退職金共済はいくらもらえる?制度の概要や目安額の確認方法を紹介

中退共加入会社を辞めて転職するつもりなら、退職金をいくらもらえるのか知っておきましょう。転職先によっては、加入期間を引き継げることもポイントです。退職金共済でもらえる目安額や、制度の概要について解説します。

そもそも中小企業退職金共済制度とは?

退職金に関する規定

(出典) photo-ac.com

中小企業退職金共済制度(中退共)とは、どのような制度なのでしょうか?まずは、制度の概要について解説します。

国がサポートする中小企業向け退職金制度

中退共は、単独で退職金制度を持つことが困難な中小企業に向けた、国による退職金制度です。1959年に制定された、中小企業退職金共済法にもとづいて設けられています。

従業員ごとに決められた掛金を毎月納付し、従業員の退職時に退職金が支払われる仕組みです。掛金は全額会社負担となっていますが、中退共を利用すれば会社側にもさまざまなメリットがあります。

中退共を利用している会社の従業員は、全員加入が原則です。ただし、期間を定めて雇用される従業員や短期間労働者は、会社が中退共に加入させなくてもよいことになっています。

条件を満たせば退職金の分割受け取りが可能

中退共の退職金は、全額が一時金で支払われるのが基本です。ただし、条件を満たせば全額分割払いと併用払い(一部分割払い)も選択できます。

退職金を分割で受け取るためには、退職日に60歳以上でなければなりません。全額を5年間で分割する場合は退職金の金額が80万円以上、10年間の場合は150万円以上であることも条件です。

併用払いを選択したい場合は、以下の条件を満たす必要があります。

【5年間の分割】

  • 退職金の全額が100万円以上
  • 分割払いの対象額が80万円以上
  • 一時金払いの対象額が20万円以上

【10年間の分割】

  • 退職金の全額が170万円以上
  • 分割払いの対象額が150万円以上
  • 一時金払いの対象額が20万円以上

中小企業退職金共済制度はいくらもらえる?

退職金

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中退共の退職金の金額は、掛金と勤続年数により異なります。退職金の金額が決まる仕組みを理解した上で、主な掛金ごとの目安額もチェックしておきましょう。

基本退職金と付加退職金の2本建て

中退共の退職金は、基本退職金と付加退職金の2本建てであり、両方の合計が受け取る金額となります。

基本退職金とは、法律により決められた金額のことで、掛金月額と納付月数に応じて支払われます。予定運用利回りを1%とした金額が設定されているのが特徴です。

運用利回りが、予定運用利回りを上回った場合に支払われるのが付加退職金です。付加退職金は運用状況に左右されるため、支給されない年もあります。

2021年度には3年ぶりに付加退職金が支給されましたが、2022年度は支給されませんでした。

金額は掛金と勤続年数による

中退共の退職金の掛金は、5,000~3万円の範囲内で16種類用意されています。掛金の金額は、会社が従業員ごとに任意に選択することが可能です。

退職金の金額は、掛金と勤続年数により異なります。勤続年数と掛金総額の関係は、以下の通りです。

  • 1~11カ月:退職金なし
  • 12~23カ月:掛金総額を下回る
  • 24~42カ月:掛金総額と同額
  • 43カ月以上:掛金総額を上回る

長期加入者の退職金を手厚くするため、勤続年数が長いほど金額も多くなります。加入期間が11カ月以下の場合、退職金は支給されません。

退職金の目安額をシミュレーション

中退共に加入している企業の大半は、5,000~1万円の範囲内で掛金の金額を設定しています。掛金5,000円と1万円の基本退職金を、勤続年数ごとに見ていきましょう。

【掛金5,000円】

  • 5年:30万4,100円
  • 10年:63万2,800円
  • 20年:133万3,300円
  • 30年:210万6,550円
  • 40年:295万8,950円

【掛金1万円】

  • 5年:60万8,200円
  • 10年:126万5,600円
  • 20年:266万6,600円
  • 30年:421万3,100円
  • 40年:591万7,900円

参考:基本退職金額表 | 中退共

自分の掛金を確認する方法

中退共の退職金は、掛金の金額で大きく変わります。そもそも自分の掛金が分からなければ、いくらもらえるのかを概算できないため、掛金を確認することが重要です。

会社の就業規則に退職金規定の記載があれば、掛金の決め方を確かめられるでしょう。賃金・勤続年数・役職を基準にするケースや定額のケースなど、掛金の決め方は会社により異なります。

ただし、会社には退職金規定を定める法的な義務がないため、就業規則に規定がない会社もあります。自分の掛金が就業規則で分からない場合は、会社に直接聞いてみましょう。

中小企業退職金共済制度の手続きについて

バインダーの資料に書き込む手元

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中退共の退職金を受け取るための手続きについて解説します。転職時には、納付期間を引き継げることも覚えておきましょう。

退職金を受け取るための手順

中退共に加入している会社を退職すると、会社から「退職金共済手帳」が渡されます。退職金共済手帳の3枚目「退職金(解約手当金)請求書」を記入・押印し、中退共の本部へ送付します。

退職金(解約手当金)請求書を送付する際は、マイナンバー入りの住民票や、運転免許証・パスポートなどの身元確認書類の添付が必要です。遺族が請求する場合は、戸籍謄本などの提出も求められます。

退職金が支払われるタイミングは、請求書が受け付けられてから約4週間後です。会社の掛金の納付方法によっては、2カ月半程度かかることもあります。なお、退職金の請求期限は退職日から5年間です。

転職時は納付期間を引き継げる

中退共に加入している会社から、退職金共済制度加入会社に転職する場合、一定の条件を満たせば前の会社での納付期間を転職先へ引き継ぐことが可能です。

例えば、中退共加入会社間で転職する場合、掛金を1年以上納付していれば納付期間を通算できます。会社都合退職の場合は、納付期間が1年未満でも通算を認められるケースがあります。

会社を辞めたときに退職金をもらうことも可能ですが、加入期間が長いほど金額が増えるため、迷う場合は継続がおすすめです。一般的に、引き継ぎの手続きは転職先の会社で行ってもらえます。

中小企業退職金共済制度以外の退職金共済

バインダーの資料を説明する男性

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最後に、中退共以外の退職金共済制度を紹介します。いずれも一定の条件を満たせば、中退共との間で納付期間の引き継ぎが可能な制度です。

特定退職金共済制度

特定退職金共済制度は、特定退職金共済団体が主体となって実施する社外積立型共済制度です。特定退職金共済団体とは、所得税法施行令第73条の要件を満たす商工会議所・一般社団法人などを指します。

掛金の最低金額が中退共より低い1,000円に設定されており、3万円までの範囲内で金額を細かく決められます。1年未満の納付期間で、退職金の支給を受けられることも特徴です。

加入資格制限もないため、会社にとって加入のハードルは低めですが、掛金と同額の退職金を受け取れるまでの期間は中退共より長くなります。掛金の下限額が低い特徴を生かし、中退共と併用している企業も多いようです。

参考:所得税法施行令 第七十三条 | e-Gov法令検索

特定業種退職金共済制度

建設業・清酒製造業・林業のための退職金制度が、特定業種退職金共済制度です。業界ごとに、建退共・清退共・林退共と呼ばれます。

会社ではなく、業界を離れたときに退職金を受け取れることが特徴です。それぞれの業界の企業で期間雇用者として働く人が、退職金を受ける対象者になります。

特定退職金共済制度と異なり、中退共との重複加入はできません。ただし、一定の条件を満たせば中退共との間で納付期間を通算できます。

退職金共済でもらえる目安額を把握しよう

規定を指さす女性

(出典) photo-ac.com

中退共でもらえる退職金の金額は、掛金と勤続年数により大きく変わります。退職金の目安額を知るためには、自分の掛金を確認しなければなりません。

また、勤続年数が長いほど退職金が手厚くなる点もポイントです。納付期間は転職先へ引き継げるため、転職する際に退職金をもらうかどうか迷ったら、将来のために中退共の加入を継続するのがおすすめです。

鬼沢健士
【監修者】All About 暮らしの法律ガイド鬼沢健士

慶應義塾大学卒業。平成24年、茨城県取手市「じょうばん法律事務所」を開設。主に労働者側の労働事件(不当解雇など)や、インターネット詐欺被害救済(サクラサイト、支援金詐欺など)を取り扱う。
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