退職後の健康保険はどうする?3つの加入方法と任意継続制度の注意点

会社を退職した後、健康保険に加入するにはどうすればよいのでしょうか?退職後に利用できる任意継続制度の注意点や、国民健康保険の特徴などを解説します。退職してから健康保険に加入する3つの方法をチェックし、退職後の不安を和らげましょう。

退職後は健康保険に加入しなくてもよい?

健康保険証

(出典) photo-ac.com

勤務先で健康保険に加入している人は、毎月の給与から保険料が天引きされています。それでは、会社を退職した場合、そのまま同じ健康保険に入っていられるのでしょうか?それとも退職後は何も健康保険に加入しなくてもよいのでしょうか?

退職後の健康保険について確認しましょう。

退職後も公的医療保険への加入が必要

結論としては、退職後にも国民健康保険をはじめとする公的医療保険への加入が必要です。日本では国民皆保険制度が敷かれており、何かしらの公的医療保険に加入する義務が日本国民にはあるからです。

75歳までの国民が加入できる公的医療保険の種類は、会社員や公務員などが加入できる健康保険と、主に自営業の人が入る国民健康保険の2種類です。

会社を退職した日の翌日に、加入していた健康保険の資格は喪失します。資格が喪失すると公的医療保険に未加入と見なされ、医療費は全額自己負担になるので注意しましょう。

さかのぼって保険料を請求される場合も

退職後、公的医療保険への加入手続きを忘れてしまうケースもあるでしょう。基本的には切り替えの手続きが必要ですが、何も手続きをしないでいても退職日翌日から自動的に国民健康保険の保険料が発生する仕組みです。

そのため、自分は何も健康保険に加入していないと思っていても、退職日翌日からの未払い保険料を請求されるので注意しましょう。

国民健康保険に入ると、自治体から健康保険料の額が記載された納付書が送られてきます。期限内に国民健康保険料を支払わないでいると督促の対象になり、最終的には財産の差し押さえに至る可能性もあるのです。

なお、国民健康保険料ではなく国民健康保険税としている自治体がある理由は、税金とすることで時効期間が2年から5年に延びるからと考えられます。表現が違うだけで、どちらも健康保険料を指している点を覚えておきましょう。

退職してから健康保険に入る方法

健康保険の申請書

(出典) photo-ac.com

退職後に公的医療保険へと加入する方法には、大きく分けて3つあります。それぞれの方法を確認して、なるべく負担額の少ない加入方法を選びましょう。

健康保険の任意継続制度を利用

「任意継続制度」を利用すると、会社を退職してからも引き続き元勤務先の健康保険に加入できます。任意継続制度は退職以外に、労働時間の短縮で健康保険の加入資格を失った場合にも使える制度です。

資格喪失日とされる退職日の翌日までに、健康保険の加入期間が継続して2カ月以上ある人が対象です。

資格喪失日から20日以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出して審査に通ると、退職前に使用していた健康保険証を引き続き使えます。なお、郵送で手続きを行う場合には、資格喪失日から20日以内に書類が到着するのが条件です。

参考:任意継続の加入条件について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会

家族の健康保険の扶養に入る

配偶者や親などの家族が加入している健康保険の扶養に入る方法もあります。ただし失業保険の基本手当を含めた退職後の年収が130万円を超えると、扶養に入れない場合があるので要注意です。

扶養に入るための条件は、家族が加入している健康保険組合によって異なります。健康保険組合の扶養条件について、事前に確認するのをおすすめします。

ただし、家族が国民健康保険に入っている場合は例外です。国民健康保険には扶養制度がないため、自分で公的医療保険に加入する必要があります。

国民健康保険に切り替える方法も

退職後には会社の健康保険を利用せず、国民健康保険に切り替えるのも1つの方法です。国民健康保険は市区町村が運営する公的医療保険のため、保険料は住んでいる市区町村によって異なります。

国民健康保険に加入するためには、住んでいる地域の役場にある健康保険窓口での手続きが必要です。手続きをする際には、以下のようなものを提出します。

  • 健康保険資格喪失証明書や扶養削除証明書
  • 本人確認書類(運転免許証・パスポート・マイナンバーカードなど)
  • マイナンバーが確認できるもの
  • 保険料を引き落とす口座の通帳・キャッシュカード
  • 金融機関の届出印

マイナンバーが確認できるものとして、マイナンバーカード・マイナンバー通知カードなどが該当します。世帯主をはじめとする、国民健康保険に加入する全員分が必要です。

任意継続制度と国民健康保険の特徴

健康保険者証

(出典) photo-ac.com

退職後に任意継続制度により健康保険を継続するのと、自治体が運営する国民健康保険に切り替えるのは、どちらがお得なのでしょうか?任意継続制度と国民健康保険、それぞれの特徴について解説します。

任意継続制度では扶養家族の保険料はなし

任意継続制度には扶養制度があり、扶養している家族の保険料はかかりません。そのため、自分以外に扶養家族がいる場合には、任意継続制度を利用するのがおすすめです。

家族を扶養している人の場合、退職に伴い、本人だけでなく家族の保険資格も同じく失効します。国民健康保険には扶養制度がないため、家族も国民健康保険に加入する必要があり、それぞれ保険料が発生します。

扶養が必要な家族がいる人にとっては、任意継続制度を使った方が保険料を安く抑えられるケースが多いでしょう。

国民健康保険の保険料は前年の所得で決まる

国民健康保険の保険料は、前年の所得に応じて決まります。退職前の所得が高い人は国民健康保険料も高額になるため、経済的な負担が増えるのも事実です。

一方、任意継続制度では、保険料は退職時点の標準報酬月額に基づいて計算されます。任意継続制度を利用する間の保険料は原則的に変わらないため、退職後の収入に左右されないのが特徴です。

退職後の所得が大幅に減る場合には、しばらく任意継続制度を使い、状況を見て他の選択肢に切り換えることも可能です。

参考:国民健康保険料は6月に計算されます|杉並区公式ホームページ

任意継続制度を利用する際の注意点

バインダーの資料に記入する男性

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前年の所得額によっては国民健康保険の保険料が高額になるため、任意継続制度の利用を検討している人は多いのではないでしょうか?退職前の健康保険に引き続き加入できる任意継続制度には、退職後に気を付けたい注意点があります。

保険料は退職前の2倍ほどになる

任意継続制度を利用する際の注意点は、退職後に負担する保険料額が在職中と比べて2倍ほどに増える点です。

会社が保険料の半分を負担する「労使折半」が退職後にはなくなるため、保険料の全額を自分で払わなければなりません。

国民健康保険と任意継続制度の保険料を比べる際には、退職する前に負担していた保険料の倍額を目安にしましょう。在職中に支払っていた保険料額については、給与明細で確認できます。

参考:保険料について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会

保険料の滞納で資格を喪失、再加入は不可能

任意継続制度の利用に当たり、保険料を滞納しないように注意しましょう。保険料を滞納した時点で資格を喪失し、再加入は認められません。

資格を喪失すると、保険証が使用できなくなる点も覚えておきましょう。手違いがあって資格喪失後に医療機関を3割負担で受診すると、残りの7割に当たる医療費の保険負担分を全額返納する必要があります。

任意継続制度を利用する場合には、保険料をまとめて支払う前納制度や口座振替などを上手に活用し、保険料の払い忘れを防ぐのもおすすめです。

参考:資格の喪失について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会

加入できるのは2年間

退職日の翌日から、任意継続制度を使って健康保険の資格を取得できます。ただし、任意継続制度で、退職前の健康保険に加入できるのは最長で2年間です。2年が経過すると資格を喪失するので、別の公的医療保険への加入手続きを行いましょう。

任意継続制度を開始してから2年が経過したからといって、報告や手続きは必要ありません。「任意継続被保険者資格喪失通知書」が送られてきたら、保険証を返却するだけです。

参考:加入期間について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会

退職後の健康保険選びは慎重に

バインダーに記入する

(出典) photo-ac.com

健康保険をはじめとする公的医療保険に加入するのは国民の義務なので、退職後にも何らかの健康保険に入る必要があります。

退職後、家族が加入している健康保険の扶養に入れるのであれば、保険料の負担はありません。しかし失業保険の給付額によっては、扶養に入れない場合もあるので注意しましょう。

任意継続制度を使って退職前の健康保険への加入を継続したり、自治体が運営する国民健康保険に入ったりする方法もあります。任意継続制度では会社の保険料負担がなくなるため、退職前の約2倍の保険料を支払わなければなりません。

国民健康保険の保険料は前年の所得に応じて決まるので、前年の所得が多い人は保険料が高額になる可能性があります。退職後はもちろん、退職前の所得や家族の状況なども考慮し、加入方法を慎重に選びましょう。

本田和盛
【監修者】All About 企業の人材採用ガイド本田和盛

あした葉経営労務研究所代表。特定社会保険労務士。法政大学大学院経営学研究科修了(MBA)、同政策創造研究科博士課程満期修了。人事・労務・採用に関するコンサルティングに一貫して従事。マネジメント向けの研修やeラーニングの監修も行う。
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著書:
厳選100項目で押さえる 管理職の基本と原則 精選100項目で押さえる 管理職の理論と実践