作業療法士に将来性がないといわれる理由は?現状と今後の需要も解説

仕事の受給バランスにおいて作業療法士は供給過多で将来性がないとよくいわれています。果たしてそれは本当なのか、作業療法士の現状と今後についてまとめました。作業療法士を目指すにあたって何が必要になるかも併せて紹介します。

作業療法士は将来性がないといわれる理由

仕事に悩む介護士

(出典) photo-ac.com

作業療法士に将来性がないというイメージがあるのは、資格保持者の数やロボットの登場などが原因とされています。その2つの観点から将来性について考えてみましょう。

資格取得者が増え続けている

作業療法士になるためには、国家試験に合格して資格を取得する必要があります。厚生労働省が発表している「作業療法士国家試験」の2021年度の結果を見てみると、約8割以上が合格しています。

資格保有者が増えるということは、それだけ作業療法士の数も増えるということです。日本国内で作業療法士が国家資格となったのは1966年のことで、以降、男女いずれも、作業療法士の数が増えています。

「日本作業療法士協会会員統計資料」によれば、1990年代には年1,000人にも満たなかった登録会員数が、2010年台以降、年3,000人を超えるペースで増加しています。

2020年3月現在では全国で約9万4,000人の有資格者がおり、同協会登録会員だけでも約6万2,000人を数えています。

需要と供給のバランスが崩れてしまえば、作業療法士の供給過多となり、働く場が減ってしまいます。現状のペースのまま進めば、供給が需要を上回るのも時間の問題ともいえるので、それが将来性のなさにつながっているとも考えられます。

参考:
第56回理学療法士国家試験及び第56回作業療法士国家試験の合格発表について|厚生労働省
日本作業療法士協会会員統計資料|一般社団法人日本作業療法士協会

作業療法士の就職における現状

介護士の女性と高齢者

(出典) photo-ac.com

将来的に需要と供給のバランスが危惧されてはいますが、現状で作業療法士はどの程度需要があるのでしょうか。その実情を解説します。

施設によってはまだ人手不足

作業療法士の数が増えているのは事実ですが、だからといって人手が余っているわけではありません。厳密には、施設によって需要が異なっているのが実情です。

たとえば、病院の中には供給過多により人手が余っているケースも見られますが、介護施設・福祉施設においては、まだまだ人手が足りていません。

日本作業療法士協会調べによると、就職率は100%といわれており、条件次第で倍率の高い職場もありますが、求人と作業療法士の数は、求人自体の方が多い状況です。

参考:作業療法士の資格と仕事|一般社団法人日本作業療法士協会

病院以外の就職先もある

病院では人手が余りがちな作業療法士でも、病院以外の施設では前述のように需要があります。

具体的には、介護老人保健施設・デイサービスなどの介護施設・特別支援学校などの教育機関・就業支援センター・ハローワークなどの就業施設のように、作業療法士は多くの場所で活躍できます。

近年では高齢化が進んだことにより、特に老年期障害領域での活躍が期待されています。訪問でのリハビリもその一環で、作業療法士には利用者の心身のケアが求められています。

作業療法士は今後も需要が見込まれる

高齢者の体を見る女性

(出典) photo-ac.com

作業療法士の実情を踏まえた上で、今後も需要が見込まれる理由について解説します。主に世代別の人口割合やメンタル面に焦点を当ててみましょう。

高齢化社会の訪れ

日本では少子高齢化が問題視されており、病院または介護施設に入る高齢者が年々増加しています。

老いとともに訪れる体の機能低下や、それに対するリハビリのために作業療法士は必要です。既に訪れている高齢化社会において、作業療法士は社会に必要不可欠な職業といえます。

心身のケアができる作業療法士は重宝される

病気やケガにより思うように体が動かせず、作業や活動が行えなくなった場合、作業療法の出番となります。

体だけでなく、心のケアができるのも作業療法士のメリットです。特に心に関する病気については、ひと昔前まで世間の理解が進んでいませんでした。しかし、近年はきちんと治療が必要な状態だと認知されてきています。

体や心の不調により、生活が困難な患者の手助けができる作業療法士は、今後も重宝される存在であり続けるでしょう。

機械は精神面の支援ができない

作業療法士の場合、専門知識をまじえた患者への臨機応変な対応が必要なことから、ロボットや人工知能による仕事の減少は少ないといわれています。特にメンタルケアの面では、人間でしかできないことがあり、機械にすべては任せられません。

専門知識にプラスして心のこもったやりとりで患者をケアできるのは、人間ならではの能力といえます。

求められる作業療法士になるために

車いすを押す女性

(出典) photo-ac.com

実際に作業療法士の資格を取得し、仕事をするときは、職場において必要な存在であり続けるのが重要です。どういった作業療法士が今求められているのか、解説しましょう。

専門資格取得で自身の価値を高める

他の作業療法士にはできないことができるのであれば、多くの人から求められる作業療法士になれます。そのためには、より専門性の高い資格を取得するのもよいでしょう。

たとえば、認知症の患者を多く抱えた施設で働きたいのであれば、認知症ケア専門士の資格を取得したり、他にも呼吸療法認定士や心臓リハビリテーション指導士のように、特定の分野で活躍が見込めたりする資格があります。

専門性の高い資格を持っていれば、就職のときだけでなく、転職時にも役立ちます。キャリア形成の上でも、十分に有意義なものとなるでしょう。そのためには、興味のある分野を追求したり、あるいはあえて異なる分野を学んでみたりと、価値を高めるための修練が必要不可欠です。

需要の高い施設で働く

病院で働く作業療法士が多く、飽和気味である一方で、介護施設や児童福祉施設で働く作業療法士は慢性的に不足しています。特に、発達障害を抱えた子どもをサポートできる人員は足りていないといわれています。

施設側としても利用者を治療したり、適切なサポートを受けさせたりしなければいけないため、作業療法士を求めています。そういった環境であれば、仕事を見つけやすくなるでしょう。

知識を向上し共有できる行動力

作業療法士に限った話ではありませんが、自己アピールを上手にできる人は企業側も採用しやすくなります。

そのためには、アピールポイントを増やす必要があります。常日頃からアンテナを張り、行動力を高めて自分を磨いていくことで、アピールできるポイントが増えていきます。

同業の交流会や学会に参加したり、セミナーに通ったりして、知識をインプットし、同僚にアウトプットをすれば、人とのつながりを増やせるだけでなく、自分のスキルアップにもなるでしょう。

作業療法士として持っておきたいスキル

高齢者と会話する介護士

(出典) photo-ac.com

求められる作業療法士とは、どのようなスキルがある人物でしょうか。主に性格や内面的な能力の観点から解説していきます。

コミュニケーション能力

前提として作業療法士は、常に人と関わる仕事です。そのため、コミュニケーション能力は作業療法士に欠かせない能力といっても過言ではありません。

現場では、病気により心がふさぎがちになっていたり、リハビリを拒否したりする患者も想定されます。そのような場面でもしっかり患者と向き合い、対話しながら回復への手助けができるようになるにはコミュニケーション能力が大切です。

患者に寄り添える共感力と観察力

心身に異常があるときは、メンタルが弱ってしまいがちです。作業療法士は、そういった精神状態の患者と常に向き合い続けなければいけません。

つらい気持ちを理解して、共感できる力が作業療法士には必要です。共感力があるからこそ、患者側も安心してコミュニケーションができ、治療を進める手助けとなるでしょう。

また、観察力も作業療法士には大切です。患者に異変が起きたら敏感に察知できるようにするだけではなく、リハビリの経過観察においても観察力が問われます。

根気強さ・忍耐力

リハビリは1日や2日で終わらず、ある程度の期間を要するケースがほとんどです。長いリハビリ生活の中で、患者は不安な気持ちを膨らませることもあるでしょう。あるいは、いつ終わるのかとフラストレーションがたまり、気が短くなる人もいます。

作業療法士は患者のネガティブさに引っ張られることなく、どっしりと構えて根気強くリハビリのサポートをする必要があります。

リハビリがスムーズにいかないときも、忍耐力があれば気持ちに余裕ができ、患者に対して焦りを抱かず向き合えるでしょう。

今後も活躍が期待される作業療法士になろう

高齢者の手を取る介護士

(出典) photo-ac.com

作業療法士は将来性がないと思われる職種といわれていますが、施設によってはまだまだ人手不足なところも多く、需要は今後も見込まれます。

どういったところで働きたいのか、またそこで働くためにどういった資格が必要かをしっかりイメージすれば、求められる作業療法士へと近づき活躍できるでしょう。

コミュニケーション能力・忍耐力など資格以外に大切なものも多く、大変な仕事ではあります。しかし、今後も需要は増えるであろう仕事なので、作業療法士を目指してみてはいかがでしょうか。

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松嶋健太
【監修者】作業療法士、呼吸認定療法士、LSVT認定臨床家松嶋健太

都内の回復期リハビリテーション病院に入職。主に脳血管疾患等などのリハビリテーション業務に従事。3年間在籍し、都内の株式会社が経営する訪問看護ステーションに転職。地域でのリハビリテーション業務と事業所のマネジメント業務、グループ内の教育研修を担当。5年間在籍し、現職である栃木県にある獨協医科大学病院に入職。現在は、超急性期分野でリハビリテーション業務に従事している。