マンション管理士になるには?詳しい仕事内容と必須の資格を紹介

マンション管理士とは

マンション

(出典) photo-ac.com

マンション管理士は、マンションの維持・管理に関するコンサルティング業務を手がけます。マンションの管理組合や区分所有権者が直面するトラブルを解決する専門家として、「マンション管理士試験」の合格とその後の登録が求められる国家資格が必要です。法律などの専門知識が必要なことや国家資格を有する点で「マンションの管理人」とは異なります。

具体的な業務内容

現在、国内のマンションに住む人は約1,530万人。日本の人口の1割を超え、さらに増加傾向にあります。設備や立地条件などで戸建て住宅にはない特徴を持つ物件が増え、マンションに住むメリットが大きくなったことがマンション人気の一因のようです。

しかし、住む人が増えればトラブルが起こるリスクも増加します。そこで法律上義務付けられたのが、マンションごとの管理組合の設置です。各マンション独自のルールを定めてトラブルを防止することが目的です。

ところが、多くの管理組合は運営を一般住民が担っているのが実態。専門知識を持たない管理組合の担当者に「会計処理の方法」「運営コストの削減」といった組織の運営方法から「建物の修繕が必要になった場合の工事会社の選定」のような事柄まで、幅広くアドバイスするのがマンション管理士の仕事です。

また、各マンションの管理組合から個別に依頼を受けるだけではなく、自治体が主催するセミナーでの講演や相談会に出席したり、マンション管理に関するアドバイザー制度を設けている自治体でアドバイザーに就任して活動したりすることもあります。

なおマンション管理士と似た資格に「管理業務主任者」があります。この資格はマンション管理会社側の業務が円滑に進むよう設置が義務付けられるもので、住民の組織する管理組合の利益を図る「マンション管理士」とは業務目的が異なります。

将来性

国土交通省が発表した「マンション政策の現状と課題」によると、築30年を迎え老朽化対策が必要となるマンションは、令和10時点で約367万戸に上る見込みです。これは平成30年時点の約2倍で、マンションの老朽化が速いスピードで進んでいることがわかります。

マンションのみならず居住者の高齢化が進むこともあり、マンションの老朽対策についての話し合いは今後一層増えていくと予想されます。マンション管理の専門家であるマンション管理士の存在はより重要なものとなるでしょう。

マンション管理士は、組合運営のノウハウのほか、契約などの法律知識、マンション構造などの技術的知識までも有する職種です。

老朽化対策を一気通貫に受任することができ、別業種の専門家ではなかなか太刀打ちできない独自のポジションといえます。今後も必要性が低くなるとは考えにくく、将来性のある士業といえるでしょう。

マンション管理士になるには

ファイルを持つスーツの男性

(出典) photo-ac.com

マンション管理士を名乗るためには「マンション管理士試験」に合格したのち、マンション管理士としての登録が必要です。ただし、「マンション管理士」は名称独占資格であり独占業務ではありません。

つまり、試験合格後に登録しなければ「マンション管理士」や類似する名称を名乗ることはできませんが、そのような名称を名乗りさえしなければ、マンションの管理組合運営についての相談を受けることなどは問題ないのです。この点は、資格として弱みといえるかもしれません。

マンション管理士試験の概要

マンション管理士試験は国土交通大臣が試験主体となり、公益財団法人マンション管理センターを指定試験機関として実施するもので、例年11月に試験が行われます。受験資格に制限はなく、学歴・年齢を問わず広く門戸が開かれています。

願書配布は例年8月1日に始まります。テスト形式はマークシート方式で総問題数は50問、平均して35問以上の正解で合格となります。合格率は概ね7~8%台で推移しており、資格試験の中でも難度は高めです。

令和3年度は、受験者数12,520人のうち合格者は1,238人、合格率は9.9%と高めでした。合格者の世代別に見ると60代以上も合格率7.8%と健闘しているのも特徴です。

なお、管理業務主任者試験の合格者は「マンションの管理の適正化の推進に関する法律等」に関する出題5問が免除されるため、同試験合格後にマンション管理士試験に挑戦する受験者も多くなっています。

試験概要については毎年6月に官報で公告されるほか、 公益財団法人マンション管理センター のサイトでも公表されます。

登録

試験合格後に「マンション管理士」を名乗るためには、公益財団法人マンション管理センターにマンション管理士として登録することが必要です。登録には実務経験を有することなどの登録要件はありません。欠格事項に当てはまらなければ、試験に合格した人全員が登録できます。

マンション管理士のキャリアパスは?

マンション管理士は国家資格であるため、「マンション管理士」として独立開業することも、もちろん可能です。しかし実際のところ「マンション管理士」の単独資格で開業しているケースは少なく、行政書士や土地家屋調査士などほかの士業をベースに開業する、建築士として建築事務所を経営するなど、複数資格を併せて開業していることが多いようです。

つまり、マンション管理士の資格を用いてマンション管理の相談を受け、それをきっかけに自らの建築事務所でマンション改修を請け負ったり、行政へ提出する書類作成を依頼されたりという仕事の流れを取っているのです。複数資格を持っていれば、独立開業の際の強い味方になるのがマンション管理士の資格だともいえるでしょう。

独立開業を考えていなくても、不動産管理会社や不動産系のコンサルティングを事業にしている会社では、マンション管理士と「管理業務主任者」や「宅地建物取引士(旧資格名:宅地建物取引主任者)」の資格と併せて取得することで、高く評価されることがあります。

近年は不動産管理会社にも住民目線のサービスを提供して他社と差別化を図る会社が多く、マンション管理士としての専門知識が評価されやすいようです。

試験範囲がマンション管理士に近い管理業務主任者の資格は、合格すればマンション管理士の試験の一部が免除されるため、取得しておきたいところです。不動産業界でのキャリアアップや転職を考えるなら、関連資格の取得を検討するとよいでしょう。

マンション管理士経験者へのインタビュー

インタビューを受ける男性

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スタンバイでは、実際にマンション管理士として働いていた方に、「仕事のやりがい」「努力したこと」「将来性」についてインタビューを実施しました。

インタビューの対象者

  • 男性(神奈川県在住)
  • 実務経験年数:3年

Q1.マンション管理士のやりがいを教えてください

マンション管理士のやりがいは、マンションの住民の方の相談に乗ることができるところです。特に管理費、修繕積立金の値上げが必要と思われるマンションで、長期の計画を提出し、値上げを防ぐことができたときは達成感がありました。また、住民からも感謝の言葉をいただき、「やってよかった」と思いました。

そのほかにも、修繕の協力をすることにもやりがいがあります。マンションでは定期的に大きな修繕が必要となります。しかし、ほとんどの管理組合がどのように修繕をすればよいかを知りません。そのようなときに、こちらから「ここが劣化しているため、修繕を行った方がよいですよ」とアドバイスをし、作業した後にきれいになったマンションを見ると達成感があります。

Q2.マンション管理士になるために努力したことを教えてください

マンション管理士は士業のため、試験があります。合格率は低く、独学では難しいような資格となっています。そのために、私はこの資格を取ろうと決めたときは、就いていた仕事を辞めて、マンション管理の職業訓練校に通うことにしました。

マンション管理の職業訓練校では、朝から夕方まで座学が行われ、休むことなく3ヶ月通いました。また、職業訓練終了後も試験までは2ヶ月残っていたために、毎日朝から晩まで勉強しました。そして、その結果試験に合格し、マンション管理士の資格を得ることができました。このときに管理業務主任者の資格も一緒に取得することができ、仕事に役立てることができています。

Q3.マンション管理士の将来性についてどう思いますか?

マンション管理士は士業ながらも、特別に何かマンション管理士にしかできない業務があるというわけではありません。そのため、マンションのフロントマンの資格である管理業務主任者の資格や、宅地建物取引士の資格の方が重視されがちです。

しかしながら、これから老朽化してくるマンションが多く、建て替えを行わなければならないマンションも増えてきます。そのような場合に、管理業務主任者や宅地建物取引士の知識では足りないと思われます。マンション管理士は、管理業務主任者に比べて深い知識を持っています。そのため、これからマンション管理士への管理組合からの相談が増えてきて、マンション管理士の需要も増えてくるのではないかと思われます。

マンション管理士の求人について

資料を記入するスーツの男性

(出典) photo-ac.com

マンション管理士の求人は、不動産業界では特に不動産管理会社に関わる求人が多いようです。例えば、マンションの施工と販売、管理を一括して手がける会社でマンション管理組合との連絡、調整業務を任されるといったポジションなどがあります。また、管理組合の運営やコミュニティー作りのサポートといった業務の求人もあり、住民目線のサービスを提供するために不動産管理会社の社内にマンション管理士を必要としている現状があるようです。

また、場合によっては不動産業界の法務担当部署などでマンション管理士資格保有者を資格手当で優遇しているケースなどもあり、すでに不動産業界で活躍しているビジネスパーソンが担当職種を変更したいケースにも、マンション管理士資格の取得は有効なのかもしれません。ただし、マンション管理士資格の保有自体はあくまで歓迎要件にとどまる求人が多い印象です。

一方、マンション管理士として単独で開業している事務所の求人はなかなか見つけることが難しく、コネなどで紹介を受けるか、地道に探す場合がほとんどのようです。

出典:
国土交通省「マンション政策の現状と課題」
公益財団法人 マンション管理士センター「マンション管理士試験」