求人票の月給や年収額を参考にして、生活プランを考える人は多いのではないでしょうか?給与は額面と手取りで金額が異なるため、意味や違いを理解しておくのが大切です。額面の意味や手取りとの違い、年収をチェックする際の注意点を解説します。
「額面」は会社から支払われるお金の総額
額面とは、会社から支払われるお金の総額を指す言葉です。まずは、額面がいくらなのかを確認する方法や、基本給以外で額面に含まれる費用などを見ていきましょう。
給与明細の「総支給金額」に記載
実際に自分がもらっている額面を知りたい人も多いでしょう。給与明細で額面をチェックする際には「総支給金額」の項目を確認します。
給与明細を見ると、額面給与と手取り給与の両方が記載されているのが通常です。額面は会社が支払うお金の総額を意味するため、給与明細では総支給金額の項目に書かれています。
転職活動で目にする求人票や募集要項などに記載されている賃金や給与は、主に額面給与を指している点も覚えておきましょう。
残業代や交通費などが含まれている場合も
給与明細に記載されている額面給与には、基本給以外に残業代・交通費・役職手当・住居手当などの各種手当が含まれています。
一方、求人票に記載されている月収・年収などの額面給与に含まれている各種手当は、会社によって異なります。
残業代・交通費・住居費などの目安を含めている場合、状況によっては実際の額面給与額が大幅に下がる可能性があるでしょう。
実際にもらえる給与は、求人票に記載されている額面給与の金額よりも低くなることを理解しておくのが大切です。
実際に受け取れるのは「手取り額」
実際に受け取れる金額は、額面ではなく手取り額です。額面と手取り額の違いや、給与明細で手取り額を確認する方法などを紹介します。
額面から税金・保険料などを引いた額
給与として振り込まれるのは、額面から所得税・住民税・社会保険料などを引いた額です。所得税や住民税は、収入の額によって税額が異なります。
額面から天引きされる社会保険料は、以下の4つです。
- 健康保険
- 介護保険(40歳以上)
- 厚生年金保険
- 雇用保険
「国民皆保険制度」により、日本国民には健康保険をはじめとする公的医療保険への加入が義務付けられています。また、40歳以上65歳未満の人は、介護保険も加わります。
厚生年金保険は、会社員や公務員などが国民年金とともに加入する公的年金です。会社員の場合は健康保険・介護保険・厚生年金保険を会社と従業員で折半するため、実際に負担するのは1/2の金額です。
雇用保険に加入していて条件を満たすと、失業や出産、育児などの際に給付が受けられます。雇用保険は額面に応じて決まり、業種によって保険料率が異なります。
手取り額の目安は額面の75~85%ほど
額面と手取り額は違うため、額面の金額を生活費の目安にするのは避けましょう。額面から税金や保険料などを天引きした手取り額は、年収や家族構成、年齢によっても異なります。
そのため手取り額を一律に示すのは難しく、額面のおよそ75~85%だと考えられています。例えば額面の年収が500万円の場合における手取り額の目安は、375~425万円ほどです。
額面と比較すると75~125万円ほど低いため、額面をベースに生活設計を立てると生活費が足りなくなる可能性があります。
給与明細の「差引支給額」をチェック
額面ではなく、手取り額を知りたいときには、給与明細に記載されている「差引支給額」の項目を確認しましょう。
差引支給額には、額面から税金・各種保険料などを除いた手取り額が記載されています。また、額面から差し引かれた金額は、給与明細の「控除額合計」で確認が可能です。
なお、税金・各種保険料以外に、組合活動費や積立金などが毎月の給与から天引きされる会社もあります。面接の際に、額面給与から差し引かれる費用について確認しておくと安心でしょう。
求人票の「年収」を見る際の注意点
求人票に記載されている「年収」は、基本的に諸手当が含まれた額面の金額が書かれています。転職後に「思ったよりも給与が少なかった…」とガッカリしないためにも、求人票の年収を見る際の注意点をチェックしましょう。
年収は手取り額ではなく額面をもとに計算
年収は1年間に会社から受け取る総支給額を表し、額面の1年分に相当します。また、求人票に記載されている年収は、手取り額ではなく毎月の額面に基づいて計算されています。
額面から天引きされる所得税・住民税や保険料などは、家族構成や本人の年齢などによって個人差があります。
そのため一般に公開する求人票では、個人差が反映される前の額面をもとにして年収を計算しているのです。
「想定年収」はボーナスを含んだ理想の金額
求人票で見かける「想定年収」には、ボーナスの金額が含まれている場合があります。
例えば求人票に「年2回、50万円ずつのボーナスあり」と記載している企業の想定年収が500万円の場合、毎月の給与は500万円÷12カ月の約41万円ではなく、ボーナスを引いた400万円÷12カ月の約33万円と約8万円も少なくなります。
また注意したいのは、企業にはボーナスを支払う義務はないという点です。景気の動向などの影響でボーナスがカットされると、年収は100万円下がります。
想定年収が高い企業であっても、そこに含まれているボーナスの額によっては、年収が大幅に減る可能性があるでしょう。
既存社員の「モデル年収」は参考程度に
人材を募集している企業の中には、既存社員のモデル年収を公開しているケースもあります。しかし、求人票で紹介されているモデル年収は、企業内でも特に優秀な社員(給与が高い社員)を取り上げる傾向があるので注意が必要です。
企業がモデル年収を公開するのは、「なるべく優秀な人材を集めたい」という採用側の意図によるものと考えられます。
求人を見た人に入社を希望してもらうために、企業の中でも年収の高い社員をモデルケースとして紹介するわけです。求人で公開されているモデル年収は、参考にする程度にとどめておきましょう。
転職活動で「額面」を使うタイミング
転職活動においては、手取り額ではなく額面を使った方がよい場面が多々あります。額面を使うタイミングを知り、転職活動に生かしましょう。
希望する給与額を伝えるとき
応募した会社の面接で「どれぐらいの給与額を希望しますか?」と質問された場合には、額面で答える方がよいでしょう。採用担当者の考える給与は、会社が支払う金額の総額である額面を指しているからです。
300万円の手取り額を希望している人が給与額の希望を300万円と伝えてしまうと、採用担当者の多くは、額面300万円が希望だと判断します。
当然ながら手元に入る金額は300万円よりも少なくなるため、希望する給与額は手取り額ではなく額面で伝えるのが大切です。
なお、採用側が希望年収を確認するのは、会社が定めている予算とのミスマッチを防ぐ目的があります。そのため希望の年収額を伝える際には、応募企業が提示している年収額の範囲で答えるという点も、採用につなげるポイントです。
現職・前職の年収を答えるとき
現職・前職の年収を答える場合にも、手取り額ではなく額面を使いましょう。採用面接で現職・前職の年収を質問された際には、正直に答えるのが大切です。
面接で現在の年収を質問されてもあわてないように、転職活動に当たり会社から支給される源泉徴収票で年収額を確認しておくのをおすすめします。
源泉徴収票に記載されている「支払金額」が、その年の年収です。源泉徴収票が手元にない場合には、毎月の給与明細にある「総支給金額」の1~12月分を合計してもよいでしょう。
転職活動の前に額面をチェックしよう
額面は企業が支払うお金の総額を表しているため、手取り額ではありません。額面は給与明細の「総支給金額」で、手取り額は「差引支給額」で確認できます。
求人票に記載されている年収は、個人差の出る税金や保険料を差し引く前の額面をもとに計算しています。ボーナス額が含まれた想定年収や、収入の高い社員のモデル年収をうのみにせず、1つの目安として参考にするのがよいでしょう。
転職活動中に希望年収や現在・前職の年収を伝える際には、額面を使うのが原則です。額面は源泉徴収票の支払金額や、1~12月分の給与明細に記載されている総支給金額を合計すると分かります。
転職活動の前に、自分の額面をチェックして入社後のギャップを軽減させましょう。
あした葉経営労務研究所代表。特定社会保険労務士。法政大学大学院経営学研究科修了(MBA)、同政策創造研究科博士課程満期修了。人事・労務・採用に関するコンサルティングに一貫して従事。マネジメント向けの研修やeラーニングの監修も行う。
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