理学療法士が転職するにあたって、現在の職場とは違う就職先の種類は知っておきたいことの1つです。転職後の働き方をイメージできれば、自分の希望や経験に合う求人を絞り込みやすくなるでしょう。就職先の種類やそれぞれの特徴、選ぶポイントを紹介します。
理学療法士におすすめの就職先【医療関連】
「日本理学療法士協会」の統計によると、協会員の大部分が何らかの医療施設に就職していると分かります。
まずは医療施設で理学療法士の経験を積んでから、キャリアアップを図ろうとする人がほとんどです。どのような医療施設が就職先として検討できるのか、見ていきましょう。
参考:統計情報|協会の取り組み|公益社団法人 日本理学療法士協会
病院
養成校を出て理学療法士の資格を取得した人の多くが、病院を就職先に選んでいます。病院にはリハビリテーション科・整形外科・神経内科・脳神経外科といった多くの診療科があり、経験・知識を増やせるところがメリットです。
所属している理学療法士の数も多いので、仕事のやり方について迷ったときに、先輩への相談や意見の交換などもしやすい特徴があります。リハビリの対象者や目的は、病院が持つ役割によって異なります。
- 急性期:手術後から時間がたっていない人や発症直後の人を対象に、短期間で効果的なリハビリを目指す。
- 回復期:病状が回復へ向かっている人を対象に、実践的なリハビリを行う。
- 療養型:多くの場合、高齢者が対象。現状の維持や日常生活を送れるようにリハビリを行う。
回復期病院は、長時間のリハビリが必要になるケースが多く、理学療法士の数が多い傾向です。
診療所・クリニック
診療所・クリニックとは、無床もしくは19床以下の規模が小さな医療施設のことです。町のかかりつけ医をイメージすると、分かりやすいでしょう。
理学療法士が活躍する診療所・クリニックの大部分が、整形外科です。診療所の理学療法士には、多くの患者を担当できる、専門性を高められるといったメリットがある反面、担当できる患者の疾患や障がいの種類が限定されるデメリットもあります。
病院に比べて理学療法士の数が少ないので、1人1人が担う責任は小さくありません。また、病院では土日祝日に関係なくリハビリが行われることが多い一方、診療所・クリニックは休日が固定される傾向があります。
訪問看護ステーション
訪問看護ステーションには、在宅で生活をする利用者のサポートを担う、看護師・准看護師・保健師・助産師・作業療法士・理学療法士・言語聴覚士が所属しています。
病院・診療所とは違い、対象者の自宅に訪問し、1対1で利用者の生活に合うリハビリをすることが大きな特徴です。
利用者によって置かれている状況が異なり、本人の体の状態だけでなく、住宅環境や介護者にかかっている負担といった生活空間の評価をすることも、大事な仕事の1つとされます。
緊急時の対応も必要になるので、ある程度の経験を積んでから就職するケースが少なくありません。ただし、新卒や経験が浅い人でも関係なく採用し、新人研修に力を入れている施設もあります。
理学療法士におすすめの就職先【福祉・教育】
福祉・教育の分野でも、理学療法士の就職先が見つかります。どんな施設に就職できるのか、見ていきましょう。
介護老人保健施設(老健)
日本理学療法士協会のデータによると、介護老人保健施設(老健)は、病院・診療所に次いで多い就職先となっています。
要介護認定を受けた高齢者に対してリハビリをする老健は、高齢者が在宅に復帰することを目的としている施設です。老健で働く理学療法士には、加齢による生理的・精神的な変化に関する知識が必要とされます。
老健は入所の他に通所リハビリテーションが併設している場合が多いので、状況によっては兼務することもあるでしょう。
障がい児が対象の施設
「児童発達支援センター」や「放課後等デイサービス」など、障がい児を対象とした施設でも理学療法士が活躍しています。障がいのある子どもが、快適に日常生活を過ごせるようになるには、理学療法士が持つ知識・技術が必要です。
子どもに合わせたサポートを実現するには、医学的な知識・経験だけでなく、障がいへの理解も求められます。高いレベルの知識・技術が求められますが、子どもの成長に寄り添えるやりがいのある仕事です。
また、施設によっては本来の業務以外にも、見守りや送迎などの業務が発生することもあります。
理学療法士養成校の教員
超高齢社会のさらなる進行に向けて、理学療法士の需要が伸びるとともに、資格の取得を目指す人々を育てる教員の必要性も増しています。
実務経験を生かし、専門学校などの理学療法学科の教員として、理学療法士を目指す学生たちの教育に携わるのも1つの道です。
指導する立場に立つには、理学療法士の資格と5年以上の実務経験が必要です。さらに臨床実務指導者や専任教員を目指す場合、厚生労働省指定の講習会を修了する必要があります。
ただし、大学や大学院で指定の科目を履修して卒業したケースでは、専任教員になるための実務要件が3年以上からに短縮される決まりです。
参考:理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改正概要|厚生労働省
理学療法士におすすめの就職先【一般企業・スポーツ関連業】
医療施設や介護施設ほど需要は高くはありませんが、理学療法士には一般企業・スポーツ関連業に就職できるチャンスもあります。どのような就職先があるのかを見ていきましょう。
医療機器・福祉用具メーカー
理学療法士には、福祉用具やリハビリ事業の、企画・運営・開発などに携わる仕事に進む道もあります。医療機器や福祉用具を扱う企業では、リハビリに関する専門知識を持つ人が有利になるケースがあるためです。
例えば、腰痛防止グッズやアプリなどの開発で、理学療法士の専門性を生かせる場合があるでしょう。
ただし、一般企業に就職するには、理学療法士としての専門知識に加えて、基礎的なビジネススキルが求められることも知っておきましょう。また、医療施設や介護施設に比べると求人数は多くないため、求人サイトを利用して頻繁に情報収集する必要があります。
フィットネス施設やスポーツチーム
リハビリの仕事は、ケガをした後の機能回復をイメージする人も多いでしょう。しかし、健康に関心を持つ人や、運動のパフォーマンスを高めたい人が、理学療法士の知識を求めるケースもあります。
フィットネス施設やスポーツチームのトレーナーは、健康管理・傷害予防・機能改善・運動能力の向上といった目的でトレーニングを担当する仕事です。
スポーツの分野に携わる場合は、それぞれの競技に対する専門的な知識が求められます。また、スポーツにケガは付き物なので、負傷した選手への身体的・精神的なケアができるスキルも必要になってくるでしょう。
就職先を選ぶときのポイント
理学療法士が就職先を選ぶ際は、リハビリの対象者や、将来設計を考えて決めることが重要です。選び方のポイントを詳しく見ていきましょう。
どんな人のリハビリをしたいのか
理学療法士の就職先は経験のほかに、幅広い患者を対象にしたいのか、もしくは特定の属性の患者を対象にしたいのかによっても選び方が変わります。施設の種類ごとに担当する患者の数や特徴が異なる点に注意しましょう。
町の整形外科クリニックでリハビリを担当する場合、1人の患者にかける施術時間が病院よりも少なく、多くの患者と接する傾向です。
1人の患者にじっくりと向き合いたいなら、長期のリハビリが必要になる回復期病院や、療養型病院などへの勤務が合っています。
高齢者を支えたいなら介護老人福祉施設、子どもの成長に寄り添いたいなら放課後等デイサービスというように、対象者の属性も就職先を選ぶポイントです。
やりたい仕事ができるか
希望する就職先の仕事内容・治療方針などもあらかじめチェックしておくと、理学療法士として職場を選ぶときにミスマッチを防げます。
施設によっては特定の治療法へのこだわりが強い場合もあり、自分の興味と全く違う方向性では、働き続けることが苦痛になりかねません。
事前に病院・施設のホームページなどで、治療方針・理学療法科の特色をチェックしたり、働いている人に話を聞いておいたりするとよいでしょう。
理想や目標をかなえられそうか
待遇や給与などの条件はもちろん重要ですが、目先だけにとらわれず、長期的な理想や目標をかなえられる就職先を選びましょう。
どのようなキャリアプランを描くかは、人によって違います。病院で十分な経験を積んだ後、訪問看護の分野で活躍したい人もいれば、長期的に働ける職場で管理職に上り詰めたい人もいるでしょう。
目指すキャリアプランとこれまでの経験に合わせて、知識・経験を身に付けられる就職先を見つけることが大事です。理学療法士として「どのように社会に貢献していきたいのか」を考え、理想や目標をかなえられそうな就職先を選択しましょう。
理学療法士がキャリアアップするには
就職先を決める上で、キャリアアップの方法を知っておくことは重要です。ある程度の経験を積んだ理学療法士に考えられる道には、どのような種類があるのでしょうか?
高度な技術を持つ「認定理学療法士」を目指す
理学療法士として病院・介護施設などで働きながら、「認定理学療法士試験」の合格を目指し、より高度な理学療法の知識を身に付ける方法があります。
認定理学療法士は日本理学療法士協会が設けている制度の1つで、協会会員を対象にしています。理学療法士の資格は取得すれば一生ものですが、日々知識・技術を更新していかなければ、高度な施術は提供できません。
認定理学療法士にチャレンジすると、神経理学療法専門分野・運動器理学療法専門分野など、理学療法に必要な知識をより専門的に学べます。合格すれば高度な知識を持っていると証明できるので、将来的な転職にも役立つでしょう。
参考:認定・専門理学療法士制度について|生涯学習|公益社団法人 日本理学療法士協会
管理職としてマネジメントに携わる
理学療法士がキャリアアップを目指すなら、同じ施設で経験を重ねて管理職に昇進し、マネジメント業務に携わる道もあります。ただし、年功序列で昇進が決まるケースが大半なので、同期にライバルが多い場合は簡単ではありません。
実力を認めてもらうには、日頃から責任感を持って働き、人をまとめる能力を周囲にアピールしましょう。人が嫌がる仕事を、率先してやる姿を見せるといった努力も必要です。
管理職になれば昇給の見込みがあり、手当も受け取れます。施設の方針によっても異なりますが、定年後も勤務先を変えずに継続雇用してもらえる可能性があるところもポイントです。
また、管理職を経験すると業界・職種が変わっても強みにできるポータブルスキルの数が増えるので、将来的に異業種転職を考えることになったときの武器になるでしょう。
将来を見据えて就職先をじっくり検討しよう
現在、理学療法士の数が大きく増えてきていますが、少子高齢化が進んでいる日本では今後も理学療法士の需要が伸び続けていくと予想されます。就職先に迷ったときはどんな人を対象にしたいか、将来を見据えてどんなキャリアを積んでいくかも考えて、就職先を選ぶとよいでしょう。
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訪問・通所・回復期など幅広い分野を経験した理学療法士。ブログ「リハウルフ」とYouTube「リハウルフ」などで訪問リハビリや訪問看護、介護保険制度などの情報を発信している。著書に「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」がある。
プロフィール:
https://www.ryosuke-sugiura.com/
ブログ:
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YouTube:
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監修者のコメント
昨今、理学療法士の働く場所は多岐にわたります。多くの分野を経験することは必ず武器になるため、急性期・回復期・生活期(訪問・通所・入所)など様々なステージを経験して自分の好きな分野を探して転職することも私はおすすめです。また、転職が苦手な人は多くのステージが備わっている法人を選ぶこともおすすめします。