人事に聞くぶっちゃけ話 マナーや印象よりも重要な、「選考での自分の出し方」

株式会社ATホールディングス 松本慶太氏、株式会社フィードフォース 渡邉康晴氏、株式会社ヌーラボ 安立沙耶佳氏

(左から)株式会社ATホールディングス 松本慶大氏、株式会社フィードフォース 渡邉康晴氏、株式会社ヌーラボ 安立沙耶佳氏

服装やマナーといったことから、書類や面接でおさえるべきポイントなど、答えがわからないからこそ巷の噂やアドバイスに過敏になってしまいがちな就職活動。実際のところ、そういった“正解”があるのでしょうか?

採用活動を実際に行う現役人事担当者・元人事担当者3人に、選考を受ける人であれば誰もが気になる「選考のホンネ」を語ってもらいました。

答えてくれた人事担当者

安立沙耶佳(株式会社ヌーラボ)
渡邉康晴(株式会社フィードフォース)
松本慶大(株式会社ATホールディングス)
※プロフィールは文末に掲載

聞き手:小野祐紀(スタンバイplus編集部)
写真:示野友樹(株式会社ヒゲ企画)

見られているのは表面的なお作法ではなく、相手への思いやりだった?

── 今回のインタビューでは書類の書き方や面接での受け答えといった、選考の根幹になるテーマについてもお聞きしますが、まずはマナーや服装といったライトなテーマから始めたいと思います。採用担当は、ノックの回数やお辞儀、服装など、候補者のマナーをどこまで見ているんですか?

松本:私は現職を入れて3社で採用担当をしていますが、巷の面接対策でよく聞くようなノックの回数やハンカチを持参してるかといったことは、まったくと言っていいほど見てないですね。ただ、シャツのすそが少し出ているとか、油汚れがはねているとかは意識していなくても目に入ってしまうことはあります。

あとは、前職で美容系のクライアントが多いマーケティング会社にいた頃は、ネイルが剥げているとか、染めた髪の毛がプリンになっているとか、お客さんの不快感に繋がる要素がないか意識してみていました。これは特殊なケースだと思いますが。

 

株式会社ATホールディングス 松本慶太氏

安立:当社は内勤の仕事がメインなので、マナーというほどではなくて、「オフィスで同僚に不快感を与えないか」といった最低限のポイントを見ています。そのときも極力、第一印象だけで判断しないように意識しています。

渡邉:私も同じく、ノックの回数や出されたお茶を口にする・しないといった、形式的な振る舞いについてはどうでもいいかなと思っています。ただし、それはマナーがどうでもいいわけではありません。

具体的にいうと、相手への気遣いや尊敬の念があるかどうか。表面的な行動や言葉遣いというよりも、人としての内面にマナーの本質があると私は思っています。なので、いくらお手本のような振る舞いをしていても、そうした他者への思いやりが感じられなければマイナス評価をするだろうなあと。逆の例で、キャリアに数年ブランクがあって敬語が怪しかった求職者がいたのですが、他者を気遣う気持ちが感じられる方だったので採用したケースも実際にあります。

安立:それはわかります。同僚として一緒に働きたい人どうかは非常に重要ですよね。
技術職の求職者が、SNSで会社の採用選考の振る舞いに対するクレームを投稿をしているのを見かけることがあります。もし当社にそのような態度の方が面接にきたら、遠慮なく現場にも共有してほしい、と技術チームから言われています。当社は部署間の垣根が低い会社なので、たとえ自部署でなくとも本人や会社にフィードバックするのではなく、SNSでコメントしてしまう人がいると、働きづらさを感じてしまう可能性がある、という理由です。

渡邉:似たようなパターンで、面接官の年齢や性別によって態度を変えたり、人事担当者のときには横柄だけど、役職者には丁寧に接する人とかもよく聞きますよね。実は会社側はわかってしまいますが。

── 3人の話を聞いて、マナーは本来、他人への気持ちが振る舞いになったものだということを思い出させてもらえました。ちなみに、服装についてはどうですか?

安立:特に指定していませんし、何を着ているかで評価を変えることはしていないですね。

松本:今の会社では、営業職であれば面接の段階からスーツで来ていただくことが多いです。前職では特に服装指定はなかったのですが、今は廃棄物の処理を行っている会社で、世の中のイメージとして汚れていると思われやすい業界です。だからこそ、営業担当には清潔感のある印象を出してもらいたいので、スーツもしくはオフィスカジュアルでの着こなしが最低限できているかを見ています。

安立どんな業界のどんな職種の選考を受けているかが判断に影響するかもしれませんね。松本さんのような業界以外でも、たとえばお客さまのお金を扱う金融業界は、きちんとした着こなしが求められることが一般的な業界の例だと思います。

選考は、自分が企業を選ぶ場でもある

渡邉:その点、IT業界は比較的自由ですよね。うちの会社もそうですが、企業によってはTシャツや短パン、サンダルといった服装もOKですし。

個人的には、「この会社ではこの格好で働きたい」という服装で面接を受ければいいと思うんです。Tシャツが好きだったら面接でもそれを着ればいいですし、スーツでビシッと決めたいと思うならスーツで面接を受ければいいんじゃないかなと。

株式会社フィードフォース 渡邉康晴氏

松本:企業に合わせるために変に皮をかぶって、入社後にボロが出てすぐに退職なんてことになると自分も企業もお互いに損してしまいますよね。

人事からすると、採用する側(企業)のほうが偉いと思っている人は少ないと思います。ですが、選考を受ける側はどうしても「落とされた」「落ちた」という考え方になりがちですよね。企業から選んでもらうというよりも、自分に合う企業を見つけることが重要なので、選考の段階から常識の範囲内で自分を出すことも大事だと思います。

応募書類は「うちに合うかも」のための引っ掛かりづくり

── マナーや服装に対する考え方を聞いて、「お互いの相性を判断するための情報提供」というふうに考えると良いのかなと感じました。その意味では、書類選考や面接でも型にはまることを意識するより、相性をお互いに判断するほうが良いのでしょうか?

渡邉:そうだと思います。

先に前提の話をすると、うちの中途採用の書類選考では履歴書なしで職務経歴書だけを提出してもらっています。フォーマットも自由です。新卒採用では、オープンESのような共通のフォーマットでもかまいません。

安立:私たちは、履歴書は任意提出・職務経歴書だけ必須にしていますが、考え方は渡邉さんと同じですね。「御社のここが好きです」のような、応募者本人でなく当社に関する情報が多いと、結果的に必要な情報が書かれていないと感じてしまいます。書類でも面接でも、あなたのことを教えてください、というのが人事の本音です。

株式会社ヌーラボ 安立沙耶佳氏

渡邉:この記事を読んだ方にぜひ知ってもらいたいのは、企業側は「候補者を落とそう」と思っているんじゃなくて、むしろ「自社に合う人を見つけよう」としていることです。なので、書類選考では入社意欲よりも、その会社に合うかどうか判断できる情報をたくさん書いてほしいんです。人によってアピールできるポイントが違うので一つには絞れないですけど、経験、スキル、考え方などが判断材料になります。

── 自分のどんなところが企業に引っかかるか分からない場合、要素をたくさん並べてしまっても良いのでしょうか?

安立:長いの種類によるのではないでしょうか。いたずらに長いわけではなく、しっかりと新しい情報が入っている書類ならばそれは人事にとってうれしいことだと思います。一つひとつが端的で、いろんな角度が盛り込まれていると、個人的には読み応えがあって良い書類だと感じます。

松本:単なる自分語りというよりも、「こういう経験や考え方、御社に合いませんか?」というようなイメージで、相手に引っかかりを残すような書き方だと長くても読めます。ブログみたいなことを書かれても困るけど、要素としてまとまっていて、その人の指針が分かるようなものであれば長くても構わないし、むしろうれしいですね。

安立:普段から情報発信をしている方であれば、ブログやSNSなどのリンクを送ってもらえると、人事が候補者を理解する助けになります。

**

企業の選考は、高校や大学の入試のように「受かる・落ちる」という二択で考えてしまう方も多いかもしれません。ですが3人の話を聞いていると、相性が「合う・合わない」という考え方でのぞむ方が良いように感じられます。そうした考え方になるためには、服装なども含めた「自分が大切にしたい働き方」を持ち、無理に応募する企業に合わせすぎないことが一つのポイントです。

後編でも引き続き、人事の視点から書類選考や面接に関するアドバイスをさらに詳しく紹介していきます。

株式会社ヌーラボ安立沙耶佳

新卒で人材サービスを運営する企業に入社し、スタートアップ〜メガベンチャーを担当するリクルーティングアドバイザーに従事。その後、新規事業部門にて、ITエンジニア向けのWebサービスの渉外・ビジネス開発を経験し、2016年11月に福岡市に本社を置く株式会社ヌーラボに人事担当として入社。2022年10月よりマーケティング部にてPR担当に従事。

株式会社フィードフォース渡邉康晴

2014年にフィードフォースひとりめ人事として入社。以降、同社の人事・採用・広報全般に携わる。現在は「フィードフォースのnote」編集長として、採用広報コンテンツを発信している。好きなポケモンはカビゴン。

株式会社ATホールディングス松本慶大

2013年にマーケティング会社に新卒入社。PRプランナーを経験後、人事に異動し人事マネージャーとして新卒採用、広報、組織作りを行う。2020年よりECコンサル会社に転職し、採用、広報、組織構築を担当。現在、人を大切にする経営を実践し、東日本を中心に廃棄物処理を行うATホールディングスにて、6つのグループ会社のHRを担当している。