薬剤師はいらない? テクノロジーと共存できる薬剤師を目指そう

AI・IT化の発達や、医薬分業を理解していない患者の意見から、薬剤師はいらないといわれることもあり、悩む薬剤師が増えています。将来的に仕事がなくなるかもしれないと、心配する人もいるでしょう。これから目指すべき薬剤師像について解説します。

将来的に薬剤師は「いらない」?

薬を選ぶ薬剤師

(出典) photo-ac.com

近年「将来的に、薬剤師はいらないと思う」というネガティブな意見が増えています。薬剤師が不要になるかどうかと「いらない」と感じる理由について解説します。

患者の健康を守る役割もあるので薬剤師は必要

近年、薬剤師の担っている業務が自動化されたり、簡易化されたりしています。テクノロジーの発達により、今後の業務が減っていくことを心配する薬剤師も多いでしょう。

しかし、将来的に薬剤師が不要になるとはいえません。

AIによる自動化が進む調剤だけでなく、患者や医療従事者への情報提供のような対人業務も、薬剤師の大切な仕事です。健康サポート薬局制度による「かかりつけ薬剤師」の登場や、在宅医療への対応など、患者の健康を守る役割もあります。

簡易化できない対人業務の多様化に対応するために、薬剤師は必要な職業です。

薬剤師の仕事が減っていく理由とは

AIやITの発達により、薬剤師の業務量が簡易化されつつありますが、薬剤師の仕事が減っていく理由はそれだけではありません。

薬剤師をサポートしてくれる存在でもある「登録販売者」の増加が一因ともいわれています。「登録販売者」とは、ドラッグストアや薬局などで扱う「第二類医薬品・第三類医薬品」を販売・アドバイスできる資格です。

薬剤師との違いは、調剤ができないことと、第一類医薬品が販売できない点です。

そして、欧米では「ファーマシーテクニシャン」という仕事があり、彼らは薬剤師免許がなくても、医薬品のピッキングや事務支援ができます。日本では制度としては認められていませんが、2019年4月に厚生労働省が出した通達によって、薬局の事務員が一部の薬をピッキングすることを認められました。

AI・IT化に加え、おもにこの2点が薬剤師の業務が減っていく理由とされています。

参考:「調剤業務のあり方について」|厚生労働省

患者が薬剤師は「いらない」と思う理由

薬とおくすり手帳と処方箋

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SNSや匿名掲示板などで、患者の立場から「薬剤師はいらない」と、たびたび話題になっています。薬剤師の役目を患者に理解されていないことと、対応に当たった薬剤師に対し、不満が発生したことも原因のようです。詳しく見ていきましょう。

「医薬分業」に対する不理解

「医薬分業」とは医師と薬剤師がそれぞれの専門の立場で業務を分担し、薬物療法の有効性・安全性を高めるための大切な仕組みです。医師は患者に処方箋を交付し、薬剤師が調剤を行います。

しかし、患者は医師の言うことが絶対的に正しいと感じている人も多くいます。「医師が出した処方箋が正しいのに、なぜ薬剤師に同じことを話さなければならないのか」と、面倒に感じている人もいるようです。怒り出したり、適当な受け答えをしたりする患者もいるでしょう。

この「医薬分業」の意味が理解されていないことが、「面倒なだけの薬剤師はいらない」という声が上がる理由の一つです。

出典:厚生労働省「医薬分業の考え方と薬局の独立性確保」

デリカシーがない薬剤師に当たったことがある

薬剤師の業務には、「服薬指導」があります。この業務は正しく薬を服用するために重要な仕事ですが、薬剤師の態度によっては患者を不快にさせるケースもあります。

たとえばほかの患者も待合室にいる中で、処方されている薬の名前や病状を、薬剤師が大きな声で話してしまい、患者がプライバシーを侵害されたと感じる、といったケースです。患者は一度でもこのような経験をすると、薬剤師全般に対してネガティブな感情を抱くことにつながります。

薬剤師自身が「いらない」と思う理由

白衣の男女の後ろ姿

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患者だけでなく薬剤師自身が「薬剤師はいらないのでは?」と思うこともあるようです。なぜ薬剤師自身がそう考えてしまうのかを解説します。

患者からのクレームが多い

「医薬分業」に対する不理解から「医師と同じことを聞くな」という不満だけでなく、患者はさまざまなクレームを薬剤師に訴えます。「待ち時間が長い」「薬の説明をされてもわからないから不要」「説明が長い」などが挙げられます。

間違いのないよう慎重に薬を用意し、安全に服用してもらうために説明をするのが薬剤師の仕事です。しかし、真摯に取り組んでも、患者からのクレームが多く、謝罪することも少なくありません。

日々、積み重なるストレスから「薬剤師なんていらないのかも」と薬剤師自身も考えてしまいます。

単調な業務も多い

薬剤師の仕事の中には、調剤業務があります。薬剤師の数に対して患者が多い薬局だと、勤務時間中は、ずっと棚から薬を出す作業で追われることになります。

調剤業務は単調な作業です。くり返しているうちに、つまらないと感じる薬剤師もいるでしょう。毎日単調な作業ばかりだと「スキルアップにつながらないし、やりがいがないな」と思うものです。

ファーマーテクニシャン的な業務ができる薬局事務員や、AIなどにできる調剤業務に対し、薬剤師は「免許がなくてもいいのかもしれない…薬剤師はいらないのでは?」と感じてしまいます。

AIがあれば薬剤師は「いらない」?

パソコンに向かう白衣の男女

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AIが薬剤師の業務を行うことで、薬剤師の負担が軽くなります。しかし、AIがあれば薬剤師がいらないということにはなりません。AIによってなくなる業務と、AIにはできない業務について解説します。

AIによってなくなる薬剤師の業務

AIは作業を正確に実行できるうえ、業務を重ねるうちに学習する能力があります。AIが得意とする薬剤師の業務は、調剤業務・処方解析・相互作用の確認・在庫管理です。AIなら一包化不可の薬剤を一包化してしまうような、人為的ミスを起こす確率が低いでしょう。

AIが今よりも発達すれば、将来的に薬剤師の業務の多くをAIに任せるようになる可能性があります。

IT化による環境の変化も

ITが発達したことにより、お薬手帳の電子化が進んでいます。日本薬剤師会が提供するスマートフォンアプリ「eお薬手帳」や、日本調剤提供の「お薬手帳プラス」など、さまざまなアプリがあります。

厚生労働省が電子版お薬手帳のモデル事業を開始したことで、今後ますます電子版お薬手帳が広まるでしょう。

また処方箋を電子化したり、オンライン診療を導入したりする医療機関も増えています。そのため、IT化によって薬剤師の負担や業務は減っていく傾向にあるといえます。

出典:電子版お薬手帳のモデル事業を開始しました|厚生労働省

 

AIではできない薬剤師の業務

ヒューマンエラーを軽減できる、AIに向いている薬剤師の業務もあれば、AIにはできない業務もあります。

患者の心に寄り添いながらコミュニケーションを取り、患者に安心感を与える対人業務は薬剤師にしかできません。体調を聞いたり、患者の不安や疑問が解決するまで丁寧に説明したりすることは、AIには代われないのが実情です。

また、薬剤師はデータを見るだけでなく、患者に対し細やかな質問ができるので、疑義照会と処方変更につながります。

セルフメディケーションには薬剤師のアドバイスが必要

自分の健康は自分で管理するという責任を持って、軽い体調不良は自分で手当てすることを「セルフメディケーション」といいます。セルフメディケーションにおいて、症状に合った薬を服用するためには、薬剤師からのサポートが必要です。

「どのような症状がどの程度の強さで、どのくらい続いているか」のような健康の相談から「薬と健康食品との相性はどうか」というアドバイスまで対応します。

市販薬を服用するか、医療機関を受診すべきかの相談も受けるので、セルフメディケーションの手伝いは、薬剤師にしかできません。

これから必要とされる薬剤師とは

薬剤師の男性

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AIやIT化により、薬剤師の業務は減っていくでしょう。しかし、薬剤師が不要になることはありません。これから必要とされる薬剤師には、どのようなスキルが求められるのでしょうか。

認定薬剤師の資格を取得して専門性を高める

認定薬剤師とは、薬剤師として実力があることを証明する資格の1つです。

認定薬剤師の資格を取得するためには、研修認定薬剤師制度のもと、一定期間「倫理・基礎薬学・医療薬学・衛生薬学および薬事関連法規・制度」などの講習を受けます。新規の場合は4年以内で、更新の場合は3年ごとに、必要な単位を取得すれば、認定されます。

  • 生涯研修認定薬剤師:最新の情報・知識・技術を得る研修を受けている
  • 特定領域認定薬剤師:特定の分野や領域で機能向上の研修を受けている

専門薬剤師の資格を取得して専門性を高める

専門薬剤師とは、特定の分野で最適な薬物療法を提供するために、最先端の知識や技術を有し、認定を受けた薬剤師のことを指します。

まず認定薬剤師の資格を取得し、講習会や論文発表など目的の専門分野で定められた条件を満たしてから、認定試験を受けます。

専門薬剤師は、ほかの医療従事者と連携し、医療チームの一員として薬物療法で患者をサポートする業務です。

身近で頼れる薬剤師としてコミュニケーション能力を高める

セルフメディケーションの推進や、高齢化社会で需要が高まる在宅医療において、薬剤師は重要な役割を果たします。

対人業務は、AI・IT化ではカバーできません。薬剤師が患者や医師とコミュニケーションを取りつつ連携することで、クオリティの高い医療を提供できます。

また、患者に寄り添い、質の高い医療を提供する「かかりつけ薬剤師」という制度があります。「薬局勤務3年以上・勤務先薬局で1週間のうち32時間以上勤務・勤務先薬局在籍1年以上」などの条件を満たす必要はありますが、患者にとって身近で頼れる存在です。

 

薬剤師は専門性・コミュニケーション能力の時代へ

薬剤師の男女

(出典) photo-ac.com

患者や薬剤師自身が「薬剤師はいらないのでは?」と思ってしまうケースが多く見られます。確かにAI・IT化により、薬剤師の業務は減少しています。しかし、どれだけAIやITが発達しても、対人業務には薬剤師が必要です。

これからの薬剤師は、特定の分野において、知識や技術を有し専門性を高めたり、コミュニケーション能力を高めたりして、質の高い医療を提供する時代です。

AI・IT化できる業務は最新テクノロジーに任せ、薬剤師にしかできない対人スキル・専門スキルを磨いていきましょう。

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【監修者】調剤薬局、医療専門広告代理店などの勤務を経て、2012年にフリーランスライターとして独立。薬剤師とライターのパラレルキャリアを続けている。人だけではなく動物の医療、介護、健康に関わる取材・ライティングも行う。著書「犬の介護に役立つ本」(山と渓谷社)。 薬剤師ライター仕事百科:https://www.pharmacistwriter.com/