障害者雇用では生活できないって本当?制度の概要と対処法をチェック

「障害者雇用では生活できない」という声を、聞いたことがある人もいるかもしれません。障害者雇用の給与は実際、生活できないほど低いのでしょうか?障害者雇用における平均収入や利用できる制度、不安を解消するための具体的な対策をまとめました。

障害者雇用では生活できない?

障害者手帳

(出典) photo-ac.com

障害者雇用で就職した場合、生計は成り立つのでしょうか?具体的な給与の目安と、2種類の障害年金制度について解説します。

もらえる給料の目安をチェック

2018年に実施された「障害者雇用実態調査」によると、障害者雇用で働く人の平均月収は以下の通りでした。

  • 身体障害者:21万5,000円
  • 知的障害者:11万7,000円
  • 精神障害者:12万5,000円

対して、日常生活を送るにあたって毎月出て行くお金の平均額(消費支出)は、2021年の家計調査によれば、単身者世帯で約15万5,000円です。

もちろん職場の給与水準や暮らし方にもよりますが、障害者雇用の収入のみでは、一人暮らしでも生活が苦しくなる可能性があると考えられます。

参考:
平成 30 年度障害者雇用実態調査結果
家計調査 家計収支編 単身世帯 年報 年次 2021年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口

年金が受給できる場合

病気や障害の状態によっては等級が付き、障害厚生年金や障害基礎年金が受け取れます。

障害厚生年金の対象となるのは、障害等級1~3級に該当し、初診日に厚生年金の被保険者だった人です。1・2級なら初診日に国民年金に加入していれば、障害基礎年金の対象になります。

障害厚生年金の受給額は、厚生年金へ加入していたときの平均収入額(平均標準報酬額)・加入期間によって変動します。障害基礎年金の対象外となる3級の場合、最低でも年額58万3,400円の最低保障額が受け取れる決まりです(2023年1月時点)。

障害等級が1・2級に該当していて障害厚生年金の受給要件を満たす場合は、障害基礎年金に障害厚生年金の報酬比例額が上乗せされます。

障害者雇用で働ける状態で1級になる可能性はないため、状態によって3級か2級になると考えましょう。

働きながら障害年金をもらえれば、給与に年金の分をプラスした額が月の総収入となります。ただし、障害の状態や年金が未納だった期間・初診日によっては障害年金に期待できない点に注意しましょう。

参考:
障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構
障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構

企業における障害者雇用の実情

書類を持つビジネスマン

(出典) photo-ac.com

障害者雇用を検討するにあたって、障害者の雇用状況・雇用形態も重要な確認項目です。障害者雇用枠はどの程度設けられるのか、期間の定めなく働けるかなど、気になる疑問を解消していきましょう。

企業の障害者枠の割合

日本の企業は、障害者雇用促進法により、障害者を一定以上雇用することを義務付けられています。

雇用枠を何人分設けるかは、全従業員数に対する割合「法定雇用率」として定められています。2023年1月時点における障害者の法定雇用率は、2.3%です。大まかに計算すると、全従業員数が50人なら障害者枠が1人分、従業員数が100人なら2人分の障害者枠が用意されている計算になります。

障害者1人が2.3%に当たるとすると、全従業員数は43.5人となります。従業員43.5人に満たない企業に、障害者雇用枠の設定は必要ありません。

小規模な会社では障害者雇用枠を設けていなくても、従業員数によっては特に問題がないのです。働きたい企業が決まっている場合は、企業情報から障害者雇用枠の有無を確認しましょう。

参考:
事業主の方へ|厚生労働省
障害者の雇用の促進等に関する法律 第43条第1項 | e-Gov法令検索

雇用形態

2018年度の障害者雇用実態調査によると、障害者雇用において、正社員を含む無期契約で雇用されている人の割合は次の通りです。

  • 身体障害者:52.5%(無期契約49.3%、有期契約3.2%)
  • 知的障害者:19.8%(無期契約8.4%、有期契約1.4%)
  • 精神障害者:25.5%(無期契約25.0%、有期契約0.5%)

全体的に見て、無期雇用の障害者雇用は決して多くありません。理由の1つとして、多くの障害者雇用枠の求人が、アルバイトやパート・契約社員などの有期雇用になることが多い雇用形態からの採用だという点が挙げられます。

たとえ一般雇用であっても、社内の雰囲気・業務内容が合わず、退職するケースは珍しくありません。多くの企業は、障害のある人と業務のマッチング度を測る期間を設けるため、期間を決められる雇用からのスタートで募集をかけます。

参考:平成 30 年度障害者雇用実態調査結果

障害者雇用のメリット・デメリット

人事の打ち合わせ

(出典) photo-ac.com

障害者雇用と一般雇用のどちらがよいかは、心身の状況・考え方によって変わります。より働きやすい雇用形態を選択するために、障害者雇用のメリット・デメリットを確認しましょう。

内定も仕事への配慮も得やすい

障害者雇用の主なメリットは、以下の3点です。

  • 一般枠よりも就職内定を獲得しやすい
  • 業務内容・勤務時間に配慮してもらえる
  • 周囲の理解を得やすい

一般枠で応募した場合、障害をマイナスイメージと捉える企業もあるでしょう。最初から障害があることを前提とした障害者雇用なら、他の応募者とは純粋に能力・経歴で比較されるため、採用の可能性が高まります。

また、障害があると平日も定期的に通院し、必要な処置を受けなければならない人もいます。業務の中には、時間がかかってしまったり、こなすのが難しかったり仕事があるかもしれません。

こうした場面に出くわしたときに、上司・同僚からの理解を得やすいのもメリットです。

担当できる仕事が限られてしまう

障害者雇用の主なデメリットは、以下の3点です。

  • 応募できる仕事の幅が狭い
  • 給与水準が低い
  • 障害を持っていることがバレる

そもそも求人数が少ないため、応募できる職種が限られます。専門性を必要としない仕事であることが多く、理想のビジネスライフを送れないと悩むケースも少なくありません。

また、一般雇用に比べると給与水準が低い傾向にあり、生活に不安を覚える人もいるでしょう。周囲に障害を隠したい人にとっては、障害を持っていると職場の人たちに認識される点もデメリットといえます。

障害に対する「合理的配慮」とは?

合理的配慮とは、障害の有無にかかわらず全ての人に平等な社会を作るために、障害者の前に立ちふさがる社会的な壁を取り除く措置のことです。2016年に障害者雇用促進法に組み込まれました。

例えば、脚に障害を持つ人がラッシュ時に電車通勤しなければいけない状況は、社会的に平等だとはいえません。障害者が困難だと意思表示した場合、企業は勤務時間の変更といった対応を求められます。

ただし、企業に過重な負担がかかる場合は、話し合いにより障害のある人に寄り添った解決方法を探すこととされています。

合理的配慮は採用後にも希望できるため、仕事をする上で困ったことがあれば、相談してみるとよいでしょう。

参考:
合理的配慮指針|厚生労働省
障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律の概要 

「生活できない」に直面する前の対処法

勉強のイメージ

(出典) photo-ac.com

生活に困窮してから経済状況を立て直すのは、とても困難です。障害者雇用でもできるだけ満足のいく収入を得るために、何をすればよいのでしょうか?考えられる対処法を紹介します。

資格・スキルアップで手当を狙う

障害者雇用に限らず、資格取得・スキルの向上は、収入アップを狙うスタンダードな方法です。

手当の対象となっている資格を取れば、それまでの給与に資格手当がプラスされます。難関資格であるほど専門性が高まり、必要な人材として重宝されるでしょう。

重要なのは、自分の業務に関連した資格であることです。仕事をする中で実践経験を積めば、より待遇のよい仕事への転職も夢ではありません。

自分に合った職をしっかり探す

求人情報をピックアップする際には、この先できるだけ長く働くことをイメージできる企業を選びましょう。

障害者雇用があるだけで飛びついてしまうと、就職してから後悔しかねません。仕事内容・収入・環境など多角的に見て、働きたいと思えることが大切です。

求人探しには、スタンバイの利用がおすすめです。キーワード検索を利用すれば、障害者雇用枠のある企業のみを表示でき、その中から比較検討できます。全国の求人が豊富に掲載されているため、積極的に活用しましょう。

スタンバイ|国内最大級の仕事・求人探しサイトなら

非正規雇用の場合は正社員を目指す

現在障害者枠で働いている場合、正社員になることで収入アップが期待できます。正社員になる条件とは、企業に貢献できる人材であることです。

必要スキルやコミュニケーション能力を有していれば、正社員を目指すことも十分可能といえるでしょう。ただ、全ての企業に正規雇用への登用制度があるとは限りません。

能力があれば戦力とみなしてくれるのか、企業の障害者雇用に対するスタンスを確認する必要があります。もし正社員になる道がなければ、転職も検討しましょう。

制度も活用して満足できる仕事探しを

障害者手帳

(出典) photo-ac.com

障害者雇用で生活できるかどうかは、マッチする仕事の労働条件や障害年金を受給できるかなど、人によってさまざまです。障害を抱えながら、大黒柱として家族を養っている人もいます。

ただ、やはり障害がない人と比べると、ぶつかる壁は大きいかもしれません。数々の障壁を乗り越えるには、職場選びや資格取得など、キャリアの組み立て方に工夫が必要です。

障害年金や合理的配慮など社会の制度をフルに活用して、存分に自分のスキル・経験を発揮できる仕事を探しましょう。