従業員持株制度とはどのような制度?仕組みや実態、メリットを解説

従業員持株制度とは、企業が従業員に対し自社株の購入を支援する制度です。従業員にとっては、資産形成の一助となるメリットがあり、上場企業を中心に導入されています。従業員持株制度の仕組みや実態、メリットを紹介します。

従業員持株制度とは

資料を確認する男性

(出典) pixta.jp

従業員持株制度は、インセンティブ・プランの1つとして多くの株式企業が導入しています。制度の概要や実態を見ていきましょう。

従業員が自社株を購入・保有できる制度

従業員持株制度とは、従業員による自社株の購入を企業が支援する制度です。福利厚生の1つとして導入されるケースが一般的ですが、利用は義務ではありません。

従業員が自社株を購入したい場合は、持株会への加入が必須となります。持株会とは、株式の購入・保管を行う民法上の組合です。構成員は役員以外の従業員で、自社株購入の資格・ルールをまとめた「持株会規約」の下、運営されます。

持株会に加入した従業員は、毎月の給与・賞与から天引きで、株式の取得費を拠出する仕組みです。自社株を購入・保有する従業員は、出資額に応じた配当金を受け取ったり、株式の売却によって売却益を得たりできます。

従業員持株制度の実態

従業員持株制度は、主に上場企業で多く取り入れられている制度です。東京証券取引所が公表した、「2021年度 従業員持株会状況調査結果」を見てみましょう。

調査によると、2022年3月末時点の上場内国会社数(東京証券取引所)は、3,815社でした。このうち、証券会社に事務委託を行いながら制度を運用していた企業は、3,247社に上ります。

すなわち、上場内国会社のうち、約85%が従業員持株制度を導入しているのが実情です。

一方、従業員の加入者数は約298万2,000人で、加入率は約37.65%となっています。ただし、加入率は業種によって大きく異なり、電気・ガス業や海運業、その他金融業の加入率は約60%以上と特に高い傾向です。

出典:調査レポート | 日本取引所グループ

ストックオプションとの違い

ストックオプションとは、企業が従業員に対し自社株の購入権を付与する制度です。権利を付与された社員は、あらかじめ定められた「権利行使価格」・株数で株式を取得できます。

株価が上昇したタイミングで売却すると、従業員はキャピタルゲイン(売却益)を得られる仕組みです。ストックオプションから見た従業員持株制度との主な違いには、以下のものがあります。

  • 役員にも付与される
  • 特定の社員にのみ付与される
  • 株式購入金額・株数はあらかじめ決められている
  • 自分で株式を保有・売却できる

自分で購入額を決められる従業員持株制度とは異なり、ストックオプションの権利行使価格・株数を決めるのは企業です。

また、従業員持株制度は持株会が株式を購入・保有するのに対し、ストックオプションは個人が株式を購入・保有する点も異なります。

一般的にストックオプションは、従業員に好待遇を提示しにくいスタートアップやベンチャー企業が「インセンティブ」として提供するものです。付与の対象には役員も含まれ、全ての従業員が対象となる制度ではありません。

両者は似た制度と考えられがちですが、根本的に違います。

従業員持株制度のメリット

現金を数える手元

(出典) pixta.jp

従業員が従業員持株制度を活用することにより、どのようなメリットを享受できるのでしょうか?従業員側のメリットを紹介します。

奨励金が上乗せされる

奨励金とは、従業員が自社株を購入する際に企業から支給されるお金です。奨励金を受け取ることにより、従業員は実際の出資額よりも多くの株式を購入できます。金額は企業によって異なりますが、拠出額の5~10%とするケースが多いようです。

「2021年度 従業員持株会状況調査結果」によると、従業員持株制度を導入している上場内国会社のうち、約96.3%が奨励金を導入していることが分りました。

出典:調査レポート | 日本取引所グループ

株式を少額で購入できる

従業員持株制度を利用すれば、1,000円単位の少額から自社株を購入できます。拠出額を自由に設定できるのは、従業員にとってはメリットです。

日本の国内株式市場は、売買単位が100株に統一されており、100株からしか購入できません。1株が1,000円だったとしても、購入には10万円が必要です。上場企業で業績好調な企業なら、自社株といえども定期的な購入は難しいかもしれません。

従業員持株制度を利用すれば、従業員は無理なくマイペースに資金形成を実現できます。

配当金を得られる

配当金とは、株式の所有者に分配されるお金のことです。分配は保有している株数に応じて行われるため、保有株数が多いほど多額の配当金を得られます。

株主は、出資比率に応じた利益の還元を受ける権利があり、配当金も株主の権利の1つです。従業員が、従業員持株制度を利用して株式を購入した場合でも、株主としての権利は認められます。

ただし、配当金は業績が好調なとき・余剰金が出たときなどに、株主に分配されるものです。企業の業績が思わしくないときは、配当金が出ない可能性があります。

資産形成をしやすくなる

従業員持株制度を利用すると、給与・賞与から自動的に拠出金が引き落とされます。資産形成に有益といわれる「コツコツ投資」を実現しやすく、少ない負担で資産づくりに励めます。

資産形成の手段はさまざまにありますが、株式による資産形成は購入のタイミングが難しいのが実情です。個人で株式を運用しようとすると、「いつ買えばよいのか」「今買ってよいのか」と悩むことになるかもしれません。

従業員持株制度なら、株価チャートを気にすることは不要です。株を知らない人でも、「株価が安いときには多く」「株価が高いときには少なく」と、バランスの良い投資を実現できます。

毎月着実に株式の購入を重ねていくことで、将来大きなリターンを期待できるかもしれません。

従業員持株制度の注意点

ミーティング

(出典) pixta.jp

従業員持株制度には、デメリットといえる面もあります。制度を利用するときは、どのようなリスクがあるのかを適切に理解しておくことが大切です。

株主優待を受けられない

従業員持株制度では、自社株を購入しても株主優待はありません。

株主優待とは、企業が一定数以上の自社株を購入してくれた人に提供する、株主優遇制度です。内容は企業によって異なり、自社製品詰め合わせの配布や、優待券・商品カタログの送付などさまざまにあります。

従業員に株主優待がないのは、自社株の購入・保有が持株会名義で行われるためです。どれほど多くの自社株を保有していても、名義が違えば株主優待の対象にはなりません。

株主優待を受けたい場合は、株式の運用を個人名義の証券口座で行うことが必要です。株主優待の権利が確定する「権利確定日」に規定の株数を保有していれば、株主優待を受けられます。

売却に時間がかかる

従業員持株制度で購入した株式を売却したい場合、「個人名義の証券口座を持っていること」「保有株数が最低売買数量を満たしていること」が必要です。証券口座を持っていない人や保有株数が100株に満たない人は、すぐに売却できません。

従業員持株制度で購入した株式を売却するときは、持株会が事務委託をしている証券会社に口座を作るのが一般的です。口座開設手続きから株式の振替・売却までには、さまざまな手続きを踏む必要があり、売却までに数週間かかるケースもあります。

また、保有株数が100株に満たない場合は、持株会を退会して株式を買い取ってもらわなければなりません。こちらも手続きに時間がかかることが多く、スムーズな売却は困難です。

市況や個人の状況に合わせた株式の運用が難しいのは、従業員持株制度のデメリットといえるかもしれません。

資産運用を会社に依存することになる

従業員持株制度を利用すると、収入源と資産の投資先が同一になります。企業が倒産して株券が紙切れになれば、「収入源の消滅」「保有資産の喪失」が一気に起こるかもしれません。

資産運用では、しばしば「卵を1つのかごに盛るな」といわれます。投資先を1つに集中させるべきではないという、分散投資の基本を伝える言葉です。自社のみに集中して資産形成を行うことは、投資手法としてはリスクが大きいといえるでしょう。

そもそも株式は、元本が保証された金融商品ではありません。安定した資産形成を目指すなら、従業員持株制度だけではなく、他の運用方法も合わせることを検討しましょう。

従業員持株制度のよくある疑問

パソコンに向かって考える男性

(出典) pixta.jp

従業員持株制度の利用を検討していると、さまざまな疑問が湧いてくるかもしれません。従業員持株制度について、多くの人が抱きがちな質問を紹介します。

退職したら持株はどうなる?

持株会に入れるのは、企業に籍を置く人のみです。退職した場合は、持株会も退会することとなり、再入会もできません。持株会で保有していた株式は、個人名義の証券口座に移す必要があります。

個人名義の証券口座を持っていない場合は、持株会が事務委託をしている証券会社に口座を開設するのが一般的です。

株式の移動について申請を行えば、拠出してきた金額に応じた株式が退職者名義に書き換えられ、証券口座に移されることとなります。

持株会を途中で退会したら損?

転職などで持株会を退会すると、奨励金や株式の少額購入可能というメリットがなくなります。上場企業の株式をお得に購入できなくなることや、長期投資による複利効果を期待できなくなるのは、損といえるかもしれません。

また、持株会を退会するときの選択肢は「現金精算」「1売買単位になるまで買い増して口座振替」のいずれかです。

持株会を退会するときに現金精算を選択すると、その時点の株価によっては損をする可能性があります。資金に余裕があれば「1売買単位になるまで買い増して口座振替」を選択した方が、株式運用の選択肢が増えます。

資産形成のために株式の購入を始めたのであれば、安易な売却はおすすめできません。持株会を退会した後も、ポートフォリオの1部として株式の保有を続けることも検討しましょう。

従業員持株制度を理解し活用しよう

株価チャート

(出典) pixta.jp

従業員持株制度とは、従業員が自社株を購入・保有できる制度です。持株会に加入した従業員は、拠出金が毎月の給与・賞与から天引きされます。

加入者には「奨励金」「少額購入可能」というメリットもあり、上場企業の多くが福利厚生の一環として導入しているのが現状です。

従業員持株制度を利用すれば、従業員は資産管理の手間をかけずに資産形成ができます。売却のハードルが高いのがデメリットともいわれますが、売却できないということは、長く保有できるということでもあります。

「将来のために資産形成をしたいけれど、自分では管理できない」という人にはメリットが大きい制度です。