家族手当とは?メリット・デメリットや見直しが進む理由について解説

家族手当とは、会社から従業員へ与えられる手当の1つです。支払いを受けるための条件などに企業ごとの違いはありますが、近年は制度そのものが見直されるケースも増えています。家族手当の内容やメリット・デメリットのほか、見直しが進む理由について解説します。

家族手当とはどういう制度?

電卓と一万円札

(出典) pixta.jp

給与にはさまざまな手当が含まれており、家族手当もその1つです。どのような制度なのか確認しておきましょう。

家族がいる従業員に支給される福利厚生

家族手当は、企業が従業員の家族構成に応じて、一定の金額を毎月支払う制度です。各企業が規定する「法定外福利厚生」の1つで、基本給とは別に設定されています。法定外福利厚生は、各企業によって独自に決められる制度のため、全ての企業で実施されているわけではありません。

人事院の「令和5年職種別民間給与実態調査の結果」によると、50人以上の従業員を抱える企業で家族手当制度を導入しているのは全体の75.5%です。従業員数が少ない企業になるほど、導入している割合が低いことが分かります。

出典:令和5年職種別民間給与実態調査の結果 II統計表 3手当の支給状況 表12家族手当の支給状況及び配偶者の収入による制限の状況

扶養手当や児童手当との違い

扶養手当は、扶養家族に対して支払われる手当です。家族手当のことを扶養手当と称して支払う企業もありますが、厳密にいうとそれぞれ支給に関する基準が異なります。

扶養手当も法定外福利厚生に当たるため、規定されている条件は企業ごとに異なるものの、税法上の扶養家族がいる従業員に支払われるのが一般的です。そのため、家族が税法上の扶養条件から外れる収入を得ている場合には支払われません。

児童手当は、中学校を卒業するまで(15歳の誕生日を過ぎてから最初の3月31日まで)の子どもを養育している人に対して、国や自治体が支給する制度です。子どもが生まれた後に、居住している自治体に申請することで受給できます。

児童手当について、政府は2024年度中に所得制限を撤廃の上、対象を18歳まで拡大し、第3子以降は月額3万円に増やす強化策などを盛り込んだ「こども未来戦略」を決定しています。

出典:児童手当制度のご案内|こども家庭庁

家族手当が支給される条件

企業の規定によって異なりますが、一般的に定められている主な支給条件には以下のようなものがあります。

  • 配偶者や子どもがいること
  • 同居して同一生計で生活していること
  • 配偶者の合計所得が配偶者控除、配偶者特別控除の範囲内であること
  • 子どもの年齢は18歳以下または22歳以下、両親の場合は60歳以上であること

条件は1つだけでなく、複数を組み合わせているケースもあります。条件を満たした家族1人当たりに対して金額が決まっていたり、家族の人数にかかわらず一律の額になっていたりと、内容もさまざまです。

家族手当のメリットとデメリット

給料袋と給与明細

(出典) pixta.jp

家族手当は基本給とは別に支払われるものであるため、メリットを感じやすい制度ですが、場合によってはデメリットともなる可能性があります。メリットとデメリットについても見ていきましょう。

家族手当のメリット

家族が多い人にとっては経済的な支援になるでしょう。個人の能力や成績にかかわらず、家族がいる人に同等の基準で支払われるため、安定した金額を受け取れるというメリットもあります。

月によって金額が変動しないことから、毎月の収支予定を立てやすいのもポイントです。企業にとっては、福利厚生を充実させることで離職防止につながります。

新規採用の際にも好条件として受け取られるので、優秀な人材を確保できる可能性もあるでしょう。また、基本給とは別に設定されているため、残業代などの計算に含まなくてよいというメリットもあります。

家族手当のデメリット

手当をもらえない従業員から不満が出る可能性もあります。単身者など対象となる家族がいない人だけでなく、企業が規定する条件によっては、配偶者に一定の収入がある共働きの家庭なども受け取れないことがあるためです。

業績を上げても手当の対象とならないので、仕事に対するモチベーションが低下するケースもあるでしょう。

一方、企業側にとっては、申請内容のチェックが万全でないと不正受給が発生する恐れがあります。管理業務の負担が増えるといったデメリットも考えられるでしょう。

家族手当の注意点

男女の社員

(出典) pixta.jp

受給に関する注意点についても知っておくことが大切です。主なポイントを3つ紹介します。

共働きの場合

共働きの家庭の場合、制度の細かい内容は企業によってさまざまです。しかし、配偶者に103万円または130万円以上の収入がある共働きの家庭では、基本的に夫・妻の両方が受け取ることはできません。

夫婦共に同じ企業に勤めている場合は、一般的に世帯主や収入が高い方に支払われます。夫婦が別の企業で働いている場合も同様です。

共働きであることを黙っていたとしても、家族構成について会社に届け出る必要があることから、バレてしまうケースがほとんどでしょう。

配偶者と離婚した場合

税法上の扶養家族であることを条件としているケースが多いため、離婚した場合には支払われません。養育している子どもがいる場合は、同一の生計で生活していることが条件となるのが一般的です。

会社の規定にもよりますが、離れて暮らしている子どもの場合は、養育費を支払っていても対象とならないことが多いでしょう。

何らかの事情で別居中の家族がいる場合は、企業の判断によります。仮に同居していることが条件とされている場合は、対象になりません。

不正受給した場合は返還請求や懲戒処分も

会社が規定した支給条件を満たさずに手当を受け取っていた場合は、不正受給となります。例えば家族との同居が支給条件の場合、別居しているにもかかわらず家族手当を受け取っていると不正受給に該当するでしょう。

不正受給が発覚すると、不正に受け取っていた分の手当を返還請求される可能性があります。民法第166条によると、返還請求が可能となるのは過去10年分までの不正受給に対してです(民法第166条債権等の消滅時効)。

企業側が悪質だと判断した場合は懲戒解雇処分になる恐れもあります。

出典:民法 第166条 | e-Gov法令検索

家族手当を廃止する企業は多い?

書類をチェックする手元

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近年、家族手当の廃止を検討する企業が増えています。廃止が進む背景について見ていきましょう。

ライフスタイルの多様化

ライフスタイルが多様化し、共働きの世帯が増えていることが理由の1つとして挙げられます。独立行政法人労働政策研究・研修機構が提示しているデータによると、2022年の共働き世帯は1,262万世帯でした。

一方、専業主婦世帯は539万世帯となっており、ダブルインカムの世帯が圧倒的に多数です。1980年から1990年頃までは専業主婦世帯の数が上回っていました。しかし共働き世帯の数が年々増加し、1990年代後半からはっきりと逆転していることが分かります。

家族手当は、もともと専業主婦が多かった時代の家族構成を想定したものであるため、共働き世帯が増えている現代では手当の意義自体が薄れているといえるでしょう。

出典:専業主婦世帯と共働き世帯|早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)

配偶者特別控除の改正による企業の負担増加

配偶者特別控除の控除額の改正により、対象となる配偶者の合計所得金額が引き上げられたことも理由の1つといえるでしょう。

以前は、合計所得額38万円超123万円以下を配偶者特別控除の対象としていましたが、2020年分以降からは合計所得額が48万円超133万円以下へと引き上げられました。

配偶者特別控除額を支給基準としている企業にとっては、支給対象となる従業員が増える可能性もあります。また企業に対し、配偶者の働き方に中立的な制度を取るよう望まれていることも、家族手当の見直しが進む背景にあると見てよいでしょう。

出典:配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しについて|国税庁

出典:企業の配偶者手当の在り方の検討 |厚生労働省

家族手当に代わる制度

三万円

(出典) pixta.jp

家族手当を廃止し、新たな制度を導入している企業もあります。主な制度を3つ挙げて紹介します。

基礎能力・資格手当を創設

基礎能力や資格手当を新しく創設している企業もあります。家族構成によって左右される家族手当の不公平感をなくすために、全従業員を対象としているのが特徴です。IT・PCスキル、実務的な英語スキル、対人スキルなどの基礎能力を評価します。

基準となるレベルを決め、レベルに応じた額を手当として支給する仕組みです。資格手当に関しては、取得時に合格報奨金として支払ったり、手当として毎月支給したりと、企業によって支給方法が異なります。

どちらも本人の能力に対して支給されるものであるため、不公平感が生まれにくいだけでなく、従業員のモチベーションアップにも効果的といえるでしょう。

基本給への組み入れ

家族手当を廃止し、手当に充てていた原資を従業員全員の基本給に組み入れるという例です。これまで家族手当を受給していた従業員の収入の減少幅を抑えるとともに、同一労働同一賃金に配慮した制度の見直しも図れます。

同一労働同一賃金とは、雇用形態や性別などにかかわらず、同じ価値の労働をしている人に対しては同じ賃金を支給するべきという考え方です。制度を導入する際は、モデルケースを作成したり研修を実施したりして、従業員の理解を得る必要があります。

養育手当や子育て・介護の支援策を導入

配偶者手当を廃止または削減し、子どもや障害のある人を対象とした養育手当として再配分するケースもあります。また、共働き世帯の増加に合わせて、子育て・介護と仕事を両立できるための支援制度を導入する企業もあるようです。

専業主婦世帯が大半を占めていた時代から共働き世帯の割合が増えてきた現在、育児・介護と仕事をいかに両立させるかが重視されています。

毎月の手当として一定額を支給する従来の制度ではなく、出産・育児・介護などのライフスタイルの変化に応じた支援が必要になるでしょう。

家族手当は企業独自の福利厚生の1つ

福利厚生

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家族手当は、企業独自の法定外福利厚生の1つです。支給条件は企業によって異なりますが、基本的に対象となるのは扶養家族となっており、家族がいても手当を受給できないケースがあります。

近年では、ライフスタイルの多様化や配偶者特別控除の改正などによって、家族手当の廃止を検討する企業も増えているのが現状です。

家族手当に変わる新制度を導入している企業もあるので、福利厚生を確認するときは各種手当についてもチェックしておきましょう。求人数が豊富なスタンバイは、さまざまな条件での検索が可能です。自分に合った求人探しに役立ててみてください。

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