住宅手当が支給される会社で初めて働く場合は、制度の内容をきちんと理解しておくことが大切です。条件や金額の相場について知っておけば、手当の受け取りに向けてスムーズに動けるでしょう。支給条件や金額の相場、メリット・デメリットを紹介します。
この記事のポイント
- 住宅手当とは
- 企業が行なう福利厚生で、「住宅手当」「家賃補助」「社員寮・社宅」「引っ越し手当」などが含まれます。
- 住宅手当のメリット・デメリット
- 金銭的な余裕ができることがメリットとなる反面、現金支給の場合、税金面での負担が増えてしまうことがデメリットといえるでしょう。
- 住宅手当をもらえる条件
- 住宅手当は、社内制度となるため企業によって条件が異なります。就業規則で条件をきちんと確認しましょう。
住宅手当とは
福利厚生の1つ
住宅手当とは、自社の従業員が住む家や部屋への手当です。企業が行う福利厚生の1つで、給料とあわせて現金で支給されます。
企業が住宅手当を支給する主な目的は、従業員の生活に関する負担を軽減することです。家賃や住宅ローンの一部を企業が負担することで、従業員の生活に余裕が生まれます。
住宅手当には古い歴史があり、福利厚生が重視され始めた大正時代には、すでに制度として存在していました。金銭補助や社宅の利用など、当時からさまざまな方法で企業が従業員の住宅費を補助しているのです。
住宅手当・補助の種類
住宅に関する手当や補助には、以下のような種類があります。
- 住宅手当
- 家賃補助
- 社員寮・社宅
- 引っ越し手当
家賃補助とは賃貸住宅に住んでいる従業員に現金で支給されるお金で、賃貸住宅にかかる家賃の一部が補助されます。
『家賃補助の対象=家賃』『住宅手当の対象=住宅ローン』と分けているケースもありますが、本来の住宅手当は賃貸住宅で発生する家賃を対象とするものです。したがって、基本的には『住宅手当=家賃補助』と考えてよいといえるでしょう。
企業によっては社員寮や社宅を低家賃で貸し出している場合があり、従業員にとっては、勤務先の近くで住宅費を抑えて住めることがメリットです。
引っ越し手当に関しては、転勤や赴任の際に引っ越し代の一部を補助する従来型の手当だけでなく、職場の近くへ引っ越す場合に手当を支給する企業も増えています。
住宅手当の相場
厚生労働省の『就労条件総合調査』を見ると、2019年11月分の住宅手当の全国平均は約1万7800円であることが分かります。住宅手当の相場を知りたい場合の目安になるでしょう。
ただし、金額は企業により大きく異なります。住宅手当は福利厚生の1つではあるものの、企業に義務づけられているわけではないため、そもそも制度がない企業も多いのです。
金額の決め方も、支給条件を満たす従業員に一律の金額を支給するパターンや、家賃の一定割合を支給するパターンなどがあります。
住宅手当をもらえる条件
住宅手当は誰にでも支給されるものではありません。受け取るためには、支給条件を全て満たす必要があります。住宅手当の支給条件について確認しましょう。
雇用形態
かつては多くの企業で、正社員であることを支給条件の1つとしていました。しかし、同一労働同一賃金の導入に伴い、雇用形態による待遇差はなくなってきています。
同一労働同一賃金とは、『雇用形態の違いにかかわらず、企業内で同じ仕事をしているなら待遇も同じにする』という考え方です。2021年4月からは、全ての企業において不合理な待遇差を設けることは法律で禁じられています。
住宅手当に関しても、企業によっては支給条件が変わっている可能性があります。雇用形態だけでなく、一定年数以上の勤続年数を条件としているケースもあるため、就業規則で条件をきちんと確認しましょう。
主たる生計者である世帯主であること
正社員か否かに次いで、多くの企業が条件としている項目に、『主たる生計者である世帯主であること』が挙げられます。
同棲している場合などはそれぞれが世帯主になれますが、手当の対象はどちらかに限定するのが基本です。これは両方の世帯主が満額の手当を受け取ることを防ぐための条件で、2人ともが手当を受け取れる場合も、双方ともにある程度減額されるのが一般的です。
主たる生計者である世帯主に限定すれば、実際には住宅費を負担していない従業員へ支給してしまうことを防げます。多くの場合、『主たる生計者である世帯主』であるかどうかは住民票の提出などで確認されます。
賃貸か持ち家か
住宅手当は、基本的に賃貸住宅に住んでいる人へ支給されます。賃貸と持ち家の両方に補助を出すと、従業員の間に不公平感が生まれるためです。
持ち家はローンの支払いが終わっても資産として残ります。一方、賃貸住宅は家賃を支払い続けても資産にはなりません。ローンの補助を出すと資産形成をサポートしていることになり、賃貸との間で公平さを欠くため、家賃補助を基本としているのです。
持ち家の場合でも手当を支給する企業はありますが、ローンの補助となるため賃貸より申請手続きが煩雑になりがちです。
通勤範囲
企業によっては、通勤範囲を支給条件の1つにしているケースもあります。会社から一定の距離以内に自宅がある場合に、住宅手当の支給を受けられるのが基本です。
通勤範囲の条件は、遠方からの通勤によるストレスを防ぐ目的で設けられています。従業員が会社の近くに引っ越せば、交通費を削減できる上、体力面でも楽になります。
ただし、自宅が会社から遠い場合は、通勤手当が出ることもあるでしょう。住宅手当より通勤手当を選んだほうが得をすることもあるため、遠方に住んでいるならどちらを優先するか慎重な検討が必要です。
住宅手当のメリット・デメリット
住宅手当にはメリットとデメリットがあります。支給申請を行う前に、メリットとデメリットをきちんと確認しておきましょう。
生活に余裕が出る
住宅手当をもらうメリットとしては、生活に余裕が出ることが挙げられます。住宅費は支出の中でも大きな金額になるため、手当分の住宅費負担が減れば家計のやりくりが楽になるでしょう。
住宅の選択肢が増えることもメリットの1つです。住宅費に回せる予算が決まっていても、予算をある程度超える家賃の物件も選択肢に入れることができます。
住宅費の予算が増えれば、通勤時や休日の外出時に便利な駅近の物件を借りられるようになるかもしれません。安全面・居住性にこだわった物件やペット可の物件も検討できるでしょう。
税金が増える可能性も
住宅手当が現金で支給される場合は、給与の一部とみなされるため所得税や住民税がかかります。そのため、税金面での負担が増えてしまうことがデメリットといえるでしょう。
ボーナスの計算時に住宅手当分を計算基礎としない場合は、ボーナスの額が下がってしまうことも考えられます。ボーナスは基本給をベースに計算することが多く、住宅手当を計算基礎に含まないなら、含む場合と比べボーナスが少なくなるためです。
なお、社宅や寮を貸与するケースでは、ひと月あたり一定額の家賃を支払っていれば、給与からの税金は発生しません。
住宅手当はどんな企業でもあるの?
住宅手当はどの会社にも福利厚生の1つとしてあるものなのでしょうか。住宅手当の現状について解説します。
徐々に減りつつある福利厚生の1つ
近年は住宅手当を取りやめる企業が増えてきています。企業側の金銭的な負担が大きいことが主な原因です。
ライフスタイルが多様化し支給条件に当てはまらない従業員が増えていることや、従業員間での不公平感があることも、徐々に減りつつある理由です。
このような理由から、近年は住宅手当を重視しない従業員も増えています。制度がある企業に就職した場合は有効に使い、希望する会社に住宅手当がない場合も他の待遇面にスポットを当てることが大切です。
条件を把握して事前に準備をしておこう
住宅手当は家賃やローンの補助を受けられる社内制度です。現金支給以外に、社宅や寮を低家賃で借りられたり、引っ越し代が出たりする場合もあります。
手当をもらえる主な条件は、正社員として働いていることや主たる生計者である世帯主であること、賃貸物件に住んでいることなどです。
支給条件は会社の就業規則を見れば分かります。申請する場合は条件をきちんと把握し、事前に準備をしておきましょう。
就業規則など社内諸規程作りのプロフェッショナル。人事労務コンサルタント・特定社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(AFP)。企業人時代を含め通算24年の人事コンサルを経験。一部上場企業から新設企業までを支援。セミナー講師、雑誌・書籍の執筆実績も多数。
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