転職で年収をアップさせたいなら、額面や手取りについて正しく理解しておくことが大切です。言葉の意味を間違えて覚えると、手取りが今より少ない職場に転職してしまいかねません。額面や手取りの意味のほか、手取り額の知り方について解説します。
「額面年収」と「手取り年収」の違い
手取りを理解するためには、額面との違いを理解しておきましょう。額面年収と手取り年収の具体的な意味や、給与明細から手取り額を知る方法について解説します。
支給されるお金の総額が「額面」
「額面」とは、会社から支給されるお金の総額のことで、税金や社会保険料、その他の控除項目が差し引かれる前の金額をいいます。
一方で「手取り」とは、額面から税金や社会保険料、その他の控除項目を差し引いた後の金額のことをいいます。
また、会社から支給されるお金に関する用語で混同しやすいものとして「給与」と「給料」があります。所得税法によると、給与は基本給だけでなく、各種固定的手当や残業代やインセンティブ、さらには賞与も含むとされているので、年収に近い意味があります。一方で「給料」は毎月支給される基本給のみを指すとされています。
そして、給料(基本給)に固定的手当を加えた額を「月給」、さらに残業代等の変動給を加えた1か月の総額を『月収』と呼ぶのが一般的です(※)。
※年収を単純に12分割した額を月収と呼ぶこともあります。もっとも、ここまでにご説明した用語はいずれも法律上の定義などがあるものではありませんので、ケースバイケースで使われ方が異なることがある点には注意して下さい。
額面の内訳イメージ
給料=基本給
月給=給料+各種固定的手当
月収=月給+変動給(残業代等)
給与(≒年収)=月収×12か月分+ボーナス
実際に手元に入る金額が「手取り」
会社で働いている間は、税金や社会保険料が給与から差し引かれます。会社が直接天引きした上で、従業員の代わりに各種納付を行ってくれているのです。
税金や社会保険料が差し引かれた後、実際に従業員の手元に入るお金が『手取り』です。銀行口座に振り込んでもらう場合は、手取り金額が入金されることになります。
手取り年収とは、1年間の手取りの総額です。1年分の税金や社会保険料を額面年収から引けば、手取り年収を算出できます。家計の収支を考える際は、額面ではなく実際に受け取れる手取りを収入としなければなりません。
給与明細を見れば手取り額が分かる
月々の手取り額は、知りたい月の給与明細を見れば分かります。『差引支給額』や『銀行振込額』の項目に記載されている金額が、手取り額です。
一般的な給与明細には、勤怠情報・総支給額・控除合計額の大項目が設けられており、それぞれの内訳が記載されています。総支給額から控除合計額を引いた金額が、実際に入金される手取り額です。
所得税法では、給与明細の交付を事業者に義務付けていますが、発行していない事業者も存在します。給与明細をもらっていない場合は、会社に頼めば発行してもらえるでしょう。
なお、源泉徴収票を見ても正確な手取り年収は分かりません。『額面年収』と『所得税・社会保険料の年間控除額』は記載されていますが、額面年収には通勤手当等の非課税支給額、所得税・社会保険料の年間控除額には住民税やその他の控除項目が記載されていないためです。
控除されるお金の主な内訳
額面から差し引かれるお金は、社会保険料・税金・法定外控除に大きく分けられます。それぞれの具体的な内容を確認しましょう。
社会保険料
額面から引かれるお金の1つに、社会保険料があります。社会保険料とは、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・労災保険料の総称です。
健康保険料は、病院にかかった時の医療費等を賄うために支払うお金で、給与や加入している保険者により異なります。40歳になると、健康保険料に加えて介護保険料も負担しなければなりません。
厚生年金保険料は、老後の生活を支えるための備えとして支払うお金で、国民年金の保険料も負担したものとして扱われます。雇用保険料は、失業等給付(いわゆる失業保険)・育児休業給付金等の原資となる保険料です。
なお、労災保険料は業務を理由とする病気・ケガなどに対し、給付を受けるためのものですが、会社が全額負担することになっているため、従業員の額面から差し引かれることはありません。
税金
額面からは、税金も引かれます。控除される税金の種類は、『所得税』と『住民税』です。2037年までは、復興特別所得税も負担しなければなりません。
年間所得にかかる所得税を、会社が毎月差し引くことを『源泉徴収』といいます。源泉徴収は、あくまでも概算で行われるものであり、本来納めるべき金額より多めに徴収されているのが一般的です。
所得税の過不足を計算するために年末調整が行われ、1年間で納めすぎた分があれば会社から従業員に返金されます。年末調整でお金が戻ってきた場合、手取り年収は増えることになりますが、額面年収には変化がありません。
法定外控除
額面から控除されるお金は、「法定控除」と「法定外控除」の2種類に大別されます。社会保険料と税金が法定控除、法定控除以外に差し引かれるお金が法定外控除です。
法定控除により額面から差し引かれる項目は法律で定められています。一方、法定外控除で差し引かれる項目は『労使協定』で決められるため、会社ごとに異なります。法定外控除に該当する代表的な項目は、社宅費・労働組合費・互助会費・財形貯蓄費・社員旅行積立費などです。項目名は、会社により違います。
給与明細の控除項目を見れば、法定外控除の金額を知ることが可能です。
額面年収から手取り年収を計算する方法
自分の手取り年収を把握するためには、どのようにすればよいのでしょうか?額面から手取りを知る方法について解説します。
額面の約80%が手取りの目安
額面から差し引かれる金額は、人によって異なります。税金や社会保険料の金額が、収入や家庭環境などさまざまな要因に左右されるためです。法定外控除の金額も会社ごとに違います。
額面年収から手取り年収を知る一般的な計算方法は『額面年収×0.75~0.85』です。額面の約80%が手取りになると考えておけばよいでしょう。
例えば、額面年収が300万円なら手取り年収は225~255万円、額面年収が500万円の場合は手取り年収が375~425万円と計算できます。
逆に、手取り年収から額面年収を知りたいケースもあるでしょう。手取り年収を額面年収の80%とした場合、『手取り年収×1.25』の計算式で額面年収の目安が分かります。
ボーナスは手取りの計算が異なる
会社からボーナスをもらっている場合、ボーナスからも税金や社会保険料が差し引かれています。
住民税は、前年度の所得に対して課税されます。前年度分の所得金額から算出された金額が、翌年度の「給与」から毎月差し引かれるため、ボーナスはそもそも住民税の控除対象にはなっていないのです。
ボーナスの手取りを知りたい場合は、『ボーナスの額面−(健康保険料+(介護保険料)+厚生年金保険料+雇用保険料+所得税)』で計算できます。
手取り年収を増やすにはどうすればいい?
額面年収から手取り年収を割り出すと「思ったよりも少ない…」と思う人もいるかもしれません。手取り年収を増やすためには、『引かれる金額を少なくする』『額面年収自体をアップさせる』の2パターンが考えられます。それぞれの具体的な方法を紹介しましょう。
各種控除を活用する
手取り年収を増やすための方法として、各種所得控除を活用することが挙げられます。控除制度を利用すれば、年末調整や確定申告で税金を減らしたり還付を受けたりすることが可能です。
比較的気軽に利用できる控除には、医療費控除・住宅ローン控除・生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除・地震保険料控除などがあります。
資産運用を検討しているなら、iDeCoも覚えておきましょう。掛け金が全額所得控除の対象になるため、掛け金が大きくなればその分控除額を増やせます。
額面年収を増やさなくても手取り年収を増やせることが、各種所得控除を活用する方法のメリットです。要件を満たしていても自動的に控除されるわけではないため、控除の種類をできるだけ多く知った上で、自ら申請を行う必要があります。
年収アップを目指せる会社へ転職する
現在より収入を上げられる会社に転職するのも1つの方法です。額面年収そのものを増やせれば、手取り年収もアップする可能性が高くなります。
今の雇用形態がアルバイト・パート・契約社員であるなら、正社員を目指すのがおすすめです。一般的には、非正規雇用から正規雇用に変われば収入もアップします。
給与水準が低い業界で働いている場合は、給与水準が高い業界への転職を狙うとよいでしょう。給与が上がらない会社から、実力・実績評価型の会社に移るのも効果的です。
年収について転職時に注意したいポイント
年収アップを目指して転職するなら、注意すべきポイントがあります。額面や手取りなどの意味を間違えて覚えると、転職時に失敗してしまう恐れがあるからです。職探しや面接で、注意すべき点を押さえておきましょう。
直近の年収は額面年収を答える
面接時に前職の年収を聞かれた場合は、手取り年収ではなく『額面年収』を答えましょう。会社側が知りたいのは、『前の会社が応募者に対していくら支給していたか』です。
控除額は会社により異なるため、手取り年収を答えても面接官は額面年収を正確に把握できません。手取り年収を額面年収だと思われてしまうと、正当な評価を受けられない恐れもあります。
源泉徴収票を見れば、額面年収の正確な金額を知ることが可能です。面接を受ける前に、直近の額面年収を源泉徴収票で確認しておきましょう。
求人情報の給与は手取りではない
転職活動時に求人情報を見る際は、給与欄に記載されている金額は注意が必要です。求人情報の給与欄には、手取りではなく『額面』の金額が記載されています。
給与ではなく年収や基本給と書かれていることもありますが、いずれの場合も手取りではありません。求人の時点では、控除される前の金額しか記載できないためです。
求人情報の給与を手取りと勘違いすれば、転職後の手取りが今よりも少なくなってしまうこともあります。収入アップを目指して転職するなら、『給与は手取りではない』ことに注意しましょう。
希望給与額は額面を伝える
転職活動中の面接では、面接官に希望給与額を聞かれることがあります。履歴書に希望給与額を記入して提出するケースもあるでしょう。
『いくら欲しいのか』を伝える際は、手取りではなく額面を伝えなければなりません。会社側が知りたいのも額面の希望給与額です。
希望給与額を手取りで伝えてしまうと、転職後の実際の手取り額はさらに少なくなる恐れがあります。必ずしも希望が通るとは限りませんが、そもそも間違った認識で金額を伝えることは避けなければなりません。
額面と手取りの違いを理解して仕事を探そう
転職活動をする際は、額面年収や手取り年収など、収入に関する用語の違いを正確に把握しておく必要があります。
額面年収から税金や社会保険料を差し引いた金額が、手取り年収です。額面年収の約80%が手取り年収の大まかな目安になります。
額面と手取りの意味を誤って覚えると、転職後に収入が増えない状況にも陥りかねません。求人情報に記載のある給与の意味や、面接の際に伝える希望年収など言葉の意味をしっかりと理解し、転職で収入アップを実現しましょう。
医療機関の人事・労務はお任せ!元製薬会社MRの社会保険労務士
社会保険労務士。社会保険労務士法人NAGATOMO代表社員。MR、人事コンサルタント、医療業界を熟知した社会保険労務士の経験をいかし、病院・クリニックの規模に合わせた人事制度の構築、人事・労務問題をサポートしている。
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