仕事を掛け持ちしている場合の年末調整は?収入が少ない方でもOK?

複数の仕事を掛け持ちしている人は、収入が多い方の職場で年末調整を行うのが一般的です。ただし掛け持ち先の収入によっては、年末調整と確定申告の両方が必要になります。仕事を掛け持ちしている場合の年末調整や、年末調整が重複した場合の対処法を確認しましょう。

仕事を掛け持ちした場合の年末調整

年末調整書類

(出典) pixta.jp

仕事を掛け持ちしている場合、気になるのが「どの職場で年末調整をすべきか」という点です。2カ所以上の職場で働く人の税額精算について紹介します。

年末調整ができるのは1カ所のみ

年末調整ができるのは「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している職場のみです。仕事を掛け持ちしていたとしても、年末調整は1カ所でしか行えません。

「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、収入に対して各種控除を適用させるための申告書です。

メインの収入となる「主たる給与」を得ている職場に提出するのが一般的で、「その年の最初に給与の支払いを受ける日の前日まで。中途就職の場合には、就職後最初の給与の支払を受ける日の前日まで」に提出する決まりになっています。

参考:
No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収|国税庁
[手続名]給与所得者の扶養控除等の(異動)申告|国税庁

年末調整できない所得は確定申告を

年末調整を受けられない収入については、一定以上の金額になる場合、自分で確定申告を行う必要があります。年末調整を受けずに放置すると、所得税の精算を行えないためです。

そもそも年末調整とは、1年(1月1日〜12月31日)の給与収入について、正しい所得税額を確定させるための手続きです。

給与所得者は、毎月の給与からあらかじめ所得税が引かれています。ただし税額はあくまでも概算であり、正しい税額は個々の事情に即した各種控除を適用するまでは分かりません。

そのため年末調整を受けられない収入については自分で確定申告を行って税額を確定し、正しく納税する必要があります。確定申告の結果、払い過ぎた所得税があれば還付され、不足があれば納付が求められます。

参考:No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収|国税庁

少ない方が確定申告になるのはなぜ?

所得税について考える上では、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している職場から支給される給与が「主たる給与」、それ以外の職場から得る給与が「従たる給与」とされます。

給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、収入の多い職場に提出するのが一般的なため、必然的に収入の多い方で年末調整、少ない方は確定申告を行うケースが多いでしょう。

なお主たる給与が従たる給与よりも少ない場合は、「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出することで、従たる給与に控除を適用することが可能です。ただしこの場合でも、従たる給与については確定申告が必要という点に注意しましょう。

参考:No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収|国税庁

従たる給与に確定申告が必要なケース

確定申告書類

(出典) pixta.jp

仕事を掛け持ちしている場合、確定申告が必要なケースと不要なケースがあります。確定申告が必要な場合を確認しましょう。なお確定申告が不要であっても、収入があれば住民税の申告は必要です。各自治体で住民税の申告・納税を行いましょう。

掛け持ち先で得る収入・所得が20万円を超える

仕事を掛け持ちしている場合に確定申告が必要となるのは、以下のケースです。

  • 掛け持ちしている勤務先から得ている年間所得が20万円を超える
  • 給与以外の収入があり年間所得が20万円を超える
  • 年間給与収入と給与所得・退職所得以外の年間所得を合わせた金額が20万円を超える

掛け持ちしている勤務先から得た年間給与収入が20万円を超える場合は、確定申告を行わなければなりません。ただし全ての給与収入を合わせても103万円(基礎控除48万円・給与所得控除55万円の合計額)以下となる場合は、原則として確定申告は不要です。

収入の種類が給与に該当しない場合、年間所得が20万円を超えると確定申告が必要です。例えば業務委託で副業をし、報酬を得ているケースなどが該当します。

また給与収入と副業による収入の両方ある場合は、掛け持ち先の年間給与収入と副業の年間所得の合計が20万円を超えると、確定申告が必要です。

ここで「所得」と「収入」の違いに注意しなければなりません。所得とは、収入から経費を引いた後の金額です。業務委託で副業を行っている場合は、収入から業務に必要経費などを差し引いて、所得額を算出します。

一方で収入は受け取った金額の全てです。給与として得た収入は、全て合計します。

参考:確定申告が必要な方|国税庁

両方で年末調整をしてしまった場合は?

確定申告書類を作成する

(出典) pixta.jp

年末調整は、1カ所の職場でしか行えない決まりです。2カ所以上の職場に年末調整の書類を提出してしまった場合のリスクや、対処法を紹介します。

控除の計算が過剰になる可能性

年末調整を複数の職場で行うと、各種控除が重複して適用されます。課税所得が低く算出され、正しい所得税額を確定できません。税額が少ないまま確定すれば、過少申告となる恐れがあります。

年末調整できるのは、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している職場のみです。これ以外の職場については、できるだけ早急に取り消しを依頼しましょう。ただし会社が源泉徴収票の発行を完了している場合、修正はできません。

修正が間に合うかどうかの目安は、年末調整の翌年の1月31日です。会社にとって1月31日は、各種法定調書の提出期限となっています。ほとんどの会社は、この日までに源泉徴収票の発行を終えているはずです。

対処法は確定申告

年末調整の取り消しが間に合わなかった場合は、確定申告で所得税額の修正が可能です。

確定申告をせずに放置すると、課税所得額が少ないまま確定してしまう恐れがあります。メイン・サブそれぞれの勤務先から受け取った源泉徴収票を用意して申告書を作成し、適切に税額の確定・納税を行うことが必要です。

なお確定申告には期限があります。無申告のまま放置して、後に税務署から指摘を受けると、本来の所得税に加えて「無申告加算税」「延滞税」などのペナルティが科されるかもしれません。

年末調整の取り消しが間に合わない場合は、必ず期限内に確定申告を行いましょう。

確定申告の方法を把握しよう

確定申告書類

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仕事を掛け持ちしている人は、「確定申告を行わなければならない人」「確定申告の義務はないが、申告した方がよい人」がほとんどです。確定申告の方法を理解し、正しい申告を行いましょう。

確定申告をするタイミング

確定申告の期間は、世情により変更されるケースはあるものの、例年2月16日から3月15日までです。前年の1月1日から12月31日までの1年間の所得と、それに対する所得税を計算し、申告義務がある場合は、この期間内での申告が必須となります。

そもそも確定申告とは、個人や法人が1年間の課税所得額を計算し、確定・納税するための手続きです。申告義務のある人が確定申告を怠ると、脱税と見なされて罰則の対象となります。

なお「掛け持ち勤務先からの所得が20万円以下」「副業の所得が20万円以下」などの場合、確定申告の義務はないものの、申告により税の還付を受けられる可能性があります。給与や報酬で源泉徴収を受けている場合は、確定申告を検討しましょう。

必要な書類

確定申告書の作成に必要なのは、収入が分かる書類です。給与収入は源泉徴収票、給与収入以外の収入は、売上金額や経費の内訳が分かる書類・帳簿類を用意して、正しい所得税額を算出しましょう。

また確定申告書を紙ベースで提出する際は、金額の根拠を証明するための書類を添付しなければなりません。必要な書類はそれぞれのケースで異なるため、国税庁のWebサイトで確認して用意しましょう。

なお電子申請する場合は、一定の書類について添付の省略が認められています。e-TaxのWebサイトで詳細を確認しましょう。

参考:
申告書に添付・提示する書類|国税庁
e-Taxを利用して所得税の確定申告書を提出する場合の「生命保険料控除の証明書」などの第三者作成書類の添付省略の制度について教えてください。| 【e-Tax】国税電子申告・納税システム(イータックス)

確定申告の3つの方法

確定申告の方法には「税務署に持参する」「郵送する」「電子申請する」の3つがあります。

紙ベースの申告書を税務署に持参したり郵送したりする場合は、マイナンバーカードの提示が必要です。所有していない人は、番号確認書類と身元の分かる書類を用意します。対面の場合は直接提示し、郵送の場合は写しを台紙などに貼って同封しましょう。

またマイナンバーカードがある人は、国税庁のe-Taxを利用できます。「確定申告書等作成コーナー」で書類を作成すれば、そのまま申告まで完了することが可能です。

近年はマイナンバーカードとスマホで確定申告できるようになりました。対応しているスマホがあれば、申告はよりスムーズです。

参考:
申告書に添付・提示する書類|国税庁
スマホで確定申告(副業編)|国税庁

仕事の掛け持ちは年末調整にも注意が必要

年末書類

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仕事を掛け持ちしている場合、年末調整を受けられるのは「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している勤務先のみです。掛け持ち勤務先や副業で規定以上の収入や所得がある人は、自分で確定申告を行いましょう。

また源泉徴収されていて年末調整をしない所得は、確定申告により所得税の還付を受けられる可能性があります。申告義務がない場合でも、確定申告を行うのがおすすめです。

年末調整を行ったからと安心せず、確定申告が必要かどうか検討しましょう。