不幸な転職をなくすために。採用担当3人が語る書類選考・面接のホンネ

株式会社ATホールディングス 松本慶太氏、株式会社フィードフォース 渡邉康晴氏、株式会社ヌーラボ 安立沙耶佳氏

(左から)株式会社ATホールディングス 松本慶大氏、株式会社フィードフォース 渡邉康晴氏、株式会社ヌーラボ 安立沙耶佳氏

服装やマナーといったことから、書類や面接でおさえるべきポイントなど、答えがわからないからこそ巷の噂やアドバイスに過敏になってしまいがちな就職活動。実際のところ、そういった“正解”があるのでしょうか?

前編に引き続き、採用活動を実際に行う企業の人事担当者・元人事担当者3人に採用活動のぶっちゃけ話をお届けします。今回は書類選考や面接で、採用担当がどんなポイントを見ているのかについて語ってもらいました。

答えてくれた人事担当者
安立沙耶佳(株式会社ヌーラボ)
渡邉康晴(株式会社フィードフォース)
松本慶大(株式会社ATホールディングス)
※プロフィールは文末に掲載

聞き手:小野祐紀(スタンバイplus編集部)
写真:示野友樹(株式会社ヒゲ企画)

前編はこちら

職務経歴はどこまで細かく書くべき?

──  前編の最後で話していただいたとおり、応募書類は入社の熱意アピールではなく、お互いの相性を確認するための重要な手がかりだと思います。人事担当に「うちに合うかも」「探している人かも」と思ってもらえるためには、具体的にどんな情報があるといいですか?

渡邉:ポイントの1つは事実だけではなく、その背景にあることも書くことでしょうか。もし営業だとしたら成績や順位など、数字としての成果を書くだけでなく、それを達成するまでに自分が考えた仮説、施策案、試行錯誤したことなど、その人の「仕事中の考え方」が書かれていると判断しやすいです。

そういったことが書かれている書類であれば、仮に目標未達成だったとしても、その過程でどのように会社に貢献していたかがわかるので、「うちに合っている」と判断できることもあります。

安立:とは言っても、これまでのキャリアのすべてを事細かに書かなくても大丈夫です。直近1〜5年でどんな仕事をして、どんな貢献をしたかが分かれば、選考をする側としては十分足りる情報かなあと。

また、関わっていたプロジェクトの中でどのような役割を担当していたのかを細かく書いておいてもらえると、具体的なイメージが湧くので助かりますね。必ずしも中心的な役割じゃなくても、詳細に書かれていれば業務や行動が想像しやすいので問題ありません。

株式会社ヌーラボ 安立沙耶佳氏

── ちなみに、「自分には特に目立った実績がない…」という場合はどうしたらいいのでしょうか?

松本:「実績」という表現が誤解を生みやすい気もするんですが、実績=血と汗というか、表彰や成績1位ということがすべてではありません。何も貢献していない人って実際は少ないと思うので、目立った数字的な成果がなくても、「その会社でどう貢献したか」を具体的に書いていただければ良いと思います。

面接のポイントは「仕事での自分をどれだけイメージしてもらえるか」

── 書類選考のポイントと共通することも多いと思いますが、次に面接でのポイントについて聞いていきたいと思います。そもそも、面接ではどんなことを見ているんですか?

渡邉:私の場合、一つは「仕事の遂行能力」、もう一つは「価値観が合うかどうか」です。

仕事の遂行能力は、職歴について詳しく聞いていくことで判断しています。単純な一問一答というよりも、すごいいろんな角度で質問を重ねています。なので、面接対策がどうとかではなくて、それまでの仕事できちんと考えながら働いていれば、思い出して答えることができる質問だと思います。

── インターネットの転職に関する記事ではよく、「質問の受け答えに時間がかかったり言い淀んだりするとマイナス評価」と書かれていますが、思い出しながら答えると少し時間がかかるイメージがします。

渡邉:当然そうなると思います。その場での受け答えの速さや切れ味の良さよりも、仕事のときにどんな考え方をするのかを知りたいので、問題ありません。

安立:たしかにシナリオ通り話すのが正解だとすると、淀まないほうがいいというアドバイスになるのかもしれません。ですが実際には、こちらもテンプレ通りの質問をしていません。その場で一緒に考え会話を楽しむことができればいいかなと思っています。

松本:たとえば志望動機も「何をきっかけに応募しましたか」「なんでうちを知っているんですか」といった聞き方のパターンがあるので、答え方も少しずつ変わると思います。なので暗記した答えだったり、オンライン面接であれば手元のメモを読んだりするよりも、自分が言いたいことはどこなのかを整理をしておいて、その場で考えながら答えるのが自然なのかなと。

安立:ちなみに当社の場合は型となる質問表を用意していて、「この人の場合はこの質問を深堀りしましょう」ということを面接30分前に集まって話してから面接にのぞむので、やはり人によって内容が変わりますね。

渡邉:面接前は、安立さんと同じく書類を読む時間を含めて準備の時間をかけますね。この経験はこうかなとか前職のことを調べたりとか。

株式会社フィードフォース 渡邉康晴氏

── その人を引き出すための面接というようなイメージでしょうか。

安立:そうですね。質問の中に何か候補者をマイナス評価にするため項目があるわけではありません

逆質問にタブーはない? 面接で聞きにくいことを聞くには

── 面接に関する悩みでよく聞くのが、逆質問です。これも巷では、「逆質問をすることで意欲を伝えることができる」と言われたりもしていますが、実際のところどうなのでしょうか?

全員:ならないですね(笑)。

松本:面接のやりとりの延長の質問がくると意欲が高いなとはたしかに思いますが、だからといって評価としてはプラスにもマイナスにもしません。

安立:意外とうれしいのは、「ブログにだいたい書いてあったので、質問は特にないです」と言われたときです。ブログに書きためている内容が、面接前に読んでもらえているんだなあと。逆に基本的な情報を質問されると、人事として広報不足だったと反省します。

渡邉:面接官に何を逆質問されたか聞いて、それを記事にしたりもしますね。

──求職者として気になるのは、多くの方が待遇面について挙がると思います。ただ、「お金のことを内定前から聞くと印象が悪くなるのでは」という心配もあったりします。

松本:他の質問でも同じですが、本人が聞きたいと思っていることであれば、聞くべきだと思います。逆に、それで嫌な顔をされるようであれば、入社後も相性が合わない可能性があるので、それを事前に確認できるので良いと思います。面接は、お互いが知りたいことを知る場として活用できるのがベストです。

株式会社ATホールディングス 松本慶太氏

安立:どんなことでも不明確なまま入社しないほうが良いので、同じく聞くこと自体は良いと思います。ただし、給与についての質問は人事担当に聞くのが、正確な情報を引き出すことにつながりますね。

たとえば面接担当の現場の社員だと、自分以外の給与情報や制度を理解していないこともよくありますし、自分の年収を一緒に面接に出ている面接官に明かしたくない、というケースもあります。誰が給与情報について正確に答えられるかは会社によると思うので、人事に聞くことをおすすめします。

── 待遇を含めて、雇用条件については求人票に書かれている内容が企業によって違ったりします。求人票を確認する際、こんなことを知っておくと良い、というポイントはありますか?

安立:会社としてではなく、個人として前職の転職エージェント時代から大切にしてきているのが、「会社の課題を包み隠さず書くこと」です。「この課題を解決するために一緒に手を貸してくれませんか」という情報を形にしたのが求人票なので、課題を書かないのはちょっと本来の目的と違うかなって。

渡邉:そうですよね。企業側は何か理由があって募集しているので、「こういうことがやりたくて、でもここが足りなくて、だからここの部分を手伝ってください」というストーリーがあるはずです。そのストーリーを書こうと人事も努力しているし、そこにグッと来る人に応募してほしいですよね。もちろん、求人票というフォーマットの中にそれを盛り込むのは難しいんですけど、項目でいうと「仕事内容」とか「募集背景」がそれに当たると思います。

松本:現職はまさにそこを大切にしています。他者との差別化がしづらい業態なので、自社の強みがソフト面になることが多くあります。それを伝えるには会社として実現したい未来や、そこに向かってどんなストーリーを描くかを求人票に載せることかなあと。

渡邉:あとは実用的な知識、という意味でいえば求人票の書き方については最低限の見方を知っておくと良いと思います。たとえば給与の書き方は、みなし残業代が込みの場合、時間の内訳を書くことが法的に定められています。そういったルールにのっとって書かれているかどうかや、あとは時間外労働の量や参加必須の社内イベントなど、入社後に意外と「思ってた環境と違う」となりやすいことをチェックしておくと良いですね。

安立:細かくいえばキリがないのですが、全国求人情報協会というところに加盟している求人媒体の運営企業であれば、中途社員の比率や分煙ルールなど、載せる情報のルールが決まっています。なので、そこに加盟する媒体の求人を見れば、応募する側としては具体的な情報を得やすいと思います。

まとめ:同じ人でもタイミングで合否が変わるもの。あくまで相性の問題だと知ろう

株式会社ATホールディングス 松本慶太氏、株式会社フィードフォース 渡邉康晴氏、株式会社ヌーラボ 安立沙耶佳氏

── 具体的なアドバイスをたくさんいただきましたが、最後にこれから転職を考えている方へのメッセージをお願いします。

安立:書類選考や面接は、企業が一方的に選考をするためのものではなく、書類や面接を通してお互いの相性を確認する場だということを知っていただけると、選考への向き合い方が変わる気がします。

また、採用見送りになった場合も、全ての要因が求職者にあると思わないでほしいんです。人材を受け入れる体制の問題で内定を出せないケースもありますし、一度採用見送りにしても、数カ月後にポジションが用意できたので採用したケースも実際にはよくあります。

渡邉:選考を受ける以上、通りたいと思うのは人の性です。でも、働くことができるのは1社だけなので、変に自分をつくろって、本来の自分とは違うイメージの自分として入社するよりも、ありのままを見せて自分に合う会社を見つけることで、人生が実りあるものになると思います。

松本:日本には約367万社 の会社があります。それだけの数があれば、自分に合う会社がその中にきっとあるはずです。企業と候補者は上下関係ではなく、対等な目線で向き合う関係性であるべきなので、互いが互いを判断し合うスタンスで、楽しんで企業探しをしてみてください。

株式会社ヌーラボ安立沙耶佳

新卒で人材サービスを運営する企業に入社し、スタートアップ〜メガベンチャーを担当するリクルーティングアドバイザーに従事。その後、新規事業部門にて、ITエンジニア向けのWebサービスの渉外・ビジネス開発を経験し、2016年11月に福岡市に本社を置く株式会社ヌーラボに人事担当として入社。2022年10月よりマーケティング部にてPR担当に従事。

株式会社フィードフォース渡邉康晴

2014年にフィードフォースひとりめ人事として入社。以降、同社の人事・採用・広報全般に携わる。現在は「フィードフォースのnote」編集長として、採用広報コンテンツを発信している。好きなポケモンはカビゴン。

株式会社ATホールディングス松本慶大

2013年にマーケティング会社に新卒入社。PRプランナーを経験後、人事に異動し人事マネージャーとして新卒採用、広報、組織作りを行う。2020年よりECコンサル会社に転職し、採用、広報、組織構築を担当。現在、人を大切にする経営を実践し、東日本を中心に廃棄物処理を行うATホールディングスにて、6つのグループ会社のHRを担当している。