ライブラリアンは、主にオーケストラ事務局に所属し、楽譜の管理全般に携わる仕事です。公演の成功を支える裏方として、どのような役割を担っているのでしょうか?仕事内容や未経験から目指すプロセスを解説します。
ライブラリアンとは?
オーケストラでは、指揮者や楽員にスポットライトが当たりがちですが、舞台裏では多くのスタッフが演奏会を支えています。「ライブラリアン」も、オーケストラの成功に関わる重要な職種です。主な役割と立ち位置を確認しましょう。
オーケストラを支える縁の下の力持ち
ライブラリアン(librarian)は、オーケストラのための楽譜を手配・管理するポジションで、「オーケストラ・ライブラリアン」とも呼ばれています。
指揮者や楽員のように、ステージに立つことはありませんが、ライブラリアンがいなければ、オーケストラは成り立たないと言っても過言ではありません。
仕事内容は、単に楽譜をコピーして配るといった単純なものではなく、楽譜の編成チェックや校正も行います。指揮者やほかのスタッフと密にコミュニケーションを取りながら、公演の何カ月も前から準備を行うのが通常です。
主にオーケストラ事務局に所属
ライブラリアンの多くは、「オーケストラ事務局(楽団事務局)」に所属します。オーケストラ事務局は、オーケストラの運営に関わる事務作業を一手に引き受ける部門です。以下は、オーケストラ事務局の主な役割です。
- 公演の企画
- 予算の管理
- 楽譜の手配
- 練習やリハーサルのスケジュール調整
- 公演のプロモーション活動
- チラシデザインの発注
- 入場券の販売
- 会員の管理
このように、オーケストラ事務局はさまざまな役割から構成されています。それぞれが専門性を持ったプロフェッショナルです。
オーケストラ事務局の主なスタッフ
「ステージマネージャー」や「インスペクター」は、ライブラリアンとともにオーケストラを裏で支えるスタッフです。
ステージマネージャー(ステマネ)は、舞台のセッティングや公演の進行管理を担います。指揮者と相談して楽器の配置場所を決めたり、音響設備を設置したりと、最高の公演を作り上げるために力を尽くします。
インスペクターは、練習・リハーサル・本番の段取りをするポジションです。楽員の中から選ばれるケースが多く、練習計画を立案したり、練習時間の配分を指揮者と確認したりする業務を担います。
ライブラリアンの主な仕事
オーケストラの裏方として、ライブラリアンは普段どのような仕事をしているのでしょうか?多岐にわたる業務内容の中から、代表的なものをピックアップして紹介します。
指揮者との打ち合わせ・楽譜の手配
ライブラリアンは、公演の何カ月も前から楽譜の手配に着手します。同じ曲でも、出版された年代や校訂者によって、複数の版が存在するため、どれを演奏するのかを指揮者と擦り合わせなければなりません。
使用する版をオーケストラが所有していなければ、購入またはレンタルします。海外からの取り寄せとなるケースもあり、準備には時間と手間がかかるでしょう。楽譜の納品後は、落丁や印刷ミスがないかを確認し、番号を付けて管理します。
楽譜の編成チェック・校正
入手した楽譜は、そのまま指揮者や楽員に渡されるわけではありません。楽曲を構成する全てのパートが書かれた楽譜は「フルスコア」と呼ばれます。
指揮者が使用するフルスコアと各楽器のパート譜に相違がないかを照らし合わせ、指揮者や公演制作の担当者と確認しながら、必要に応じて校正を行います。曲によっては、この作業に1カ月以上の時間が費やされるケースもあるようです。
弦楽器の場合は、各奏者を統率するコンサートマスターや首席奏者に「ボウイング(弓の上げ下げ)」を決めてもらい、楽譜に記入する必要があります。
全員に楽譜を渡した後も、さまざまな要望が上がってくるため、都度修正を加えなければなりません。
楽譜の補修
オーケストラが所有する楽譜は、楽譜庫で保管するのが一般的です。紙でできた楽譜は非常にデリケートなため、保管中も変色が進みます。
手あかが付いたり、譜めくりで折れ曲がったりした楽譜は特にもろく、練習中に破れる可能性があります。破損した箇所を補修し、劣化を予防するための措置を施すのもライブラリアンの重要な仕事です。
演奏中の譜めくりはタイミングが重要です。レイアウトの際は、できるだけ休符で譜めくりができるように工夫します。
ライブラリアンになるには?
ライブラリアンに欠かせないのは、「オーケストラが好き」という気持ちです。しかし、熱意だけでは仕事はこなせないのが現実で、さまざまな知識やスキルが求められます。未経験からライブラリアンを目指すためのプロセスを解説します。
楽器や楽譜への深い理解が求められる
ライブラリアンになるのに必要な資格はありませんが、指揮者や楽員と対等にコミュニケーションを取るに当たり、楽器や楽譜への深い理解が欠かせません。
ライブラリアンとして活躍している人の多くは、音楽大学の出身者で、楽器を演奏できる人も少なくありません。未経験から目指す場合は、音楽大学の「音楽学部」を専攻し、ライブラリアンに必要な音楽の素養を身に付けることをおすすめします。
楽譜や版に関する情報は、必ずしも日本語であるとは限らないため、ドイツ語などの外国語ができると仕事に有利でしょう。
助手からスタートして経験を積む
オーケストラ事務局では、不定期にライブラリアンの求人募集を行っています。応募要件は事務局によって異なりますが、楽器や楽譜に対する一定の理解があれば、応募が可能なケースが多いでしょう。
未経験者の場合、助手(アシスタント・ライブラリアン)からスタートし、徐々に経験を積んでいきます。
実際のところ、ライブラリアンの求人はそれほど多くありません。求人情報サイトやオーケストラ事務局のWebサイトを小まめにチェックし、応募のタイミングを逃さないようにしましょう。一般事務の職種で募集をしているところもあります。
オーケストラ以外で活躍する道もある
ライブラリアンが活躍する場面は、オーケストラだけに限りません。「オペラ・ライブラリアン」は、オペラ公演で使用する楽譜を手配・管理するポジションです。指揮者はもとより、舞台監督・伴奏者・合唱メンバーなど、オペラに関わる全ての人と関わります。
バレエ団の公演で活躍する「バレエ・ライブラリアン」の場合、振り付けが変わるたびに音楽がカットされたり、追加されたりするため、楽譜の手直しに多くの労力が費やされるといいます。大変な分、やりがいや達成感が大きいポジションといえるでしょう。
そのほか、プロの吹奏楽団や室内楽アンサンブルなど、ライブラリアンのキャリアを磨くシーンは数多くあります。
ライブラリアンのもう1つの意味
ライブラリアンには、楽譜を手配・管理する仕事とは別の、もう1つの意味があります。もう1つのライブラリアンについて見ていきましょう。
司書や図書館員のこと
ライブラリアンには、司書や図書館員という意味もあります。司書とは、図書館に配置される専門職で、主に以下のような業務に携わります。
- 本や資料の収集・整理・保存
- 蔵書の貸し出しおよび返却業務
- レファレンス
- 読書案内
- イベントの開催
レファレンスとは、調べものをサポートするサービスです。図書館利用者の求めに応じて、関連する蔵書の有無や資料の探し方などを案内します。
主な勤務先は、都道府県や市町村が運営する公共図書館や私立図書館、国立図書館などです。学校の図書館に勤務する司書は、学校司書と呼ばれます。
出典:司書について:文部科学省
司書を目指す方法
図書館法で定められた司書を目指すには、司書の資格を取得しなければなりません。資格の取得方法は複数ありますが、大学で「文部科学省令で定める図書館に関する科目」を履修した者であれば、資格があると認められます。
高卒の場合は、「司書補」として経験を積んだ後に「司書講習」を受け、司書の資格を取得します。司書補とは、司書の職務を補助する職種です。司書補講習を受講後、司書補として2年以上の実務経験を積むことで、司書講習の受験資格を取得します。
司書の資格を取得した後は、図書館の司書採用試験や地方公務員試験(司書の専門職または一般行政職)を受ける流れです。
ライブラリアンの役割と重要性を知ろう
ライブラリアンは、演奏に欠かせない楽譜を管理する人のことで、オーケストラでは一目置かれる存在といえます。
仕事をする上で必須の資格はありませんが、楽器・楽譜への深い理解が必要であり、音楽大学の出身者や楽器の経験者にとって有利なポジションです。
また、ライブラリアンには司書や図書館員の意味もあります。司書の資格を取得すれば、全国の図書館で働けるチャンスを得られるため、興味がある人は資格の取得方法や働き方をチェックしてみてはいかがでしょうか?
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