退職時に必要な年金の手続きは?仕組みや払えないときの対処法も解説

会社員は、毎月の給与から年金保険料が天引きされているため、年金を意識することは少ないかもしれません。退職時には、何か手続きが必要なのでしょうか?退職時にしなければならない手続きや、手続きが不要なケースについても解説します。

会社員の年金の仕組み

年金手帳

(出典) photo-ac.com

会社員と個人事業主では、加入している年金が異なります。会社員が加入する年金の特徴と、支払う金額について知っておきましょう。

国民年金と厚生年金に加入

会社員は、『国民年金』と『厚生年金』に加入しています。国民年金は、原則日本国内に居住している20~60歳未満の人が加入する年金制度です。

厚生年金は、常時従業員を使用する会社に勤務している70歳未満の一定の条件を満たしている人が、その会社に入社した時から退職するまで加入する年金制度です。

日本の公的年金制度は加入者を3種類に分けており、個人事業主など会社に勤めていない人は『第1号被保険者』となり、国民年金保険料を払います。会社員は、厚生年金保険料を負担することで、国民年金保険料の拠出金が支払われる『第2号被保険者』です。

そのほか、会社によっては『企業年金』が設定されていることもあるでしょう。企業年金には複数の種類があり、福利厚生の一環で運用が行われています。専業主婦など扶養されている人(第三号被保険者)は、個人としては保険料を負担する必要はありません。

厚生年金の支払いは会社と折半

厚生年金保険料は、2017年以降『18.3%』となっており、毎月の給与額より算出される標準報酬月額によって支払う金額が増減します。会社と従業員が折半するため、従業員の負担は『9.15%』です。

例えば、標準報酬月額26万円の場合、従業員の負担金額は2万3790円となります。

国民年金第1号被保険者の国民年金保険料は、収入による変動はなく、2024年度では、一律1万6980円です。将来の年金を加算する『付加保険料』も一律月400円で、こちらも収入による変動はありませんが、全額を被保険者が負担します。

参考:
 令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和3年度版)|日本年金機構
国民年金保険料|日本年金機構

退職時に必要な年金の手続き

退職届

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退職時には、年金の切り替え手続きが必要です。転職先への入社日や、今後の働き方によって必要な手続きが変わってくるため、具体的なパターンを紹介します。

離職期間がある場合は国民年金の加入が必要

退職日から転職まで間があり、第2号被保険者である家族の被扶養者とならない場合は『第1号被保険者』となり、国民年金に加入します。会社員を辞めて個人事業主として働く場合も、国民年金への切り替え手続きが必要です。

基本的に、1日でも離職期間がある場合は、国民年金への切り替えが必要です。例えば、5月15日に退職して6月10日に転職先へ入社する場合、5月分の国民年金保険料を支払わなければならず、手続きをしないと未納となってしまいます。

未納分は、2年以内であれば後から納付することもできますが、そのまま忘れていると年金の期間や金額にカウントされず、将来の年金が減ってしまいます。

それだけでなく、障害・死亡時に未納期間があると、年金の受け取りができない可能性があるため注意しましょう。

万が一、会社と個人で年金の支払いが重複してしまった場合は、還付が可能です。通常は日本年金機構から連絡があるため、大きな心配はないでしょう。

離職期間なしで転職する場合は手続き不要

退職日の翌日に別の会社へ入社する場合、年金の切り替え手続きは不要です。次の会社に必要な書類を提出しましょう。

通常、年金手続きに必要なマイナンバーは、会社への提出が義務付けられています。会社によっては、基礎年金番号を求められる可能性もあるため、念のため年金手帳や基礎年金番号通知書で番号を確認しておきましょう。

厚生年金の加入手続きは、転職先が行います。離職期間なしの場合には特別な手続きや、役所への書類提出は不要です。あらかじめ転職先が決まっているときは、退社日と入社日を調整する方が手続きの手間がかかりません。

企業型確定拠出年金の手続き

企業年金には、『企業型確定拠出年金』『確定給付企業年金』などがあります。かつては『厚生年金基金』もあり、どの企業年金に該当しているかで退職時の扱いが変わります。

一般的に、転職先に企業年金があると、引き続き積み立てた年金を移動できます。なお、要件を満たすと『脱退一時金』として受け取りも可能です。

脱退一時金は、積み立てた企業年金を一時金として受け取るもので、退職所得としてカウントされます。金額によっては、税金が発生するため注意しましょう。

個人で運用する『iDeCo』への移行ができる場合もあります。

年金保険料が払えない場合の対処法

家計簿とお札

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退職後に資金面の不安があり、年金保険料が払えないときは国の制度を活用しましょう。特例で年金保険料の免除・猶予ができる場合があります。手続きの方法や概要を見ていきましょう。

失業者は国民年金の免除・猶予制度を使える

国民年金では、条件を満たすと免除・納付猶予制度が利用できます。会社を退職した人は、手続きにより前年の所得をゼロとして計算し、免除・納付猶予の審査を受けることが可能です。

国民年金保険料の免除を申請すると、将来もらえる年金は減りますが、免除後10年以内なら後から納付することも可能です。ひとまず免除手続きをして、余裕ができてから過去の年金を支払うのもよいでしょう。

失業時は収入が減り、年金を払う余裕がないこともあります。実施されている制度を活用し、転職まで乗り切りましょう。

必要書類と申請方法

失業による年金の免除を申請するには、『雇用保険受給資格者証』または『雇用保険被保険者離職票等』などが必要です。

雇用保険受給資格者証や離職票は、通常会社から退職後に手渡し、もしくは郵送されます。もらった覚えがない場合は会社に確認するか、ハローワークで再発行を依頼しましょう。

免除の申請先は、市区町村役所の『国民年金担当窓口』です。日本年金機構のホームページから申請書をダウンロードし、郵送でも手続きできます。

転職活動などで役所に出向く時間がないときは、郵送申請を活用しましょう。

退職したら忘れずに年金の手続きをしよう

年金手帳と封筒

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会社員は退職後、厚生年金の加入者資格がなくなります。翌日に別の会社へ入社するケースを除いて、基本的に国民年金への切り替えが必要です。

年金の未納があると、受け取れるはずの年金が受け取れなくなるなど、大きなデメリットがあります。退職後は、忘れずに切り替えや免除の手続きをしましょう。

長友秀樹
【監修者】All About 社会保険労務士試験ガイド長友秀樹

医療機関の人事・労務はお任せ!元製薬会社MRの社会保険労務士
社会保険労務士。社会保険労務士法人NAGATOMO代表社員。MR、人事コンサルタント、医療業界を熟知した社会保険労務士の経験をいかし、病院・クリニックの規模に合わせた人事制度の構築、人事・労務問題をサポートしている。
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