社労士になるには資格が必須?試験の概要と詳しい業務内容をチェック

社会保険労務士とは

電卓を手にしているサラリーマン

(出典) photo-ac.com

社会保険労務士(社労士)は、労働や社会保険に関する法律と人事・労務管理を専門とする職種で国家資格を持ちます。従業員の雇用や退職で発生する社会保険の手続きや、職場で発生するさまざまな労働問題に関してコンサルティングと対処を行うほか、公的年金に関する唯一の国家資格者として年金に関する相談にも応じます。

具体的な業務内容

社労士は、企業が活動していくうえで必要な3要素である「ヒト」「カネ」「モノ」のうちの、「ヒト」の問題に関するエキスパートとして、雇用や労働にまつわる問題を広く取り扱う職種です。社労士は、採用してから、その被雇用者が退職して無事に年金を受給するまでのいたるところに関わります。

従業員を採用すると、企業は従業員の労働保険や社会保険に関する手続きをはじめます。その手続き業務を代行するのが社労士です。

「労働保険」とは労働者の生活をサポートするために設けられた制度の総称で、労働災害に巻き込まれて働くことができなくなった場合に適用される「労災保険」と、失業した場合のセーフティーネットになる「雇用保険」を指します。

社会保険は、主に老後の生活を支える「厚生年金」と、労働者とその家族の病気やケガ(労働に関わらないもの)を保障する「健康保険」です。

労働保険も社会保険も、一部の職種や規模の小さな職場を除いて加入の義務があります。加入の義務がない職場でも、両保険の有無は求職者が就職・転職活動で企業を選択する際の重要な要素です。従業員を集めたいのであれば、事実上加入は必須ともいえるでしょう。

しかし、労働保険や社会保険の制度は複雑で、手続きの書類作成にはかなりの時間を要するうえ、年度更新や算定基礎業務には専門的な知識も必要です。申告額に誤りがあれば、追徴金を課される場合もあります。また、手続き自体は本業の増益に直結しないため、できる限り労力をかけたくないと考える経営者は少なくありません。

専門知識をもとにこのような作業を代行し、企業が手続きにかける時間や人件費を大幅に削減させるのが社労士なのです。

採用した従業員が働きはじめてからの人事・労務管理においても、社労士が関わる場面は多くあります。就業規則の作成・見直しや、賃金制度の構築に関するアドバイスなど、人事・労務に関するコンサルティングを通じて良好な労使関係の構築を手助けし、企業経営をサポートすることも、社労士の業務のひとつです。

パワーハラスメントや賃金の未払いなど、従業員と企業との間に職場に関するトラブル(個別労働紛争)が発生した場合、争いを解決に導くサポートをすることも社労士の業務の範囲です。

労働関係のトラブルを解決する手段としては、裁判のほかに「裁判外紛争解決手続(ADR)」とよばれる簡便な方法が用意されており、「特定社会保険労務士」の認証を受けた社労士は、ADRにおいて代理人となって当事者の権利を守ることが可能です。専門知識のある社労士が入ることで、当事者本人がADRを行う場合よりも迅速で柔軟な解決の実現が期待されています。裁判に発展してしまった場合、社労士は代理人になれませんが、「補佐人」という立場で委託を受け、当事者の権利主張を陳述できる立場す。

また、社労士は公的年金に関する唯一の国家資格者として、年金に関する相談を受けることも可能です。日本では原則的に全国民が何らかの年金に加入しています。しかし、制度が年々複雑化しており、制度の全貌をしっかり把握している人は少ない状況です。社労士への相談により、本来受け取れるはずの年金を知識不足で受け取れないという事態を防ぐことができます。

将来性

開業している社労士の場合、ほかの士業に比べて将来への明るい材料はやや多いといえるでしょう。政府の主導する「働き方改革」の影響や、採用難が続いているという事情もあり、就業規則や賃金体系を見直し、人材の定着率を向上させようという企業が多くなっているようです。

また、人手不足のなかで、直接利益に直結しない労働・社会保険手続き業務を社労士にアウトソーシングしようという企業も増えると予想されています。

「具体的な業務内容」の項目で挙げたように、社労士の業務範囲には労働・社会保険手続きの代行業務も、人事・労務管理のアドバイスも含まれます。社労士を必要とする市場自体は広がるものと考えてよいでしょう。

ただし、保険手続きの代行業務は定型処理のため単価が安く、開業して収入の軸とすることは難しいようです。また、人事・労務管理のアドバイスは社労士の独占業務ではなく、無資格者も可能で参入障壁が低いため、これも収入の軸とするのは困難でしょう。

社労士として開業する場合は、今後件数が多くなる保険手続き業務や人事・労務管理のアウトソース化の受任をきっかけに、人事全般のコンサルティングを請け負う「経営者の相談役」を目指すのが現実的と考えられます。

事業会社に勤務する社労士も、見通しは悪くありません。労働・社会保険手続きや人事・労務管理を重視する流れのなかで業務をアウトソース化する企業がある一方で、社内の人事部・総務部を強化し、社内事情を素早く把握・改善することに重きを置く企業もあると考えられるためです。

ただし、社内業務として保険手続きや紛争手続きを行う限りは社労士資格が不要であるため、資格があれば採用や出世に加点されるという程度の評価にとどまる可能性もあります。とはいえ勤め先の給与体系によっては、資格の取得によって手当も期待できるでしょう。

社労士になるには

手帳を見る女性

(出典) photo-ac.com

社労士として業務にあたるには、原則として国家試験である社会保険労務士試験に合格し、その後社会保険労務士名簿への登録が必要です。

試験の概要

「社会保険労務士試験」は、例年8月に行われます。労務・社会保険に関わる法律ごとにジャンルが分かれていて、完全マークシート方式です。選択式と択一式の問題があるほか、出題分野ごとに足切り点も設定されているのが特徴です。全ての出題分野において一定以上の正答率を担保できるよう、偏りのない学習が求められます。

2021年度の合格率は7.9%でしたが、過去10年では2%台から9%台までとばらつきがあります。年により合格難易度は多少異なるものの、難関資格といってよさそうです。なお、一部の公務員経験者では、科目の免除を受けることができます。

登録

試験合格後は、全国社会保険労務士会連合会に備える社会保険労務士名簿への登録が必要です。登録には要件があり、2年以上の実務経験(労働社会保険諸法令関係事務)を積むか、事務指定講習(全国社会保険労務士会連合会が実施する労働社会保険諸法令関係事務指定講習)を修了する必要があります。

事務指定講習を修了するには、4ヶ月の通信指導課程と、4日の面接指導課程またはeラーニング(1科目3時間のオンデマンド配信)を受けなければなりません。面接指導過程とeラーニングのどちらを受けるかは、講習を受けるときに選択できます。

社労士の求人について

スーツの女性

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社労士の求人は、事業会社では人事部や総務部が多く、場合によっては法務部やコンサルティング会社などでの募集もあるようです。多くの場合、社労士資格は歓迎要件にとどまり、各部門での実務経験が必須要件となります。

有資格者には資格手当で優遇するケースもあるため、転職エージェントや転職サービスに相談してみるとよいでしょう。

社労士事務所でも総務や人事経験を求めるところはありますが、パートやアルバイト、非常勤の求人は資格さえあれば「未経験者歓迎」というところも珍しくありません。ただし、未経験者でも採用されるのは比較的小規模の事務所が多いため、民間の転職サービス上では募集していない可能性もあります。ハローワークの情報も積極的に見るとよいでしょう。

求人の給与情報から集計した社労士の年収帯

年収のイメージ

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10人以上の事業所で働く社労士の平均年収は、厚生労働省が2019年に行った「度賃金構造基本統計調査」によると、460万円程度です。所定内給与の平均額が313,500円、賞与を含む「その他の特別給与額」が平均841,400円という内訳になっています。

2020年の「民間給与実態調査」によれば、日本人の平均給与は年間4,330,000円です。社労士は平均的か、やや高い年収の職業といえます。ただ、働き方や請け負う仕事の種類によって、収入は大きく変わるでしょう。

出典:
全国社会保険労務士会連合会
社会保険労務士試験オフィシャルサイト
厚生労働省「第53回社会保険労務士試験の合格者発表」
政府統計の総合窓口「賃金構造基本統計調査令和元年以前 職種DB第1表」

社労士経験者の口コミ

電卓をたたくビジネスマン

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現役社労士、社労士経験者にアンケートを実施。社労士の仕事の口コミ・評判をします。

Q1.社労士のやりがいを教えてください

S.S.さん (男性 / 愛知県)
社会保険労務士 勤続年数5年以上 (職業 : 会社員)

相談業務を通じて、企業に対しても、個人労働者の方々に対しても、助言を提供できることが社会保険労務士のやりがいです。

私の場合は、ファイナンシャルプランナーと兼業しているため、健康保険と民間生命保険の制度について相談したお客さまが独立開業したときには、創業された会社で社会保険や労働保険の新規適用のご依頼を受けることができます。逆に事業主の方からは、会社の労務管理や保険の届出だけではなく、事業主の方自身の年金相談にあたることもあります。一人のお客さまと、さまざまな相談を通じて長くつきあっていけるのが社会保険労務士の業務の良い点だといえます。

このほか、企業側への労務相談を通じて紛争を予防したり、ときには労働基準監督署に対応するなど緊張感のある業務に携われるのも社会保険労務士のやりがいの一つです。

Q2.社労士になるために努力したことを教えてください

S.S.さん (男性 / 愛知県)
社会保険労務士 勤続年数5年以上 (職業 : 会社員)

通信教育の講座の録音を、時間があれば何度も繰り返して聞くよう、常に努力していました。何度も繰り返す、というのは2回や3回ではなく、20回や30回、という単位です。とにかく講義を過剰に反復させて聞き続けること、聞き飽きても聞くことを心がけていました。
独立開業するまえに勤務していた会社で働きながら社会保険労務士を目指したため、まとまった時間は休日以外には取れませんでした。しかし、試験範囲が広いことと、科目別に最低限の点数を取らなければ足切りされて不合格になるために、幅広い分野の情報を忘れずにいることが決定的に重要だと考えたのです。オーディオプレーヤーに講義の録音を入れて聞きながら歩くなど、通勤中に参考書が開けなくても勉強を続けるよう努力していました。

Q3.社労士の将来性についてどう思いますか?

S.S.さん (男性 / 愛知県)
社会保険労務士 勤続年数5年以上 (職業 : 会社員)

社会保険労務士が現在主におこなっている業務には、将来性を失っていく単純な業務と、今後も伸びていく業務があると考えています。企業側の社会保険労務士として従業員の賃金計算をしたり社会保険・労働保険の届出を行うなどの単純な業務はクラウド会計ソフトなどの普及で減少していくでしょう。こうした業務でも、売上を上げなければならないのが悪い点かもしれません。

一方でブラック企業問題への取り組みや、障害年金の支給を勝ち取る業務など、お客さま一人ひとりの事情に合わせてやるべきことを考えて実行し、大きな成果を得る可能性が広がっているのは社会保険労務士の良い点です。

こうした定型的な作業でない業務を探して業務を拡大できる人には、社会保険労務士は将来性がある職業になるはずです。