退職金の計算方法は?基本的な仕組みや相場、税金についても解説

退職金は勤続年数や退職の理由などにより、金額が変動します。退職金の基本的な仕組みや相場を理解した上で、将来どれぐらいの退職金をもらえるのか、自分なりに計算してみましょう。退職金の計算方法と増減要因、退職金にかかる税金について解説します。

退職金の基本的な仕組み

退職金の規定

(出典) pixta.jp

退職金は、勤めていた企業を退職する際にもらえる報酬です。退職金をもらうには、一定期間企業に所属している必要がありますが、具体的な支給条件は企業によって異なります。まずは、退職金制度の概要から確認していきましょう。

退職金制度の基礎知識

退職の際、それまで勤めてきた企業から支払われる報酬が退職金であり、退職手当と呼ばれる場合もあります。退職金制度の具体的な内容や決まりは、企業ごとに異なりますが、一般的にはその企業に長く勤めるほど、もらえる退職金が増える仕組みです。

また、具体的な支給条件も企業が任意に決めることが可能で、法的な決まりはありません。したがって、自分のもらえる退職金が気になる人は、まず所属企業の就業規則を確認しましょう。

退職金の受け取り方法

退職金を受け取る方法としては、実際に退職する際に「退職一時金」として一括で受け取る方法と、年金として分割して一定額を受け取る方法、さらに一部を退職時に受け取り、残りを年金として受け取る方法の3つのパターンがあります。

ただし、どの企業でも自由に選べるわけではなく、受け取り方法は企業ごとに規定されており、一括での受け取りしかできない場合も少なくありません。所属企業の退職金の受け取り方法に関しても、規定をよく確認しておきましょう。

なお、退職一時金と年金を併用できる場合でも、金額の割合は企業の規定によって異なります。

退職金の主な種類

一言で「退職金」といっても、以下のような種類があります。

  • 退職一時金:退職時にまとめて一時金として支給されるタイプ
  • 退職金共済:企業が外部に積み立てる退職金で、原則として退職時にまとめて支給されるが、年金タイプと併用されるケースもある
  • 確定給付年金(DB):退職時に給付される年金額が決まっているタイプで、退職一時金タイプか年金タイプ、あるいはこれらの併用も可能
  • 確定拠出年金(DC):社員自身が現役中に積み立てておくタイプの退職金で、退職一時金タイプか年金タイプ、あるいはこれらの併用も可能

退職一時金は、社員の勤続年数や基本給などで退職金の額が決まります。一方、退職金共済や確定給付年金、確定拠出年金は社員の勤続年数や掛け金の額などにより、最終的な退職金の額が決まるタイプです。

退職金の金額に影響を与える要素

退職者に支給される退職金の額は、企業によって異なります。ただし、それに加えて社員の勤続年数や退職の理由などによって、金額が大きく変動するのが実情です。

長く勤め上げるほど退職金の額が大きくなり、さらに基本給や役職、人事評価などによっても、金額が増減します。また、自己都合での退職と会社都合の退職とでは、後者の方が退職金の額が大きくなるのが一般的です。

倒産や業績の悪化により、企業側の都合で社員をリストラするといった場合は、社員の意思にかかわらず退職を強いる形になるでしょう。そのため、社員が自ら辞めるよりも退職金が上乗せされる傾向があります。

【条件別】退職金の相場

退職金のイメージ

(出典) pixta.jp

退職の条件別に、支給される退職金の相場を紹介します。実際に支給される金額は企業によって異なりますが、定年まで勤めた場合や自己都合退職の場合、あるいは会社都合での退職のケースなど、条件によってどれぐらい退職金の額が変動するか確認しましょう。

定年まで勤めて退職した場合

厚生労働省の資料によると、大学卒業後に入社し、定年まで勤め上げた場合の退職金の平均額は約2,230万円(満勤勤続)で、高卒の場合は約2,018万円です。また、勤続35年のケースでは、大卒で約1,903万円、高卒は約1,746万円とされています。

これは全体の平均値ですが、企業の規模によっても退職金の額は異なり、一般的に大企業の方が給付される退職金の額が大きくなります。

出典:厚生労働省資料(P6)

自己都合で途中退職した場合

同じ資料によれば、自己都合により途中退職した場合の退職金の平均額は、約447万円です。定年まで勤続せず自己都合で退職する場合は、勤続年数により退職金が大きく変動します。

全体の平均は約447万円ですが、勤続年数が30年を超える人が退職する際には、2,000万円程度の退職金を得られる場合も珍しくありません。逆に、数年で自己都合退職をする場合、数十万円程度の退職金になる可能性もあります。

さらに会社ごとの規定に該当しなければ、退職金をもらえないという可能性もあるでしょう。

出典:厚生労働省資料(P6)

会社都合で退職に至った場合

倒産やリストラなど企業側の都合で退職に至った場合、自己都合による退職よりも退職金の額が大きくなる傾向にあります。

上記の資料によると、会社都合の退職金の平均額は約1,197万円です。自己都合退職と同様に、原則として勤続年数が長いほど、給付される退職金の額も大きくなります。

勤続年数が30年を超えるケースでは2,000万円を超える可能性もあり、20年の場合は950万円程度が相場となっています。業界によって退職金の相場は異なるので、気になる人は、所属企業の業界の相場も調べてみるとよいでしょう。

公務員の退職金の相場は?

公務員の場合は、勤続1年から退職金をもらえるのが特徴です。内閣官房内閣人事局の資料によれば、常勤公務員の退職金の平均支給額は、定年まで勤めた場合は約2,106万円です。

一方、自己都合退職の場合の平均額は約274万円となっています。公務員の場合は会社都合の退職はありませんが、全体の平均を見る限り、ほぼ一般企業と同水準の金額といえるでしょう。

出典:退職手当の支給状況|内閣官房内閣人事局

退職金を得られるタイミング

退職届を差し出す手元

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前述の通り、退職金には退職時に一時金として給付されるタイプと、年金として受け取るタイプ、さらに両者が併用されるタイプがあります。

退職時に一括で受け取る一時金の場合、給付されるタイミングはいつなのでしょうか?

退職して1~3カ月後が一般的

退職金に関する規定は企業が任意に決められるので、一時金として退職金が給付される具体的なタイミングも、企業によって異なります。

受給資格のある社員の退職後、早ければ数週間で給付される企業もあれば、実際に退職金が支払われるまで、半年程度の期間を要するケースもあります。ただし、一般的には社員の退職後、1〜3カ月程度で給付される企業がほとんどです。

給付のタイミングについて就業規則で規定している企業も多いので、確認してみるとよいでしょう。

退職金の計算方法

電卓を差し出すスーツの男性

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実際に給付される退職金は、勤続年数や基本給、役職などによって変動しますが、将来給付される退職金の額がどれぐらいになるのか、知っておきたい人もいるでしょう。退職金の代表的な計算方法を解説します。

定額方式

定額方式は、社員の勤続年数をベースに、退職金を算出するという最もシンプルな方法です。勤続年数がダイレクトに金額に反映されるのが特徴で、仕事の成果やポジション、企業への貢献度などの要素は考慮されません。

単純に長くその企業に勤めているほど、給付される退職金の額は大きくなります。金額の算定基準は企業ごとに異なるので、確認が必要です。

基本給連動方式

社員の勤続年数に加えて、退職する時点での基本給や退職に至った理由などを考慮して、退職金を算出する方法です。最も多くの企業に採用されている退職金の算出方法で、一般的に以下の計算式で退職金が算出されます。

  • 退職金=社員の退職時の基本給×勤続年数による支給率(年数により変動)×退職理由(係数)

支給率や、退職理由をもとにした係数(退職事由係数)の具体的な数値は、企業によって異なります。例えば、支給率が8.0(勤続年数20年)で退職事由係数が0.8というケースでは、基本給50万円の社員の退職金は「50万円×8.0×0.8」で「320万円」です。

別テーブル方式

別テーブル方式は、社員の役職や立場に応じて、計算の基準となる金額を定める方法です。基礎となる金額には、勤続年数や退職理由も加味されます。

計算式は基本給連動方式と似ていますが、次のようにベースとなる金額(基礎金額)が、社員の役職や等級により変動するのが特徴です。

  • 退職金=基礎金額(社員の役職や立場に応じて変動)×勤続年数による支給率(年数により変動)×退職理由(係数)

社員の基本給でなく、社内での役割に応じて退職金の額を決めたい場合に利用できる方式です。ただし、昇進して等級の上がった社員が有利になるので、等級の低い社員が不満を抱える可能性があります。

ポイント方式

社員に付与したポイントをベースとして、退職金の額を計算する方法です。社員のこれまでの働きや勤続年数などに応じてポイントを付与し、次のような計算式で金額を算出します。

  • 退職金=付与ポイント×ポイント単価×退職理由(係数)

何をポイントの要素にするかは企業によって異なりますが、一般的には勤続年数や役職、組織への貢献度などに応じてポイントを付与します。

社員それぞれの事情や、独自の基準によって退職金の額を決められるのが特徴で、うまく制度設計ができれば、社員のモチベーションアップにもつながるでしょう。

退職金が増減するケースは?

パソコンを見ている男性

(出典) pixta.jp

上記の通り、退職金の額は基本給や勤続年数、役職、組織への貢献度などの要素に応じて算出されますが、それ以外にも以下の事由によって増減するケースがあります。

希望退職を受け入れる場合

業績の悪化や、一部の事業からの撤退などを理由として、社員に希望退職を募る企業は珍しくありません。希望退職に応じた社員は、退職金の額が増えるケースがあります。

一般的に、自己都合での退職に比べて、会社都合の退職の場合には退職金が高くなる傾向にあります。その上、さらに希望退職に応じた場合、金額が上乗せされる可能性があるわけです。交渉の結果、金額が増加する場合もあります。

退職金が減ってしまう場合

基本的に勤続年数が長ければ、退職時に給付される退職金の額も大きくなります。しかし、途中で出産や育児、病気などによって長期休職した場合、その期間分は勤続年数に含まれず、退職金の額が減ってしまう可能性があるでしょう。

出産や育児による休業を勤続年数にカウントするかどうかは、企業によって考え方が異なるので、事前に確認しておくとよいでしょう。ほかにも退職金の額に影響を与える要素がないか、よく調べておく必要があります。

退職金にかかる税金は?

電卓で計算する手元

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退職金として給付された金銭に対しては、税金がかかるので注意が必要です。退職金に課される税金の種類や、控除額の計算方法などを解説します。

他の所得とは別枠で課税される

退職金による所得には税金がかかり、退職一時金として一括で給付される場合、申告分離課税の対象です。他の所得とは別枠で税金の計算が求められますが、企業が源泉徴収をするので、社員自らが確定申告を行う必要はありません。

なお、年金として毎年一定額を受け取る場合は総合課税となり、他の所得と合算した金額に対して、一定の税率で課税されます。

退職所得控除と計算方法

退職金は課税対象ですが、一定の優遇措置を受けられるようになっており、退職所得の受給に関する申告書を提出することで、一定額の控除が可能です。具体的な控除額の計算方法は次の通りで、当該社員の勤続年数によって計算式が異なります。

  • 社員の勤続年数が20年以下の場合:40万円×勤続年数(最低額は80万円)
  • 社員の勤続年数が20年超の場合:800万円+70万円×(勤続年数-20年)

例えば、勤続年数が10年で退職金が600万円の社員の場合、退職所得控除は400万円となります。

  • 退職所得の金額=(源泉徴収前の収入金額-退職所得控除額)×1/2

上記の計算式に当てはめると、実際に課税される退職所得は100万円です。

税制改正による変更点

税制改正によって、2022年から退職所得金額の計算方法が一部変更されているので、ここで簡単に確認しておきましょう。

まず、退職金の課税対象となる所得(退職所得金額)は、上述したように退職所得の金額=(源泉徴収前の収入金額-退職所得控除額)×1/2で算出されます。

この値に金額に応じた税率を掛けることで、納めるべき所得税の額が決まるわけです。しかし、勤続年数が5年以下の企業役員に対しては、課税所得を1/2にできないというルールになっています。

さらに2022年の改正により、勤続年数が5年以下の一般社員に対しても、退職所得控除差引後の課税所得金額が300万円を超える場合には、この「1/2ルール」が適用できなくなりました。

所得税の計算のベースとなる課税所得金額を半分にできないため、より多くの税金を納付しなければならないルール変更です。

ただし、そもそも勤続年数が5年以下で300万円超の退職金を受け取れる人は、それほど多くはないでしょう。

また、勤続年数が5年以下で、退職所得控除差引後の金額が300万円以下の一般社員や、勤続年数が5年超の社員(役員含む)は、従来通り「1/2ルール」が適用されるので、税制改正による影響は限定的といえます。

参考:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁

退職金に関するQ&A

札束

(出典) pixta.jp

退職金の給付に関して、よくある質問・疑問に回答します。自分が働いている企業に退職金制度があるか確認するとともに、もし退職金がもらえない場合の対処法を知っておきましょう。

どの企業でも退職金は発生する?

退職金制度は企業が任意に導入するものであり、すべての企業で退職金がもらえるわけではありません。

そもそも企業に退職金制度を導入する法的義務はなく、制度の内容も企業が独自に決められます。事実、他の企業に比べて多くの退職金をもらえるところがある一方で、まったく退職金をもらえない企業もあるのです。

所属している企業が退職金制度を導入しているか、どういった制度設計になっているかは、就業規則に記載されている場合が多いので、自分で確認しましょう。

退職金をもらえない場合はどうする?

退職金を支払う規定になっているにもかかわらず、退職金が支払われない場合は、就業規則に記載されている条件を調べた上で、担当部署に確認しましょう。手続き上の単純なミスによって、退職金が支払われていない可能性も考えられます。

しかし就業規則に退職金を支払う旨の記載があっても、企業が退職金を支払わない場合は、法律に基づいた請求が可能です。

労働基準法では、就業規則に退職金の支払規定がある場合、退職金を支払っていない企業は、社員の請求から7日以内に支払わなければならないルールになっています。もし法律に基づいて請求しても支払われなければ、労働基準監督署に相談しましょう。

退職金の基本と計算方法を知っておこう

退職のイメージ

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退職金の有無や計算方法、算出基準は企業によって異なります。所属企業の就業規則を確認し、退職金の支払規定がどうなっているかチェックしましょう。退職金の算出方法が分かれば、将来受け取れる金額をある程度は推測できます。

転職を考えている人は、興味のある業界の退職金の相場を調べてみるとよいでしょう。転職先で長く働くつもりなのであれば、退職金も企業選択における重要な基準となります。