国の施策により、2022年に保育士の給料が上がりました。その背景や対象者・内容など、施策の詳細について紹介します。保育士の収入が低いとされる理由や、収入アップを目指す上で知っておきたいポイントも確認しましょう。
2022年に保育士の給料は上がった?
「2022年に保育士の給料が上がったらしい」という話を見聞きしたことはありませんか?この賃上げは、保育士の処遇改善策の一環として、国の施策により行われたものです。その詳細を確認しましょう。
2022年2月からスタート
保育士の給料は、「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」によって、2022年2月から1カ月あたり約9,000円アップしています。
これは、保育に携わる人の処遇改善を目的に行われた施策です。必要な金額を国が補助することで、保育士の給料の約3%(月額9,000円)引き上げを目指しました。
処遇改善策としては2022年2月〜9月の8カ月間適用され、10月からは地方交付税措置による公定価格の見直しにより同様の補助が実施されることになりました。
保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業とは
「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」とは、具体的にどのような施策なのでしょうか。実施された背景や対象・内容を詳しく見ていきましょう。
施策が実施された背景
「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」が実施された背景には、大きく分けて以下に挙げる3つの理由があります。
- 一般的に低いとされる保育現場の給料是正
- 保育現場の人手不足解消
- 新型コロナウイルス感染症の蔓延による保育士の負担増加に対する補填
かねてより、保育士の給料はその業務内容に対して十分でないといわれていました。保育士の離職理由では、「給料が安い」と答えた人が「職場の人間関係」に次ぐ2番目の多さとなっています。
また、潜在的な人手不足が問題となっていたところにコロナ禍を迎え、保育士の負担はますます増していきました。
これらの問題を解消するために講じられた保育士の処遇改善策こそ、「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」なのです。
対象者・対象施設
「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」の対象者は、保育士だけではありません。幼稚園教諭・保育教諭・調理員・栄養士・事務職員・パートやアルバイトなどの非正規職員など、保育の現場で働くほぼ全ての人を対象としています。
また、対象施設についても、保育所や幼稚園をはじめ、認定こども園・家庭的保育事業・小規模保育事業・居宅訪問型保育事業・事業所内保育事業・特例保育を行う施設など幅広くカバーされています。
対象者や対象施設の範囲を広げることで、より多くの人が恩恵を受けられる施策となっています。
補助内容・要件
「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」では、補助の内容や要件について、以下のように厳密に定められています。
- 補助の内容:給料の3%程度にあたる月額9,000円を引き上げるのに必要な費用の補助
- 要件:補助の全額を賃金の引き上げにあてること・改善額全体の2/3以上を基本給もしくは毎月必ず支払われる手当に含むこと・賃金を改善するにあたっての計画書や実績報告書を市町村へ提出すること
なお、補助される金額は公定価格(政府が定める標準価格)をもとに計算されます。施設によっては9,000円に満たないケースがある点も、念頭に置いておきましょう。
参考:保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業のリーフレット|こども家庭庁
事業にまつわるQ&A
事業の詳細を知る中で、疑問点も出てくるでしょう。「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」にまつわる主なQ&Aを、以下にまとめました。
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Q:事業が終了した10月以降の給料はどうなる?
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A:補助額を決めるもととなる公定価格そのものを見直すことで、10月以降も同水準の給料の引き上げ措置が継続されています
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Q:延長保育や預かり保育だけ担当している場合でも補助の対象になる?
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A:通常の保育に従事している人への措置のため、延長保育や預かり保育のみの場合は対象となりません
- Q:事業の対象者はみな一律で給料が上がるの?
- A:不合理な偏りがないよう配慮する必要はあるものの、一律ではなく、個々の対象者への配分割合は事業者が独自に決められます
保育士は収入が安い?
一般的に保育士の収入は低いといわれますが、実際のところはどうなのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
平均年収は約370万円
厚生労働省が行った「賃金構造基本統計調査」によると、2021年の保育士の平均年収は企業規模計(10人以上)で約370万円です。この内訳は月収約25万円・賞与約71万円で、月々の手取り額は20万円前後となります。
数字だけ見てみると、決して少ない金額ではないように思われるかもしれません。しかし、保育士とはそもそも国に認められた国家資格であり専門職です。
業務量の多さや内容の幅広さ・責任の重さを考えると、当事者が「少ない」と感じるのも無理はないといえるでしょう。
参考:
保育士の収入が低いといわれる理由
保育士の収入が低いといわれてしまう背景には、さまざまな要因があります。
私立の認可保育園の場合、園の運営費は「保護者から支払われる保育料+国や自治体などからの補助金」で賄っています。
国からの補助金の額は「公定価格(政府が定める標準額)−保育料」で求められますが、保育園はあくまでも児童福祉施設であるため、過剰な利益が生まれるような公定価格は設定されません。
また認可外保育園の場合、そもそも補助金がなく、保育士の給料を増やすだけの十分な資金的余裕がないのが現状です。
なお、例外は公立保育園の保育士です。公立保育園の保育士は公務員のため、給料はそれぞれの自治体の基準によって一律で決められています。
保育士の収入を上げる方法
保育士が「もっと収入を上げたい」と思ったら、具体的にどのような方法があるのでしょうか?主な収入の上げ方を紹介します。
今の園の中で出世する
保育士が収入アップを目指すなら、まず挑戦したいのが今の園の中で出世するという方法です。
2017年に導入された「保育士等キャリアアップ研修」によって、保育士の役職の幅が増えました。従来の「一般保育士」と「主任保育士」との間に、「職務分野別リーダー」「専門リーダー」「副主任保育士」の中堅役職が置かれることになったのです。
段階的に役職を目指せることで、役職手当も支給されやすくなりました。目指す役職に応じた実務経験が必要ではあるものの、今の職場でキャリアアップを目指す人にとってうれしい選択肢といえるでしょう。
参考:保育士のキャリアアップの仕組みの構築と 処遇改善について|こども家庭庁
勉強して資格を取得する
保育に役立つ資格を持つ保育士に対し、特別手当を支給する施設は少なくありません。勤務先が特別手当を支給しているのであれば、勉強して資格を取得するのも収入を増やす上で効果的な手段になるでしょう。
具体的な資格としては、「絵本専門士」「リトミック指導員」「チャイルドマインダー」などが挙げられます。また、より専門的に保育に携わっていくのであれば、「幼稚園教諭免許」の取得を検討するのもよいでしょう。
スキルアップしつつ収入アップを目指せるおすすめの方法です。
待遇の良い職場に転職する
中には、「どう頑張っても今の職場では収入アップが望めない」というケースもあります。
そんなときは、思い切ってより待遇の良い職場への転職を検討してみましょう。私立保育園や認可外保育園は、施設によって給与体系に大きな違いがあります。職場を変えることは、収入アップの大きなチャンスです。
スタンバイでは、保育士の求人情報も多数掲載しています。条件を見比べてみることで、転職先の候補を見つけられるのはもちろんのこと、現在の給料を客観的に見つめ直すきっかけにもなるでしょう。
保育士の収入にも徐々に改善の兆し
2022年2月にスタートした「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」によって、これまで低いとされてきた保育士の収入にも、改善の兆しが見られるようになりました。
一方で、元々の給料水準によっては、まだまだ不十分だと感じる人も多いのが現状です。
保育士が収入アップを目指す方法には、出世・資格取得・転職などがあります。自分に合った方法で、今以上にやりがいを持って働ける環境を手に入れましょう。
短期大学保育学科・専任教員。音楽、表現、キャリア教育等を担当している。保育所での音楽講師や保育士職としてのキャリアを生かし、2010年に保育士試験実技対策講座(音楽・言語)を開講。経験をもとに大学院修士課程にて学び、2017年より現職。
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