賞与の源泉所得税の基礎知識。給与の手取りの計算方法とは違う?

賞与から引かれる税金や社会保険料の金額を把握するためには、源泉所得税の計算方法を理解する必要があります。給与の場合とは算出方法が異なる点を知れば、手取りに対して納得感を得られるでしょう。賞与の源泉所得税の正しい算出方法を紹介します。

賞与から引かれる源泉所得税の計算方法

電卓で計算する

(出典) photo-ac.com

会社から賞与をもらう際は、額面から源泉所得税と社会保険料が引かれた残りを手取りとして受け取ります。賞与にかかる源泉所得税の計算方法を確認しましょう。

前月の給与から社会保険料を差し引く

賞与から引かれる源泉所得税を計算する際は、最初に前月の給与の総支給額から社会保険料を差し引いた金額を求めます。差し引く社会保険料は健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料です。

前月の給与から社会保険料を差し引いた金額は、所得税率の基準額になります。所得税率の基準額と扶養人数から求められる税率を用いて、税額を計算する決まりです。

社会保険料控除後の給与額は、給与明細書にある課税対象額の項目でも確認できます。課税対象額は、毎月の給与にかかる源泉所得税を求める際に用いられるものです。

参考:No.2523 賞与に対する源泉徴収|国税庁

扶養人数に当てはまる税率を確認する

前月の給与から社会保険料を控除した金額を求めたら、扶養人数を確認し、国税庁の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和4年分)」で該当する税率を見つけます。

扶養人数にカウントできるのは、源泉控除対象配偶者と控除対象扶養親族です。源泉控除対象配偶者とは、所得が一定金額以下の配偶者を指します。控除対象扶養親族となる主な条件は、以下の通りです。

  • 6親等以内の血族または3親等以内の姻族
  • 納税者と同一生計である
  • 年間合計所得が48万円以下

子や父母だけでなく、孫・祖父母・兄弟も扶養対象です。納税者と同居している必要はなく、納税者からの仕送りで生活している人は、生計を一にしているとみなされます。

参考:賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和4年分) | 国税庁

社会保険料控除後の賞与と税率で税額を算出

国税庁の表から該当する税率を求めたら、「課税対象額×税率」の計算式で源泉所得税の金額を算出します。課税対象額の計算式は「賞与−社会保険料」です。

賞与から差し引く社会保険料の金額は、賞与にかかる健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料の合計となります。

賞与の課税対象額に税率をかけて算出した金額が、賞与にかかる源泉所得税の税額です。端数が出た場合は小数点以下を切り捨てましょう。

賞与の源泉所得税をシミュレーション

お金と電卓とデータ

(出典) photo-ac.com

賞与から控除される源泉所得税を実際に計算してみましょう。30歳・扶養家族2人・給与月額30万円・賞与額面60万円のケースでシミュレーションします。

1.前月の給与-社会保険料の合計

賞与の源泉所得税の計算では、最初に前月の給与から社会保険料の合計を差し引く必要があります。30歳・扶養家族2人・給与月額30万円の場合、手取りと控除額の内訳と目安額は以下の通りです。

  • 健康保険料:1万4,715円
  • 介護保険料:0円
  • 厚生年金保険料:2万7,450円
  • 雇用保険料:900円
  • 所得税:3,510円
  • 住民税:7,300円
  • 手取り額:24万6,125円

「前月の給与−社会保険料の合計」は、30万円−(1万4,715円+2万7,450円+900円)=25万6,935円となります。

2.税率は国税庁のホームページで確認

社会保険料控除後の給与額を算出したら、次に扶養人数を使って税率を求めます。国税庁の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和4年分)」で確認しましょう。

税率表における扶養親族等の数が2人の列を見ると、25万6,935円が当てはまる範囲は「13万3,000円以上26万9,000円未満」の部分です。税額の計算で用いる税率は2.042%であると分かります。

なお、扶養人数が増えると税率の段階が下がるケースがあります。例えば、所得税率の基準額が25万6,935円の場合は、扶養人数が6人以上なら税率は0%になるため、所得税はかかりません。

3.(賞与額面-社会保険料合計)×税率

国税庁の表から税率を見つけたら、「課税対象額×税率」の計算式で税額を求めます。課税対象額は「賞与額面−社会保険料合計」で求めるため、賞与にかかる社会保険料の金額が必要です。賞与額面60万円の場合の控除目安額は、以下のようになります。

  • 健康保険料:2万9,430円
  • 介護保険料:0円
  • 厚生年金保険料:5万4,900円
  • 雇用保険料:1,800円

「賞与額面−社会保険料合計」は、60万円−(2万9,430円+5万4,900円+1,800円)=51万3,870円です。源泉所得税は51万3,870円×2.042%=1万493円となります。

特殊なケースでの計算方法

電卓と確定申告書類

(出典) photo-ac.com

前月の給与がない場合や、賞与が前月給与の10倍を超える場合は、通常の方法とは違う計算で税額を求めます。特殊なケースでの計算方法を押さえておきましょう。2パターンのいずれも以下の表を使います。

参考:給与所得の源泉徴収税額表(令和5年分) | 国税庁

前月の給与がないケース

何らかの事情により前月の給与をもらっていない場合、所得税率の基準額から税率を求められません。このケースでは、以下の手順で源泉所得税額を算出します。

  1. (賞与−社会保険料合計)÷6
  2. 表に当てはめて税額を出す
  3. 2の金額を6倍したものが源泉所得税額

賞与額面80万円・社会保険料合計11万5,000円の場合、1の計算は(80万円−11万5,000円)÷6=11万4,167円です。

扶養人数0人のケースで表を見ると、該当する税額は1,440円となるため、源泉所得税額は1,440円×6=8,640円と算出できます。

賞与が前月給与の10倍を超えるケース

前月給与の10倍を超える賞与を受け取った場合も、特殊な計算で源泉所得税額を求める必要があります。計算方法は以下の通りです。

  1. (賞与−社会保険料合計)÷6
  2. 上記1+(前月給与−社会保険料合計)
  3. 2の金額を表に当てはめて税額を出す
  4. 3の金額−前月給与の源泉所得税額
  5. 4を6倍したものが賞与の所得税額

賞与額面300万円・社会保険料合計32万円の場合、1の計算は(300万円−32万)÷6=44万6,667円です。前月給与28万円・社会保険料の合計が4万円とすると、2は44万6,667円+(28万円−4万円)=68万6,667円となります。

扶養人数2人のケースで表を確認すると、該当する税額は5万150円です。4の「前月給与の源泉所得税額」も同じ表で確認するため、給与月額28万円が該当する部分を見ると、税額は4,370円であると分かります。

4と5の計算で求められる(5万150円−4,370円)×6=27万4,680円が源泉所得税です。

賞与の手取りはいくらになる?

お札とノートと電子機器

(出典) photo-ac.com

賞与の源泉所得税の計算が理解できたら、手取りの計算も覚えておきましょう。住民税が控除されない理由についても解説します。

手取り額は総支給額の70~80%が目安

賞与から控除されるものは源泉所得税と社会保険料です。40歳になるまでは社会保険料として健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料が引かれ、40歳になるとそこに介護保険料も加わります。

賞与からいくら控除されるのかは、人により異なりますが、一般的な手取り額は総支給額の70~80%です。基本的には扶養人数が多いほど手取りは増えます。

給与の源泉所得税と同じく、賞与の源泉所得税も概算で求める税額です。年間所得が確定したら年末調整が行われ、過払い分がある場合は払いすぎた税金が戻ってきます。

例として、30歳で扶養家族2人、給与月額30万円、賞与額面60万円の人の場合の手取りは、約50万3,300円です。

賞与から住民税は引かれない

給与から控除されるものには住民税も含まれますが、賞与からは住民税は差し引かれません。

住民税は前年の所得にかかる税金です。1年分の住民税の金額をあらかじめ12分割し、毎月の給与から天引きされる仕組みとなっています。

12分割した分以外の住民税は発生しないため、そもそもボーナスには住民税の控除が割り当てられていないのです。なお、住民税は前年の収入に対して課税されるため、前年に収入がまったくない人は給与からも住民税が引かれません。

賞与の源泉所得税を正しく計算しよう

賞与と電卓

(出典) photo-ac.com

賞与の源泉所得税は、賞与用の税率表を用いて計算します。前月の給与や扶養人数により税額が変わるのが特徴です。

賞与には住民税がかからないため、給与とは控除額の割合が異なります。賞与の源泉所得税を正しく計算した上で、自分の収入から何が引かれているのかをきちんと把握しましょう。

鬼沢健士
【監修者】All About 暮らしの法律ガイド鬼沢健士

慶應義塾大学卒業。平成24年、茨城県取手市「じょうばん法律事務所」を開設。主に労働者側の労働事件(不当解雇など)や、インターネット詐欺被害救済(サクラサイト、支援金詐欺など)を取り扱う。
All Aboutプロフィールページ
公式サイト