助産師になるにはどうすればよい?必要なステップと具体的な業務内容

助産師とは

助産師のイメージ

(出典) photo-ac.com

助産師は助産所や産婦人科などで、主にお産の介助を行います。日本では、昭和20年代の初めまで、お産を介助する人は「産婆」という職業名で人々に頼りにされていました。その後「助産婦」という名称や教育・免許制度を経て、現在は「保健師助産師看護師法」のもと、国家試験に合格して厚生労働大臣の免許を受けた人が「助産師」と認められています。海外では男性の助産師も活躍していますが、日本では助産師になれるのは女性のみです。

現代では、産科医師のいる病院での出産が多く、助産師の85%以上が総合病院や大学病院、産院、産婦人科・小児科病院などの医療機関に勤務しています。一方、助産所を開所しているか助産所に勤務している助産師も、5%程度います。

母体が正常な妊娠経過にあれば、助産師も産科医師と同様に、妊娠中の診断やお産の介助が可能です。経過や状況に応じて必要な医療措置が受けられるよう、医療機関との連携のもと、助産所や自宅での出産を希望する女性をサポートしています。

勤務の場が医療機関であれ助産所であれ、助産師は母親の「産む力」、赤ちゃんの「産まれてこようとする力」を可能な限り引き出し、お産をサポートします。無事に出産が終われば、そこから始まる赤ちゃんの世話や授乳を両親が協力してうまく行えるよう、アドバイスをするのも助産師の仕事です。

助産師は文字どおり「お産を助ける」役割ですが、お産に関することだけにとどまりません。母子のケアはもちろん、思春期や更年期を含む中高年期など、女性が生涯で迎えるさまざまな体と心の変化、不妊や性感染症、月経障害といった不調、また、女性に対する暴力などについてもケアします。広く深く知識と経験が求められる仕事です。

助産師の職場や仕事内容

助産師の職場は、総合病院や大学病院、産院、産婦人科・小児科病院などの医療機関が85%以上です。助産所を開業・勤務、自治体の保健センターなどで勤務するほか、出張で助産などを行う助産師もいます。

医療機関では規模や方針にもよりますが、妊娠期間中に行われる妊婦健診は、計測や問診などは助産師・看護師、診察は医師が行う場合がほとんどです。週数が進むと、母親が抱えている疑問や不安などに答えたり、バースプランを作成するため、妊婦健診とは別に助産師外来の時間をとることも多いです。

助産師が主体となり、出産予定の母親たちにお産の流れや妊娠中の生活について話す「母親学級」や、父親も参加してお産や子育てを一緒に考える「両親学級」を開催する医療機関もあります。

お産までに母親と助産師が顔を合わせるのは数回のみという場合もあります。また、バースプランを話し合った助産師が、お産時に介助を担当するとは限りません。そのため助産師は、短いやり取りの中でも信頼関係を築けるよう努めます。

近年は、分べん室でアロマをたいたり母親の好きな音楽をかけたりと、リラックスした状態で出産に臨めるようさまざまな工夫をしています。また、緊急時の医療体制や助産師のチーム体制が整っていることからも、病院での出産を希望する母親は多いようです。

一方助産所は、医師の診察を受けるよう定められた週数の妊婦健診以外は、助産師が妊娠期間を通じて母親の状態や胎児の発育や発達を見守り、お産に至る場合が多い傾向にあります。数カ月に及ぶ妊娠期間中、母親と助産師がじっくり信頼関係を築ける点は、助産所での出産を選ぶ母親にとって魅力の一つです。

ただし助産師は、へその緒の切断、緊急時の手当てなどはできますが、帝王切開や促進剤の使用などの医療行為はできません。医療行為をするには嘱託医(医療機関)を定め、連携することが義務づけられていて、緊急事態に備えなければなりません。

医療機関や助産所以外では、自治体の保健センターなどで「新生児訪問」といわれる家庭訪問を担当する助産師もいます。自治体によって異なりますが、生後1カ月ごろに、赤ちゃんの発育状態や母親の心身の状態を確認し、保健指導を行います。近年、ニュースでも取り上げられる産後の虐待や産後うつなどの兆候をいち早く捉え、適切な対応に結びつけることも、助産師の重要な仕事です。

産後、母親が抱えがちな悩みの一つが授乳です。体質によって、母乳が出にくかったり、出すぎたりもします。乳腺炎になれば、痛みや高熱で赤ちゃんの世話がままならない場合もあるでしょう。助産師は赤ちゃんの体重の増減を確認し、必要に応じて人工乳を補ったり、どれくらいの量を足せばよいかを助言したります。

また、赤ちゃんが飲みやすい授乳体勢を指導するのも助産師の仕事です。授乳は人によって数年に及びます。その間に起きる乳房のトラブルや卒乳や断乳の相談に対応するほか、乳房のマッサージをすることもあります。乳房のマッサージには技術と経験が必要なため、母乳外来や助産院で、母乳育児のサポートを専門に行う助産師も少なくありません。

職場や勤務形態によっても異なりますが、助産師は夜勤もある仕事です。夜や明け方にお産が進むことも多く、入院中の母子のケアもしなければならないので、食事や休憩を決まった時間に取れないこともあります。交代制の勤務では、睡眠も不規則になりがちです。

また、お産では予期せぬ状況が起きることがあります。母や子が命を落とすこともあり得ます。妊娠が判明した人の中には、事情により中絶を選択せざるを得ない場合もあるでしょう。助産師は、精神的につらい場面に立ち会うことも多い仕事です。母親のつらさを受け止めて命に向き合うには、深い知識と経験が求められます。

それでも、命の誕生の瞬間に立ち会う感動は、助産師にとって大きなやりがいにつながるようです。また、母と子の成長をサポートし、お産にとどまらず「生まれ、成長し、老いること」に寄り添う助産師は、多くの人に必要とされる仕事だといえるでしょう。

助産師になるには

ファイルを手にする看護師

(出典) photo-ac.com

助産師になるには、まず「看護師国家試験」の合格が必要です。そのうえで文部科学大臣の指定する学校で1年以上助産に関する学科を修めるか、厚生労働大臣の指定した助産師養成所を卒業することなどが、助産師国家試験の受験資格となります。

受験資格を得るための教育課程はさまざまで、大学の助産コース、大学院、大学別科、専修学校などがあります。実習も非常に重要です。助産所や病院はもちろん、小中学校の思春期教育、不妊や更年期などの体の変化や不調に対するケアなどの実習が課される場合もあります。実習が必須なことからも、独学では受験資格は得られません。

助産師国家試験の合格率は例年95%以上になることが多く、99.9%とほぼ全員が受かるような年もあります。ただ、難易度が低いわけではありません。助産師国家試験の受験資格が得られる学校への入学や入学後の学習・実習、レポートなどが非常に難しいといわれており、むしろ国家試験を受験するまでの過程が困難であるといえるでしょう。

試験は毎年1回、2月に行われます。厚生労働省によって施行されるため、試験の詳細は厚生労働省のサイトを確認しましょう。

資格取得後の採用については、医療機関の採用試験だと、エントリーシート、書類審査・面接という流れが多いようです。公務員型の公立病院の場合は、そのほかに小論文(作文)も課されます。

ただし、近年は公立病院の独立行政法人化が進んでいます。独立行政法人は2種類で、特定地方独立行政法人と一般地方独立行政法人があります。一般地方独立行政法人の場合は、病院の名称が慣例的に公立病院となっていても、職員の身分は公務員ではありません。公務員としての勤務を希望している場合は、その医療機関の運営母体を確認する必要があります。

助産師になるための学校

助産師になるルートは、「看護師資格と助産師資格を同時に取得する」「看護師資格を取得した後に助産師資格を取得する」の2パターンがあります。どちらを選択するかで、選ぶべき学校は異なるので注意しましょう。

看護師資格と助産師資格の同時取得を目指す場合は、助産師養成課程のある4年制の大学がおすすめです。看護学と助産学を並行して学習し、卒業までに二つの資格の取得を目指します。

一方、看護師資格・助産師資格を一つずつ取得する場合は、看護系大学・短大または看護専門学校で看護師資格を取得しましょう。資格取得後に看護系大学の大学院や看護系短期大学の専攻科あるいは助産師養成所に入れば、助産師国家試験に臨めます。


どちらのルートでも助産師になれますが、前者は「二つの国家資格をまとめて取る」難易度が高い方法です。後者は学校に入学し直さねばならず、時間・コストの負担が大きいかもしれません。

自分にはどちらのルートが合っているか、しっかり検討しましょう。助産学を学べる学校は、「公益社団法人助産師教育協議会」のホームページから探せます。

求人の給与情報から集計した助産師の年収帯

赤ちゃんの手をとる

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厚生労働省の職業情報提供サイト「O-NET」によると、助産師の全国平均年収は553万9,000円です。ただし、地域によって年収額には大きな違いがあり、勤務先によっては年収が全国平均を大幅に上回る・または下回る可能性もあります。

例えば岐阜県では、助産師の平均年収が909万2,000円とかなり高めです。一方鳥取県では、平均年収は458万8,000円にとどまります。地域によって平均年収に大きな差があるため、勤務場所の選定も重要になるかもしれません。

助産師の求人傾向

生まれたばかりの赤ちゃん

(出典) photo-ac.com

一般的な求人サイトでも、求人情報が得られます。助産所や各医療機関のオフィシャルサイトなどでも確認が可能です。医療機関も助産所も地域に根ざしていることから、ハローワークで求人情報を得るのも難しくないでしょう。

不規則で厳しい「夜勤なし」をアピールポイントとする求人や、保育所を併設して子育て支援をうたう医療機関もあり、働きやすさを重視する傾向が見られます。助産師は、その専門性や業務の幅広さから求人情報は見つけやすい職種です。

出典:
厚生労働省「保健師助産師看護師法」
厚生労働省「助産師国家試験の施行」
日本助産師会
東京都助産師会「助産師とは」
日本病院会「会員一覧」
京都市立病院
全国助産師教育協議会「正会員(会員校)一覧」
職業情報提供サイト(日本版O-NET)「助産師 - 職業詳細」

【監修者】バースコンサルタント代表。助産師・看護師・保健師。 助産師として1万件以上の出産に携わり、8千人以上の方を対象に産前・産後のセミナー講師を務める。海外での生活を機にバースコンサルタントを起ち上げ、現在「妊娠・出産・育児」関連のサービスの提供、アドバイスを行う。関連記事の執筆・監修、商品・サービスの監修、産院のコンサルタント、国・自治体の母子保健関連施策などに従事。 公式HP:https://birth-consultant.com  公式Instagram:https://www.instagram.com/birth_consultant_nao