失業保険の基本手当、会社都合は支給が早い?デメリットも

失業保険をもらいながら転職活動を行う予定なら、退職理由について理解を深めておくことが大切です。会社都合で辞められれば保障が手厚くなるため、焦らずに求職活動を進められるでしょう。会社都合退職について知っておきたいポイントを紹介します。

失業保険の基本手当とは

(出典) photo-ac.com

失業中の生活を心配せず、早く再就職できるように給付される手当が、失業保険の基本手当です。受給要件や手続き方法、自己都合と会社都合の違いを解説します。

基本手当が受け取れる条件と手続き方法

失業保険の基本手当を受け取るためには、退職前に雇用保険へ一定期間加入していなければなりません。ハローワークに求職の申し込みを行っていることも、基本手当をもらうための条件です。

受給申請は自分の住所を管轄するハローワークで行います。離職票や個人番号確認書類などの必要書類を持参し、求職の申し込みを行わなければなりません。

申請後に受給資格が決定したら、雇用保険受給者初回説明会に出席し、1回目の失業認定を受けます。求人への応募やセミナーの受講などを行いながら、原則として4週間に1回の失業認定を受け、認定ごとに基本手当が支給されるという流れです。

参考:ハローワークインターネットサービス - 雇用保険の具体的な手続き

「自己都合」と「会社都合」の違い

失業保険の基本手当は、退職理由によりもらい方やもらえる金額が異なります。退職理由は『自己都合』と『会社都合』に大きく分けることが可能です。

『特定受給資格者』または『特定理由離職者』とみなされた場合は、退職理由が会社都合として扱われます。

会社都合退職者は給付制限期間がなく、7日間の待機期間を終えたらすぐに手当を受け取り始めることが可能です。給付日数の上限も自己都合退職者より長く設定されています。

一方の自己都合退職者は、給付制限期間が終わらなければ手当の支給が開始されません。給付制限期間は、5年間のうち自己都合による対象2回までが2か月、3回目以降の退職なら3カ月です。

参考:ハローワークインターネットサービス - 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要

「会社都合」で受け取れる金額を計算

基本手当の総支給額は『基本手当日額×給付日数』の計算式で求められます。退職前6カ月の賃金の合計を180で割り、給付率を掛けた金額が基本手当日額です。給付率は年齢や賃金日額により変わります。

会社都合退職者の場合、失業保険の給付日数は90日~330日です。ハローワークインターネットサービスに掲載されている『基本手当の所定給付日数』の『1. 特定受給資格者及び一部の特定理由離職者』を見れば、自分の給付日数が何日なのかが分かります。

会社都合による退職でも、20歳代の場合は、実際に失業保険を受け取れる期間は3~4カ月になることがほとんどです。失業保険はあくまでも最低限の生活を支えるための手当であることを理解し、計画的かつ早期の就職を意識した転職活動を行いましょう。

参考:
雇用保険の基本手当日額が変更になります~令和3年8月1日から~ | 厚生労働省
ハローワークインターネットサービス - 基本手当の所定給付日数

「会社都合」となるケース

(出典) photo-ac.com

特定受給資格者として認められた場合は、会社都合退職者の扱いを受けられます。どのようなケースで特定受給資格者となるのかを見ていきましょう。

会社が「倒産」したことによる離職

会社の『倒産』などにより退職を余儀なくされた場合は、特定受給資格者とみなされて会社都合退職の扱いを受けます。

例えば、破産・民事再生・会社更生などの手続きを経て会社が倒産したことによる離職や、事業所において相当数の離職者が発生したことに伴う離職なら、会社都合退職として認められます。

事業所が廃止されて事業活動が再開する見込みがないケースや、事業所が移転して通勤が困難になったケースでも、退職理由を会社都合にすることが可能です。

会社に「解雇」されたことによる離職

会社から『解雇』されて退職した場合も、特定受給資格者に当てはまります。『解雇』などによる退職の主な例を以下で確認しましょう。

  • 整理解雇による離職
  • 労働契約で明示された労働条件が事実と著しく異なっていたことによる離職

1つめの整理解雇とは、業績不振の改善や経営の合理化を図るために、会社が人員を削減することです。従業員が悪質な規律違反や非行を行った場合に受ける『重責解雇』の場合は、会社都合による退職とはみなされません。

2つめの例は、就職後1年が経過するまでに離職した場合が該当します。この場合の労働条件とは、賃金・労働時間・就業場所などです。

こんな場合は会社都合?

(出典) photo-ac.com

実際の退職理由や退職時の状況によっては、会社都合になるのかどうか悩むケースもあるでしょう。自己都合と会社都合で迷いやすい主な例を紹介します。

嫌がらせによってやむを得ず退職した場合

上司や同僚からの嫌がらせを受けたことにより退職した人は、特定受給資格者の範囲に含まれます。形の上では自己都合退職でも、会社都合退職として扱ってもらうことが可能です。

上司や同僚による嫌がらせの例としては、パワハラやセクハラなどが挙げられます。被害に遭っていることを解決できない場合は、退職するしか選択肢がなくなるケースも多いでしょう。

結果的には自分の意志で辞めることになったとしても、原因が職場での嫌がらせなら、証拠を示せれば特定受給資格者として認められる可能性があります。

残業時間や残業代の問題により退職した場合

残業に関する問題により退職したケースでも、状況によっては特定受給資格者の範囲に含まれることがあります。会社都合になり得るケースは、退職前の直近6カ月間で残業時間が以下の状況になっていた場合です。

  • 3カ月連続で45時間超
  • ひと月で100時間超
  • 2~6カ月の月平均が80時間超

残業が多過ぎる状況は、会社側に原因があるとみなされます。たとえ自己都合の形で退職したとしても、上記の残業時間を証明できれば会社都合として扱ってもらえるでしょう。

有期雇用で契約満了の場合

長く勤めていた会社に契約更新の希望を出したのにもかかわらず、契約期間満了で離職した場合は、特定受給資格者となります。いわゆる雇い止めが行われたケースです。

例えば、契約更新により3年以上勤めた会社で、契約更新の希望を出したのに契約期間満了で退職した場合は会社都合となります。

雇い止めと退職理由の関係は、雇用期間と更新の有無の確認がポイントです。従業員が更新を希望したかどうかも関係します。

特定理由離職者はどんなときに当てはまる?

(出典) photo-ac.com

特定受給資格者だけでなく特定理由離職者に該当する場合も、会社都合退職者として扱われます。特定理由離職者とみなされる主なケースを確認しましょう。

契約期間満了で特定のケース

有期雇用において契約更新条項が『契約を更新する場合がある』とされているような場合に、契約更新を希望したのにもかかわらず契約終了で退職したときは、特定理由離職者の範囲です。

契約の更新について明示があるものの契約更新の確約まではない場合に、この基準が該当します。特定受給資格者の雇い止めの条件とは区別される点に注意しましょう。

このケースに該当する場合、2025年3月31日までに退職した人は、所定給付日数が特定受給資格者と同様の扱いを受けられます。

正当な理由のある自己都合も

自己都合で退職した場合でも正当な理由があるなら、特定理由離職者として認められることがあります。正当な理由の代表例は以下の通りです。

  • 病気や負傷により仕事を続けられなくなった
  • 単身赴任を続けるのが困難になった
  • 結婚や育児、交通機関の廃止などにより、通勤ができなくなった

正当な理由のある自己都合退職で特定理由離職者となった場合、一般の自己都合による離職のような2~3カ月の給付制限はなくなります。

会社都合にもかかわらず自己都合とされた場合

(出典) photo-ac.com

退職理由が会社都合だと判断できる場合でも、会社に自己都合とされてしまうこともあるでしょう。このようなケースでどのように動けばよいのかを解説します。

会社との交渉、ハローワークへの相談

失業保険の申請時に提出する離職票には、会社が退職理由を記載しています。会社都合であるのにもかかわらず自己都合退職として発行されているなら、まずは会社と交渉しましょう。

会社が退職理由の変更に応じてくれない場合、ハローワークに『異議申立』を行うことが可能です。『異議申立書』を作成し、離職票と一緒にハローワークへ提出しましょう。

最終的に退職理由を判断するのはハローワークです。異議申立を行うことでハローワークが事実関係を調査し、退職理由を判定します。

証拠の例

会社との間で離職理由に関するトラブルが発生し、ハローワークに相談する際は、自分の主張が正しいことを証明する証拠があると有利です。

例えば、残業代が支払われていないことを主張するケースでは、就業規則・タイムカード・給与明細書を用意しましょう。始業・終業時刻や上司からの残業指示などを自分でメモしたものでも構いません。

就業規則やタイムカードは、退職後に用意しようとしても難しいでしょう。退職理由でもめることが予想されるなら、在籍中に入手しやすい資料は会社を辞める前に集めておくのがおすすめです。

会社都合による離職のデメリット

(出典) photo-ac.com

会社都合は自己都合に比べメリットが大きい退職理由ですが、デメリットもあります。どのようなリスクがあるのか知っておきましょう。

転職先に知られることがある

会社都合による離職のデメリットとして、転職先に退職理由を知られてしまいかねないことが挙げられます。企業によっては応募時に離職票の提出を求めるケースがあるためです。

懲戒解雇により退職した場合でも、悪質な規律違反や非行による重責解雇に該当しなければ、会社都合退職として扱われる可能性があります。

しかし、転職先は解雇されたことしか見ない可能性があるため、「不正行為で辞めさせられたのか」「勤務態度が悪いのではないか」などと思われかねません。場合によっては、なかなか転職先が決まらない状況に陥る恐れもあります。

実は退職する会社側にもデメリットがある

会社が雇用関係の助成金制度を利用している場合、退職者の退職理由を会社都合にしてしまうと助成金がもらえなくなるケースがあります。

雇用関係の助成金制度の大半は、『一定期間内に会社都合退職を行っていないこと』を支給条件にしています。会社都合で従業員に辞められると、会社側は一定期間助成金を受給できなくなるのです。

退職理由を会社都合にして会社を辞める場合、会社が大きなデメリットを受けかねないことも覚えておきましょう。

会社都合は手厚く保障される

(出典) photo-ac.com

失業保険は退職理由により受け取り方や受け取る日数が異なります。会社都合退職の場合は、自己都合退職より手厚い保障を受けることが可能です。

会社都合退職に該当するケースでも、会社側で自己都合にされていることがあります。会社都合であることを主張できる正当な理由があるなら、ハローワークに相談しましょう。

小西道代
【監修者】All About 労務管理ガイド小西道代

労務トラブルを未然に防ぐ社会保険労務士・行政書士。行政書士法人グローアップ代表、社会保険労務士法人トップアンドコア役員。大学卒業後、日本マクドナルドに入社。幅広い年齢層と共に働くことで、法律や制度だけではない労務管理・組織運営に興味を持ち、弁護士事務所等で経験を積む。自身も喫茶店を経営した経験から、労務トラブル予防の労務相談を得意とする。
All Aboutプロフィールページ
公式サイト