学芸員になるには何が必要?資格取得のルートと博物館の仕事内容とは

学芸員ってどんな仕事?

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(出典) photo-ac.com

学芸員は、博物館において、資料の収集・保管をはじめとする業務を行う専門職員です。学芸員の資格は、文部科学省が所管する国家資格です。

博物館と一口にいっても、歴史・芸術・民俗・産業・自然科学などさまざまな分野があり、学芸員になるには各博物館が扱う分野に対して専門的な知識を身に付けている必要があります。

学芸員の役割

学芸員の仕事は、博物館において、美術品や古文書といった文化財、生物や鉱物といった自然科学の資料などを収集・保管し、その価値を広く伝えていくことです。

これによって学術および文化の発展に寄与していくことが、学芸員の社会的な役割です。訪問者に対しても、詳しく展示内容を説明できる高い専門性が求められます。

博物館法における博物館の定義と種類

博物館とは、博物館法において以下のように定義されます。

”この法律において「博物館」とは、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む。以下同じ。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関(社会教育法 による公民館及び図書館法 (昭和二十五年法律第百十八号)による図書館を除く。)のうち、地方公共団体、一般社団法人若しくは一般財団法人、宗教法人又は政令で定めるその他の法人(独立行政法人(独立行政法人通則法 (平成十一年法律第百三号)第二条第一項 に規定する独立行政法人をいう。第二十九条において同じ。)を除く。)が設置するもの”

したがって、博物館と一口にいっても、歴史博物館や科学博物館をはじめ、美術館・動物園・水族館などを含むさまざまな分野の施設があるのです。このような施設は、特定分野に精通した学芸員がいないと運営が難しいため、その設置が博物館法により義務付けられています。

また、国立科学博物館や国立西洋美術館など、国や独立行政法人が運営する施設は、博物館法上の博物館ではなく、それに相当する施設として教育委員会の指定を受けた「博物館相当施設」と呼ばれています。

博物館法の適用外となる施設であるため、教授、准教授などの教員または研究員が学芸員の職務にあたる場合もあるようです。

なお、博物館法において博物館と定義されていない上記以外の施設も数多くあります。これら法定外の博物館は、「博物館類似施設」と呼ばれており、専門性を持ったスタッフが学芸員の職務にあたります。

具体的な仕事内容

学芸員の主な仕事は、資料を収集・保管し、それらを活用した展示の企画や運営を行うことです。資料を収集・保管すべきかどうかの判断や貸し出しなども行います。

また、展示に際しては、展示レイアウトを決めるだけでなく、展示品の運搬作業や解説パネルの作成などを行う場合もあります。収集・保管している資料に対する調査研究活動も、学芸員の仕事の1つです。

ここで得られた研究結果は、展示へと結びつくこともあります。また展示だけでなく、イベントやワークショップの企画・運営、一般向けの出版物の執筆などを通じて、教育普及に向けた活動も行います。

学芸員に向いている人

学芸員の主な仕事は、「博物館資料の管理」です。調査・研究も行う専門的な仕事であることから、博物館の資料に興味がある人に向いています。

歴史・美術・生物など一定のジャンルに対して強いこだわりを持つ人は、日々の仕事にやりがいを感じられるでしょう。根っから学問が好きで、机に向かって調査をしていても苦にならない人は、学芸員の仕事も楽しくこなせるはずです。

重要な歴史的資料を取り扱う学芸員には、資料に対する知識だけでなく慎重さ、繊細さも求められます。継続して調査・研究を行うには、粘り強さも必要です。1つのことに対してじっくり取り組む忍耐力は、学芸員にとって重要な資質といえるでしょう。

博物館で学芸員として働くには

資料をまとめる男性

(出典) photo-ac.com

学芸員として博物館で働きたい場合、どのように動けばよいのでしょうか?学芸員資格を得る方法から、学芸員のほかに博物館で活躍する道まで見てみましょう。

学芸員には資格が必要

下記3つのうちいずれかの条件を満たせば、学芸員の資格を取得したことになります。

1. 「学士」の学位+「博物館に関する科目」の単位

大学で文部科学省令の定める博物館に関する科目の単位を修得し、大学を卒業して学士の学位を取得すると、学芸員の資格を取得したことになります。

博物館に関する科目の単位は、以下の通りです(括弧内は単位数)。

  • 生涯学習概論(2)
  • 博物館概論(2)
  • 博物館経営論(2)
  • 博物館資料論(2)
  • 博物館資料保存論(2)
  • 博物館展示論(2)
  • 博物館教育論(2)
  • 博物館情報・メディア論(2)
  • 博物館実習(3)

博物館に関するこれらの科目の単位を履修できる4年生大学は通信課程も含め、国立大学で54校、公立大学で22校、私立大学で210校あります(2022年5月時点)。また、短期大学では、公立短期大学1校、私立短期大学5校で履修できます。詳しくは、文化庁の「学芸員養成課程開講大学一覧」 をご覧ください。

2. 大学在学2年+「博物館に関する科目」を含めた62単位+学芸員補の経験3年

大学に2年以上在学して、博物館に関する科目の単位を含めた62単位以上を修得し、3年以上「学芸員補」として働いた経験があった場合も、学芸員の資格を取得したことになります。

学芸員補とは、学芸員の職務を補佐する職員のことです。博物館法では、学校教育法の規定における大学に入学できる者は、学芸員補となる資格を有していると定められています。つまり、高等学校を卒業した人や、高等学校卒業程度認定試験や大学入学資格検定に合格している人は学芸員補として働く資格があるといえます。

3. 学芸員資格認定に合格する

上記2つ以外の方法で学芸員の資格を取得する場合は、文部科学省が行う「学芸員資格認定」に合格する必要があります。資格認定については次の章で解説します。

学芸員資格認定試験について

学芸員資格認定は、学芸員となる資格を有していることを認定するために、試験および審査が行われます。合格者は学芸員となる資格を有することになり、合格証書が授与されます。

認定方法は、筆記試験である「試験認定」と、それまでの学識および業績の審査によって資格を認定する「審査認定」の2つの方法があるのが一般的です。

1. 試験認定

試験認定では、筆記試験が行われ、この試験に合格した場合には、筆記試験合格証書が授与されます。筆記試験合格者が合格後1年間学芸員補の職を経験し、文部科学大臣に認定されることにより、合格証書が授与され、学芸員となる資格を有することになるのです。

筆記試験では、必須8科目(生涯学習概論、博物館概論、博物館経営論、博物館資料論、博物館資料保存論、博物館展示論、博物館教育論、博物館情報・メディア論)に加えて、選択科目である文化史、美術史、考古学、民俗学、自然科学史、物理、化学、生物学、地学から2科目について回答します。

受験するためには、下記のいずれかの受験資格を満たしていなければなりません。

  1. 学士の学位を有する者
  2. 大学に2年以上在学し62単位以上を修得した者で2年以上学芸員補の職にあった者
  3. 教育職員の普通免許状を有し、2年以上教育職員の職にあった者
  4. 4年以上学芸員補の職にあった者
  5. その他文部科学大臣が上記の資格保持者と同等以上の資格を有すると認めた者
2. 審査認定

審査認定では、博物館に関する「学識」および「業績」(博物館に関する著書、論文、報告、展示、講演、その他の実務経験等)について書類審査が行われます。

加えて、学芸員としての意欲、態度および向上心を確認するための面接も実施されます。これらの審査に合格した場合には合格証書が授与され、学芸員となる資格を有することになるのです。

受験するためには、下記のいずれかの受験資格を満たしていなければなりません。

  1. 修士もしくは博士の学位または専門職学位を有する者であって、2年以上学芸員補の職にあった者
  2. 大学において博物館に関する科目(生涯学習概論を除く)に関して2年以上教授、准教授、助教または講師の職にあった者で、2年以上学芸員補の職にあった者
  3. 次のいずれかに該当する者で、都道府県の教育委員会の推薦する者
    学士の学位を有する者で、4年以上学芸員補の職にあった者
    大学に2年以上在学し62単位以上を修得した者で、6年以上学芸員補の職にあった者
    学校教育法の規定により大学に入学することのできる者で、8年以上学芸員補の職にあった者
    その他11年以上学芸員補の職にあった者
  4. その他文部科学大臣が上記の資格保持者と同等以上の資格を有すると認めた者

学芸員資格認定を受けるには

学芸員資格認定を受けるには、毎年7月中旬から8月下旬の出願期間中に出願書類を提出します。試験認定の筆記試験は12月初旬、審査認定の面接は翌年1月に実施されます。

博物館で働く道は学芸員のほかにもある?

「博物館のような場所で働きたい」というだけなら、学芸員の資格が必要となる「博物館法上の博物館」にあたらない施設を選ぶ方法もあります。

資格が必要ない「博物館相当施設」「博物館類似施設」で働くのも1つの選択肢です。とはいえ、学芸員の資格を持っている人と同じく、専門性は求められるでしょう。

また、国公立の博物館などで公務員として働く場合は、学芸員の資格とは別に自治体の採用試験に合格する必要があります。博物館法上の博物館であれば、学芸員の職務を助ける「学芸員補」になるのもキャリアの候補です。

学芸員の給料について

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求人の年収は、400万円台が全体の22%となり最も多いです。一般的な会社員の平均年収と同等の傾向です。財団法人や私立などの場合はそれぞれが勤める博物館によって決まりますが、公立の場合は公務員としての扱いになるので自治体の給料体系に応じて定められます。

 また、非正規雇用の時給分布は、1,000円台が全体の14%、1,500円台が全体の18%と2つの時給帯に求人が集まっています。 財政悪化により、人員の補充がなされない博物館も多く、今後非正規雇用の学芸員が増えていくことが予想されるでしょう。

自分が就職したいと思っている博物館が常に人材を募集中であるとは限らないので、日頃から就職先の情報収集をすることが大切です。

※年収分布と時給分布はスタンバイの求人データから算出しています。
※文中に記載の各種数値は、2022年5月時点のものになります。

出典:

博物館法
日本の博物館総合調査のPDF
文化庁:令和3年度学芸員資格認定受験案内
文化庁:学芸員になるには
文化庁:学芸員について
文化庁:学芸員養成課程開講大学一覧
文化庁:「学芸員資格取得に関する単位及び試験科目」新旧科目の比較