躍場所は主に保険市場・保険業界です。これに対し、クオンツは金融市場で金融商品や投資戦略の分析を行います。クオンツが投資判断をするファンドは「クオンツファンド」と呼ばれ、人の第六感や感情に一切頼らず、データのみで機械的に金融商品を運用していく手法が特徴です。

また、アクチュアリーになるためには、公益社団法人日本アクチュアリー会の正会員になることが必要です。しかしクオンツには、取得必須とされる資格はありません。経済や金融についての広い知識と、数学・金融工学・統計学等の知識があれば、クオンツとして働けます。

アクチュアリーに求められる能力

デスクでデータを分析する

(出典) photo-ac.com

アクチュアリーは、数理的な知識や能力はもちろん、景気動向や経済指標の動きなど多くの要素が絡み合う数字を扱うため、社会の動きに敏感であることや、会計や法律、マーケティングセンス、コンピューターシステムなど幅広い知識も求められます。また、自分が出した結論について、論理的に分かりやすく説明できる説明能力やコミュニケーション能力も欠かせないでしょう。

アクチュアリーになるには

データを説明する男性

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アクチュアリーになるには、日本アクチュアリー会が毎年実施している資格試験の全科目合格とプロフェッショナリズム研修の受講が必須です。資格試験の全科目に合格するためには、基礎科目となる第1次試験5科目、専門科目となる第2次試験2科目の計7科目に合格しなければなりません。

日本アクチュアリー会の会員は、「研究会員」「準会員」「正会員」の3種類です。基礎科目5科目のうち1~4科目に合格すると研究会員、全てに合格すると準会員となります。さらに専門科目2科目に合格すると正会員となり、「アクチュアリー」と名乗って活動できるようになるのです。

日本アクチュアリー会のWebサイト によると、全科目に合格するまでにも平均して約8年かかるとされています。

2021年3月末の時点で正会員が1,931名、準会員が1,297名、研究会員が2,144名という数字からも、非常に希少価値の高い資格であることが分かるでしょう。

資格試験の難度は高いため、生命保険会社や損害保険会社、信託銀行などに新卒で就職してアクチュアリー候補として職務経験を重ね、数年をかけて合格を目指す形が一般的です。

資格試験について

デスクでの勉強のイメージ

(出典) photo-ac.com

アクチュアリー資格試験は年1回、東京と大阪の2会場で12月に実施されます。資格試験は、第1次試験(基礎科目)と第2次試験(専門科目)に分かれています。

第1次試験

基礎科目である第1次試験は、第2次試験を受けるのに相当な基礎的知識を有するかどうかを判定することを目的としたものです。試験科目は「数学」「生保数理」「損保数理」「年金数理」および「会計・経済・投資理論」です。

受験資格は、「学校教育法による大学を卒業した人か、試験委員会が大学を卒業と同等の資格試験受験に必要な基礎的学力があると判断した人」とされています。高等専門学校の卒業者や、4年制大学において休学期間を除き2年以上在学しかつ62単位以上の単位を修得していれば、大学3年生でも受験できます。

第2次試験

専門科目である第2次試験は、アクチュアリーとしての実務を行ううえで必要な専門的知識・問題解決能力があるかどうかを判定することを目的としたものです。「生保コース」「損保コース」および「年金コース」のうちいずれか1つのコースを受験者が選択します。なお、いずれのコースも2科目からなっており、正会員資格としてのコースによる区別はありません。第1次試験の全科目に合格し、日本アクチュアリー会の準会員になっていることが受験の条件となります。

勉強方法

独学で教科書や参考書を読み、過去問を解いていく形が一般的です。過去問はアクチュアリー会公式サイト から無料で閲覧が可能です。また、日本アクチュアリー会では、若手アクチュアリー養成のために、会員を対象としたアクチュアリー講座を毎年実施しています。

アクチュアリーのやりがい

立ちすくむスーツの女性

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アクチュアリーの仕事は専門性が高く、困難な事例に出会うことも多々あります。アクチュアリーとして働く人は、どのようなことを仕事のモチベーションとしているのでしょうか。

好きなことを仕事にできる

アクチュアリーは、統計学や確率論を駆使する、数理的な業務に日々取り組むのが仕事です。数字や統計・データ分析が好きな人には、まさに天職といえるでしょう。

どのような場面で仕事のやりがいを感じるかは、人それぞれです。しかし自分が好きだと思えることを仕事にできた人は、仕事でつらいことがあってもモチベーションが下がりません。

「数字が好き」「計算・データ分析が好き」と感じている人にとっては、アクチュアリーの仕事そのものが、やりがい・モチベーションの源となるはずです。

人の役に立てる

アクチュアリーが携わる生命保険・損害保険・年金保険は、人々の生活・人生を支えるための重要なサービスです。

適切な保険料の算定や商品開発ができれば、人々の生活の安定・安心につながります。自身の算出した数字が人々の役に立っていると思えることが、アクチュアリーの仕事のモチベーションとなるでしょう。

また、アクチュアリーとして働いていれば、顧客に直接生命保険や損害保険の説明をすることもあります。自身のアドバイスによって顧客が大きな決定をしたり、正しい判断を促せたりすることに喜びを見いだすアクチュアリーも多いようです。

「専門性の高さ」に誇りを感じる

アクチュアリーの仕事は専門性が高く、正会員数からも分かる通り誰にでもできる仕事ではありません。「自分の代わりはいない」と思いながら働けることが、仕事のやりがいにつながります。

アクチュアリーという職種は常に一定数のニーズがありますが、大々的に募集されるものではありません。基本的には少数精鋭で重要な仕事に当たることになるため、それぞれに「業務をこなす」という強い責任感が必要です。

仕事の難易度が高い分、業務を遂行できたときの喜び・達成感は何物にも代えがたいものがあります。狭き門をくぐり抜けて正会員として活躍できたとき、「アクチュアリーになってよかった」と心から実感できるでしょう。

アクチュアリーの求人傾向

データの説明

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保険や年金関連、監査業務やコンサルティングなど、アクチュアリーが求められる分野は数多くあります。アクチュアリーの転職先として、保険会社のための保険を扱う「再保険会社」も人気です。

アクチュアリーは需要に対して資格取得者が少ないため、厚遇されることが多いでしょう。生命保険会社や損害保険会社における数理関連の実務経験や、アクチュアリー研究会員以上であることを条件にしている求人は少なくありません。

また、実務は未経験でも、大学・大学院で数学、金融工学を専攻しており、アクチュアリーを目指す人は求人の対象になる場合があります。キャリア形成や技能等の継承の観点から年齢制限が設けられているケースもあります。

アクチュアリーの年収・給与

※スタンバイ掲載中の全求人データ(2017年9月時点)から作成

厚生労働省が運営する職業情報サイトによると、アクチュアリーの平均年収は1,029万5,000円と公表されています。

一方、国税庁が発表した「令和2年分民間給与実態統計調査」では、令和2年の日本人の平均年収は433万円でした。アクチュアリーの平均年収は、日本人の平均年収よりも大幅に高額であるといえるでしょう。

出典:
公益社団法人 日本アクチュアリー会
国際アクチュアリー会
三井生命保険株式会社「アクチュアリーの仕事について」
プルデンシャル生命保険「アクチュアリーの仕事」
住友生命保険相互会社「人と仕事」
公益社団法人 日本アクチュアリー会「ERM委員会」
公益社団法人 日本アクチュアリー会「資格試験情報」
厚生労働省 職業情報提供サイト(日本版O-NET)「アクチュアリー - 職業詳細」
国税庁「令和2年分 民間給与実態統計調査」