退職後に無職なら確定申告が必要?条件や申告のポイントを解説

会社に勤めていない人が一定の収入を得た場合、自分で確定申告をして納税する義務があります。では、会社を辞めて無職になった後にも、確定申告が必要なのでしょうか?退職後に確定申告が必要になる条件にとともに、申告で注意したいポイントを解説します。

退職後に無職なら確定申告をする?

退職届と就業規則

(出典) photo-ac.com

会社を退職して無職になった場合、確定申告が必要なのかどうかは気になるところです。確定申告が必要か判断するための、最初のチェックポイントを解説します。

年末時点で無職なら必要

会社に勤めていて一定以上の給与が支払われていれば、毎月の給与から所得税が源泉徴収(天引き)されます。

ただ、源泉徴収されているのは、年間所得の見込み額から計算されたおおよその金額に過ぎません。12月に会社が年末調整をして、正確な所得税の金額を計算した上で過不足を調整してくれる仕組みです。

しかし年末を待たずに会社を辞めて無職になり、退職した年の12月31日までに再就職しなかった場合は、年末調整を受けられません。源泉徴収を通して納めた所得税の金額が、正確な納税額に調整されていない状態です。

そのままでは、年間所得の見込み額から計算された所得税額を暫定的に納めていることになります。

年の途中で会社を辞めた場合、年間所得の見込み額よりも実際の所得の方が少ないケースが大半でしょう。つまり確定申告をしなければ、所得税を納めすぎたままになるのです。

基本的には年末時点で無職の場合は、払いすぎた分の所得税を還付してもらうため、確定申告が必要になると考えましょう。

参考:No.1910 中途退職で年末調整を受けていないとき|国税庁

年内に再就職しても確定申告が必要なケース

確定申告書類に記入する

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確定申告が必要かどうかは、12月31日に無職か会社に勤めているかで判定されるのが基本です。しかし、退職してから年内に再就職しても、確定申告が必要な場合があります。具体的には、どのような場合が当てはまるのでしょうか?

前職の源泉徴収票が間に合わなかった

退職した年のうちに再就職できれば、再就職先の会社で年末調整をしてもらえるため、自分で確定申告をしなくても正確な金額の所得税を納められます。

ただ、再就職先の会社で年末調整をしてもらうには、前職の会社から受け取った源泉徴収票の提出が必要です。源泉徴収票がないと前職での源泉徴収額が分からないため、いくら納税額を調整すればよいか、転職先では計算のしようがありません。

前職の源泉徴収票を年末調整のタイミングまでにもらえず、再就職先の会社に提出できない場合は、自分で確定申告するほかありません。

源泉徴収票は給与の支払いが完了してから発行されるため、11月または12月に退職した場合は間に合わない可能性が出てくるでしょう。

年内に再就職先から給与の支払いがなかった

年内に次の仕事に就けたとしても、再就職先から年内に給与を受け取れなかった場合は、再就職先でも年末調整を受けられない可能性があります。例えば、給与が翌月払いの会社に12月から入社した場合が当てはまります。

年末調整を受けられなければ、自分で確定申告をして納めすぎた所得税を還付してもらう手続きが必要です。

ただし、年内に給与の支払いがなくても、年末調整をしてくれる会社も中にはあります。微妙な時期に入社した場合は、自分が年末調整の対象者かどうかを事前に確認しておきましょう。

2社以上でアルバイトをしている

会社を辞めた後に正社員ではなく、アルバイトとして再就職した場合も、一定以上の給与の支払いがあれば再就職先で年末調整を受けられます。前職の源泉徴収票に加えて、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」も提出しましょう。

しかし複数の会社でアルバイトを始めた場合は、最も給与所得の多い1社でしか年末調整をしてもらえません。給与所得の少ない会社での勤務は副業と同じ扱いになり、年間20万円を超える場合は確定申告が必須です。

2社以上のアルバイトで勤務しているケースのほかに、正社員とアルバイトを掛け持ちしている場合も、正社員の給与所得以外に年間20万円を超える収入がある場合は、確定申告が必要になります。

また、副業としての年間20万円には、フリーランスの仕事で得た収入も含まれることに注意しましょう。

参考:No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人|国税庁

個人事業主になった

会社を退職した後に個人事業主として働く場合も、確定申告が必要になります。所得税の課税対象となるのは、会社勤務時の給与所得と個人事業主としての事業所得を合計した所得です。

事業所得とは、収入から経費を差し引いた金額を指します。収入が多くても経費が多ければ、事業所得は少なくなります。さらに各種の控除を適用すれば課税所得額が少なくなり、所得税額を抑えることも可能です。

個人事業主になってから十分な事業所得を得られなくても、会社員時代に一定額以上の給与所得があれば確定申告は必須です。

ただ、1月に会社を辞めたような場合は給与所得も少なくなり、確定申告の対象から外れるケースもあるでしょう。とはいえ、給与所得と事業所得の合計額が少なくても確定申告はしておくのがおすすめです。確定申告の義務がないほど所得が少なければ、納めすぎた所得税が返ってきます。

そのほか退職後に確定申告が必要なケース

退職届を手にしているスーツの男性

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確定申告が必要なのは、退職後に無職で年を越した場合や、年内に再就職したにもかかわらず一定の条件を満たした場合に限りません。そのほかにも特殊なケースでは確定申告が必要です。

退職前から確定申告の対象

そもそも会社に勤めて給与をもらっていても、確定申告が必須とされる人は例外的にいます。元から確定申告の必要があるなら、年の途中に退職したかどうかは関係なく確定申告をしなければなりません。

年内に再就職した場合も、引き続き条件に当てはまるなら、もちろん確定申告をする必要があります。

給与所得者のうち確定申告が必要なのは、以下の5パターンのいずれかに当てはまる人です。

  • 年間の給与額が2,000万円を超えている人
  • 医療費控除を受ける人
  • 寄附金控除を受ける人
  • 雑損控除を受ける人
  • 住宅ローン控除を受ける人(初年度のみ)

年間の給与額が2,000万円を超えている場合は年末調整の対象外となるため、自分で確定申告が必要です。

また、各種控除を受けたいときも、年末調整をしてもらった後に確定申告をする必要があります。

雑損控除は災害や盗難・横領によって損害を被った場合に適用される控除です。ただし損害を受けた資産は、一定の条件を満たしている必要があります。

参考:
No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)|国税庁
No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)|国税庁
マイホームを持ったとき|国税庁

退職金の手続きをしていない

退職所得の計算方法は、通常の給与所得にかかる所得税の計算方法とは違って、莫大な金額の所得税がかからないように配慮されています。適切な計算方法で源泉徴収してもらうには、会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しておくだけで十分です。

しかし「退職所得の受給に関する申告書」を提出していなければ、退職所得が通常の給与所得と同じように計算されてしまい、所得税を納めすぎた状態になります。退職金の手続きをし忘れた場合は、確定申告によって払いすぎた所得税の還付を受けられます。

参考:
No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁
[手続名]退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)|国税庁

退職後の確定申告のポイント

確定申告関係書類

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会社を退職した後の確定申告には、いくつか覚えておきたいポイントがあります。特に初めての確定申告で分からないことが多い人は、失業手当の扱いや申告期限・必要書類といった基本からチェックしましょう。

雇用保険の失業手当には課税されない

一般的には退職前の2年間で、通算12カ月以上の雇用保険の被保険者期間があれば、失業手当(基本手当)を受給できます。実際に失業手当をもらうには、ハローワークでの求職申し込みや手続きが必要です。

失業手当も収入に当たりますが、失業中の生活を支えるための収入という性質から、課税所得とは見なされません。失業手当には所得税が課されないため、確定申告での申告も不要です。

還付申告の申告期限は5年以内

年の途中で退職して所得税を納める義務がある場合、翌年の確定申告のタイミングで所得税の申告をする必要があります。確定申告の時期は例年2月16日~3月15日ですが、休日と被る場合は数日前後するので、正確な日程は国税庁のwebサイトでチェックしましょう。

ただ、所得税を納める義務はないけれど還付金を受け取るために申告する(還付申告をしたい)場合は、申告期限が変わってきます。退職した年の翌年から5年目までなら、確定申告によって還付金を受け取れる決まりです。

ただ、あまり先延ばしにしていると、手続きを忘れてしまう可能性があります。申請のし忘れを防ぐためには、翌年にすぐ申告を済ませた方がよいでしょう。

必要書類と申告方法の把握を

確定申告書に記入するに当たっては、源泉徴収票の準備が必要です。必要に応じて支払調書や所得の内訳書も用意しましょう。

確定申告には「白色申告」と「青色申告」の2種類があります。一般的な退職後の申告であれば、帳簿付けが簡単な白色申告で問題ありません。また、確定申告書には「申告書A」と「申告書B」がありますが、給与所得しかなければ申告書Aで十分です。

申告書は年明けから税務署や国税庁のWebサイトで入手可能です。税務署に作成した申告書を郵送するほか、e-Taxから電子申告するという手もあります。

【e-Tax】国税電子申告・納税システム(イータックス)

住民税の手続きは不要

1年間の所得に対して課される税金には、所得税のほかに住民税もあります。所得税は確定申告が必要ですが、住民税は特に申告の必要はありません。確定申告で申告した所得額が、税務署から市区町村に伝わるためです。

住民税の納税通知書は、毎年6月に自宅まで届きます。通知書が届いてから納税の手続きを済ませれば問題なく、それまでに行うべきことは特にありません。

退職後に無職でも年末調整を受けるには

電卓と関連資料

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会社を退職すると、条件次第では確定申告をする必要があります。しかし会社に勤めていて確定申告の経験がないと、可能であれば確定申告をせずに済ませたいと考える人も多いでしょう。

退職時点で次の仕事が決まっていなくても、確定申告を避ける方法はあるのでしょうか?

年内には再就職する

退職後に無職でも確定申告をせずに済ませるためには、年内の再就職が必須です。ただし、年の暮れに再就職した場合は再就職先で年末調整をしてもらえない場合もあるため、できるだけ早く再就職する必要があります。

退職後は貯金から生活費を捻出することを考えても、仕事探しは急務です。再就職先を探すときは、スタンバイのように多くの求人情報が集まっているWebサイトを活用しましょう。

求人をまとめてチェックすれば、希望の仕事も見つかりやすくなるはずです。

スタンバイ|国内最大級の仕事・求人探しサイトなら

年の変わり目に退職する

年末調整をしてもらった直後に退職すれば、自分で確定申告をする必要はありません。年末調整は12月31日時点で在籍している従業員を対象として行われます。12月31日をもって退職すれば、キリのよいタイミングです。

ただ、確定申告をせず済ませるには、12月分の給与を年が変わる前に受け取っていることが条件になります。

12月分の給与を翌年の1月にもらう場合、年をまたいだ分の給与については、さらに翌年に確定申告する必要が出てきます。年の変わり目に退職できそうでも、給与の支払いスケジュールとの兼ね合いに注意しましょう。

退職後に確定申告が必要かは条件次第

確定申告の書類

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退職して無職になった場合に、確定申告が必要かどうかは一概に判断できません。確定申告が必須の場合もあれば、推奨の場合もあります。さらに退職の有無や無職かどうかを問わず、確定申告が必要なケースもあります。

退職して無職になったときは、制度上の決まりを自分の状況に当てはめて、確定申告をするかどうかを判断しましょう。条件を1つ1つ確認していくと、申告し忘れずに済むはずです。

鬼沢健士
【監修者】All About 暮らしの法律ガイド鬼沢健士

慶應義塾大学卒業。平成24年、茨城県取手市「じょうばん法律事務所」を開設。主に労働者側の労働事件(不当解雇など)や、インターネット詐欺被害救済(サクラサイト、支援金詐欺など)を取り扱う。
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