一般的な生涯年収はいくらでしょうか。性別・学歴別・企業規模別・雇用形態別に生涯年収を比較および分析しておきましょう。ライフプランによっては、今のままでは生涯年収が足りないケースもあるので、生涯年収を増やす方法についても解説します。
生涯年収とは
生涯年収(生涯賃金)という言葉には、具体的にどんな意味があり、どう計算すればいいのでしょう。その定義と計算方法について説明します。
生涯年収の意味
生涯年収とは労働者が生涯で稼ぐ、年収の総額のことです。一般的には学校を卒業してから定年で仕事を退職するまでに稼ぐ金額を指します。ボーナスや残業代、退職金を含む場合もあれば、計算が難しくなることから除外する場合もあります。
非正規雇用として働いたり、転職を繰り返したり、現代にはさまざまな働き方があります。定年退職した後に再就職することも珍しくありません。そのため働き方により得られる生涯年収も大きく変わってきます。
生涯年収の計算方法
かつての日本では年功序列の終身雇用が一般的だったので、生涯年収の計算は簡単でした。しかし働き方が多様化した現代では、すべての人に当てはまる生涯賃金の計算方法を紹介するのは難しくなっています。
今回は特に断りのない限り、働き始めてから60歳で定年退職するまでフルタイムで働く正社員の生涯年収について紹介します。2020年における各年齢の平均賃金を合計した金額になります。学歴や企業規模、雇用形態と視点を変えて生涯年収の分析を見ていきましょう。
ここで提示する生涯年収は額面給与です。実際には額面給与から税金や社会保険料が控除されます。控除後に受け取れる手取り額は額面給与の約8割と言われています。生涯に受け取れる大まかな手取り額を知りたい方は、生涯年収に0.8をかけて計算してみてください。
一般的な生涯年収はいくら?
性別・学歴・企業規模・雇用形態別に一般的な生涯年収を紹介します。一般的な数字と照らし合わせることで、自分の生涯年収の目安が分かるでしょう。
学歴別の生涯年収
同一企業で働いた場合の学歴別の生涯年収(退職金は含まず)は以下の表の通りです。
高卒 | 高専・短大卒 | 大卒 | |
---|---|---|---|
男性 | 2億4570万円 | 2億4250万円 | 2億7990万円 |
女性 | 1億8400万円 | 1億9700万円 | 2億4080万円 |
学歴が高いほど生涯年収が高くなり、高卒と大卒の生涯年収を比較すると、男性では3000万円以上、女性では5000万円以上の差が生まれます。
参考:21 生涯賃金など生涯に関する指標|ユースフル労働統計 2021 労働統計加工指標集
企業規模別の生涯年収
同一企業で働いた場合の生涯年収(退職金は含まず)を、企業規模を3段階に分けて確認します。従業員数に応じて、1000人以上なら大企業、100〜999人なら中企業、10〜99人なら小企業と分類しています。また数字は大学卒の場合です。
小企業 | 中企業 | 大企業 | |
---|---|---|---|
男性 | 2億2530万円 | 2億5760万円 | 3億620万円 |
女性 | 1億9850万円 | 2億2900万円 | 2億5810万円 |
男女ともに企業規模が大きいほど生涯年収が多くなる傾向にあります。小企業と大企業では男性の場合はおよそ8000万円、女性の場合はおよそ6000万円の差が生じます。
参考:21 生涯賃金など生涯に関する指標|ユースフル労働統計 2021 労働統計加工指標集
雇用形態別の生涯年収
正規雇用か非正規雇用かという雇用形態の違いも、生涯年収を左右する条件の1つです。ここでは学歴別に非正規雇用として働いた場合の生涯年収(退職金は含まず)について表にまとめました。雇用形態以外の条件は同じです。
高卒 | 高専・短大卒 | 大卒 | |
---|---|---|---|
男性 | 1億2610万円 | 1億2780万円 | 1億5990万円 |
女性 | 1億400万円 | 1億920万円 | 1億2410万円 |
学歴別のところで紹介した生涯年収は正規雇用(正社員)として働いた場合の数値です。両者を比較することで雇用形態による生涯年収の違いが分かります。
非正規雇用と正規雇用を比べると、男性の場合、いずれの学歴においても差額が1億円以上です。女性の場合は高卒で8000万円以上違い、高専・短大卒、大学・大学院卒は8000万〜1億円以上の差がつきます。雇用形態は学歴や企業規模よりも生涯年収に大きな差を生む要因と言えます。
企業規模の違いに注目すると、大学・大学院卒の非正規雇用の男性では、小企業の場合の生涯年収は1億3000万円、大企業の場合は1億7000万円で、企業規模による差は正規雇用に比べ少ないです。
正規雇用の男性では小企業と大企業で8000万円も差があったのと比べると、非正規雇用では学歴や企業規模によって大きな差が生じないと言えるでしょう。
参考:21 生涯賃金など生涯に関する指標|ユースフル労働統計 2021 労働統計加工指標集
いまの生涯年収では足りないかも?
毎月の家賃や生活費のほか、人生には大きな出費を伴うライフイベントがいくつかあります。昔と比べると退職後の人生も延びているため、ライフプランによっては今の生涯年収では足りない恐れもあります。
主なライフイベントでかかるお金
大きな出費が必要になるライフイベントと言えば、マイホーム・子どもの教育費・老後の生活費の3つです。この3大支出だけで約1億円が必要と言われています。
マイホームにマンションを購入した場合、2019年のデータでは約4500万円の所要資金がかかるとされています。
子どもの教育費は幼稚園から高校までは公立、大学だけ私立の場合は約1000万円です。すべて私立の場合には、さらにお金がかかります。
また総務省のデータでは、2人以上世帯の毎月の消費支出は世帯主が60代で約28万円、70代以上で約23万円かかることが示されています。仮に夫婦が80歳まで生きたとして、65歳からの15年間で約4400万が必要と試算できます。
3大支出のほかにも、結婚や出産、親の介護、マイカー購入も大きな出費です。また各種税金や保険料は毎月支払うため、生涯で大きな金額を支払うことになります。
参考:
2021年度 フラット35利用者調査|住宅金融支援機構
平成30年度子供の学習費調査の結果について|文部科学省
私立大学等の令和元年度入学者に係る学生納付金等調査結果について|文部科学省
家計調査年報(家計収支編)2020年(令和2年) 家計の概要 家計収支の概況(二人以上の世帯)|総務省
年金はいくらもらえる?
老後の生活費は約4400万円も必要ですが、年金を受給できるため、実際には全額を貯金から支出するわけではないでしょう。ただし、受給可能な年金額によって老後の負担は変わってきます。
公的年金には国民年金(老齢基礎年金)と厚生年金(老齢厚生年金)の2つがあります。
国民年金はすべての国民が受給可能です。ただし、受給できる金額は納付していた月数によって異なります。納付月数が多いほど、より多くの年金の受給が可能です。国民年金のおおよその受給額は以下の計算式で求められます。
(国民年金の年間受給額) = 約78万円 × (納付月数) / (480カ月)
480カ月間、すべて納付していた場合は1年におよそ78万円受給可能です。月額にすると6万5000円となります。
一方で厚生年金は、労働者として会社に勤めていた場合に受給可能です。受給額の計算方法はやや複雑ですが、以下の計算式でおおよその金額が求められます。
(厚生年金の年間受給額) = (平均年収) × (勤続年数) / 200
日本の平均年収443万円をもとに計算した場合、大卒後38年間勤続したとすると、厚生年金は年間84万円ほどで、月額では7万円です。
参考:令和2年分 民間給与実態統計調査 -調査結果報告- |国税庁
生涯年収を増やすためには
生涯年収を増やすための方法を4つ紹介します。無理なく手をつけられる方法から実践してみるといいでしょう。
正規雇用にチャレンジする
アルバイトやパート、派遣社員などの非正規雇用として働いている場合は、正社員を目指して転職するといいでしょう。
雇用形態別の生涯年収でも触れたように、正規雇用と非正規雇用の生涯年収の差は大きく、男性では1億円以上も違います。若いときは雇用形態によって年収の差が生じにくいですが、年齢を重ねるごとにその差は広がっていきます。
非正規雇用だと雇用が安定しないので、毎月同じように稼げるとは限りません。仕事のできない月があれば、生涯年収はさらに減るでしょう。
非正規雇用では厚生年金に加入できないことも多く、老後の不安も残ります。まずは正規雇用にチャレンジするところから始めてみましょう。
会社内でステップアップを目指す
会社内で昇進することで給与アップを狙うのも1つの手です。単純に労働時間を増やすだけでも生涯年収は増えますが、年齢を重ねるとともに長時間労働は難しくなるでしょう。長時間働くのではなく、短時間でもより多く稼げるように働くことが大切です。
社内でステップアップするには、スキルを磨いたり資格を取得したりするといいでしょう。仕事に生きるようなスキルや資格があり、自分の市場価値を上げることで年収アップが期待できます。
身につけたスキルや能力を生かして仕事で成果を上げることも重要です。会社の人事考課制度に合わせて、社内での評価が上がるようにコミュニケーションを積極的に取ったり、成果を積み重ねたりしましょう。
副業を始める
会社から副業が認められているなら、副業を始めるのもいいでしょう。副業での収入(自営業なら所得)が年間20万円以下なら所得税がかかりません。確定申告が不要なので手軽に始められます。
単純に収入を増やすだけでなく、スキルアップや人脈を広げることもできて一石二鳥です。副業で身につけたスキルを本業に生かすことも期待できます。
副業を始める際は、会社とのトラブルや納税漏れがないように、必ず事前に確認してから始めましょう。
資産運用でお金を増やす
資産運用によって生涯年収を増やすことも可能です。最初はリスクを抑えた投資から始めるのが無難なので、長期・積み立て・分散の3つを意識しておきましょう。
資産運用をするときは政府が提供している『つみたてNISA』を利用するといいでしょう。政府が選んだ投資信託の中から投資対象を決めて、非課税で資産運用することが可能です。
公的な私的年金『iDeCo』を利用して資産運用するのも1つの手です。65歳まで掛金を拠出することが可能で、60歳以降に老齢給付金を受け取れます。
参考:
つみたてNISAの概要 |金融庁
iDeCoの特徴|iDeCoってなに?|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
転職やスキルアップをして生涯年収アップを目指そう
生涯年収を上げるには、紹介してきたデータから自分のポジションを把握した上で、ライフプランを見据えた行動に移ることが重要です。正社員への転職や昇進・副業のためのスキルアップを通じて、生涯年収アップを狙いましょう。
就業規則など社内諸規程作りのプロフェッショナル。人事労務コンサルタント・特定社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(AFP)。企業人時代を含め通算24年の人事コンサルを経験。一部上場企業から新設企業までを支援。セミナー講師、雑誌・書籍の執筆実績も多数。
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