薬剤師の転職は厳しい?その理由と成功のためのポイントを解説

近年では、「薬剤師が別の職場で薬剤師として転職するのは厳しい」という声も多く聞かれます。なぜ厳しいといわれているのでしょうか?その背景にある3つの理由と、薬剤師の転職を成功させるために必要なスキルや資格について解説します。また、転職にあたっての注意点も確認しましょう。

薬剤師の転職が厳しいといわれる理由

薬剤師の女性

(出典) photo-ac.com

なぜ薬剤師の転職が厳しいといわれているのでしょうか?その原因となる3つの理由について解説します。

調剤併設ドラッグストアの増加で求人も減

調剤併設ドラッグストアは調剤薬局に比べて営業時間が長いことが多く、仕事帰りや買い物ついでにも利用できるとあって忙しい現代人のニーズにマッチしています。

そのような背景から、近年では調剤併設ドラッグストアの店舗数が拡大していったことや、新型コロナウイルス感染症拡大の余波が淘汰を加速させました。コロナ禍におけるで病院の受診控えによって、処方箋を受け取る調剤薬局の減少が進みました。

調剤薬局の減少に伴い、働く場所の分母が減っていることから、薬剤師の求人自体も年々減少傾向にあるのが理由の1つといえるでしょう。

参考:
一般職業紹介状況(令和3年3月分及び令和2年度分)について|厚生労働省
一般職業紹介状況(令和4年3月分及び令和3年度分)について|厚生労働省

薬剤師資格の保有者が増加した

元々薬剤師は供給が不足しており、人手不足を解決するために法改正が行われたことによって薬学部の増設が相次ぎました。

その結果、薬剤師の資格保有者が増え、2018年頃から薬剤師の需要に対して資格保有者の数が上回るという状況が生み出されました。

さらに、厚生労働省による薬剤師の需要予測によると、この先薬剤師の資格保有者は増え続けることが予測され、2045年には供給が需要を大きく上回るとされています。

求人は減少傾向であるにもかかわらず薬剤師の数は増えることが予測されていることから、今後薬剤師の転職は厳しいという見方がされているのです。

しかし、都市部での偏在が問題になっているように、地方に行けばまだまだ薬剤師は必要とされる現状もあり、有利に転職できたという話も少なくありません。

参考:薬剤師の需給推計

セルフメディケーションの導入で受診率が低下

人口の高齢化や医療の技術革新による国の医療費負担の増加が課題になっている現代においては、セルフメディケーションの促進が図られています。

セルフメディケーションとは、世界保健機関(WHO)によって「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と定義されているものです。

国民1人1人が自身の身体を管理し、軽度な不調については自宅で手当てを行うことで、医療費の増加や医療現場への負担を減らすことが実現できます。

セルフメディケーション税制が制定されるなど、セルフメディケーションの推奨によって病院の受診率が低下しているのも1つの要因です。

薬剤師の転職理由TOP3

履歴書に記入する

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そもそも、薬剤師はどのような理由で転職を考えるのでしょうか?薬剤師の転職に多い3つの理由を紹介します。

人間関係に悩みを抱えている

これは薬剤師に限らず全ての仕事に該当することですが、人間関係が原因で転職を考える人は少なくありません。

特に、薬剤師の職場は一般企業に比べて異動などが少なく、人間関係で問題が起こった場合に解決が難しいことも珍しくありません。

また、小さな薬局などは特に人間関係が限られており、相手と距離を取るのが困難である場合も多くあります。

薬剤師の職場ならではの限られた空間ではなかなか改善が難しく、人間関係が原因で転職を考える人も多いのです。

待遇を改善したい

給料や労働条件などについて、よりよい待遇を求めて転職するケースも多くあります。

薬剤師の年収について賃金構造基本統計調査をもとに試算すると、約580万円と全国の平均年収よりも高めです。しかし、自身の年収が相場に比べて低い場合や労働に見合っていないと感じる場合に転職を考えることが少なくありません。

また、営業時間の長さや残業の多さ・仕事の忙しさ・福利厚生など、労働条件は職場によってさまざまです。

「なかなか休みが取れない」「夜遅くまで営業しているため帰りが遅い」など、現在の職場での労働環境に不満がある場合も転職の理由となります。

参考:賃金構造基本統計調査 / 令和3年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種|e-Stat

スキルアップのため

ひと口に薬剤師といっても、ドラッグストア・病院・製薬会社など勤務先によって業務内容はさまざまです。また、勤務先の規模によって任される業務の範囲も異なります。

例えば、ドラッグストアでは接客も行う必要があったり、病院では専門性によって処方する薬の種類が全く異なったりと、勤務先の特性によって経験値も大きく変わるでしょう。

より幅広い業務に携われる仕事を探すなど、自身のスキルアップのために転職を考える薬剤師も珍しくありません。

薬剤師の転職に求められるスキル

手帳に記入する女性

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薬剤師の転職が厳しいものになっていく中で、これから転職する際に求められるスキルや持っていると重宝されるスキルについて紹介します。多くのライバルがいる中で差別化が図れるよう、必要なスキルを身に付けておくとよいでしょう。

時代に合った専門的な知識や経験

専門的な知識や経験があるとほかの薬剤師との差別化をアピールできます。特に高齢化社会の現代においては、在宅医療の経験は非常に大きな強みです。

高齢者の中には自宅や施設で過ごしている人も多く、頻繁に通院することが難しいケースも少なくありません。今後さらに人口の高齢化が見込まれる社会において、在宅医療に対応ができる薬剤師は重宝されるでしょう。

また、がんや認知症など高齢者が多くかかりやすい疾患についての専門知識や経験がある場合なども、転職に有利に働くことが多くあります。

コミュニケーション能力

薬剤師に求められるものは薬のプロとしての知識だと考えている人も少なくありませんが、実際にはコミュニケーション能力も非常に重要です。

薬剤師は薬が処方された患者と直接会話する機会も多く、その際にうまくコミュニケーションが取れないと相手に不安感や不信感を与える原因となります。

患者は不安を抱えているため、相手に安心感を与えられるようなコミュニケーションが図れると活躍できる場が広がるでしょう。

また、薬剤師の職場は閉鎖的な空間であることも多いため、同僚と円滑に仕事をしていく上でもコミュニケーション能力は不可欠といえます。

マネジメント能力

マネジメント能力があると、部下の指導やエリアの管轄など指導者の立場として活躍できます。薬剤師として現場で活躍し続ける道だけでなく、エリアマネージャーや管理薬剤師としてキャリアアップしていくことが可能です。

将来ずっと活躍し続けたい人や長期的なキャリアを築きたい人は、マネジメント能力を身に付けておくと強みになります。

また、マネジメント能力は薬剤師に限らず全ての職業において役に立ちます。他業種への転職にも有利になるため、習得しておくと社会人としてのスキルアップが図れるでしょう。

薬剤師が転職する際に有利に働く資格

薬剤師の男女

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スキルと同様に、持っていると転職において強みとなる資格を紹介します。大きく分けて主に2種類の資格があるため、目指したい業務や方向性に応じて必要なものを取得することをおすすめします。

認定薬剤師

認定薬剤師とは、薬剤師としての知識や技術を維持するために自己研鑽していることが認められた薬剤師のことです。

一度薬剤師の資格を取って終了ではなく、薬剤師として働く上で研修などから常に自身のスキルを磨き続けている人に対してその成果を証明する制度です。

認定薬剤師の認定証をもらうには、研修に参加して必要な単位を取得する必要があります。定期的に自身の知識をブラッシュアップすることで、日々更新されていく新薬や疾病の情報をタイムリーに把握できるのもポイントです。

専門薬剤師

専門薬剤師は、その名の通り特定の専門分野において知識や技術が認められた薬剤師のことを指します。まずは認定薬剤師を取得し、そのあとそれぞれの専門分野で経験を積んで試験を受けるのが一般的な流れです。

専門薬剤師にはがんや感染症、妊婦や糖尿病など多くのジャンルが存在しています。各分野において必要な知識や認定条件は異なるため、自分が目指すジャンルについてきちんとリサーチをして挑戦するようにしましょう。

また、専門薬剤師は1つの分野に決めなければいけないとは限りません。複数の資格を取ることも可能なので、いくつもの専門的な知識を持った薬剤師を目指すこともできます。

薬剤師の転職における注意点

履歴書を手にしている女性

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薬剤師の転職における注意点について説明します。転職してから後悔することのないよう、次の2つの点を意識して転職活動を行いましょう。

1度辞めると再就職のハードルが上がる

これから転職が厳しくなっていくことが見込まれる薬剤師の仕事においては、一度他職種へ転職すると再び薬剤師として就職するのは難しい場合もあります。特に調剤薬局においては、調剤業務のブランクがあまりにも長いと敬遠されがちで、薬剤師不足の地方でも採用につながらないケースが目立ちます。

薬や機器、医療制度など医療現場の状況は時代と共にどんどん変化していきます。ブランクがあるとその分の知識がないと見なされるため、ずっと薬剤師として働いているライバルに比べると不利になることは否定できません。

一度他業種や他職種に転職してから再就職を目指す場合は、新薬や新制度について勉強をして挑むとよいでしょう。

また、ブランク期間の理由についてはポジティブな内容を伝えられると好印象を与えられます。

優先順位を明確にする

業務内容・労働条件・待遇・福利厚生など、転職する上で自身が最も重視する事項を明確にしておきましょう。

  • 何で転職したいのか?
  • 何を求めて転職するのか?
  • 働く上で一番重要視するポイントは何なのか?

これらの軸がしっかりしていないと、転職してから後悔することになりかねません。転職後の失敗を防ぐためにも、自分にとっての優先順位をはっきりさせ、その内容に沿って転職活動に挑みましょう。

時代が変わっても求められる薬剤師を目指そう

薬を渡す薬剤師

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今後、供給の増加が予測される薬剤師の市場において生き残るためには、自分自身のアップデートが必要不可欠です。

時代の変化に順応しながら活躍し続けられるよう、知識・技術共に学ぶ姿勢を欠かさずに薬剤師としてのスキルをアップしていきましょう。

スキルを可視化できる1つの手段として資格があります。学ばなければいけないことが多く簡単な道ではないかもしれませんが、資格は時代が変わっても求められる薬剤師になるための大きな強みです。

自身の目指す働き方や仕事内容にフォーカスを当てて、転職を成功させましょう。

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久保田嘉郎
【監修者】All About 薬剤師ガイド久保田嘉郎

薬剤師。北里大学東洋医学総合研究所で漢方を、慶應義塾大学大学院で医療マネジメントを専攻。美容クリニックでの勤務、薬局開業を経て薬学部に社会人入学し薬剤師免許取得。これから薬剤師を目指す方、今後のキャリアアップについて考えている薬剤師の方に役立つ情報をお届けします。
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著書:
子宝漢方のひみつ
40代からは漢方でやせる。若くなる
薬剤師 (わたしの仕事)