給与とは何?実はよく知らない給与と給料の違いや手取りの確認方法

求人票や転職サイトをよく見ると、給与や給料の表記が違うことに気づくでしょう。給与について正しく理解しておけば、志望企業からもらえる金額を正確に把握することが可能です。給与と給料の違いや手取り額の計算方法を紹介します。

給与とは?

お金を数える

(出典) photo-ac.com

給与とは具体的に何を指す言葉なのでしょうか。まずは給与の意味や給料との違いについて解説します。

会社から支払われる報酬すべてが「給与」

給与とは会社から支給されるすべてのお金を意味する言葉です。基本給・残業代・通勤手当など、会社から金銭で支払われるものすべてを含んでいます。

所得税法第二十八条では、給与について以下のように定められています。

給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

このように給与の範囲は非常に広く、基本給だけではなく、各種固定的手当や残業代やインセンティブ、さらには賞与といった一時金に加えて、社宅の貸与など金銭以外の形で与えられる「現物給与」も、給与に含まれることがあります。

出典:所得税法 | e-Gov法令検索

給料との違い

給与と意味を混同しやすい言葉に給料があります。給与からボーナスや各種手当などを差し引いたものが給料です。一般的には『基本給=給料』と考えてよいでしょう。

給与が労働状況や会社の業績により変動するのに対し、給料は基本的に一定の金額が保たれます。昇給やベースアップなどが行われない限り、給料の金額は変動しません。

給与の範囲に入るもの

給料明細

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基本給以外に給与を構成するのが各種手当・現物給与・ボーナスです。それぞれの具体的な意味を覚えておきましょう。

通勤費など「各種手当」

給与には各種手当が含まれます。手当とは特定の人に対して特定の目的で支払われるお金のことです。会社が任意で支給する主な手当には次のようなものがあります。

  • 通勤手当
  • 住宅手当
  • 家族手当・扶養手当
  • 出張手当(出張日当)
  • 資格手当・研修手当
  • 皆勤手当
  • 役職手当・職能手当
  • 宿日直手当

法律上の支払い義務がある手当は、条件を満たす従業員に必ず支払わなければなりません。以下の手当が該当します。

  • 時間外労働手当(残業手当)
  • 深夜労働手当
  • 休日労働手当

たとえば時間外手当の場合は、労働基準法で定められた『1日8時間・週40時間』を超えて働いた従業員に支払い義務が生じます。

金銭以外の「現物給与」

労働基準法では、給与も給料も通貨で支払わなければならないと定められています。ただし、従業員の同意があれば現金以外の方法で支給することが例外的に認められており、現物支給も給与の一部になり得ます。

現物給与の具体例としては、ユニフォーム・食事・食事代補助・通勤定期券・記念品などが挙げられます。会社の商品やサービスを値引き販売してもらうことも現物給与の一種です。

社宅を定額で借り受けたり、会社から低金利で融資を受けたりした場合は、通常の家賃や金利に比べて得をした分が現物給与とみなされます。人間ドックの費用補助や保養所を利用できる権利など、福利厚生の一環として現物給与を支給しているケースもあるでしょう。現物給与は、金銭に換算した金額に対して所得税の課税対象に含まれる場合があります。会社から何か物品が支給された場合は、それが課税対象であるかどうかは給与明細で確認しておきましょう。

固定給以外の収入となる「ボーナス」

会社からボーナスが支給される場合は、ボーナスも給与に含まれます。ボーナスは法律で支給を義務づけられているわけではないため、企業により支給の有無や金額の決め方が異なります。

最もスタンダードなボーナスの種類は「基本給連動型賞与」です。基本給の3カ月分のように決められています。基本給をベースに計算し、各種手当は計算に含めないことが多いです。

組織や個人の業績に応じて金額を決めるのが『業績連動型賞与』です。基本給連動型のように一定額が確実にもらえる保証はないものの、業績に応じて支給額が決定されるため従業員のやる気を高めやすいメリットがあります。

給与から手取り額を計算するには?

給与明細と電卓と現金

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給料日にもらえる金額は給与の金額ではありません。さまざまなお金を差し引いた残りを手取り額として受け取れます。給与から手取り額を計算する方法について解説します。

一般的には給与のおよそ8割が手取り

給与はあくまでも会社から支給されるお金の総額であり、実際に自分の手元に入る手取り額は給与より少なくなります。税金や社会保険料が給与から差し引きされるためです。

正社員の場合は一般的に、手取り額は給与の8割程度と言われています。ただし、税金や社会保険料の金額は給与額や家族構成などにより変わるため、必ずしも8割が当てはまるわけではありません。おおよその目安として覚えておきましょう。

求人票の給与欄を見る際は、給与が基本給のみのケースと各種手当を含んでいるケースがあることに注意しましょう。基本給のみ記載されているケースで手取り額を計算した場合、実際には手取り額が増える可能性があります。

給与から差し引かれる項目

給与から差し引かれる社会保険料の種類は、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料の3種類です。40歳以上になると介護保険への加入が義務づけられ、介護保険料も引かれます。

これらの保険料は従業員の全額負担ではなく、会社も一定の割合を負担してくれます。社会保険料には労災保険料もありますが、会社が全額負担するため給与からは差し引かれません。

給与から差し引かれる税金は所得税と住民税です。2037年(令和19年)までは、復興特別所得税も負担しなければなりません。

給与額から見る手取りの具体例

給与額から手取り額を知りたい場合、給与の総支給額と控除額が分かれば簡単に計算できます。総支給額や控除額は給与明細で確認することが可能です。一人暮らしで総支給額と控除額が以下のようなケースを例にとって計算してみましょう。

  • 総支給額:28万0000円
  • 健康保険料:1万4000円
  • 厚生年金保険料:2万5620円
  • 雇用保険料:1680円
  • 所得税:6110円
  • 住民税:1万1600円

上記の控除額の合計は5万9010円です。手取り額は『総支給額-控除合計額』で求められるため、28万0000円-6万3943円=2万16057円となります。給与に占める手取り額の割合は約79%です。

おおよその手取り額が知りたい場合は、給与額に80%を掛けてみてください。逆に、「手取りを○○円にするためのおおよその給与額を逆算したい」という場合は、希望する手取り額を1.25倍してみてください。手取りを給与の8割とした場合の給与額を算出できます。欲しい手取り額から給与を計算したい場合に活用しましょう。

給与取得者の年末調整について

年末調整資料

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給与から差し引かれる所得税の一部は、年末調整で戻ってくる可能性があります。払いすぎた税金が返金される仕組みを理解しましょう。

所得税の再確認をするのが年末調整

給与から毎月差し引かれる所得税は、確定額ではなく概算額が控除されています。年間の所得税が最終的にいくらになるのかは、実際の年間所得が出なければ分からないためです。

年間所得が年末に確定した時点で、会社はあらためて年間の所得税を計算し直します。最終的に確定した所得税と実際に差し引いた所得税を比べ、過不足を精算する作業が年末調整です。

なお、住民税には年末調整のような作業はありません。前年の1月1日から12月31日までの所得により市区町村が1年分の税額を決定します。確定した税額を12分割して差し引くため調整額が生じません。

税金が還付される可能性も

所得税の年末調整で過不足を計算し、税金を納めすぎていることが分かった場合は、過払い分が還付されます。逆に、通常より多めにボーナスをもらったり扶養家族が減ったりしたケースでは、不足分が発生し、追加で徴収されることもあります。

年末調整では勤務先に各種申告書を提出することでいろいろな所得税控除が受けられます。例えば保険料控除申告では生命保険料や地震保険を支払っている場合、一定額の所得税控除を受けることができます。

ふるさと納税を利用している人や、年間の医療費が高額になった人は、年末調整後に寄附金控除や医療費控除を受けることも可能です。納めすぎた所得税が戻ってきます。

給与が高い会社に転職するには?

履歴書

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転職を検討している人の多くは、できれば給与が高い会社に転職したいと考えているでしょう。給与が高い会社へ就職するために必要な準備を紹介します。

必要な資格・スキルの取得

給与が高い会社に転職したいなら、希望する会社や業界で必要な資格やスキルを身につけておくのがおすすめです。即戦力として認められやすくなるため、より高い給与を期待できます。

専門資格がなければできない仕事なら、資格を取得しておけば高収入を得られるでしょう。ただし専門の学校に通わなければならないケースがあるため、計画的に行動することが大切です。

上位資格がある職種は、保有資格を増やすことで仕事の幅が広がり、給与アップを図れます。例えば介護福祉士の資格を持っている場合、介護支援専門員や認定介護福祉士といった上位資格を取得すれば給与が増える可能性があるでしょう。

企業研究をしっかりと

給与が高い企業に限らず、転職活動中は志望企業の研究を行うことが重要です。しかし給与が高い企業は競争率も高くなるため、より徹底した企業研究を行う必要があります。

企業の公式ホームページに隅々まで目を通し、企業に関するさまざまな情報をしっかりと把握しておきましょう。企業の方向性や経営戦略を知れるプレスリリースをチェックするのもおすすめです。

入念な企業研究を行った上で、分からなかった内容を面接時に質問すれば、企業に強い興味を持っていることや事前調査ができていることをアピールできます。

給与だけでなく自分に合っているかも大事

給与の高さだけを基準に転職先を選ぶと、仕事や職場が自分に合わなかった場合に苦労するでしょう。給与だけでなく仕事や職場が自分に合っているかを考えることも大切です。

自分に向いている仕事を見つけるためには、自己分析をして自分の強みや好みを洗い出してみましょう。自分にできるだけでなく、自分がやりたいと思える仕事かどうかも重要です。

仕事が自分に合っていても、企業の社風が合わなければ仕事は続きにくくなります。企業研究や面接の際、社風についてもできる限り調べてみるのがおすすめです。

給与が高いと言われる業界

打ち合わせをしているオフィスの風景

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国税庁は、毎年9月に民間企業の年間給与の実態を公表しています。 令和3年の調査結果では、1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与は 443 万円(給料・手当377 万円、賞与67 万円)。男女別では、男性 545 万円、女性 302 万円となっています。
業種別にみると、「電気・ガス・熱供給・水道業」が 766 万円(給料・手当609万円、賞与157万円)で最も高く、「金融業,保険業」677万円(給料・手当523万円、賞与154万円)、「情報通信業」624万円(給料・手当507万円、賞与116万円)が続いています。

ここでは、給与が比較的高い水準にあり、未経験でもチャレンジできる業界を紹介します。給与の高さを重視して転職先を選ぶ際の参考にしてみましょう。

出典: 国税庁「令和3年分民間給与実態統計調査」

さまざまなモノ作りをする「メーカー」

給与が高いと言われる代表的な業界としては、メーカーが挙げられます。電子機器・機械・自動車・食品・薬品など、主に製品を企画・開発・生産する業種です。

経営面で安定している企業が多いこともメーカーのメリットです。福利厚生に力を入れている企業も多いため、転職により給与だけでなく待遇面の改善も見込めるでしょう。ただし、メーカーの中でも分野ごとに給与の高低差がある点には注意が必要です。

お金のプロ「金融」

さまざまな形でお金に関わりながら社会の経済を支える金融業界も、給与水準が高い業界です。銀行・保険会社・クレジットカード会社・証券会社などが該当します。

金融の仕事は難しそうなイメージを持たれがちですが、未経験者が応募できる企業も数多く存在します。未経験者を採用する企業は、入社後にしっかりと教育を行うのが一般的です。

金融業界で求められる主なスキルとしては、提案力・コミュニケーション能力・情報収集力などが挙げられます。人と接することが好きな人や、人の役に立ちたいと常に考えている人は、金融業界に向くでしょう。

現代社会の必須業界「IT・通信」

ITとはコンピューターやインターネットを使った情報技術(Information Technology)を意味します。これらのITに付随するサービスを扱う業界がIT業界です。

ITの分野には通信インフラ・Web・ソフトウェアなどの業種があり、それぞれ専門が異なります。IT業界は今後ますますの発展が予想される一方、人手が足りないことから高い給与を狙える業界です。

企業によっては実務経験がない人でもチャレンジできますが、専門スキルは必須です。未経験者OKの求人を調査し、必要な知識やスキルを習得しておきましょう。

社会人の心得として正しい給与の知識を

給与明細とペンと電卓

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給与とは会社から支払われるすべての報酬の合計です。基本給・各種手当・現物給与・ボーナスで構成されます。意味を混同しやすい給料は基本給と同義です。

給与から税金や社会保険料が差し引かれた後、手取り額として受け取れます。一般的に手取り額は給与の約8割です。給与に関することをきちんと理解し、正しい知識を持って転職活動に臨みましょう。

長友秀樹
【監修者】All About 社会保険労務士試験ガイド長友秀樹

医療機関の人事・労務はお任せ!元製薬会社MRの社会保険労務士
社会保険労務士。社会保険労務士法人NAGATOMO代表社員。MR、人事コンサルタント、医療業界を熟知した社会保険労務士の経験をいかし、病院・クリニックの規模に合わせた人事制度の構築、人事・労務問題をサポートしている。
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