退職金なしの企業はよくある?メリットや老後資金の対策を解説

退職金は会社を退職するときに支給される手当です。しかし中には、「退職金なし」の会社があるという話を聞いたことがある人もいるかもしれません。退職金が支払われない会社に転職した場合の対策や、隠れたメリットを解説します。

「退職金なし」は違法?

退職金の規定

(出典) photo-ac.com

そもそも退職時に退職金を支払わないというのは、法律面から見て問題はないのでしょうか。退職金なしの企業がどれほどあるのかも気になるところです。まずは企業と退職金との関係について、詳しく説明します。

「退職金なし」は違法ではない

結論としては、「退職金なし」は違法ではありません。退職金は企業にとって、就業規則に定めている福利厚生の1つです。退職金制度を導入するかどうかは各企業の裁量に任されており、法的に義務付けられているわけではありません。

そのため就業規則に記載がなければ、退職時に退職金を支払わなくても違法にはならないのです。また退職金制度を導入している場合でも、支給する従業員の範囲は企業が定めるものとされています。

参考:労働基準法 _ e-Gov法令検索

「退職金なし」の会社は約20%

厚生労働省が実施した「平成30年就労条件総合調査」の結果によると、退職給付(一時金・年金)制度を導入している企業の割合は、全体の80.5%でした。つまり、裏返せば約20%の企業には退職給付制度がないということになります。

調査の結果を詳しく見ると、従業員数が少なくなるほど退職給付制度がない企業は増えています。さらに業種別に見ると、最も退職給付制度の導入率が低いのは、宿泊業や飲食サービス業であることも分かりました。

参考:平成30年就労条件総合調査|厚生労働省

退職金制度があってももらえない理由は?

テーブルの上に置かれたお札

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退職金制度を導入していても、会社を辞める従業員に退職金を支払わない企業もあります。退職金が支給されないケースについて、具体的に見ていきましょう。

勤続年数が短い

企業に勤続していた年数によっては、退職金を受給できないケースがあります。前述の厚生労働省による「就労条件総合調査」によれば、退職金制度がある企業のほぼ半数が、自己都合または会社都合による退職金の支給に必要な勤続年数を「3年以上」と定めています。

1年以上勤務していれば、自己都合による退職であっても退職金を支給する企業は15%ほどありますが、1年未満の勤務の場合には約3%となり、ほとんどの企業で退職金の支給対象になっていません。

退職金の支給条件は企業によって異なるので、勤務先の就業規則を確認しましょう。

参考:退職手当制度がある企業の割合 - 厚生労働省 

雇用形態の違い

契約社員などの非正規雇用の従業員には、退職金が支払われないケースもあります。2020年より「同一労働同一賃金」が導入され、正規雇用と非正規雇用の間の不合理な待遇差を解消しようという動きはあるものの、全面的な格差をすぐになくすのは難しい状況です。

厚生労働省によるガイドラインにも、賃金や賞与などの面で正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の待遇差を禁止していますが、退職金については明記されていません。そのため、雇用形態によって退職金を支払わない企業もまだ数多く残っています。

参考:同一労働同一賃金ガイドライン|厚生労働省

「退職金なし」のメリットは?

退職届を前に考えている女性

(出典) photo-ac.com

「退職金なし」と聞くとデメリットのように思える人も多いでしょう。しかし退職金のない企業には隠れたメリットがあるのをご存じでしょうか。退職金がないことによるメリットを3つ紹介します。

毎月の給与が高くなることも

退職金を支給しない会社の中には、その分を毎月の給与やボーナスに上乗せして支払っているところもあります。多くの企業では退職金の支給対象を勤続3年以上と定めているため、勤務年数が短いとすぐ会社を辞めたくても辞められない人もいるかもしれません。

しかし退職時に受給する分を毎月一定額上乗せしてもらえるのであれば、退職の時期を考える必要がなくなります。自分のタイミングで退職を選択でき、理想のキャリアプランを実現させやすくもなるでしょう。

老後の資金計画が狂いにくい

退職金の支給額は約束されたものではないため、企業の業績悪化などによって減額される場合もあります。住宅ローンの返済などに退職金を充てる予定でいた場合、退職金のカットにより老後の資金計画に大きな狂いが生じるでしょう。

しかし、最初から退職金がない企業であれば、あてにしていた金額がカットされるといった、会社都合による資金計画の狂いに悩まされるおそれがありません。

退職金がなく毎月の給与だけだと分かっていれば、在職時から老後の生活設計を計画的に進められるでしょう。

退職金をもらった後の手続きが不要

退職金も「所得」となるため、支給を受けたら課税対象です。通常は勤務先で源泉徴収されますが、そのためには所定の手続きをしておく必要があります。

退職金は通常の給与などと所得控除額が異なるため、手続きをしておかないと正しい税額が計算されず、必要以上の税金を納めることになります。もちろん後から手続きをすることで還付されますが、そのためには確定申告が必要になります。

退職金がない場合、会社への手続きや確定申告も不要です。

「退職金なし」への対策は?

貯金とライフプランのイメージ

(出典) photo-ac.com

「退職金なし」の企業で勤務する場合、不安なのは老後の資金計画でしょう。老後に安心して生活するための対策を3つ紹介します。

貯蓄で老後の資金を確保する

退職時にまとまった金額を受給できない分、現役時代から老後に必要な資金を地道に積み立てておくことが大切です。

生活費が余ったら貯金するのでは、計画的な貯蓄はできません。老後に必要な資金を試算した上で毎月の貯蓄額を割り出し、先に貯蓄へ回しましょう。

簡単に引き出せないような方法で貯蓄していくのも重要です。近年の金利情勢では利息で増やすことはあまり期待できませんが、コツコツと長期的に貯めていけばしっかり老後資金を残せるでしょう。

個人年金などを利用する

公的年金だけで不安な場合は、個人年金保険や確定拠出年金(iDeCo)などに加入して老後の資金の足しにする方法もあります。

満期になったら一時金として受け取るか、年金形式で受け取るか、一時金・年金形式を併用するか、その時点での必要に応じて選べるのもうれしいポイントです。

積立型年金保険などに加入すると、年末調整の際に最大4万円の所得控除を受けられるというメリットもあります。

他の収入源を作る

現在の給与所得以外に収入源を作るのも1つの方法です。働き方改革が進む中、副業を推奨する企業も出てきています。さまざまな副業によって、毎月の収入額をアップさせている人も増加しました。

株や投資などで増やす方法もありますが、逆に資金を失うというリスクもあります。副業する際も、心身に負担になったり本業に影響が出たりしないように注意しましょう。

退職金が出る会社に転職する

思い切って退職金が出る会社に転職する方法もあります。一般的に退職金は勤続年数に応じて受け取れる金額が変わるので、悩んでいるのであれば早めの転職がおすすめです。

転職先を選ぶ際には退職金の有無だけでなく、仕事内容や社風が自分にマッチしているか、キャリアアップにつながるかなども見極めた上で決めるのがポイントです。転職先を探すには、転職に強い求人サイト「スタンバイ」から探してみるとよいでしょう。

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退職金がない場合は早めの対策を考えよう

通帳を見ている男性

(出典) photo-ac.com

退職金制度の導入は法律で義務付けられていないため、「退職金なし」の企業も少なくありません。退職金がないことによるメリットがある一方、老後の資金確保などに不安を抱く人もいるでしょう。

そのため「退職金なし」の企業で働くには、いざというときに困らないよう対策を考えておくことが必要です。退職金のある企業に転職する場合も含め、早めの対策をおすすめします。

渋田貴正
【監修者】All About 企業経営のサポートガイド渋田貴正

トリプルライセンスの税務・労務・法務ワンストップサービサー。 税理士、司法書士、社会保険労務士。会社設立から、設立後の税務、労務などのサービスを行う。窓口が同じというだけでなく、実際にすべてのプロセスを行う、真のワンストップサービスを提供。
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著書:
はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 '22~'23年版 (2022~2023年版)