大工になるにはどんな方法がある?挑戦したい資格と経験者の本音とは

大工とは

フローリングを加工する大工

(出典) photo-ac.com

大工とは、建築士の作成した設計図に従って建築材料を加工し、主に木造建築物を建てる職業です。設計図を正確に読み取って寸分の狂いなく加工する技術のほか、建材や建築技術についての知見も必要です。

大工になるには

大工になるには資格は必要なく、学歴や年齢も問われないことが多いようです。早い人であれば中学卒業後に親方に弟子入りします。また、工務店に就職するなどして、時間をかけて職人として技術を磨く人もいます。

ただし、後述の資格の一部を取得するには、高校、高等専門学校、大学にて土木、建築学科を卒業する必要がありますので、資格取得によって将来的なキャリアアップを望む場合、少なくとも高校で該当学科を卒業することが必須です。

一人前の大工と呼ばれるまでにかかる期間は、ハウスメーカーによる建売住宅の大工であれば3年程度が目安です。自ら部材を加工し、木組みや彫り込みまでこなして特別注文の家を建てられる、昔ながらの職人大工であれば5年〜10年かけて一人前と呼ばれるようになります。

大工に向いているのは、やはりモノづくりに喜びを感じることができる人でしょう。それまでの人生で自分で何かを作ったり修理したりしたような経験がなく、大雑把な性格であると自他ともに認めるような人は向いていません。

精緻な図面を自らの手で再現するためにも手先の器用さは必要です。また、上下関係に厳しく技術がものをいう職人気質(徒弟制度)も見られる世界のため、そういった環境で生き残るだけのタフな精神力も必須であるといえます。最近では女性でもこの世界に飛び込む例が増えています。

大工になるために持っていたほうが有利な資格や免許とは

大工仕事

(出典) photo-ac.com

大工になるために必須で取得しなければならない資格や免許はありませんが、持っていれば有利になる資格はあります。

それが「木造建築物の組立て等作業主任者」「建築大工技能士」「二級建築士/木造建築士」です。

それぞれ具体的に説明しましょう。

木造建築物の組立て等作業主任者

木造建築物の組立て等作業主任者は、労働安全衛生法に定められた作業主任者で国家資格です。工事現場などで「作業主任者:氏名」といった表示があるのを見たことはないでしょうか 作業主任者は、労働災害を防止するための管理を必要とする作業において政令によって事業者に配置を義務づけられているもので、木造建築物を組み立てるにあたって配置が必要な人員です。

木造建築物の組立て等作業主任者は、軒の高さが5m以上の木造建築物の構造部材の組み立てや、これに伴う屋根の下地、外壁下地の取付け作業を行います。各都道府県により異なりますが、「木造建築物の組立て等作業主任者技能講習」を修了することで、選任される資格を得ます。

ただし、取得にあたっては高校、高等専門学校、大学にて土木、建築学科を卒業する必要がありますので注意が必要です。

大工としてのキャリアを積むにあたっては、この作業主任者資格を取得することでより責任のある立場で仕事に取り組めることになり、当然給料も一般の大工とは一線を画すことになるでしょう。

建築大工技能士

建築大工技能士は、木造建築物工事に必要な技能資格として認められている技能資格で、国家資格です。試験は都道府県職業能力開発協会によって実施され、受験する級によって必要な実務経験が異なります。

  • 1級建築技能士:実務経験7年以上
  • 2級建築技能士:実務経験2年以上
  • 3級建築技能士:実務経験6ヶ月以上

建築大工技能士の実技試験内容は、以下の通りです。

  • 1級建築技能士:振隅木小屋組の平面図、振隅木及び配付たる木の現寸展開図を作成し、木ごしらえ及び墨付けをした後、加工組立てを行う(打ち切り時間:5時間45分)
  • 2級建築技能士:柱差し小屋組の平面図、振たる木の現寸展開図を作成し、木ごしらえ及び墨付けをした後、加工組立てを行う(打ち切り時間:5時間45分)
  • 3級建築技能士:材料に直接墨付けした後、桁、はり、つか、むな桁及びたる木の加工組立てを行い、切り妻小屋組の一部を製作する(打ち切り時間:3時間)

建築大工技能士の資格を持つメリットは、国家資格たる技能士資格を持つことで、発注される機会が増える可能性が高いことでしょう。最近ではこの資格を必須要件とする現場もあり、取得する価値の高い資格であるといえます。1級建築技能士の資格保持者は、大工として上級であると認識されます。

二級建築士/木造建築士

木造建築を取り扱うことのできる資格として「木造建築士」があります。木造建築士が必要なのは、伝統的な木造建築の作業者となる場合です。部材の組み立て中心の大工だったとしても取得しておくに越したことはありません。もし、一般的な大工からのキャリアアップを望む場合は、二級建築士資格を取得することをおすすめします。

二級建築士は、本来は現場に出る人というよりも管理監督をする人のための資格で、戸建住宅のみならず木造ではない小規模な建築物も担当できるようになります。木造建築現場の大工であれば、木造建築士の資格を比較的容易に取得できるため、一般的な工務店に勤務している大工であれば、この二級建築士を取得することを求められます。建築物のプランニングもできるため、キャリアの幅を広げるには必要十分な資格といえます。

一人前の大工になるには

建築の打ち合わせ

(出典) photo-ac.com

一人前の大工と呼ばれるためにはどのぐらいの修業期間が必要かというと、前述のとおり、なりたい大工像によって必要な期間は異なります。ハウスメーカーが販売する建売住宅のような、用意された建材を組み立てる大工であれば3年程度の経験で一人前と呼ばれることもありえます。しかしながら、自ら部材を加工し、木組みや彫り込みまでこなして特別注文の家を建てられる、昔ながらの職人大工であれば5年〜10年かけて一人前と呼ばれるようになります。

ただし、昨今はハウスメーカーの建売住宅の需要が多く、職人大工の需要は年々減少しているのが実情です。職人大工のほうが工賃が高く、高収入ではありますが、その分、現場の選択肢は少なくなります。昔ながらの職人大工が活躍する場は、なくなりはしないと思われますが、今後は自ら現場を開拓する努力が必要になるかもしれません。注文住宅専門の工務店などと懇意になって案件を確保する必要があるでしょう。

一人前の大工の定義は、このように目指す大工像によって異なりますが、いずれも現場あってこそです。一生食べていける職人として、キャリアプランについては当初から設計しておく必要があるでしょう。

大工になるには何から始めたらいい?

大工作業

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工務店に就職したり、親方に弟子入りして修業したりするのが一般的です。

全くの未経験でも問題なく採用してもらえるケースが多いようですが、就職や弟子入り前に技術系の専門学校や職業訓練校で技術を身につけておくこともできます。ただし、学校選びの際には注意すべき点があります。 

職業訓練校以外の学校では、設計者である建築士を養成する「建築科」や土木技術者を養成する「土木科」にカリキュラムが寄っていることもあります。そのような場合は、大工に必要な木材加工や組み立ての技術を直接教えるというわけではないため、実践的スキルを身につけて早く大工になりたいという方にとっては、回り道になってしまう可能性があります。

一方で、CAD(コンピューターを使った設計支援システム)の使い方や設計に関する知見を身につけることができるため、将来的に大工から業務範囲を広げたい方はカリキュラムに幅のある学校を選ぶとよいでしょう。

大工になるために必要な資格はありませんが、大工としての技能を証明する資格としては前述の「建築大工技能士」などがあります。スキルや実務能力を証明できるため、転職や独立の際に役立つかもしれません。

大工になってからのキャリアパス

工務店で働く男性

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大工としての技術を身につけ、現場の職人のマネジメントができるようになると棟梁として現場をまとめられるようになります。

独立すれば一人親方になったり弟子をとったりする道も視野に入ります。ただし、独立開業には、自ら工事の発注者を探すための営業力も必要です。一人親方になると、自分で仕事を獲得するほかに、大手工務店の下請けの仕事もできるようになります。

一通りの大工技術を身につけた後に業務範囲を広げたい場合は、木造建築士の資格を取得することを検討してもよいでしょう。木造建築士は木造住宅の設計ができる資格で、取得することで住宅の設計から施工まで一通りの仕事を担当できるようになります。木造建築士資格を持つ大工は、日本の伝統的な大工仕事をこなすことのできる大工といえるため、日本家屋の建築担当者などとして需要があります。

その他、前述の「木造建築物の組立等作業主任者」資格や「二級建築士」資格も次のステップとして取得を検討してもよいでしょう。

大工の具体的な仕事内容・職位について

公務員の時の打ち合わせ

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建築技術やITの進化にともない、大工の業務のありかたも時代とともに変化しつつあります。本項では、伝統的な大工の作業手順や道具を紹介しながら、あらたな大工業務の潮流についても解説します。

木造建築物の建築手順

大工が木造の建物を作り上げるまでには、建材として利用する木材の加工、現場での微調整と組み立て、内装という手順を踏みます。木造の建物の建築は、大工が設計士から設計図を受け取ることからスタートします。

大工は設計図どおりの建材を用意するため、工務店の作業場で木材を切り出したり切込みを入れる作業(墨付け、きざみ)に取り掛かります。木材の切り出しや加工は失敗するとごまかしがきかないため、設計図を間違いなく読み取り、丁寧に作業しなければなりません。ときには電卓を片手に、工作精度を求める計算なども行います。

加工を終えて建設予定地に運ばれた木材は、現場でさらに微調整を加えられた後、組み立てられます。加工済みの建材や現場の様子を設計図と見比べ、設計士と大工がともに構造の検討をしたり、建材の変更をしたりすることもあります。

近年では、あらかじめ統一規格に加工済みの建材を現場で組み立てるツーバイフォー工法などが普及したため、大工が携わるのは組み立てからというケースも増えました。加工済みの建材を組み立てる工法は、手間が少なく、本来は足場や鉄骨の組み立てを専門とする「とび職」が担当する作業を、大工が代わりにやってしまう場合もあるようです。

なお、建物の基礎を作るためのコンクリートを流し込む型枠作りの作業は、「型枠大工」という専門の職種が担当することがほとんどです。型枠大工は作業の手早さが重視され、工作精度が求められる一般的な大工とは職種として必要な技能が異なるため、同じ「大工」という名称ではあるものの別の職種とみなすことが一般的です。

組み立てが終わり構造が完成すると、内装に移ります。主要構造部以外の壁や床、階段や天井などの造作を作ることを「内装」といい、内装を手がける大工のことを「造作大工」と呼びます。造作大工が手がける内装は木造建築や木造部分ですが、「家具職人」や「内装仕上げ工」に代わり、内装の際に大工が作り付けの家具の製作や、壁のクロス張りなどを手がけることもあります。

近年は一般住宅でも軽量鉄骨やコンクリートが増え、木目が露出することの多い、和室の専有面積そのものが減っていることから、造作大工が内装を手がける機会は減少気味です。

腰袋とは?

大工は作業に必要な道具類を、腰に下げた「腰袋」という道具入れに収納しています。中身は作業の段階によって入れ替えます。木材を加工するときは木材に印を付ける墨付けのための墨つぼや、工作した木材が水平かどうかを測るための水平器を入れており、加工した建材を組み立てる段階では釘や丸鋸などを入れます。これらの道具類は勤務する工務店から貸与されることもありますが、道具を扱う大工が使いやすいものを自ら調達することが一般的なようです。

大工業務のIT化

大工というと、ひたすら建材や大工道具と向き合って技術を磨く職人というイメージがあるかもしれません。じつはITスキルも大工の必修要素になりつつあります。施工の進捗管理にタブレットやPCを使う工務店が出てきたほか、CADで自ら製図するケースも増えているといわれます。勤怠管理などにPCが用いられることもあり、大工がITを活用する機会は今後も確実に増えていくでしょう。

大工の職位と業務内容の変遷

設計をしている大工

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大工は、経験や腕前により「見習い」や「棟梁」などの職位に分かれるのが一般的です。大工として経験を積むと棟梁になり、現場の職人の指導を任されます。棟梁は、職人の勤怠管理などのマネジメントから、見習いへの技術指導、さらには現場監督のように施工の進捗管理まで手がけることもあります。大きな工事現場では、棟梁とは別に現場監督がいることが普通ですが、現場監督は職人というよりも事務方であるため、職人の利害を代表し職人をまとめる立場の棟梁が果たす役割は依然として大きいでしょう。

なお、棟梁は会社に勤務している場合と、個人事業主として独立している場合があり、個人事業主として独立している方を通称「一人親方」といいます。一人親方はプロジェクト単位のまとめ役として、業務委託という形で工務店と契約を結んだり、小さな建築作業であれば、営業から工事まで一人で完結させたりすることもあります。

大工は女性でもなれる 女性の割合について

国土交通省が2014年に実施した「大工・職人の実態に関するアンケート調査」に、女性の大工の割合に関する記述があります。この調査によれば、1万人以上の回答者のうち、女性の大工の割合は「0.4%」で実数にして40人とのことでした。

いかに大工が男社会であるかがわかるデータとなっています。実際に働いている女性大工の数はもっと多いと思われますが、体力勝負の世界ですから女性が飛び込むにあたっては相応の覚悟が必要であることは否めないでしょう。だからこそやり甲斐がある、ともいえますので、これから大工を目指す女性を是非応援したいものです。

大工経験者へのインタビュー

大工の男性

(出典) photo-ac.com

スタンバイでは、実際に大工として働いていた方に、「仕事のやりがい」「努力したこと」「将来性」についてインタビューを実施しました。

インタビューの対象者

  • 男性(東京都在住)
  • 実務経験年数:5年以上

Q1.大工のやりがいを教えてください

自分はまだ大工になって7年くらいですので、流石に現場監督にまではなれませんが、自分が加工した材料を使って組み立て作業をしている時には、とてもやりがいを感じます。大工は現場にいる全員が力を合わせてやる仕事ですので、家が完成した時は全員で達成感を味わうことができます。

自分は昔から、勉強は苦手でしたが、工作は好きでしたので、仕事中にそこまで嫌だと感じることはありません。組み立て作業に夢中になっているうちに一日が終わってしまいます。物を運んだり朝早く起きて、急いで現場に向かう時には少し憂鬱にはなりますが、ノコギリや釘を使う大工仕事には、とてもやりがいを感じることができます。長年働くことにより、大工仕事の腕が上がっていると、自分でも実感できるのも嬉しいです。

Q2.大工になるために努力したことを教えてください

職人の世界ですので、やはり長期間の修業時代は結構大変でした。雑務や道具の手入れだけでなく先輩に言われたことはキッチリと覚えないといけないので、自分なりにいつも言われたことは頭に叩き込むようにしていました。

見習い期間は日当でしたが、給料も安くて食べていくのもきつかったので、休日には日払いのバイトもしていました。自分は昔から体力にはそこそこ自信があったので、少ない収入は休日の肉体労働のバイトでカバーする感じでした。

早く一人前になりたくて「大工技能士」の資格も取りにいきました。大工になるために必ず必要なわけではありませんが、何か資格をもっていた方が自分のステータスになると思い自分から積極的に動きました。

Q3.大工の将来性についてどう思いますか?

職人の世界ですのでキャリアを積めば、一般的に棟梁といわれる立派な親方にはなれると思います。会社にもよりますが、棟梁になれば収入もかなりの金額になります。

その頃には弟子も増えるはずなので、人望もかなり厚いのが一般的な大工の世界といわれています。しかし、大工は将来性を考えると悪い点もあります。大工は体力第一の仕事ですので、やはり年を取って体力が落ちると厳しい仕事である部分は否めません。

自分も、今は体力に自信があるので大工を続けていられますが、もしも体を壊したり、50歳を超えて体力がなくなった時、今のようにバリバリ現場で動ける自信はないです。それと高いところに登ることが多い大工の仕事は、少し危険がともなうので、長年やっていると怪我をするリスクも高まります。

求人の給与情報から集計した大工の年収帯

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※スタンバイ掲載中の全求人データ(2017年6月時点)から作成

厚生労働省が発表する賃金構造基本統計調査(20213年分)によると、大工を含む建築技術者の平均年収は530万円程度です、全国の平均年収が400万円台であることを考えると、平均より若干高めの年収を期待することができそうです。なお、立場により実際の年収は異なる可能性があります。

大工の求人傾向

建築の打ち合わせ

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インターネット上に掲載される求人は、設計事務所兼務の工務店やリフォーム会社など、一般的工務店より規模の大きな会社が多いようです。一般的な規模の工務店の求人はハローワークや地元の求人誌を探してみるとよいでしょう。未経験者を弟子として採用するのは、一般的な規模の工務店に多いようです。

応募条件としては、現場まで行くための普通自動車免許所持を挙げる求人を多く見かけます。また、歓迎要件としてCADやオフィス系ソフトを使用できることを挙げる求人もあります。大工そのものの求人以外に、大工経験を生かして施工管理をメインに担当する職種などの募集も多いようです。

出典:
労働安全衛生法 第77条・別表第20(第77条関係)8
建設業労働災害防止協会「木造建築物の組立て等作業主任者技能講習」
中央職業能力開発協会
香川県能力開発協会「技能検定実施風景」
国土交通省 中部地方整備局「建築士制度」
一般社団法人 木を活かす建築推進協議会「大工・職人の実態に関するアンケート調査」
厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」

※文中に記載の各種数値は、2022年5月時点のものになります。