ファシリティマネジャーになるには?仕事内容と将来性・おすすめ資格

ファシリティマネジャーとは

ビジネスマン

(出典) photo-ac.com

ファシリティマネジャーとは、企業や団体などの組織が保有または管理する全ての施設および環境(ファシリティ)について、経営戦略視点から企画、運用、維持、管理、活用を行う職種です。「ファシリティ」とは、施設・設備だけでなく、これらをとりまく環境も含んでいます。そのファシリティを経営にとって最適な状態で保有し、運営や維持を行うための管理手法を「ファシリティマネジメント」と言います。つまり、総合的にファシリティを経営管理するための知見を持ったプロフェッショナルがファシリティマネジャーです。

なお、ファシリティマネジメントを仕事にするために必要となる資格はありませんが、民間団体が認定する「認定ファシリティマネジャー」という資格があり、求人案件などではその資格保有者を単に「ファシリティマネジャー」とよんでいることもあるようです。

ファシリティマネジャーになるには

パソコンを操作しながらスマホで通話する男性

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ファシリティマネジャーの業務をするために必須の資格はありません。事業会社で管理部門に配属された場合や、不動産管理会社などのうちファシリティマネジメント部門を持つ会社に就職すれば、ファシリティマネジメントを仕事にできる可能性があります。しかし、その業務は多岐にわたり、専門知識も要するため、実務能力を証明するために資格を持っておくと就職や転職に有利だと考えられます。

ファシリティマネジャーに関する資格としては、公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会など民間3団体が合同で認定する「認定ファシリティマネジャー」があります。受験資格は特に無く、幅広く門戸が開かれています。2021年の合格者は483人で、合格率は44.1%でした。例年40%台前半の合格率で推移しています。合格率だけを見ると比較的難易度の高くない試験のように思えますが、出題内容には論述も含まれており、合格ラインに達するまでには相当の学習時間をかけなければならない試験です。また、試験合格後には、前述の協会に登録申請が必要となります。

ファシリティマネジャーの仕事内容

パソコンを操作する

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ファシリティマネジャーは、一般企業のほか、病院や官公庁など幅広い職場で、オフィス・工場・店舗・物流施設などのあらゆる業務用施設と環境を対象に業務を行っています。

経営視点でのファシリティの活用提案、各設備の運用管理、日常の清掃・保全・修繕などについての進行管理など、ファシリティに関わる業務もファシリティマネジャーの仕事内容です。

例えば、ファシリティのパフォーマンスを数値化することでファシリティの問題を発見し、それらを解決することで運営コストを下げ、施設利用者の満足度を高めることを目標に業務に取り組むことがあります。

ファシリティの全体最適が経営にとって必要であれば、既存のファシリティを維持・保全するだけでなく、新たなファシリティの取得・活用まで含めたマネジメントを行います。

ファシリティマネジャーの具体的な業務例

オフィスを移転することになった企業に勤めるファシリティマネジャーを例に、具体的な業務の一部をご紹介します。

不動産取得・賃貸借などのプロジェクト管理

オフィスの移転が決まり、不動産の売買契約や賃借契約を結ぶ場合、効率的なオフィス運営を実現する観点から、ファシリティマネジャーが契約に関して大きな裁量を持つことも珍しくありません。

組織の経営戦略などからファシリティに関する目標を設定し、目標が達成できるオフィスの条件を提示します。移転先の床面積やフロアなどが条件を満たしているかを調査して最終的に契約する物件の料金交渉に取り掛かるのです。

床面積やフロアの形状と、勤務する予定の社員の人数や勤務形態などを勘案して、目標達成に向けたオフィスレイアウトに参画することもあります。パーティションの配置やコンセントの位置、オフィス用品のサイズ、空調の効き具合なども業務効率を向上させる要因になるからです。ほかに移転時期の設定や移転計画の進捗管理なども担当します。

施設の管理・運営

適切な移転先の選定やレイアウトは、快適で生産的なオフィスを作るためのひとつの業務に過ぎません。オフィス移転後の施設管理や運営もファシリティマネジャーの重要な業務です。

設備が安全に機能しているか監視をするほか、防災管理体制の妨げになるようなオフィスの利用実態がある場合には、ルールを作って利用者に周知を行います。

施設利用者の満足度や運営費などの分析・評価

オフィスの利用者から声を集め、うまく運用できているかを分析・検証して改善作業を進めます。

オフィスの利用ルールは、日々働く社員にとって現実的なものか、オフィスレイアウトがうまく機能しているか、人員の再配置などで面積が足りない部署はないかなどを定期的に調査して改善を行います。部署や役職を横断してさまざまな立場の利用者から声を集める必要があるため、観察力とコミュニケーション能力が要求されるでしょう。

ファシリティマネジャーに求められるスキル

ビジネスマンのイメージ

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企業活動において重要な役割を持つファシリティマネジャーには、どのようなスキルが求められるのでしょうか。特に重視される2つを紹介します。

経営に関する知識とセンス

ファシリティマネジャーには幅広い能力が求められますが、その中でも特に重要視されるのが経営に関する知識やセンスです。

ビル1棟を建てるのには、何十億円というお金が動きます。単に施設・設備を管理するだけでなく、ファシリティマネジャーは「どう運用すれば収益が出せるのか」「最大限に有効活用できる方法は何か」を考えなければなりません。

建物のハード面に関する高度な専門知識はもちろんのこと、経営者の視点やマネジメントスキルが求められるといえるでしょう。

不動産資源を最大限に活用し、企業価値を向上させる取り組みは「CRE戦略」と呼ばれます。ファシリティマネジメントはCRE戦略の要であり、ファシリティマネジャーは企業の将来を左右する重要な役目を負っているといえます。

ヒューマンスキルの高さ

ファシリティマネジャーに必要なのは、専門知識やマネジメントスキルだけではありません。常に人と関わり、相手の視点や立場に立って業務を遂行していく必要があるため、「ヒューマンスキルの高さ」も求められます。

ヒューマンスキルとは、他者と信頼関係を構築した上で、円滑なコミュニケーションを図っていくために必要な能力です。「対人スキル」や「対人調整能力」とも呼ばれ、現場監督や管理者層、経営層に必須のスキルとされています。

具体的には、「自分の意見を明確に伝える能力」「相手の意図を正確に理解する能力」「異なる意見を調節する能力」などが含まれます。

また、ファシリティマネジャーにとっては「ホスピタリティマインド」も欠かせない要素です。ホスピタリティは「深い思いやり」や「おもてなし」を意味する言葉で、主にサービス業、医療・福祉の分野で重要視される傾向があります。

実際、海外ではファシリティマネジメントはホスピタリティの分野として捉えられているのが実情です。建物の維持・管理を淡々と行うのではなく、思いやりを持ちながら、利用者や経営者の立場に立って任務を遂行することが求められています。

ファシリティマネジャーの将来性

ファシリティマネジャーは、今後も需要が増加すると見込まれます。

全国に眠っているファシリティを効率的に活用することで、日本経済の活性化が期待できるかもしれません。設備の無駄をなくして効率的な経営を実現できる知見を持った、ファシリティマネジャーの需要も高まりそうです。

特に地方では人口減少に伴って税収減が予想されていることから、現有のファシリティを最適化して、良好な状態で次世代に継承することに関心が高まっているようです。

ファシリティマネジャーの求人傾向

握手を求める男性

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不動産や建築系のコンサルティング会社、不動産管理会社などで、認定ファシリティマネジャーの有資格者を歓迎要件とする求人案件が見られます。資格を必須要件とする案件は少なく、無資格でもファシリティマネジメントの実務経験を重視する求人が多いのが特徴です。

これは、認定ファシリティマネジャーの有資格者が現状では少ないことが理由かもしれません。また、「ファシリティマネジャー(ファシリティマネージャー)」の職種名で募集している求人のうち、認定ファシリティマネジャー以外に歓迎要件として挙げられていることの多い資格は宅建士、建築士、建築施工管理技士などでした。

求人の給与情報から集計したファシリティマネジャーの年収帯

オフィスの女性

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気になるファシリティマネジャーの給料・時給・年収は?全国の求人の給与情報をまとめて集計、ファシリティマネジャーの給与帯・年収帯を独自にグラフ化しました。

※スタンバイ掲載中の全求人データ(2017年9月時点)から作成

求人案件から分析したファシリティマネジャーの年収は、ボリュームゾーンの600万円台が20.7%と最も多く、次いで700万円台が19.8%となっています。

国内の平均年収が400万円台であることを考えると、平均より高めの年収が期待できます。800万円台以上の年収を得ている人が約30%以上存在しているので、ファシリティマネジャーとして就職することができれば、高めの年収水準が期待できそうです。

出典:
公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
一般社団法人 ニューオフィス推進協会
公益社団法人 ロングライフビル推進協会
国税庁「令和2年分 民間給与実態統計調査」