転職したら退職金はどうなる?受け取り方や税金の基礎知識を解説

転職したら退職金はいくらもらえるのか、気になる人も多いでしょう。退職金には種類があり、受け取り方も異なるため、転職前に自分の退職金について知っておくことが重要です。退職金の受け取り方や税金の基礎知識について解説します。

退職金には種類がある?

退職金のイメージ

(出典) pixta.jp

退職金には、大きく分けて4種類の制度があります。制度によって、退職した際の受け取り方が違うため、自分の退職金がどのような仕組みになっているのか知っておくことが大切です。退職金の種類について説明します。

退職一時金制度

退職一時金制度とは、退職時に一括して支給される制度のことをいいます。支払われる退職金の額の算出方法や支給条件などを、企業が独自に定められるのが特徴です。支給額の主な算出方法は4つあります。

  • 最終給与連動型:退職時点の基本給などを基準にする
  • 退職金テーブル利用型:基本給とは別に用意した退職金算出用の賃金テーブルを基に決定する
  • 勤続年数定額型:勤続年数に応じて支給する
  • ポイント累積型:職能などの評価をポイントとして累積して計算する

給付される退職金の原資は企業側が負担し、社内で積み立てて準備します。

ただし、企業の経営状況によっては積立金を企業の運転資金などに回すことも可能なため、従業員にとっては確実に退職金を受け取れる保証はありません。万が一倒産したときには、退職金が支払われないこともあります。

退職金共済制度

退職金共済制度は、企業が契約している共済に掛け金を納付し、共済の仕組みを利用して支給する制度です。外部機関が退職金を支払うため、万が一企業が倒産しても退職金が保証されるというメリットがあります。

退職金共済制度には、中小企業を対象にした「中小企業退職金共済制度」と、自治体や商工会議所が運営する「特定退職金共済制度」などがあります。

中小企業退職金共済制度の場合、退職金の受け取りは、「一時払い」「分割払い」「一部分割払い」から選択が可能です。特定退職共済制度の給付額や支給条件などは、運営する団体によって異なります。

確定給付企業年金制度

確定給付企業年金制度は、現在日本で最も多く利用されている退職金制度です。事業主と従業員の間で給付金の額をあらかじめ決めておき、その内容に基づいて60歳以降に給付されます。

企業がまとめて運用し、不足が出た分は企業が責任を負って穴埋めする仕組みです。確定給付企業年金制度には、「規約型」と「基金型」の2種類があります。

規約型では、信託会社や生命保険会社などと契約を結んで、運用・管理を委託します。基金型は、企業が別法人の企業年金基金を設立し、運用・管理・給付を行うものです。

企業型確定拠出年金制度(DC)

企業型確定拠出年金制度(DC)とは、企業が掛け金を積み立てて、従業員が自分で運用するタイプの年金制度です。

運用の結果によっては将来の給付額が減ってしまう可能性があり、リスクは従業員本人が負うことになります。給付金を受けられるのは原則として60歳以降で、一時金または年金のどちらかでの受け取りが可能です。

一時金として受け取ると退職所得控除の対象となり、年金として受け取る場合は公的年金等控除の対象になります。また、転職の際は、転職先に持ち運べるポータビリティ制度の利用が可能です。

転職時の退職金の目安はいくら?

札束

(出典) pixta.jp

今転職すると退職金はいくらになるのか、気になる人も多いでしょう。ここでは、東京都産業労働局のデータを基に、自己都合退職と会社都合退職の退職金の目安を解説します。

自己都合退職の場合

東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」では、卒業後すぐに働き始めた人が普通の能力・成績で勤務を続けた場合の退職金水準を「モデル退職金」として、学歴や勤続年数別に給付される目安を試算しています。

2022年のデータを基に、自己都合退職した場合の退職金の目安を、高卒と大卒それぞれのケースで見てみましょう。

【高卒】

  • 勤続年数10年(28歳):90万7,000円
  • 勤続年数15年(33歳):170万5,000円
  • 勤続年数20年(38歳):272万9,000円
  • 勤続年数25年(43歳):397万1,000円

【大卒】

  • 勤続年数10年(32歳):112万1,000円
  • 勤続年数15年(37歳):212万9,000円
  • 勤続年数20年(42歳):343万1,000円
  • 勤続年数25年(47歳):490万6,000円

参考:中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)|統計・調査|東京都産業労働局

会社都合退職の場合

同じく、東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」によると、会社都合で退職した場合の退職金の目安は以下の通りです。

【高卒】

  • 勤続年数10年(28歳):122万3,000円
  • 勤続年数15年(33歳):214万8,000円
  • 勤続年数20年(38歳):328万4,000円
  • 勤続年数25年(43歳):465万6,000円

【大卒】

  • 勤続年数10年(32歳):149万8,000円
  • 勤続年数15年(37歳):265万8,000円
  • 勤続年数20年(42歳):414万7,000円
  • 勤続年数25年(47歳):578万2,000円

参考:中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)|統計・調査|東京都産業労働局

転職で退職金の確定申告は必要?

確定申告資料作成

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転職で退職金を受け取ったら、原則として確定申告の必要はありません。しかし、場合によっては、確定申告をした方がよいケースもあります。詳しく見ていきましょう。

確定申告は原則必要なし

退職金の所得税は基本的に退職する企業で源泉徴収されるので、原則として確定申告する必要はありません。退職金にかかる税金は、所得税・復興特別所得税・住民税の3つです。実際に受け取る額は、これらの税金が引かれたあとのものです。

退職金は、それまでの勤務に対して報償的に支払われるものとして扱われます。そのため給与などその他の所得とは分離して課税され、税負担も軽くなっています。源泉徴収票も発行される仕組みです。

退職金の確定申告が必要なケース

退職金の支給に関して、確定申告が必要なケースもあります。

  • 何らかの理由で年末調整をしていない場合
  • 転職先に前職の源泉徴収票を提出していない場合
  • 医療費控除を受ける場合
  • 「退職所得の受給に関する申告書」を提出していなかった場合

年の途中で退職すると、退職した企業では年末調整されません。年末の時点で転職が決まっていないときは、確定申告をすることで所得税が還付される可能性もあります。

年内に転職が決まり、転職先の会社で年末調整される場合も、転職先の会社に前職の源泉徴収票を提出していなければ確定申告が必要です。医療費控除やセルフメディケーション税制を受ける場合は、確定申告をすれば還付金を受け取れます。

また、退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しないと、退職所得控除が適用されません。この場合も、確定申告することで、源泉徴収されていた所得税の還付を受けられます。

退職金の所得税の計算方法

札束と電卓

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退職金の所得税は、一般的な給与や賞与より所得税の負担が軽くなるように配慮されています。退職金の所得税はどのように計算されるのでしょうか。勤続8年で退職金を100万円もらえるケースをモデルに、計算方法を解説します。

退職所得控除額を計算する

まずは、課税される所得の額を割り出さなければなりません。そのためには、退職金の総支給額から控除される「退職所得控除額」を計算することが必要です。

退職所得控除額の計算は、勤続年数によって2つの方法に分けられます。

  • 勤続年数20年以下:40万円×勤続年数
  • 勤続年数20年超え:800万円+70万円×(勤続年数-20年)

なお、勤続年数が20年以下で退職所得控除額が80万円より低い場合は、一律で80万円が適用されます。

勤続年数8年の人の退職所得控除額は下記のように計算されます。

  • 40万円×8年=320万円

退職所得を計算する

退職所得控除額が分かったら、所得税の対象となる「退職所得」を計算します。退職所得は、退職金の総支給額から退職所得控除額を差し引いた額の2分の1です。

  • [総支給額(源泉徴収前の金額)-退職所得控除額]×1/2=退職所得

勤続年数8年で退職金100万円を受け取る場合、計算式は以下のようになります。

  • (100万円-320万円)×1/2

この場合、退職金より退職所得控除額が上回っているため退職所得は実質0円となり、所得税は徴収されません。仮に、勤続8年でも退職金が400万円だった場合は、

  • (400万円-320万円)×1/2=40万円

という計算式になり、退職所得は40万円になります。

所得税額を計算する

所得税額は以下の計算式で求められます。

  • 退職所得×税率-控除額=所得税額

税率や控除額は、退職所得の額によって変わります。また、退職金に課税される復興特別所得税の額は、所得税額の2.1%です。

勤続年数8年で退職金400万円のケースでは、所得税の税率が5%、控除額が0円となるため、所得税と復興特別所得税の額は以下のように計算されます。

  • 所得税:40万円×5%=2万円
  • 復興特別所得税:2万円×2.1%=420円

退職金400万円から源泉徴収される所得税・復興特別所得税の合計は、2万420円になります。

転職の退職金で損をしない方法は?

貯金通帳を確認する

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転職で支給された退職金の種類によって、適切な運用方法が異なります。退職金で損をしない方法を知っておきましょう。確定給付企業年金制度・企業型確定拠出年金制度(DC)と、退職一時金制度の場合の運用方法について説明します。

転職先に移換またはiDeCoに加入

企業型確定拠出年金制度(DC)や確定給付企業年金制度の場合、転職時まで積み立ててきた年金資産を転職先に持ち運べる「ポータビリティ制度」があります。ポータビリティ制度を利用すると、課税されずに持ち運べるというメリットがあります。

持ち運びせずに一時金として受け取るとその時点で退職金が精算されるため、所得税が源泉徴収されて運用も継続できません。しかし、ポータビリティ制度で持ち運べば、転職先でも継続して老後の資産を形成できます。

転職先の会社が企業年金制度を実施していない場合は、個人型確定拠出年金制度(iDeCo)に移換するか、企業年金連合会(旧厚生年金基金連合会)に移換して、通算企業年金として受け取る方法もあります。

退職一時金の場合は運用がおすすめ

退職一時金を受け取った場合も、将来に備えて運用していくのがおすすめです。退職金の運用として代表的な方法は主に4つあります。

  • 退職金向け定期預金:3カ月など短期間の預け入れの場合、通常の定期預金より金利が高く設定されることが多い
  • 投資信託:投資のプロに資産運用を委託する金融商品。少額から投資を始めたい人におすすめだが、元本は保証されない
  • 個人向け国債:国が個人向けに発行している債券。元本割れの心配はないが、利回りの高さにはあまり期待できない
  • 貯蓄型保険:終身保険・個人年金保険・養老保険など、自分のニーズにあった保険を選べる。生命保険料控除の対象なので、節税になる

リスクを抑えたい人には、退職金向け定期預金や個人向け国債がおすすめです。

転職前に退職金の種類を知っておこう

札束

(出典) pixta.jp

退職金は、それまでの勤続に対する報償として支払われるものです。しかし、退職金制度に関しては法的な義務がないため、企業によっては退職金制度を実施していない場合もあります。

また、退職金制度を実施している企業でも、退職金の種類によって受け取り方が異なります。転職で退職金を受け取れる場合は、自分の退職金がどの種類に当てはまるのか、しっかり確認しておきましょう。

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