失業保険をもらい始める時期や支給期間は、退職理由により異なります。自己都合による退職後の生活費が心配なら、失業保険の仕組みをきちんと理解しておきましょう。自己都合退職の失業保険のもらい方や計算方法について解説します。
失業保険とは
失業保険とは具体的にどのような保険のことを指すのでしょうか。まずは失業保険の基本をおさらいしておきましょう。
失業者の求職活動を支援する保険
失業保険は、求職活動中の失業者を支援するための保険です。失業者にできるだけ早く再就職してもらうために、失業中の生活をサポートする目的で支給されます。
失業者の無収入状態が長くなれば、生活が苦しくなって求職活動にも支障をきたしかねません。生活苦に陥るリスクを減らし、スムーズに求職活動をしてもらうために、失業保険の制度が設けられています。
失業保険という言葉はあくまでも俗称であり、正式な名称は『求職者給付の基本手当』です。単に基本手当と言う場合も、一般的には失業保険のことを指します。
求職者給付は、雇用保険における『失業等給付』の一種です。失業等給付には、求職者給付以外に就職促進給付・教育訓練給付・雇用継続給付があります。
失業保険の受給条件
失業保険を受給するには、『就職する意思があるにもかかわらず仕事に就けない状態』でなければなりません。実際には、ハローワークで求職の申し込みを行った上で、積極的に求職活動をしている状況を示すことになります。
離職前に一定期間の雇用保険加入期間があることも、失業保険の受給条件の1つです。雇用保険加入期間の条件は退職理由により異なります。
自己都合で退職した場合は、『退職前の2年間で通算12カ月以上』の雇用保険加入期間がなければなりません。会社都合で退職した人や、自己都合の例外に該当する人は、『1年間で通算6カ月以上』に条件が緩和されます。
退職理由による離職者の分類
失業保険は退職理由によりもらい方や支給期間が違います。3つに分けられている離職者の分類について理解を深めておきましょう。
会社都合退職者は「特定受給資格者」
会社都合で退職した人は『特定受給資格者』に分類されます。特定受給資格者と判断されるのは、倒産や解雇などを理由に、再就職の準備をする時間的な余裕がなく離職せざるを得なくなったケースです。
事業所の移転により通勤が困難になって離職した人や、労働契約の内容と実際の労働条件が著しく違っていたために離職した人も、特定受給資格者に該当します。
特定受給資格者は、自分の意志に反して会社を退職したことになるため、失業保険の支給内容が手厚くなる場合があります。自己都合退職者に比べ早く支給が開始されることも特徴です。
自己都合退職者は「一般の受給資格者」
自分の都合で退職した場合は、『受給資格者』として扱われます。特定受給資格者と比べ、失業保険の支給開始時期や給付日数が不利になる制限を受けます。
自己都合退職とみなされる代表的な例は、転職を理由とした退職です。『社風が気に入らない』『仕事を離れてしばらく休みたい』といった理由も、自己都合として扱われます。
自己都合退職者が給付制限期間中に再就職したら、失業保険はもらえません。少しでも収入が欲しい場合、一定の条件を満たせば、給付制限期間中でもアルバイトをすることは可能です。
自己都合の例外「特定理由離職者」
退職理由が特定の条件に該当する場合は、自己都合で退職したケースであっても『特定理由離職者』とみなされます。
例えば期間が定められている労働契約が満了し、労働者が契約更新を希望したのにもかかわらず更新が合意に至らず退職した場合は、特定理由離職者となります。いわゆる雇い止めが行われたケースです。
健康面や家庭の事情により仕事に就けない状態になった場合も、特定理由離職者として認められることがあります。
特定理由離職者とみなされた場合、失業保険の支給開始時期は会社都合による退職者と同じです。離職理由の最終的な判断はハローワークで行われます。
失業保険はいつからもらえる?
失業保険の支給開始時期は退職理由により異なります。給付制限がかかり手当をもらえない期間があるケースと給付制限がないケースを確認しましょう。
会社都合なら給付制限期間なし
会社都合で退職した特定受給資格者と、自己都合の例外にあたる特定理由離職者は、失業保険の給付制限を受けません。待機期間終了後、すぐに支給が開始されます。
待機期間とは、求職の申し込みを行った日から通算して7日間設けられる期間です。退職理由にかかわらず、待機期間中は失業保険が支給されません。
実際に現金が振り込まれるタイミングにも注意が必要です。7日間の待機期間が終わった後、すぐにお金を受け取れるわけではありません。最初に現金を受け取れるのは、求職の申し込みをしてから約1カ月後です。
自己都合は2~3カ月間の給付制限がある
自己都合で退職した一般の離職者には、失業保険の給付制限がかかります。給付制限期間は、5年間のうち自己都合による退職2回までが2か月間、3回目以降の退職なら3カ月間です。
自己都合による退職でも待機期間は発生するため、待機期間と給付制限期間が経過しなければ失業保険の支給はスタートしません。自己都合退職者は会社都合退職者に比べ、失業保険の支給開始が大幅に遅れることになります。
なお会社から解雇されて離職した場合も、重責解雇とみなされるケースでは給付制限がかかります。重責解雇とは、刑法に違反したり故意に設備・器具を破壊したりして解雇されることです。重責解雇で退職した場合の給付制限期間は、回数に関係なく3カ月間です。
失業保険の金額を計算してみよう
失業保険の総支給額は『基本手当日額×給付日数』で求めることが可能です。基本手当日額の求め方と退職理由ごとの給付日数を解説します。
基本手当日額の求め方
基本手当日額とは、失業保険で受給できる1日あたりの金額です。『賃金日額×給付率』で計算できます。
退職日までの直近6カ月間の賃金を合計し、180で割った金額が賃金日額です。ボーナスは計算に含めません。
給付率は45~80%に設定されており、年齢や賃金日額により変わります。賃金の低い人ほど給付率が高くなる仕組みです。
基本手当日額は、年齢区分別に上限額が決まっています。給付率や上限額がどのように定められているのかは、以下のページで確認可能です。
参考:雇用保険の基本手当日額が変更になります~令和4年8月1日から~|厚生労働省
自己都合退職の給付日数
一般の離職者として扱われる自己都合退職者の給付日数は90~150日です。雇用保険の加入期間により給付日数は異なります。以下の表で確認しましょう。
10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
---|---|---|---|
全年齢 | 90日 | 120日 | 150日 |
給付日数が150日になるのは、雇用保険に20年以上加入していた人です。したがって、20~30代の人のほとんどは、給付日数が90日または120日に設定されることになります。
会社都合退職の給付日数
特定受給資格者に該当する人の給付日数は90日~330日です。雇用保険の加入期間や退職時の年齢により日数が変わります。
1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
---|---|---|---|---|---|
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | - |
30歳以上35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
特定理由離職者のうち雇い止めを理由に退職した人も、2025年3月31日までに退職している場合は、上記の表で示した会社都合退職の給付日数が適用されます。
失業保険をもらうための手続き
失業保険を受け取るために必要な手続きを説明します。スムーズに手続きを進めるためにも、申請から受給までの大まかな流れを覚えておきましょう。
必要書類を準備して申請
失業保険をもらうためには、最初に住所を管轄するハローワークで求職の申し込みを行う必要があります。手続き時には以下の書類が必要です。
- 雇用保険被保険者離職票
- 個人番号確認書類
- 身元確認書類
- 写真2枚
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
個人番号確認書類は、『マイナンバーカード』『通知カード』『個人番号が記載されている住民票』のいずれかを準備しましょう。身元確認書類は、運転免許証やマイナンバーカードを用意できれば大丈夫です。
離職票に記載されている退職理由に異議がある場合は、申請時に相談しましょう。ハローワークが事実関係を調査した上で、最終的な離職理由が決定されます。
説明会には必ず参加する
必要書類を提出して失業保険の申請を行ったら、受給資格が決定し、『雇用保険受給者初回説明会』の日時が知らされます。
雇用保険受給者初回説明会は必ず出席しなければなりません。説明会では雇用保険の受給に関する重要事項の説明が行われるほか、『雇用保険受給資格者証』や『失業認定申告書』が渡されます。
説明会に出席する際は、受給資格が決定した際に受け取る『雇用保険の失業等給付受給資格者のしおり』と筆記用具を持参しましょう。
失業認定日に求職活動を報告
雇用保険受給者初回説明会では、1回目の失業認定日が知らされます。失業認定日にはハローワークに行き、失業認定申告書に求職活動の状況を記入した上で、雇用保険受給資格者証と一緒に提出しなければなりません。
失業の認定は原則として4週間に1度行います。前回の認定日から今回の認定日の前日まで、原則として2回以上の求職活動を行わなければなりません。
求職活動として認められるのは、求人への応募や所定のセミナー・講習の受講などです。求人情報を閲覧するだけでは、求職活動とはみなされない点に注意しましょう。
失業の認定を受けたら、通常5営業日後に失業保険が振り込まれます。再就職するまでの間、失業認定と受給を繰り返しながら職探しを進めていくことになります。
自己都合の失業保険をすぐもらうポイント
自己都合で退職するケースでも、一般の受給資格者ではないことを証明したり職業訓練を受けたりすれば、失業保険を早めに受け取れます。具体的にどのようなことをすればよいのか、大事なポイントを押さえておきましょう。
一般の受給資格者ではないことを証明する
自己都合で退職した場合でも、退職理由によっては一般の受給資格者ではないことを証明できます。特定受給資格者や特定理由離職者とみなされれば、給付制限を受けずに失業保険をもらうことが可能です。
一般の離職者ではないことを証明するためには、失業保険の申請時に提出する離職票の『離職理由』に注意しましょう。特定理由離職者や特定受給資格者であるのにもかかわらず、会社が自己都合退職にチェックを入れているなら、そのまま退職者が署名押印して提出すると一般の受給資格者になってしまいます。
離職理由欄の『異議有』に○を付け、自分が正しいと思う理由にチェックを入れて提出すれば、ハローワークが調査してくれます。給与明細書・就業規則・診断書など、自分の主張を正当化できる証拠も、離職票と一緒に提出しましょう。
退職前の残業時間を確認する
自己都合退職でも特定受給資格者や特定理由離職者の扱いになる代表例として、退職前の残業時間が多いことが挙げられます。退職までの6カ月間で、残業時間が以下に挙げる状況になっていた場合は、一般の離職者ではないことの証明が可能です。
- 月100時間以上
- 連続する2カ月の平均が80時間超
- 3か月連続して45時間超
上記に近い残業時間で働いているなら、特定受給資格者や特定理由離職者として退職できる可能性があります。残業時間の証明になる資料を退職後に入手するのは困難になるため、辞める前に集めておきましょう。
職業訓練を受ける
ハローワークに求職を申し込んでいる人は、失業保険をもらいながら職業訓練を受けられます。退職後すぐに職業訓練を開始すれば、一般の離職者でも早めに失業保険をもらい始めることが可能です。
職業訓練を受けている間は、所定の給付日数を過ぎても失業保険を受け取り続けられます。例えば1年間の職業訓練を受ける場合は、1年分の失業保険をもらえることになるのです。失業保険とは別に受講手当や通所手当(交通費)が支給されるケースもあります。
所定給付日数のうち一定日数以上分の失業保険をもらっている場合、訓練を受けられないこともあります。訓練を受講したい場合は早めに相談しましょう。
失業保険を理解して計画的な転職活動を
失業保険は退職理由によってもらい方や支給額が異なります。自己都合で退職した場合は、失業保険をもらい始めるまで2~3カ月待たなければなりません。給付日数も会社都合退職に比べ少なめです。
形式上は自己都合で退職していても、一定の要件を満たせば会社都合退職として認めてもらえるケースがあります。自己都合退職になると制限が多くなるため、生活に困ることがないように計画的な転職活動を行いましょう。