保育士の給料が安いのは当たり前だという意見を、耳にするケースがあります。当たり前とされる理由や給料が安い事情を知らないと、他人の言葉に振り回されて嫌な思いをするかもしれません。保育士の給料事情や、実際にいくらもらっているのか解説します。
この記事のポイント
- 保育士の給料が安いのは当たり前?
- 保育所は利益を出すことだけを目的に運営されていないため、一般企業と比較して給料に差が出るのは仕方がないといえる部分もあります。また、公立保育士は地方公務員となるため、業績によって収入が左右されることがなく、保育士が受け取れる額が決まっています。
- 保育士が給料を増やす方法
- 国の制度として「保育士処遇改善等加算II」があります。キャリアアップ研修を修了すれば、保育士の経験やスキルに応じた処遇改善手当が支給される仕組みを確認しておきましょう。
- 保育士の需要の増加と給料の改善
- 保育所の数は年々増加をしており、高い有効求人倍率が維持されています。2015年から段階的に賃金の改善が行われており、社会における保育士の重要性を考えれば、今後も賃金が引き上げられる見込みはあるといえるでしょう。
保育士の給料が安いのは当たり前とされる理由
一生懸命働いているのに、「保育士の給料が安いのは当たり前」と言われると、自分の仕事が軽んじられているようで残念に感じる人は多いはずです。なぜそのように言う人がいるのか、原因を確認しましょう。
特別なスキルが必要ないと思われている
保育士になるには、指定保育士養成施設を卒業するか一定の条件をクリアして保育士試験を受けるかして、国家資格を取得しなければなりません。
保育士が国家資格であることからも分かるように、保育所で働くには専門的な知識やスキルが必要です。
しかし、職業に対する理解が足りない人は、子どもと遊んでいればよい仕事だと誤解してしまう場合があります。このような誤認から、給料が安くて当たり前と思ってしまう人もいるでしょう。
利益を追求して運営されていない
保育所は一般企業とは違って、利益を出すことだけを目的に運営されていません。保育所は、国からの補助金や保護者からの保育料を得て運営しています。
私立の保育所であっても、保育料に違いはありません。ただし、私立の場合は指定された制服や教材など、保育料以外の費用がかかる場合があります。
補助金は税金で賄われるため、過剰に上げると国民生活への負担が増すのに加え、保育料を大幅に上げれば子どもを預けられない家庭が出てきてしまうでしょう。
このような事情から、利益を出すことを目的とした企業と比較して給料に差が出るのは、仕方がないといえる部分もあります。
仕事の重要性が理解されていない
保育士の給料が安いのは当たり前だという人は、仕事の重要性や業務内容を正しく理解できていないと考えられます。保育士がいなければ、子どもを預けられず働きに出られない人が増えてしまうでしょう。
社会的な貢献度の大きさが分かっていれば、給料が安くて当たり前とは軽々しくいえません。実際のところ、保育士の仕事が重要であることから、保育士の賃金改善に向けた取り組みが政策として行われています。
保育士・幼稚園教諭等を対象とした処遇改善は2015年から段階的に行われており、2022年2月から保育士の収入を3%程度(月額9,000円)引き上げる措置が取られました。
社会における保育士の重要性を考えれば、今後も賃金が引き上げられる見込みはあるでしょう。
実際にもらっている給料はいくら?
保育士の給料が安いと声が本当なのか、疑問に思う人もいるはずです。実際にもらっている金額はいくらなのかを確認しましょう。
保育士の平均年収は約382万円
厚生労働省が運営する職業情報提供サイト「job tag」によると、保育士の平均年収は約382万円(2021年の賃金構造基本統計調査より)※です。
2015年に導入された「処遇改善等加算l」によって、保育士の経験年数に応じて賃金が加算されるようになったこともあり、平均年収は上昇傾向にあります。
とはいえ、国税庁が実施した「令和3年分民間給与実態統計調査」を見ると日本の給与所得者の平均給与は約443万円です。現状では給料が安めの仕事といえるでしょう。
※一般的に給料は基本給を指し、諸手当を含めませんが、本記事では諸手当を含めた給与・給与から算出された年収を給料と表しています。
参考:
保育士 - 職業詳細 | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))
給料の安さに不満を持つ保育士は多い
東京都福祉保健局が行った「平成30年度東京都保育士実態調査」によると、保育士の離職理由として「職場の人間関係」が最も多く、全体の33.5%を占めています。
2番目に多い理由に「給料が安い」が挙げられ、割合は全体の約30%です。仕事自体は続けたくても収入が理由で転職せざるを得なかったり、続けていく自信を持てなかったりする人が少なくありません。
次いで「仕事量が多い」「労働時間が長い」を理由に挙げる人が多く、労働条件が厳しく、大変な仕事であることが分かります。
決して簡単な仕事ではない上に給料が安いとなると、仕事へのモチベーションを維持できなくなっても不思議はないでしょう。
参考:平成30年度東京都保育士実態調査結果(報告書)|東京都福祉保健局
保育士の給料が安い理由
保育士の給料が給与所得者全体に比べて安いのには、いくつかの理由があります。なぜ安くなってしまうのか、制度や歴史を踏まえて見ていきましょう。
公定価格が定められているから
保育所で定められる「公定価格」は、子ども1人当たりの教育や保育に必要な費用について、さまざまな要素や事情を総合的に考慮して決められるものです。保育の必要量や地域の事情などを考慮して、国が決定しています。
この費用の中には幼稚園や保育所の職員の人件費も含まれており、施設の裁量や保育士の求めに応じて給料を決められるわけではありません。私立保育園の場合、園の運営状況によっては、保育士の給料が低く設定されてしまうケースもあります。
補助金の額が必ずしも実態に見合っているとはいえず、十分な保育に必要だと思われる数の職員を雇うため、1人当たりの人件費が少なくなってしまう事態に陥る場合もあるのです。
地方公務員の給料には決まりがあるから
公立保育士(公務員保育士)は地方公務員なので、民間企業とは違って収入が業績に左右されることがなく、保育士が受け取れる額が決まっています。
地方公務員は給料表で定められた級と号給によって給料の額が決まり、職種ごとに定められた額が改定されない限り変化はありません。
たくさんの利用者がいて忙しくても、給料が上がるわけではない点を不満に思う人もいるかもしれませんが、景気に左右されず安定した収入を得られる点は魅力でしょう。
歴史的に安く設定されてきたから
保育士の給料が安い理由の1つに、日本の歴史的な背景があります。保育の仕事は子育ての延長のように捉えられてきた歴史があり、専門性について深く考慮されていなかった時代の名残で安く設定されてきたのです。
昨今のように女性も外で働くのが当たり前という状況とは違い、小さな子どもの面倒は母親が家庭内で行うのが当然だとされていた時代もありました。
どの家庭内でも子育てをしているイメージから、保育士は特別な仕事ではないと捉えられ、給料面が伸び悩む一因になったとも考えられます。
保育士が給料を増やす方法
給料が原因で辞めるとまではいかなくても、今よりもっと多くの額が欲しいと思っている保育士は多いでしょう。仕事の大変さに見合う収入を求めるのは、自然なことです。保育士が給料を増やすには、どのような方法があるのでしょうか?
役職に就く
同じ保育所内でキャリアを積んで役職に就けば、給料が上がります。主任や園長になると役職手当が支給され、給料が増えるのです。
公務員保育士でも、職務の難易度や責任・経験年数が上がれば給料は増えます。ベテランになればなるほど、多くの給料をもらえる仕組みです。
役職に就くと、保育士としての経験や知識など求められる要素が増え、責任も重くなります。20年近いキャリアを有するベテランとなって、初めて役職に就くのが一般的です。
例えば主任は、現場の保育士をまとめて園長の補佐を担う、中間管理職のような存在です。園長は保育だけでなく、保育士の人事や経営にも関わらなければなりません。やりがいがある一方で負担も増えます。
園長は園に1人しかいない最高責任者であり、誰もがなれるわけではありません。ただ、現役の保育士を続けていくなら、到達点の1つとして考えておくとよいでしょう。
キャリアアップ研修を受ける
国の制度として「保育士処遇改善等加算II」があり、保育士の専門性を高めるキャリアアップ研修を受けて役職を目指せます。研修を修了すれば、保育士の経験やスキルに応じた処遇改善手当が支給される仕組みです。
これまで、園長と主任しかなかった役職の下に「副主任保育士」「専門リーダー」が設けられ、さらにその下に「職務分野別リーダー」が設置されました。
職務分野別リーダーになれば月額5,000円、副主任保育士や専門リーダーには月額最大4万円が支給されます。
参考:保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージ|厚生労働省
給料が高い保育所に転職する
保育士の仕事が好きなら、少しでも給料が高い保育所に転職してもよいでしょう。保育は人手不足で、多くの選択肢から選びやすい業界です。
働きやすい環境のために有給休暇を取りやすさやボーナスの額などを向上させ、ほかの園との差別化を試みている保育園もあります。
保育園への勤務にこだわりがないなら、ベビーシッターや保育ママ(家庭的保育事業者)など、保育士の資格を生かせる仕事への転職も1つの選択肢です。子どもを預ける場所は保育園だけではないので、より自分に合った働き方も視野に入れましょう。
スタンバイでは、150万件以上(2023年1月16日時点)の保育士の求人情報を取り扱っています。給与やこだわりの条件絞り込んで探せるので、忙しい人の転職にも便利です。
保育士の今後のニーズ
保育士の求人倍率や保育所の数から今後の展望を知ると、どのように働いていくべきかを考える材料になります。保育士の現状と、将来的な需要について見ていきましょう。
保育士の求人倍率は高めをキープ
厚生労働省が公表している保育士の有効求人倍率の推移(全国)を見ると、2019年は3.86倍、2020年は2.94倍、2021年は2.93倍と高い数値となっています。
2022年7月時点では2.21倍と高い数値で、1人の保育士志望者につき2件以上の求人がある計算です。
前年の年平均よりは下がっていますが、2022年7月時点の全職種平均は1.26倍のため、ほかの職種に比べて人手不足が顕著といえるでしょう。今後も高い水準をキープし続けると考えられます。
保育所の需要は増している
保育士が働く保育所の数も、年々増加している傾向です。2023年4月にこども家庭庁が取りまとめた「保育所等関連状況取りまとめ」の保育所等数の推移を見ると、保育所の数は右肩上がりに伸びていると分かります。
2015年時点での保育所等数は、特定地域型保育事業・幼稚園型認定こども園等・幼保連携型認定こども園・保育所を合わせて2万8,783カ所でした。
2023年には計3万9,589カ所に増えており、増え続ける保育所で働く保育士も、高いニーズを維持し続けていることが見て取れます。
参考:保育所等関連状況取りまとめ(令和5年4月1日)及び「新子育て安心プラン」集計結果を公表|こども家庭庁
保育士の給料は改善されつつある
日本の給与所得者全体の平均と比較すると、保育士の給料は安めです。しかし、国の取り組みによって次第に改善されつつあります。保育士の給料が安いのは当たり前と言われた時代が過去のものになる日が、近い将来に訪れるかもしれません。
保育士は、次の時代を担う子どもを育てる重要な役割を持つ職業です。高い有効求人倍率が維持され保育所の数も増えていることから、今後も高い需要が見込まれます。
現在の給料に満足できない人は、キャリアアップ研修制度を受けて給料を増やす方法や、待遇がよい施設への転職も視野に入れましょう。