リストラは多くの会社員にとって、何としても避けたい事態でしょう。しかしリストラをちらつかせて、社員に嫌がらせをする場合もあり、社会的な問題になっています。いわゆるリストラハラスメントについて、具体例や対処法を知っておきましょう。
リストラハラスメントの概要
リストラハラスメントとは、リストラに関して起こるハラスメント行為のことです。「リスハラ」とも呼ばれており、社会的な問題として認知されるようになりました。
まずは、リストラハラスメントとはどういうものか、基本的なところから理解しておきましょう。
リストラ対象者に対するハラスメントのこと
リストラハラスメントとは、リストラの対象となっている人に対して、主に自主退職するように仕向ける嫌がらせを指します。
対象者の直接の上司をはじめ、周囲の社員が理不尽な振る舞いをしたり、突然閑職に追い込んだりするなど、さまざまなケースが報告されています。
上司によるパワハラやセクハラなどを伴うケースもありますが、周囲から精神的な嫌がらせを受けるモラルハラスメントの例も少なくありません。さまざまなハラスメント行為を含んでいるのが、リストラハラスメントの特徴です。
リストラハラスメントが起こる背景
リストラハラスメントが起こる背景として、解雇の無効を避けるために、対象の社員に対して精神的な嫌がらせをするケースが多くみられます。
企業がリストラ対象の社員に解雇通告した場合、社員側がそれを不服として争う可能性があり、結果的に解雇が無効になる場合があります。
企業側は不要な社員を雇用し続けるほか、当該社員が不就労期間中の賃金も補償する義務が生じかねません。
このような状況を回避するため、当該社員が自ら退職を申し出るよう、さまざまなハラスメント行為をする企業もあるといわれています。
自主退職を勧める行為自体は違法ではないため、双方の合意に基づいて退職に至ったという体裁をつくる目的で、ハラスメント行為が横行しているのが実態です。
リストラハラスメントの例
リストラハラスメントの具体例としては、以下のように対象社員へのパワハラや執拗(しつよう)な退職勧告などがあります。それぞれについて詳しく解説します。
リストラ対象社員へのパワハラ
リストラの対象者に対して、言葉によるパワハラ・モラハラをするケースは多く、大きな問題としてメディアに取り上げられた例もあります。
主に上司にあたる社員が対象者に対して、ほかの社員に比べて能力が著しく劣っている印象を持たせたり、仕事をほとんど与えなかったりすることは、決して珍しくないのが実態です。
精神的なプレシャーを与えることにより、対象者を職場に居づらい状況にさせ、自主退職に追い込みます。
また、明らかなパワハラ・モラハラ・セクハラなどは問題となるため、一般的にハラスメントと見なされにくい境界を見極めつつ、陰湿な嫌がらせをしている場合もあります。
執拗な退職勧奨
退職勧奨とは、企業側が社員に対して退職を勧める行為です。対象社員に対して、退職の意思を確認するだけであれば、違法性は認められません。
しかし、当該社員が退職しない旨を意思表示したにもかかわらず、しつこく何度も退職を勧奨し、自主退職に追い込むケースもみられます。
これはリストラハラスメントの一種と見なされる可能性が高いですが、問題になった際、企業側がそのような事実はないと主張する場合もあります。しつこく退職勧奨を受けた場合には、しっかりと証拠を残すことが重要です。
自主退職するよう仕向ける
退職勧奨に応じなかった社員に対し、自主退職するよう、さらに嫌がらせする場合もあります。例えば、当該社員の能力が発揮できない部署へ配置転換したり、その時点で能力に見合わない仕事を与えたりするなど、仕事へのモチベーションを失わせる行為を行います。
あるいは、ほかの社員の仕事量に比べて、明らかに多く仕事を押し付けるといった嫌がらせもあるでしょう。
配置転換や社員に任せる仕事量に関しては、基本的に企業側の裁量に任せられているため、ハラスメントとして認定されづらい部分です。しかし、あからさまな配置転換や仕事量の調整などが、後から問題になるケースも珍しくありません。
リストラハラスメントは違法?
リストラハラスメントは社会的に問題視されており、さまざまなメディアで取り上げられる機会も増えています。ここでリストラハラスメントの違法性についても、正確に理解しておきましょう。
損害賠償を請求できる可能性がある
実質的に退職を強制する行為でもあるリストラハラスメントは、違法と見なされる可能性があります。
例えば、退職勧奨に応じないことを理由として、特定の社員に嫌がらせ行為をしている場合、被害者の社員は加害者である企業に対して、慰謝料や損害賠償を請求できる可能性があります。
実際、退職勧奨を拒否した次の日に、自分の席がなくなっていたといった例もあり、上司からのパワハラやモラハラを受けるようになった人も多くいるようです。
企業は特定の社員に退職を勧めること自体は可能ですが、行為によっては違法と見なされ、たとえ当該社員が退職の意思を示していても、無効になる可能性もあります。
民法 第709条(不法行為による損害賠償)|e-Gov法令検索
刑法上の犯罪行為になる場合もある
言葉によるいじめや脅迫などによって、退職を迫るようなリストラハラスメントは、刑法上の犯罪行為に該当する可能性もあります。
脅迫的に退職を迫る行為は、強要罪や脅迫罪となる場合もあり、誹謗(ひぼう)中傷は名誉毀損罪や侮辱罪と見なされるケースもあるので、企業側は十分に注意しなければなりません。
また、当然ながら殴る・蹴るといった暴力行為は暴行罪であり、社員がけがを負った場合は傷害罪となり得ます。このような被害を受けた場合は、管理部門・人事部門に相談するのに加え、状況によってはすぐに警察へ通報しましょう。
刑法 第204条(傷害)・第208条(暴行)・第222条(脅迫)・第223条(強要)・第230条(名誉毀損)・第231条(侮辱)|e-Gov法令検索
リストラハラスメントへの対処法
実際にリストラハラスメントの被害を受けた場合や、周囲が被害を受けている場合などは、以下の対処法が有効です。事態が深刻になる前に、素早く対応しましょう。
被害の証拠を記録する
リストラハラスメントの相談や、被害を訴える際の証拠として、受けた被害の内容・パワハラ発言などを録音しておくことが大切です。
事実確認する際に、加害者側は正直に伝えない可能性が高いため、できるだけ明確な証拠を残しておかなければ、ハラスメント行為を立証するのが難しくなります。
被害の内容に加えて、日時や被害を受けた場所、誰にどんな発言をされたかなど、詳細かつ正確な記録を残しておきましょう。最終的に裁判で争うことになった際にも、重要な証拠となり得ます。
社内外の相談窓口に相談する
リストラハラスメントの被害を受けた場合、まずは社内の相談窓口などに、ハラスメントの事実を伝えて対応してもらうのが得策です。しかし相談しにくい場合や、相談しても動いてもらえない場合などは、最寄りの労働局や労働基準監督署に相談するのがよいでしょう。
これらの相談窓口は誰でも利用が可能で、基本的に費用もかかりません。企業側が信用できない場合は、できるだけ多くの証拠を集めた上で、思い切って相談してみましょう。
相談窓口のご案内|あかるい職場応援団 職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト
弁護士への相談も検討する
リストラハラスメントを受けている場合、我慢したところで状況が改善することは、ほとんどありません。
リストラハラスメントが深刻な場合、弁護士に相談することも大切です。精神的に追い詰められて自主退職をしてしまう前に、弁護士に交渉を依頼してみましょう。
弁護士を通して交渉することで、最悪の事態を避けられる可能性があります。また最終的に訴訟になる可能性が高い場合は、早めに弁護士に相談しておくことが重要です。
社内でどのような振る舞いをすべきか、どのような証拠を集めればよいかなど、具体的にアドバイスしてもらえるでしょう。
リストラハラスメントは違法性が認められる場合もある
リストラハラスメントは企業が社員の解雇の無効を避けるため、当該社員に精神的な嫌がらせをすることです。
パワハラ・モラハラ・セクハラなどを伴うケースも多く、社会的な問題にもなっています。あからさまな嫌がらせだけではなく、しつこい退職勧奨もリストラハラスメントの一種です。
嫌がらせの内容によっては違法性を問えるだけではなく、刑法上の犯罪行為としても問題にすべきケースが少なくありません。
被害者になった場合はもちろん、周囲で被害を受けている人がいる場合にも、社内で相談したり、必要に応じて外部の機関に相談したりしましょう。
企業側がかたくなに過失を認めない場合は、結果として裁判になる可能性もあるので、早めに弁護士に相談しておくのも大切です。もしも嫌がらせを受けたら我慢せずに、周囲に助けを求めるようにしましょう。