退職金に税金はかかる?計算方法と必要な手続きを解説

退職金をもらう予定があるなら、差し引かれる税金の金額について理解しておきましょう。正しい算出方法を知っておけば、適正な金額を受け取れているかどうかを確認することが可能です。税金の計算や必要な手続きを解説します。

退職金にかかる税金

虫眼鏡で退職金規定を読む

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退職金は収入扱いとなるため税金が発生します。税金の種類と退職金の課税方法について解説します。

所得税・復興特別所得税・住民税がかかる

退職金にかかる税金の種類は、所得税・復興特別所得税・住民税の3種類です。毎月の給与で発生する税金と同じ種類の税金がかかります。

まず所得税は個人の所得にかかる国税です。所得は税法上10種類に分けられており、退職金は退職所得に該当します。

次に東日本大震災からの復興のために徴収される国税が復興特別所得税です。2013〜2037年までの所得に課税され、基準所得税額に2.1%を掛けて金額を算出します。

最後の住民税は都道府県や市区町村に納める地方税です。前年の所得額に応じて決まる『所得割』と、定額で課される『均等割』で構成されています。

退職所得は分離課税

所得税の課税方法は『総合課税』と『分離課税』に分けられます。対象となる所得を合算して税額を計算するのが総合課税、ほかの所得と別にして税額を算出するのが分離課税です。

給与所得・事業所得・不動産所得など、大半の所得は総合課税の対象です。退職所得は分離課税の対象となっているため、単独で所得税を計算します。

分離課税はさらに『源泉分離課税』と『申告分離課税』に分けられており、源泉分離課税の対象となる所得は原則として確定申告が不要です。退職所得は源泉分離課税が適用されるため、源泉徴収で納税が完了します。

税金額の計算方法

退職金規定と札束

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退職金にかかる所得税の金額は、どのように計算するのでしょうか。国税庁のホームページを参考に、具体的な計算方法や独自の優遇措置を紹介します。

参考:
退職金と税|国税庁
No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁

退職金は税金の優遇が受けられる

所得税は所得が大きくなるほど税額も増えるため、金額が大きくなりやすく、退職金にかかる税金も高額になりがちです。税負担をできるだけ抑える目的で、退職金では税金が優遇されます。

優遇制度の一つが所得控除です。税率を用いて計算する前に、勤続年数に応じた控除額を退職所得から差し引けます。控除額の金額が大きく変わるラインは勤続年数20年です。

さらに、控除を適用した後の金額の1/2のみが課税対象となります。金額を半分に減らした上で税額を計算できるのは、大きなメリットといえるでしょう。

退職金の税金に優遇制度がある理由は、給料や賞与とは異なる性質を持つと考えられているためです。長期勤務に対する報酬の意味合いがあることや、老後の生活に残しておくべきお金であることから、税金が安くなる仕組みになっています。

退職所得控除額の計算式

差し引ける控除額は、勤続年数が長いほど大きくなります。具体的な計算式は以下の通りです。

  • 勤続年数20年以下:40万円×勤続年数
  • 勤続年数20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)

勤続年数に1年未満の端数があるときは、たとえ1日でも1年として計算します。例えば、30年と1日働いている場合、勤続年数は31年です。

勤続年数が20年以下で、計算後の控除額が80万円未満になった場合、控除額を80万円として税額を計算できます。

税金額の計算例

退職金にかかる所得税の課税標準は、『(収入額-退職所得控除額)×1/2』です。さらに、『課税標準×税率-控除額』を計算すると、所得税を算出できます。税率と控除額は、国税庁のホームページで確認しましょう。

15年勤務した人が退職金を700万円受け取った場合、退職所得控除額は『40万円×15年=600万円』、課税標準は『(700万円-600万円)×1/2=50万円』となります。所得税の金額は『50万円×5%-0円=2万5000円』です。

35年勤務して2500万円の退職金をもらう場合では、退職所得控除額は『800万円+70万円×(35年-20年)=1850万円』、課税標準は『(2500万円-1850万円)×1/2=325万円』となります。所得税額は『325万円×10%-9万7500円=22万75000円』です。

税金の支払いは原則源泉徴収

退職金規定

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退職金にかかる納税について理解しておきましょう。納税の手間を省くためには、所定の手続きが必要です。

退職金の支払者が源泉徴収を行う

給料や賞与にかかる税金は、会社が行う源泉徴収により天引きされ、納税も会社が行ってくれます。毎月特別な手続きをしなくても納税することが可能です。

退職金の場合も、あらかじめ手続きを行っておけば、支払者である会社の源泉徴収で納税できます。原則として確定申告を行う必要はありません。

なお、被相続人の死後3年以内に発生した退職金を相続人が受け取る場合は、相続税がかかるため手続きを行う必要があります。所得税と復興特別所得税は発生しないため、確定申告は不要です。

退職所得の受給に関する申告書を提出しよう

退職金をもらえることが決まっている場合は、『退職所得の受給に関する申告書』を勤め先に提出しましょう。事前に申告書を出しておけば、正確に計算された金額で源泉徴収が行われます。

申告書は会社を辞める前に会社からもらえることがあります。会社からもらえない場合も、国税庁のホームページからダウンロードして入手可能です。

申告書を提出しなければ、一律20.42%の税率を適用した税金が徴収されてしまいます。申告書を提出しないまま納税が行われると、適正な金額を受け取れない状況になりかねないため注意しましょう。

参考:[手続名]退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)|国税庁

退職金の確定申告をした方がいいケース

一万円札と封筒に小さな人形

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退職金をもらった際に確定申告を行えば、行わない場合に比べて得をするケースがあります。確定申告をするべき状況について理解しておきましょう。

退職所得の受給に関する申告書を提出していない

勤め先へ申告書を提出せずに退職金を受け取るケースでは、高めの税率で計算された税金が源泉徴収されます。本来なら納める必要のない税金まで納めてしまっている可能性があります。

もし、申告書を出さずに退職金をもらった場合は、確定申告をして納め過ぎた分を還付してもらいましょう。ほとんどのケースで過払い分が戻ってきます。

なお、同年中に複数の職場から退職金を受け取る場合は、先にもらった分の源泉徴収票を申告書に添付して提出しなければなりません。後から支払われる退職金の源泉徴収を行う際に、ほかの会社から支払われた退職金も含めて税額を計算する必要があるためです。

ほかに赤字の所得がある

ほかの所得との損益通算が可能です。損益通算とは、赤字の所得を黒字の所得から差し引くことを意味します。

会社を辞めた後、アパート経営をしたり事業を営んだりする人もいるでしょう。不動産所得や事業所得が赤字になっている場合、退職所得から赤字分を差し引けば所得額が減るため、節税につなげられます。

ただし、損益通算には差し引ける所得の順番が決まっています。不動産所得や事業所得の赤字分は、退職所得から引く前に給与所得・配当所得・雑所得と相殺しておかなければなりません。

退職金にも税金はかかるが優遇される

手に一万円札を持っている

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給料やボーナスと同様、退職金にも税金がかかります。ただし、他の収入にはない優遇措置があるため、税額を大幅に引き下げることが可能です。

会社の源泉徴収で適正な金額を天引きしてもらうには、事前に申告書を提出しておかなければなりません。損をしないためにも、退職金と税金に関する正しい知識を身に付けましょう。

小岩 和男
【監修者】All About 労務管理ガイド小岩和男

就業規則など社内諸規程作りのプロフェッショナル。人事労務コンサルタント・特定社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(AFP)。企業人時代を含め通算24年の人事コンサルを経験。一部上場企業から新設企業までを支援。セミナー講師、雑誌・書籍の執筆実績も多数。
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著書:
ぜんぶわかる人事・労務
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