さまざまな機器を扱い、患者さんの検査や治療に携わる診療放射線技師は、医療現場を支える重要な職業です。医療従事者の仕事の中でも収入が高い部類に入りますが、より高い収入を目指すために転職を考える人もいるのではないでしょうか。
この記事では、給料の相場や収入を上げるコツ、転職する際に知っておいた方がよいポイントについて解説します。
診療放射線技師の給料の相場
診療放射線技師の給料の相場に関して、総務省による最新の「賃金構造基本統計調査」から算出した金額を紹介します。
※一般的に「給料」とは基本給を指しており、諸手当を含まないものですが、本記事では諸手当を含めた給与を給料としています。
※賃金構造基本統計調査のデータは、企業規模計(10人以上)のものを使用しています。
※紹介する年収(年間の給料)は、賃金構造基本統計調査の「きまって支給する現金給与額」の12カ月分と「年間賞与その他特別給与額」を合計した金額です。
全国平均よりも高め
総務省が発表している2022年の賃金構造基本統計調査によると、診療放射線技師の平均年収は約543,7万円に上ります。これを国税庁が公表している2022年の日本国内の全職種平均年収458万円と比較すると、約100万円ほど高い年収を得ていることがわかりました。このデータは、転職を考える際に重要です。
参考:職業情報提供サイトjobtag「診療放射線技師」|厚生労働省
職場やスキルによっても差が出る
放射線技師が活躍できる職場は、医療機関だけではありません。病院やクリニックで勤務している人が多いものの、中には医療機器メーカーをはじめとした民間企業で働くケースもあります。
放射線技師は国家資格が必要な職業であり、資格を得るためにも放射線に関する正しい知識が必要です。習得した知識を生かして原子力工業の分野で働く人もおり、職場によっても給料は異なります。
また、認定技師制度など、各業務のスペシャリストになる道もあります。施設によっては給料に反映してもらえるところもあります。働く場所やスキルの差により、給料に違いが出てくることを知っておきましょう。
医療系の仕事の中でも高収入
2022年の賃金構造基本統計調査によれば、診療放射線技師の給料は医師、歯科医師、薬剤師に次いで、医療職の中で非常に高い水準にあります。以下は、各職種の平均年収を示す表です。
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医師:1,428,9万円
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歯科医師:810,4万円
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薬剤師:583,4万円
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診療放射線技師:543,7万円
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臨床検査技師:508,9万円
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看護師:508,1万円
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理学療法士:430,7万円
これらのデータから、診療放射線技師が医療従事者の中でも比較的高い給料を期待できる職種であることが分かります。
条件によっても給料が変わる
診療放射線技師の給料は、勤務先の病院の規模や勤務年数など、さまざまな要因によって大きく変わることがあります。ここでは、これらの条件が給料にどのように影響を与えるかを、具体的なデータや例を交えて比較します。
病院の規模による違い
2022年の賃金構造基本統計調査によると、診療放射線技師の給料は、勤務する医療機関の規模によっても大きく変わることが明らかになっています。以下に、異なる規模の医療機関での診療放射線技師の平均給与を示します。
企業規模 | きまって支給する現金給与額 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収 |
---|---|---|---|
10〜99人 |
約36,2万円 |
約72,5万円 |
約506,9万円 |
100〜999人 |
約36,3万円 |
約94,1万円 |
約529,7万円 |
1000人以上 |
約37,9万円 |
約120万円 |
約574,8万円 |
このデータから、より大きな医療機関で働くほど月給・年間賞与および特別給与が増加し、それに伴い年収も高くなる傾向にあることが分かります。しかし、大きな医療機関が必ずしも給料が高いとは限らず、転職を検討する際には収入面だけでなく、職場環境やキャリアの展望も考慮することが重要です。
年齢による違い
2022年の賃金構造基本統計調査によれば、診療放射線技師の給料は年齢とともに上昇する傾向にあります。
年齢 | きまって支給する現金給与額 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収 |
---|---|---|---|
20~24歳 |
約24,1万円 |
約25,8万円 |
約315万円 |
25~29歳 |
約26,0万円 |
約46,5万円 |
約358,5万円 |
30~34歳 |
約24,9万円 |
約41,9万円 |
約340,7万円 |
35~39歳 |
約29,0万円 |
約52,9万円 |
約400,9万円 |
40~44歳 |
約28,8万円 |
約61,7万円 |
約407,3万円 |
45~49歳 |
約30,4万円 |
約66,2万円 |
約431万円 |
50~54歳 |
約30,1万 |
約77,7万円 |
約438,9万円 |
55~59歳 |
約32,8万円 |
約72,4万円 |
約466万円 |
60~64歳 |
約29,6円 |
約57,4万円 |
約412,6万円 |
65~69歳 |
約26,6万円 |
約51,4万円 |
約370,6万円 |
70歳~ |
約26,4万円 |
約33,1万円 |
約349,9万円 |
このデータから分かるのは、20代初頭から収入は徐々に増加し、55~59歳でピークを迎えます。年齢が上がると同時に経験年数も増え、それに伴いスキルアップが見込まれるため、給料の増加が見られるのは自然な流れでしょう。
参考:職種(小分類)、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
施設規模ごとの労働時間もチェック
2022年の賃金構造基本統計調査から得られたデータに基づき、診療放射線技師の労働時間が施設の規模によってどのように異なるのかを以下に示します。
施設規模 | 所定内実労働時間数 | 超実労働時間数 |
---|---|---|
10〜99人 |
164時間 |
4時間 |
100〜999人 |
163時間 |
7時間 |
1000人以上 | 162時間 |
12時間 |
このデータから、より大きな医療機関で働く場合、超過労働時間が増える傾向にあることを示しています。小規模施設では、より規則正しい勤務時間が期待でき、休日出勤の可能性も少ないですが、大規模施設では夜勤や休日出勤が発生しやすいことがわかります。
診療放射線技師として働き方を選択する際、職場の規模が労働時間に影響することを考慮しましょう。
診療放射線技師が給料を上げるには?
診療放射線技師は比較的高収入を見込める職業ですが、現在よりも給料をさらに上げたいと思う人も多いでしょう。ここでは、給料を上げ、キャリアをさらに発展させるための重要なポイントをいくつか紹介します。
働き方を見直してみる
給料を上げるためには、より良い待遇を提供する職場を探してみるのも1つの方法です。とくに、大規模施設の医療機関では放射線技師の給与水準が他の施設よりも高い傾向があります。しかし、小規模の医療機関でも診療放射線技師が1人しかいない施設では、さまざまな業務への対応が求められる分、給料が高くなる場合もあります。病院の求人に目を向け、条件を慎重に評価することも重要です。
また、現職場において給与アップを目指す場合、勤務形態の変更を考えてみるのも一つの方法です。とくに夜勤や残業が多い勤務は、手当の増加により収入アップにつながります。深夜勤務を積極的に引き受けることで、短期間での給与アップを実現することが可能です。
収入を増やすためには、転職市場での機会を探ること、現在の働き方を見直すことの両方が有効です。自身のキャリア目標とライフスタイルに合った選択を行い、理想の収入と働き方を実現しましょう。
スキルアップに取り組む
診療放射線技師としてスキルアップに取り組む効果的な方法は、資格取得と継続的な学習です。業務の範囲を広げ、専門知識を深めることで、より多くの機会を引き寄せられます。
認定資格の取得
特定の業務に関する認定制度を通じて専門性を証明する資格を取得することは、専門技術者としての地位を確立するために不可欠です。これらの資格は、専門職としての評価を高め、給与アップに直結します。
高等教育の追求
専門学校を卒業した後でも、大学にて学び直すことも価値があります。とくに最近は社会人入学を支援する大学も増えてきています。通信講座を活用することで、勤務を続けながら学び直すことも可能です。
複数資格の取得
複数の資格を持つことで業務の範囲を広げ、より多様な職務に対応できるようになります。これは、給料の交渉や転職の際に有利なポイントとなり得ます。
日々の業務を通じて経験を積みながら、資格取得や学位の追求を行うことで、あなたの専門性は確実に評価され、給与アップにつながる可能性が高まります。
今の職場で昇給を目指す
2022年の賃金構造基本統計調査によると、診療放射線技師の給与は勤続年数が長くなるにつれて増加する傾向にあります。
勤続年数 | 所定内給与額 | 年間賞与その他特別給与 | 年収 |
---|---|---|---|
0年 |
25,9万円 |
26,8万円 |
337,6万円 |
1〜4年 |
25,7万円 |
67,3万円 |
375,7万円 |
5〜9年 |
28,6万円 |
84,7万円 |
427,9万円 |
10〜14年 |
30,5万円 |
100,6万円 |
466,6万円 |
15年以上 |
39,1万円 |
125,3万円 |
594,5万円 |
上記のデータから、勤続年数が増えるにつれて、基本給だけでなく、ボーナスや特別給与額も増加し、経験の積み重ねが昇進や年収アップにつながることがわかります。
同じ職場で昇給を目指す場合、積極的にリーダーシップを発揮し、職場内での責任ある役割を担うことも重要です。組織内での評価を高めることで、昇給や昇進の可能性を高められるでしょう。
参考:職種(小分類)、年齢階級、経験年数階級別所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
診療放射線技師が転職するときのポイント
診療放射線技師としての転職は、キャリアと収入の両方において大きなステップアップとなることが多いでしょう。しかし、転職活動には予期せぬ落とし穴も。成功へと導くために、とくに注意すべきポイントについて解説します。
望む働き方や待遇を明確にする
診療放射線技師の働き方には、正社員だけでなく、パートやアルバイトなどさまざまな雇用形態があります。とくに、特定の期間だけ働くアルバイトや、マンモグラフィなどの検診業務は、時給が高く設定されている場合もあります。
求人により労働条件や待遇は大きく変わるため、はっきりと希望条件が決まっていないまま転職に踏み切ると、後悔する事態になりかねません。これを避けるためには、次のステップが有効です。
明確な目標の設定
自分が望む働き方や待遇、雇用形態、労働時間、そして給料の最低条件をリストアップします。
情報の収集と分析
応募する職場の労働条件や待遇を詳細に調べ、自分の希望と比較します。
絞り込みと選択
条件に合致する職場のみを選び、応募範囲を絞り込みます。
自分の希望が明確であればあるほど、転職先選びはより簡単になり、後悔のリスクを最小限に抑えることができます。理想の働き方と待遇を実現するためには、自己分析と市場調査を丁寧に行うことが鍵となります。
民間企業にも目を向けてみる
転職を考える際は、医療機関だけが選択肢ではありません。医療機器メーカーや関連する民間企業への就職も1つの方法です。
医療機器メーカーでは、放射線技術の知識を活かし、製品開発やセールス、技術サポートなど多岐にわたる働き方があります。直接患者さんと接することは少ないですが、医療現場に貢献する重要な役割です。
医療機関だけでなく、民間企業への転職も積極的に検討することで、新たな可能性を見つけられるでしょう。
経験・スキルの棚卸しをしておく
転職活動を始める前に、自身の経験とスキルを明確にしておきましょう。適切な自己分析を行わないと、履歴書や面接での自己PRが不十分になる恐れがあります。対策として、以下に3つのポイントを紹介します。
経験とスキルのリストアップ
まずは、これまでに培ってきた技術や知識、実務経験を紙に書き出しましょう。具体的な業務内容、取得した資格や受講した研修など、自分の経歴を詳細に振り返ることから始めます。
キャリアの目標設定
次に、未来のキャリアで実現したいことを具体的に思い描きます。どのような分野で活躍したいのか、働く時間と休みのバランスをどのようにしたいのかを考え、それを達成するためにどのようにしたら良いのかを洗い出します。
強みの明確化
自分の強みとなるスキルや経験を特定し、効果的にアピールできるかを考えましょう。例えば、マンモグラフィなどの特定の認定資格など、他の候補者と差別化できる点は前面に出しましょう。
自己分析を通じて自分の強みやキャリア目標が明確になれば、転職活動中の自己PRに役立ちます。また、これらをすることで、次のステップに進むための自信と方向性が明確になります。
忙しい人は転職サイト・求人サイトを活用する
転職をしたくても現在の仕事が多忙で、時間が取れない人も多いのではないでしょうか。忙しいなかでも効率的に転職活動を進めたいなら、求人を検索できるサイトの活用がおすすめです。
転職エージェントだと、時間を作って面談に対応する必要があります。自力で求人を見つけられる転職サイトは、自分の都合に合わせて進められるのが便利なポイントです。
転職におすすめの求人サイト・スタンバイには、放射線技師の求人が豊富にそろっています。ウェブ上にある求人を網羅しているため、希望に合った職場を見つけやすいでしょう。
給料も踏まえて診療放射線技師のキャリアを考えよう
診療放射線技師には、さまざまな働き方やスキルアップの道があります。
専門的な知識が評価されて高めの給料を得られる点も、診療放射線技師として働く魅力として挙げられます。長く働くほどにスキルが向上したり昇進できたりして、給料も上がっていくのは他の仕事と同様です。
さらなる年収アップを目指したいなら、より待遇のよい職場への転職も考えてみましょう。スタンバイのような転職サイトを利用して、働きながら自分のペースで転職活動を進めてみてはいかがでしょうか。
診療放射線技師×医療ライター。地域基幹病院、健診センターに20年の勤務経験あり。現在も診療放射線技師の職を継続しながら、医療分野に特化したライターとして活動中。これまでに、クリニックや企業サイトに掲載する医療記事、医師や製品開発者へのインタビュー記事などの執筆実績がある。
公式サイト:
https://oswrite.com
監修者のコメント
近年、タスク・シフト/シェアによる新たなスキル習得が、職場内での価値提供に繋がっています。そのなかには、造影剤使用検査やRI検査での、静脈路確保や抜針及び止血業務を行えるようになりました。これらのスキルは、医師や看護師の負担軽減に貢献でき、職種間の協力を促進し、現場の効率化を実現しています。このように一定の研修を経て仕事の範囲を広げることは、転職市場および施設内での自身の付加価値と影響力を高める機会になるでしょう。