退職所得の受給に関する申告書は、退職前に職場へ提出しておくべき重要な書類です。期限までに出し忘れた場合、退職時に退職所得控除を受けられません。申告書の役割や、必要な手続きを理解しておきましょう。
退職所得の受給に関する申告書とは
退職所得の受給に関する申告書とは、どのような書類なのでしょうか?申告書を出す理由や、提出期限について解説します。
退職手当を適正な金額で受け取るための書類
『退職所得の受給に関する申告書』は、退職金を受け取る際に会社から提出を求められる書類です。申告書を出すことで退職所得控除が適用され、適正な金額の退職金をもらえます。
給料やボーナスと同じく退職金にも税金はかかりますが、退職金は給与にはない税制上の軽減措置を受けられます。退職金は老後の生活に必要なお金であり、できるだけ多く手元に残してもらうために国が税負担を軽くしているのです。
申告書を出さなくても退職金は受け取れるものの、納めなくてもよい分の税金まで徴収されてしまいます。会社を辞める際は、忘れずに提出しましょう。
退職金にも所得税と住民税がかかる
退職金にかかる税金は、所得税と住民税です。2037年までは、税率2.1%の『復興特別所得税』が所得税に加算されます。
所得税の税率は、所得が大きいほど高くなります。住民税(所得割)の税率は、住んでいる地域にかかわらず約10%です。
それぞれの税金は、所得に税率を掛けて算出するため、所得が大きくなるほど税額も多くなります。ただし、退職所得控除を適用すれば課税退職所得金額を減らせるため、給料やボーナスと比べ収入に対する税金の割合を下げられるのです。
参考:退職金と税|国税庁
退職金の支払い者へ退職前に提出
退職所得の受給に関する申告書は、退職金の支払い者に提出する書類です。支払い者には、会社や共済組合などが該当します。
会社を辞める時期が近くなったら、支払い者から申告書を受け取りましょう。紛失したりもらえなかったりした場合は、国税庁のホームページからダウンロードすることも可能です。
申告書は、退職金の支払いを受ける前に提出しなければなりません。支払いを受ける前日までに提出すれば問題はありませんが、忘れるのを防ぐためにもできるだけ早めに提出しておくと安心です。
退職所得の受給に関する申告書の書き方
勤務先情報や本人情報以外に、申告書で記入する欄はA~Eの5つに分かれています。まず、全ての人が記入しなければならないA欄の書き方を覚えておきましょう。
必ず記載が必要なA欄の書き方
『1.退職手当等の支払を受けることになった年月日』には、退職年月日を記入します。
『2.退職の区分等』では、在職中に障がい者となったことが原因で退職した人は『障害』に○を付け、()の中に障害の状態や障害者手帳の交付年月日を書きましょう。障害に該当しない人は『一般』に○を付けます。
会社を辞める年の1月1日時点で生活保護を受けている場合は、『生活扶助』の『有』も○で囲みましょう。生活保護を受けていない人は『無』を囲みます。
『3.この申告書の提出先から受ける退職手当等についての勤続期間』は、勤続年数を記入する場所です。1年未満の端数が出る場合は切り上げます。
申告書を提出しないとどうなる?
申告書を提出しなかった場合、どのようなことが起こるのかを解説します。リスクを理解し、適切に手続きを進めることが大切です。
退職所得控除が適用されない
給料やボーナスなど会社が支給するお金にかかる税金は、源泉徴収により天引きされています。退職金も、手続きをすることで源泉徴収によって税金をあらかじめ引いてもらえるお金です。
退職金には原則として退職所得控除が適用され、課税退職所得金額を大幅に減らせる可能性があります。税額は、課税退職所得金額をもとに計算されるため、控除が適用されれば納税額を抑えられるのです。
しかし、申告書を提出しなければ控除は適用されません。一律『20.42%』の税率で源泉徴収されてしまうため、適正な金額の退職金を受け取れなくなってしまいます。
確定申告で精算手続きが必要になることも
申告書を出さずに20.42%の税率で計算された場合、ほとんどの人は本来納めなくてもよい税金を納めることになるでしょう。この場合、確定申告を行うことで、納めすぎた税金の還付を受けられます。
しかし、確定申告を行うための時間や手間を確保しなければならず、手間がかかります。申告書を出しておきさえすれば、適正な金額の税金で済む上、確定申告も不要です。余計な時間や手間をかけないためにも、申告書は忘れずに提出しましょう。
提出しても確定申告した方がよいケース
会社を辞めた後に不動産投資をしている人や事業を営んでいる人の中には、不動産所得や事業所得が赤字になっているケースもあるでしょう。
退職所得は、損益通算により不動産所得や事業所得と相殺できるため、赤字が出ている場合は合算により退職所得を減らせます。所得が減れば、さらに税額を抑えることが可能です。
ただし損益通算は、所得の種類ごとに相殺できる順番が決まっています。赤字が出ている所得を相殺する場合は、給与所得なども併せて考えなければなりません。
退職所得の受給に関する申告書は忘れず提出を
退職金を受け取る際は、会社から『退職所得の受給に関する申告書』の提出を求められます。申告書を出さなかった場合、高い税率が適用され、適正な金額を受け取ることができません。
納めすぎた税金は確定申告で戻ってくるものの、本来はする必要がない確定申告の余計な手続きが発生します。最初から適正な金額を受け取るためにも、申告書は忘れずに提出するのが得策です。
起業コンサルタント、税理士、行政書士、特定社労士。年間約300件の起業無料相談受託。起業準備から経営までまるごと支援。税理士法人V-Spirits (経済産業省経営革新等認定支援機関) グループ代表。
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著書:
0からわかる! 起業超入門
相談件数No.1のプロが教える失敗しない起業55の法則
一日も早く起業したい人が「やっておくべきこと・知っておくべきこと」