源泉徴収票は、年間の給与額や所得税額などが記された重要な書類です。アルバイトやパートなど、正社員以外にも発行されるのでしょうか?発行のタイミングや発行してもらえなかった場合の対処法、源泉徴収票の見方などを詳しく解説します。
アルバイトでも源泉徴収票は発行される?
源泉徴収票とは、1年間(1月1日~12月31日)に勤め先から支払われた給与・賞与などの総額と、納めた所得税の金額を記載した書類です。仕事の対価として給与を支払われる給与所得者の場合、毎月の給与から所得税が天引き(源泉徴収)されています。
源泉徴収票はアルバイトにも発行されるのでしょうか?
源泉徴収票の発行は勤め先の義務
「源泉徴収票がもらえるのは、会社勤めをしている社員だけ」と思っている人もいるようですが、雇用形態に関係なく発行されます。
給与を支払う事業主は、フルタイムで働く正社員はもちろん、パート・アルバイト・派遣社員・契約社員などの非正規雇用で雇っている人に対しても、源泉徴収票を発行しなければなりません。
所得税法226条には、給与を支払う事業者は従業員に対し、源泉徴収票を交付する義務がある旨が記載されています。
年収103万円以下のアルバイトも対象
アルバイト収入が年間103万円以下で、かつほかに収入がない場合は、所得税はかかりません。アルバイトを含む給与所得者には、最低55万円の給与所得控除、48万円の基礎控除があり、収入金額の合計が103万円以下であれば、所得税の計算のベースとなる課税所得は0円です。
- 年収103万円-給与所得控除額55万円-所得税の基礎控除額48万円=0円
源泉徴収票は、源泉徴収されている人だけに発行されるわけではありません。年間収入と所得税の納税金額を証明するための書類なので、所得税が0円のアルバイトも発行の対象です。
参考:No.1800 パート収入はいくらまで所得税がかからないか|国税庁
アルバイトの源泉徴収票はいつもらえる?
会社員の場合、年末調整を行った後に源泉徴収票が発行されるのが一般的です。アルバイトの源泉徴収票は、いつもらえるのでしょうか?
年末調整を行った後
源泉徴収票は、1年間に得た収入と納付した所得税額を記載した書類です。そのため、年間の収入と所得税額が確定し、年末調整が終了した後に発行されるのが基本です。
年末調整とは、所得税の過不足を計算して精算する手続きで、10月下旬から従業員への配布が始まり、11~12月にかけて行われるケースが一般的です。源泉徴収票の発行時期について、所得税法第226条では以下のように定められています。
財務省令で定めるところにより、その年において支払の確定した給与等について、その給与等の支払を受ける者の各人別に源泉徴収票二通を作成し、その年の翌年一月三十一日まで(年の中途において退職した居住者については、その退職の日以後一月以内)に、一通を税務署長に提出し、他の一通を給与等の支払を受ける者に交付しなければならない。
翌年の1月31日までに源泉徴収票が発行されなければ、アルバイトの勤務先に確認を取りましょう。
退職の日以後の1カ月以内
年の途中でアルバイトを辞めた場合は、「退職日以後の1カ月以内」に発行されます。例えば離職日が4月10日であれば、5月10日までには手元に届くはずです。
正当な理由がなく、交付期限を過ぎても源泉徴収票を交付しない事業者は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されるケースがあります(所得税法第242条)。
交付期限が近くなっても、アルバイト先から源泉徴収票が届かない場合は、担当者に連絡して発行を促しましょう。
源泉徴収票が必要なシーンは?
アルバイトが源泉徴収票を必要とするのは、「年の途中で転職した場合」と「確定申告をする場合」の2パターンに区別できます。手続きに支障が出ないように、アルバイト先からもらった源泉徴収票は、きちんと保管しておきましょう。
年の途中で転職した場合
以下のように年の途中で転職した場合は、前職でもらった源泉徴収票を転職先に提出する必要があります。
- 年の途中でアルバイトを辞め、年内に正社員として他社に入社した
- 年の途中でアルバイトを辞め、年内に別のアルバイトを始めた
年の途中でアルバイトを辞めると、その勤務先では年末調整が行われません。転職先では、アルバイト期間の収入を含めて年末調整を行います。
なお、年の途中でアルバイトを辞め、その年内に転職をしなかった場合は、源泉徴収票に基づき自分で確定申告を行うのがルールです。
確定申告を行う場合
確定申告とは、年間の所得から納税すべき所得税を割り出し、税務署に申告をする手続きです。個人事業主は、自分で所得税額を計算し、翌年の2月16日~3月15日に税務署に申告・納税するのが原則です。
税法上では、アルバイトは会社員と同じ「給与所得者」に区分されます。毎月の給与から所得税が天引きされるため、基本的には確定申告の必要はありません。
ただし、年末調整が行われなかった人や一定の条件に当てはまる人は、確定申告が必要です。場合によっては、納めすぎていた所得税が還付される可能性があります。
アルバイトでも確定申告が必要な人は?
アルバイトでも確定申告が必要な人は、主に「アルバイトの掛け持ちをしている人」や「所得税の還付を受けたい人」です。確定申告をする理由と手続きの留意点を解説します。
複数のアルバイトに従事している人
アルバイトを掛け持ちしている人は、確定申告が必要です。ここでは、勤務時間が長く、かつ支払われる給与の多いアルバイト先からの給与を「主たる給与」、その他を「従たる給与」と表現します。
2カ所以上から給与が支払われている場合、主たる給与の事業者に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出し、年末調整をしてもらうのが原則です。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、1カ所にしか提出ができません。アルバイトを掛け持ちしている場合、従たる給与の事業所では年末調整が行われないため、すべてのアルバイト先から源泉徴収票をもらい、自分で確定申告をする必要があります。
参考:No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収|国税庁
[手続名]給与所得者の扶養控除等の(異動)申告|国税庁
払いすぎた税金の還付を受けたい人
確定申告をすると、払いすぎた税金の還付が受けられる場合があります。
毎月の給与から源泉徴収されている所得税は、あくまでも概算での金額にすぎません。そのため、各事業所では、年間の給与の支払いを終えた年末に年末調整を行い、所得税の過不足を精算しているのです。
年末調整を受けるには、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書をアルバイト先に提出する必要があります。提出を忘れると年末調整が受けられず、人によっては所得税の払いすぎが生じます。
源泉徴収が行われるのは、その月の社会保険料等控除後の給与等の金額が8万8,000円以上の場合です。月額8万8,000円未満であれば、源泉徴収は行われず、かつ年収が103万円以下に収まれば、所得税の納税義務も生じません。
しかし、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の提出を忘れると、月の給与額にかかわらず源泉徴収されてしまう上、年末調整も行われないのです。
源泉徴収票の見方をチェックしよう!
アルバイト先から発行される源泉徴収票には、1年間の収入・所得・納税額などが記載されています。項目ごとの詳細をチェックしておきましょう。
支払金額
「支払金額」の項目には、1年間に支払いが確定した給与の総額が記載されます。税金や社会保険料などが引かれていない状態で、これがいわゆる「年収」です。
給与の総額には、主に以下のようなものが含まれます。
- 給与
- 賞与(ボーナス)
- 時間外手当などの各種手当
支払金額に「通勤手当」や「出張旅費」は原則的に含まれません。一定の限度額までは非課税の扱いであり、限度額を超えない限りは、支払金額に算入しないのがルールです。
「源泉徴収税額」欄に内書きされた金額は、給与を支払う事業者がまだ納付していない源泉徴収税額を意味します。
参考:
No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当|国税庁
No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当|国税庁
給与所得控除後の金額
「給与所得控除後の金額」とは、支払金額から給与所得控除を差し引いた金額です。給与所得控除とは、給与所得者が年収から控除できる金額を指します。
個人事業主やフリーランスなどは、収入から経費を差し引けますが、給与所得者には経費がほぼありません。税負担を軽減するため、収入金額に応じた給与所得控除が導入されています。
給与等の収入金額(源泉徴収票の支払金額)が162万5,000円までであれば、控除額は一律55万円です。
なお、支払金額から給与所得控除を控除した金額は「所得」と呼ばれます。
所得控除の額の合計額
「所得控除の額の合計額」には、所得控除の額の合計額が記載されます。所得控除とは、所得税計算の際に「所得」から控除できる金額です。各納税者の個人的な事情を加味するもので、それぞれに一定の条件があります。
所得控除は全部で15種類です。代表的なものとして、社会保険料控除や医療費控除、配偶者控除などが挙げられます。
給与所得控除後の金額(所得)から、所得控除の額の合計額を差し引いた金額は「課税所得(課税される所得金額)」と呼ばれる点も覚えておきましょう。
源泉徴収税額
「源泉徴収税額」とは、年間で納税した所得税の合計です。
アルバイト先で年末調整が行われていない場合は、月々の給与から天引きされていた所得税の合計額が該当します。年末調整があった場合は、年末調整で還付された金額を含んだ税額です。
所得税は、課税所得金額に一定の税率を適用して算出されます。国税庁のウェブサイトにある「所得税の速算表」を活用し、自分の納税額を計算してみましょう。所得税の税率は、5~45%の7段階に区分されています(分離課税に対するものなどを除く)。
参考:
所得税のしくみ|国税庁
源泉徴収票をもらえない場合はどうする?
退職の理由を問わず、給与の支払いを行っていた事業者は、元従業員に源泉徴収票を発行しなければなりません。
退職後1カ月以内に発行されない場合、アルバイト先の担当者に発行を催促する必要がありますが、無視されたり発行を拒まれたりした場合には、どのように対処すればよいのでしょうか?
税務署に源泉徴収票不交付の届出書を提出
源泉徴収票を発行してもらえない場合は、税務署で「源泉徴収票不交付の届出手続」を行います。
税務署に事情を話すと「源泉徴収票不交付の届出書」をもらえます(ダウンロードも可)。給与明細書の写しを添えて提出しましょう。主な記載内容は以下の通りです。
- 届出者(住所・氏名・電話番号)
- 事業主(所在地・名称・電話番号・従業員数)
- 不交付の源泉徴収票に係る事項
- これまでの経緯(事業主との過去のやり取り)
- 在職期間
源泉徴収票不交付の届出書を提出すると、税務署がアルバイト先を行政指導します。
源泉徴収票は重要書類なので必ず受け取ろう
源泉徴収票は雇用形態を問わず、すべての給与所得者に発行されるものです。特に転職した人や確定申告を行う人は、アルバイト先から確実に受け取り、大切に保管しておきましょう。
源泉徴収票不交付の届出書の提出は、アルバイト先が源泉徴収票の発行を拒んだ場合の最終手段です。発行のタイミングになっても手元に届かない場合は、自分から担当者に連絡するようにしましょう。