失業保険を会社都合でもらうには?条件を満たせば後からの変更も可能

失業保険を受給する際は、退職理由が会社都合か自己都合かによって、受給できる期間などが変わる点に注意が必要です。会社都合での退職とは、どのような例があるのでしょう。

自己都合退職という扱いになってから「本当は会社都合なのでは?」と思う場合もあります。この記事では、失業保険を会社都合でもらうために知っておきたい情報を紹介します。

会社都合で失業手当をもらうメリットやデメリット、自己都合退職とされてしまった後で、退職理由を変更させる方法なども併せて見ていきましょう。

この記事のポイント

自己都合退職と会社都合退職の違い
自己都合退職は、キャリアアップを目的とした転職や家庭の事情など、労働者側の理由による退職などが該当します。会社都合退職と認められるのは、従業員に非のない解雇や倒産などの場合です。
会社都合退職で失業保険をもらうメリット
会社都合での退職の場合、自己都合退職に比べて失業手当を受給するタイミングが早く、受給期間は長くなります。
会社都合退職で失業保険をもらうデメリット
倒産以外での会社都合退職は、転職活動の際に応募先から解雇理由を質問されることがあり、能力不足による解雇なのではないかと考えられてしまうリスクがあります。

失業保険を会社都合でもらうには?

失業認定申告書とお金

(出典) pixta.jp

退職理由によって、失業保険をもらえるタイミングや受給期間が変わります。本来は会社都合であるのに、自己都合だと思い込んでしまうと損をする可能性があるのです。

会社都合の退職とは、どのような場合が当てはまるのか見ていきましょう。

会社都合になる条件は大きく分けて2つ

失業保険を会社都合でもらえる条件は、原則として解雇と倒産の2パターンがあります。解雇は会社側が一方的に労働契約を終わらせることで、「クビ」と同様の意味です。

業績悪化に伴うリストラなども、会社都合による失業と扱われます。倒産とは、「破産や民事再生などで、企業が倒産手続きの申し立てをしている」「手形取引が停止している」といった状態です。

会社が倒産すると、従業員の働く場所がなくなるため失業状態になります。企業が倒産する主な理由は、売上不足や資金繰りの悪化などです。人手不足により事業が継続できなくなるケースもあります。

出典:ハローワークインターネットサービス-特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要

失業保険における解雇の内訳

失業保険における、会社都合の退職に当てはまる解雇の一例を挙げると、以下のようなケースです。

  • 自己責任のない解雇
  • 労働条件の違いによって退職した場合
  • 賃金の支払いに一定の遅れがあった場合や支払われなくて退職した場合

例えば、「入社前に聞いていた条件と大きく異なる労働条件を強いられて離職した」「パワハラやセクハラの被害に遭って、辞めざるを得なくなった」などは、会社都合と認められる可能性があります。

ただし、早期退職優遇制度への応募や懲戒解雇は会社都合にはなりません。懲戒解雇とは、規律違反や違法行為、ハラスメント行為などに対する罰則として解雇されることを指します。

出典:ハローワークインターネットサービス-特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要

自己都合になる条件もチェック

基本的には会社側に非がない状態で、自分の都合により退職した場合は、全て自己都合退職として扱われます。例えば、結婚による退職や仕事が原因ではない体調不良、キャリアアップのための転職といった退職理由です。

「育児や介護に集中するため」「家業を手伝うことになった」など、家庭の事情による退職理由も、全て自己都合として扱われます。

会社都合における失業保険の受給期間・金額は?

解雇予告通知書

(出典) pixta.jp

会社都合による退職の場合、失業保険の受給期間や金額は自己都合の退職に比べて、どの程度の違いがあるのでしょうか。受給期間や支給額について見ていきましょう。

受給期間は自己都合退職より長くなる

会社都合での退職の場合、失業保険の受給期間は最短で90日、最長で330日です。自己都合退職に比べて、失業手当を受け取れるタイミングが早く、受給期間も長くなります。

受給期間は、退職したときの年齢と雇用保険に加入していた期間によって異なります。例えば30歳未満で被保険者であった期間が5年以上10年未満なら、基本手当の所定給付日数は120日間です。

基本的に雇用保険の加入期間が長いほど、受給期間も長くなるという制度設計がなされています。ハローワークのホームページなどで、自分がどの区分に該当するか確認しましょう。

出典:ハローワークインターネットサービス-基本手当の所定給付日数

退職理由の違いは月ごとの支給額に影響しない

会社都合による退職の方が毎月の支給額が多くなると勘違いされがちですが、月単位で見た場合の支給額は変わらない点を押さえておきましょう。

退職理由によって失業手当の計算方法自体が変わるわけではなく、退職時の賃金や年齢などで決まります。

会社都合による退職は、失業保険を受給できる期間が長くなるため、総支給額は自己都合退職よりも多くなります。毎月口座に入金される額に関しては、会社都合・自己都合とも同じです。

失業手当の計算方法

失業手当を計算する際は、最初に賃金日額を算出し、さらに賃金日額から基本手当日額を算出します。

賃金日額は「離職する前の6カ月間に支払われた賃金の総額÷180」で計算しましょう。基本手当日額の計算方法は「賃金日額×給付率(50〜80%)」です。

給付率は、退職したときの賃金や年齢などで決まります。基本手当日額に所定給付日数を掛ければ、受給できる総額が分かります。

失業保険を会社都合でもらうまでの流れ

失業認定申告書

(出典) pixta.jp

退職理由が会社都合の場合、どのような手順で失業保険の手続きを進めればよいのでしょうか。あらかじめ必要書類などを知っておくと、申請がスムーズです。失業保険をもらうまでの流れを紹介します。

ハローワークで申請を行う

会社から離職票を受け取ったら、住んでいる地域を管轄するハローワークへ行き、申請をしましょう。申請期限は離職した日の翌日から1年以内です。申請に必要な書類は以下の通りです。

  • 雇用保険被保険者離職票
  • 雇用保険被保険者証
  • 本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)
  • 本人の普通預金通帳もしくは口座番号が分かるもの

マイナンバーカードの活用を希望しない場合、証明写真2枚(3×2.4cm)の提出が必要です。離職票がないと退職理由や在職期間が証明できず、手続きを進められません。

会社が離職票を発行してくれないなどの問題がある場合は、ハローワークに相談してみましょう。

1週間の待期期間を過ごす

ハローワークで申請した後は、7日間の待期期間があります。待期期間がある理由は、失業保険の乱用を防ぐためです。

失業保険は、すぐに働き始められる状態にもかかわらず、働き口がない人を対象にしています。待期期間中に仕事が見つかれば、失業手当を受け取る条件から外れます。

早く失業手当を受け取りたいのであれば、この期間にアルバイトなどをしないように注意しましょう。待期期間中に働くと、働いた分だけ待期期間が延長される場合があります。

雇用保険受給者初回説明会に参加

雇用保険受給者初回説明会は指定された日時に行われ、参加が義務付けられています。担当者から案内された日程を確認し、必ず参加しましょう。

参加できない場合は担当者に相談し、日程を変えてもらいます。業務時間内であれば、認定日当日の時間変更も可能です。

説明会に参加しなければ失業認定日が決まらず、いつまでたっても失業保険がもらえません。説明会では、雇用保険を受給するに当たっての重要事項が説明されます。

筆記具や雇用保険受給資格者のしおりなどを持参しましょう。説明会終了後に、失業認定日が通知されます。

出典:ハローワークインターネットサービス-雇用保険の具体的な手続き

求職活動を行う

4週間に1回ある失業認定日までに、原則として2回以上の求職活動を行う必要があります。求職活動に該当する行動は、求人への応募や職業相談、ハローワークが主催するセミナー・講習への参加などです。

ハローワークが許可する民間機関を利用した、相談や紹介なども求職活動として認められています。

単純な求人情報の閲覧や、友人知人へ紹介をお願いするだけでは求職活動と認められません。求職活動を行わないと、働く意思がないと見なされてしまうため注意しましょう。

出典:ハローワークインターネットサービス-雇用保険の具体的な手続き

失業認定日に認定、1週間前後で入金

指定された失業認定日にハローワークへ行き、認定を終えれば指定した口座に1週間前後で入金されます。

自己都合退職と異なり、待期期間以外に制限期間はないため、待期期間が終わった8日以降から受給が可能です。

失業の認定は原則として4週間に1回程度となり、待期期間が終わった次の日が認定日になるわけではない点に注意しましょう。

就職が決まった場合は、労働契約を結ぶ日をハローワークに連絡します。労働契約を結んだ後は基本手当の支給がなくなりますが、要件を満たす場合は再就職手当などを受け取れるでしょう。

出典:ハローワークインターネットサービス-雇用保険の具体的な手続き
出典:ハローワークインターネットサービス-就職促進給付

失業保険を会社都合でもらうメリット

封筒に入ったお金

(出典) pixta.jp

退職理由が会社都合によるものの場合、失業保険を利用するとどのようなメリットがあるのでしょう。

なかなか再就職先が決まらないときは、退職理由の違いによって支給総額に大きな差が出るケースもあります。失業保険を会社都合でもらうメリットを見ていきましょう。

失業保険を長く受給できる

まずは、自己都合の退職よりも給付期間が長くなり、総支給額が増える点がメリットです。退職したときの年齢にもよりますが、雇用保険の加入期間が同じでも、自己都合退職に比べて給付を受けられる日数が2倍以上長くなるケースもあります。

また待期期間後の制限期間がなく、自己都合退職より早く失業保険を受け取れるため、生活資金に関する不安を早めに解消できる点も魅力です。

自己都合退職でも一定の条件を満たせば、制限期間がなくなります。例えば、ハローワークの公共職業訓練や、教育訓練給付金の対象となる教育訓練などを受けた場合が該当します。

解雇予告手当をもらえるケースあり

予告なしの即日解雇であった場合、解雇予告手当をもらえます。労働者を解雇する際には、30日前に解雇を予告しなければならないというルールがあります。

本来であれば受け取れるはずだった、30日分以上の平均給与を受け取れる決まりです。突然の解雇によって、労働者の生活が困窮することを防止するため、このようなルールが設けられています。

ただし、天災ややむを得ない事情などにより事業の継続が不可能となった場合や、自己責任で退職となった場合には適用されません。

出典:労働基準法 第二十条 | e-Gov 法令検索

失業保険を会社都合でもらうデメリット

面接

(出典) pixta.jp

会社都合による退職は、失業保険が手厚くなるメリットがある一方で、転職活動に影響を及ぼす可能性があるデメリットも存在します。どのような点で不利になりやすいのか、見ていきましょう。

転職活動で不利になる恐れも

基本的には会社都合退職が問題になるケースは少ないですが、退職理由によっては不利になることもあります。倒産やリストラなどが原因の場合、会社側の非が明らかなため、深く追及されることはありません。

一方で、能力不足や会社に損害を与えたなどの事情で退職をすすめられ、会社都合での退職となった場合は、応募者に問題があると思われる可能性がある点に注意が必要です。

転職先から理由を聞かれた場合は釈明できますが、そうでない場合、個人の能力のせいなどと勝手に判断される心配があるでしょう。

会社都合の退職で転職する場合

転職活動をする際の退職理由は、伝え方を工夫しましょう。自身に非がない会社都合退職なら、事実を素直に伝えて構いません。人間関係やパワハラがあった場合は、相手側を過度に責めないことが重要です。

既に終わった問題であるため、必要以上に加害者への思いを応募先に伝えるのは得策ではありません。やむを得ない退職であった点を、強調するようにしましょう。

また退職理由だけにこだわらず、今までの実績や経験、スキルをしっかりと伝えることが大切です。

企業側が会社都合にしたがらない理由

拒否をするビジネスパーソン

(出典) pixta.jp

明らかに会社都合による退職であるのに、企業側が自己都合であるかのように誘導しようとするケースがあります。なぜそのような現象が起こるのでしょう。企業側が自己都合での退職をさせたがる理由を紹介します。

一部の助成金制度を使えなくなる

自己都合での退職にしたがる理由は、企業が受け取る助成金の中に、会社都合の退職者がいた場合は、給付されなかったり減額されたりするものがあるためです。

助成金を受け取るためにも、企業側はできるだけ会社都合の退職者を出したくないと考える傾向があります。

退職の際、会社側が無理に退職届を書かせるなど、自己都合での退職にしたがる場合は注意しましょう。基本的に会社都合退職の場合、退職届は必要ありません。

退職届を求められた際は、会社都合退職である旨を証明するために、事実関係を書面に残す工夫をしましょう。

従業員に責任がないにもかかわらず、辞める側が悪いような態度を会社が取る場合には注意が必要です。

企業の信用度が下がる

会社都合の退職者が出れば、基本的に従業員側には責任がない理由で辞めさせたということになります。

企業が従業員を不当に解雇すると、労務上の責任を追及されたり社会から信用されなくなったりする恐れがあります。信用度が低ければ「取引を拒否される」「売上が下がる」などのリスクが生じるでしょう。

社会的な信用の低下を避けるには、会社都合ではなく自己都合退職である方が好都合なのです。退職理由が事実と異なる場合には、ハローワークに相談しましょう。

自己都合退職から会社都合退職に変更できる?

資料を見て考えるビジネスパーソン

(出典) pixta.jp

会社都合での退職にもかかわらず、会社にとっての利益を優先しようとして、自己都合退職にされるケースもあります。そのような場合に、ハローワークで自己都合から会社都合に変更してもらえるのか見ていきましょう。

会社都合に変更できるケース

会社が勝手に退職理由を変更してしまった場合でも、客観的に見て事実と異なると認められれば、会社都合での退職に変更できる可能性があります。

企業側が自己都合に変換しやすい退職理由の例は以下の通りです。

  • 給与の遅れや未払い
  • 極端な給与の減額
  • 本人の承諾がない勤務地の変更
  • 度を超えた残業や長時間労働
  • パワハラ・セクハラなど

これらが原因で退職した場合、会社都合での退職となるにもかかわらず、会社側が勝手に自己都合と解釈するケースがあるため注意しましょう。

自己都合から会社都合に変更してもらう流れ

自己都合退職を会社都合であると認めてもらうには、会社都合に該当する証拠をハローワークに提出し、認定してもらう必要があります。

ハローワークに相談すると、会社に対する聞き取り調査や証拠の要求などを経て、事実の確認が行われる流れです。

事実に反すると訴えただけでは、会社都合にはなりません。退職理由に関する揉め事が起こりそうなときは、証拠を集められるように準備しておくことが重要です。

セクハラやパワハラ、給料未払いなどの事実がある場合、まずは証拠集めをすることをおすすめします。

会社都合にするために必要なもの

事実に反して自己都合での退職とされた場合、会社都合による退職であると認めさせるには、客観的な事実を証明できる証拠が必要です。

例えば、給与の未払いや極端な減額、就業環境などを証明するには、給与明細や勤務実態が分かる記録などの提出が求められます。

雇用契約書や退職に関する話し合いの際に交わされたメール、録音などのデータ類も証拠になるため、あらかじめ収集しておくようにしましょう。

よくある質問(Q&A)


Q. 基本手当の受給において自己都合退職と会社都合退職の大きな違いは何ですか?

A.自己都合退職は給付までに待機期間+制限期間があり、支給開始が遅れます。一方、会社都合退職は制限がなく、早期に手当を受給できます。

 

Q. 自己都合退職について改定された内容について教えてください

A.2025年4月から自己都合退職の給付制限期間が原則2カ月から1カ月に短縮されました。ただし再離職など条件次第で2~3カ月となる場合もあります。

失業保険を会社都合でもらうには証明が大切

給与明細とスマートフォン

(出典) pixta.jp

自己都合退職の場合、失業手当を受け取れるタイミングが遅くなり、受給期間も短くなります。退職理由が、退職後の生活に影響を及ぼす可能性がある点を押さえておきましょう。

会社都合での退職は解雇や倒産などが該当しますが、懲戒解雇の場合は自己都合になります。本当は会社都合であるのに自己都合にされてしまっていた場合、ハローワークに証拠を提出しましょう。

会社都合による退職だと認められる証拠があれば、退職理由の変更が可能です。会社側に流されて、都合よく自己都合退職扱いされてしまったという事態にならないように準備しましょう。