退職金の相場は?企業規模別・勤続年数別に紹介

退職金の額は企業や個人によって異なり、人によって大きな違いが出る場合があるため、相場が気になる人もいるでしょう。相場を知ると、退職後の生活設計に役立ちます。
退職金の受け取り方も企業によって異なるため、勤務先がどのような形式を採用しているのか把握することが大切です。
この記事では、企業規模別・勤続年数別・学歴別の退職金の相場や算出方法、退職金制度の仕組みなどを解説しています。退職金にかかる税金の計算方法などもチェックし、退職後の暮らしの参考にしましょう。

この記事のポイント

退職金の相場は?
新卒で入社し定年まで勤めた場合の相場は、大企業が2,000万円前後、中小企業が1,000万円前後です。
退職金の計算方法は?
企業によって採用しているシステムが異なり、退職一時金は勤続年数や成績などに応じて払われます。
退職金に税金はかかる?
退職金にも所得税や住民税などがかかります。勤続年数やどのような退職金制度を採用しているかによって、控除額が変わる点にも注意しましょう。

大企業の退職金の相場

退職金

(出典) pixta.jp

企業の規模により、退職金の差が生まれることが一般的です。大企業は企業規模が小さい企業に比べ、退職金が手厚い場合が少なくありません。

厚生労働省中央労働委員会が公表している「令和5年賃金事情等総合調査」を基に、大企業の退職金の相場を見ていきましょう。

出典:表9 退職事由別1人平均退職金額|厚生労働省中央労働委員会

大企業の退職金は2,000万円前後

「令和5年賃金事情等総合調査」を見ると、大企業の退職金の相場が分かります。

【平均退職金支給額(調査時期は2022年度の決算期間)】

  • 定年退職:1,878万3,000円
  • 会社都合:1,399万9,000円
  • 自己都合:487万5,000円

調査対象企業は資本金5億円以上、労働者1,000人以上の企業(運輸・交通関連業種以外)と運輸・交通関連業種の中から選定しています。

自己都合での退職は定年退職や会社都合に比べ、退職金が1/3程度まで減少します。転職や待遇への不満などがあって退職する場合、想像していたよりも少ない額になるかもしれません。

勤続年数・学歴別の退職金の相場

「令和5年賃金事情等総合調査」を基に、男性定年退職者の平均退職金支給額を学歴・勤続年数別に紹介します。

【勤続25年】

  • 大学卒:2,052万7,000円
  • 短大・高専卒:758万円
  • 高校卒:517万3,000円

【勤続30年】

  • 大学卒:1,612万円
  • 短大・高専卒:1,063万3,000円
  • 高校卒:1,107万9,000円

【勤続35年】

  • 大学卒:1,867万6,000円
  • 短大・高専卒:1,604万1,000円
  • 高校卒:1,319万8,000円

【定年まで】

  • 大学卒:2,139万6,000円
  • 短大・高専卒:2,015万9,000円
  • 高校卒:2,019万9,000円

勤続年数や学歴が高い人ほど、多くの退職金をもらっています。定年まで勤め上げると、学歴による格差がほとんど見られなくなる傾向です。

出典:中央労働委員会:令和5年賃金事情等総合調査

中小企業の退職金の相場

退職金と書かれたブロック

(出典) pixta.jp

どのような企業を中小企業とするかは法律や制度によって異なり、業種によっても定義が違う点に注意が必要です。

中小企業基本法では資本金が3億円以下、常時使用する従業員が300人以下(※製造業、建設業、運輸業その他の業種)を中小企業政策における対象の範囲と定めています。

東京都産業労働局が調査している「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」を基に、退職金の相場を見ていきましょう。

出典:中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)<図表8-1>モデル退職金|東京都産業労働局

中小企業の退職金は1,000万円前後

東京都産業労働局が調査した「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」によると、都内の中小企業に勤務する人が定年まで勤め上げたときのモデル退職金は、以下の通りです。

  • 大学卒:1,149万5,000円
  • 短大・高専卒:992万円
  • 高校卒:974万1,000円

モデル退職金とは、新卒で入社した人が標準的な能力で勤務した際の退職金の水準を指します。大企業と同様に学歴が高い人ほど、多くの退職金を得ています。

勤続年数・学歴別の退職金の相場

東京都産業労働局が公表している「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」によると、中小企業の勤続年数・学歴別の退職金の相場は以下の通りです。

【自己都合退職(勤続年数25年)】

  • 大学卒:507万3,000円
  • 短大・高専卒:437万3,000円
  • 高校卒:434万2,000円

【自己都合退職(勤続年数30年)】

  • 大学卒:750万7,000円
  • 短大・高専卒:582万2,000円
  • 高校卒:575万7,000円

【会社都合退職(勤続年数25年)】

  • 大学卒:615万6,000円
  • 短大・高専卒:509万9,000円
  • 高校卒:510万円

【会社都合退職(勤続年数30年)】

  • 大学卒:776万2,000円
  • 短大・高専卒:663万5,000円
  • 高校卒:657万円

自己都合で早期に退職した人ほど、退職金の額が減っていることが分かります。また、短大・高専卒と高校卒を比較すると、退職理由と勤続年数どちらの項目でもそれほど大きな差が見られません。

退職金の金額はどのように決まる?

退職のイメージ

(出典) pixta.jp

退職金の金額は企業によって異なるため、どのように決定しているのか疑問に思う人もいるでしょう。

同じ企業規模であっても、採用しているシステムの違いによって、退職金の額に差が生まれる場合もあります。退職金の調べ方や、主な算出方法を見ていきましょう。

制度の内容は企業によって異なる

退職金制度は法律によって定められているわけではなく、企業が独自に導入している制度です。中には、退職金制度を設けていない企業もあります。

どのような算出方法を選択するかも、企業の判断に委ねられています。入社後何年で退職金が発生するかといった条件も、企業によって異なるため注意が必要です。

また、退職金は企業の業績などに左右される点にも注意しましょう。企業は賃金や退職金などの変更をする際、一方的に従業員の不利益となる内容への変更はできません。

しかし、減額に関する合理性があり、労働者との間で十分な説明と交渉がされていると認められた場合は、退職金の減額がされることもあります。

出典:企業内退職金制度の廃止による打切支給の退職手当等として支払われる給与(企業の財務状況の悪化等により廃止する場合)|国税庁

就業規則や給与明細を確認

退職金がある企業では、就業規則に詳細を記載する決まりです。退職金の制度内容や計算方法などは、退職金の項目を見れば確認できます。

入社時に退職金に関する取り決めを交わした場合であっても、企業の経営状況や社会情勢などによって内容が変更されるケースもあるため、就業規則を確認することが大切です。

また、企業年金のように従業員負担がある退職金制度を導入している場合は、給与明細に記載があります。企業年金は毎月、掛け金を積み立てて運用する方法です。

例えば、「確定給付掛金」や「退職金掛金」のような項目がある場合、企業年金の形式を採用しています。不明点がある場合は、人事や総務などに問い合わせてみましょう。

主な計算方法

退職金の計算方法は主に、定額制や基本給連動型などがあります。それぞれの特徴を見てみましょう。

  • 定額制:従業員の成績や基本給に関係なく、勤続年数に応じた金額が支給される
  • 基本給連動型:従業員の基本給や勤続年数を基に計算する方法
  • ポイント制:退職時の役職や基本給、勤続年数、退職理由などの項目ごとにポイントを設け、累計ポイントを基に計算する
  • 成果報酬型:個人の実績や能力に応じて企業が積み立てる掛金を変える

上記は一例であり、複数の計算方法を混合している場合や、独自の方法を採用している場合もあります。長く勤めているからといって、必ず多くの退職金を得られるとは限りません。

成果報酬型の場合、目立った実績があれば短期間の勤務でも高額の退職金を得られるケースもあるでしょう。

退職金共済制度を利用している場合も

企業によっては退職金共済制度に加入し、退職金の支払いを公共の事務や事業を担う法人に任せている場合があります。

自社で退職金の管理をする必要がないため、限られたリソースを有効に使える点がメリットです。

退職金共済制度には特定の業種向けや中小企業向けなどがあり、一般の中小企業退職金共済制度では、掛金月額・納付月数・運用収入によって計算されます。

事業主が退職金共済事業本部と契約を結び、毎月の掛金を金融機関に納める仕組みです。退職時に従業員が請求を行い、退職金を得る流れになっています。

退職金の制度によって受け取り方が異なる

通帳とスマホを見る女性

(出典) pixta.jp

どのような退職金制度を採用しているかは企業によって異なり、制度によって受け取り方も変わります。退職時に、一括でもらえるケースばかりではない点に注意しましょう。退職金制度の仕組みについて紹介します。

退職一時金制度

退職一時金制度は、退職時にまとまった金額を支給する方法です。金額は企業が設定した計算方法に応じて決定します。

退職後に再就職しない場合、退職一時金制度は生活の支えとなってくれるでしょう。退職後に一括で受け取れる利点を生かし、運用に回して老後の資産を増やそうとする人もいます。

また、退職一時金には退職所得控除が適用され、勤続年数が長いほど税金の負担が抑えられます。

企業年金制度

企業年金制度は、退職金を分割して受け取る方法です。企業が運用する確定給付企業年金制度と、個人が運用する企業型確定拠出年金制度があります。両者は以下のような違いがあります。

  • 確定給付企業年金制度:掛金とその運用益との合計額により、将来の給付額が決まる
  • 企業型確定拠出年金制度:企業が掛金を積み立てるが、加入している個人が運用方法を決める

いずれも年金として受け取るため、60歳未満で退職した場合、支給されるまでに時間がかかります。掛金を運用することから、一時金に比べて総額が大きくなる傾向があり、うまくいけば老後の資金を充実させられるでしょう。

受け取りの際は公的年金等控除が適用されます。分割して受け取る分、控除される額が少なくなるところがデメリットです。

退職一時金制度と企業年金制度の併用

企業によっては、退職一時金制度と企業年金制度を併用するところもあります。併用すると退職時にまとまったお金を受け取りながら、年金の額も上乗せされるので、余裕のある生活ができるでしょう。

一時金の部分は退職所得控除が適用され、年金部分には公的年金等控除が適用されます。メリットが大きいように感じられる方法ですが、全てを一時金で受け取る場合に比べると控除額が少なくなります。

また、全てを企業年金で受け取る場合に比べ、受け取り総額が減るケースがある点にも注意が必要です。

前払い制度

退職金の前払い制度は、本来は退職金として支払われる分を毎月の給与やボーナスに上乗せする方法です。老後の生活よりも、現役時代の資金を充実させたい場合に向いています。

ただし、余剰分を貯蓄に回したり、自身で運用して増やしたりといった工夫をしないと、老後の資金が足りなくなる恐れがあるでしょう。

また、在職中に支払われるので、税制上の優遇がされづらい点がデメリットです。前払い制度を取り入れている企業は、全体の数%とされています。

前払い制度に魅力を感じても、採用している会社が少なく活用しづらい点もデメリットだといえます。

退職金のよくある疑問を解消

考え事をする男女

(出典) pixta.jp

入社したばかりの頃は退職金のことを意識せずに働いている人が大半ですが、受け取るタイミングが近付くにつれ、さまざまな疑問が湧いてくることは珍しくありません。

また、退職金がない企業に勤める際、不安を感じる人もいるでしょう。退職金にかかる税金や、退職金がない企業に勤めている場合の対処法などを紹介します。

退職金にかかる税金はいくら?

退職金にも所得税・住民税・復興特別所得税がかかります。通常は源泉徴収されるので、会社で手続きすれば確定申告の必要はありません。

退職金は他の所得とは別に計算され、退職金の額や勤続年数に応じて退職所得控除額が変わります。

【勤続年数20年以下の控除額の計算方法】

  • 40万円×勤続年数

【勤続年数20年超の控除額の計算方法】

  • 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

企業年金は雑所得として計算され、所得が一定以下の場合は非課税になります。

出典:退職金と税|国税庁

退職金がない場合どうすればいい?

退職金制度がない企業に勤めている人は、他の方法で老後の資金を準備しなければなりません。例えば、定期預金や投資信託などの方法があります。

NISAを活用すると、一定額まで非課税で利益を受け取れます。普通に投資をして利益が出た場合に比べ、手元に残るお金を増やせるでしょう。

また、iDeCo(個人型確定拠出年金)を活用する方法もあります。こちらは掛金と運用益が非課税になり、税制上のメリットが大きい方法です。

ただし、NISAやiDeCoは自分で金融商品を選んで運用する必要があるので、思ったような成果を得られないリスクもあります。

出典:「NISA」って何?わかりやすく解説 | 政府広報オンライン
出典:iDeCoの特徴|iDeCoってなに?|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】

退職金の有無や相場を確認しよう

退職金規定

(出典) pixta.jp

退職金の相場や受け取り方、算出方法などは企業によって異なるため、正確な情報を得るには勤務先の就業規則を確認することが大切です。一般的には勤続年数や学歴、成績などに左右されます。

どのような形式を採用しているかによって、受け取り方が変わってくる点にも注意しましょう。企業年金の場合、退職一時金とは違い退職時にまとまった金額を受け取れません。

退職金は定年後の生活を支えるために重要な役割を持っています。資金に余裕があれば、再雇用や定年後の再就職が難しい場合も、慌てずに済みます。

退職金にかかる税金についても知識を深め、退職後の生活設計をしましょう。