就業促進定着手当って何?再就職で賃金が下がったらチェック!

転職先の給料が少ないと感じているなら、就業促進定着手当について理解を深めておきましょう。条件を満たしていれば、下がった分の給料が補填できる手当を受け取ることが可能です。就業促進定着手当の受給条件や計算方法、手続きの進め方を解説します。

就業促進定着手当とは

(出典) photo-ac.com

雇用保険には早期再就職の促進を目的とした就職促進給付があります。就職促進給付の1つである就業促進定着手当とはどのようなものなのか、まずは基礎知識を解説します。

転職で給料が下がった場合に受け取れる手当

就業促進定着手当とは、再就職先の給料が退職前の給料より低い場合にもらえる手当のことです。早期の再就職と転職先への定着を促進する目的で支給されます。

企業によっては、転職後の実績がまだないことを理由に、前の年収より低い年収を提示することもあるでしょう。そのような試用期間を定められるケースを含め、就業促進定着手当では転職後に給料が下がった分を一定期間補填してくれます。

就業促進定着手当は、再就職先で6カ月以上雇用されていなければ受け取れません。自営業は会社に雇用されているわけではないため、手当を受け取れない点に注意が必要です。

どれくらい下がったら受け取れるの?

就業促進定着手当は、『転職後の賃金日額』が『離職前の賃金日額』を下回っていれば受け取れます。

離職前の賃金日額は、ハローワークで失業給付の手続きをしたときに渡される『雇用保険受給資格者証』で確認可能です。第1面の『14.離職時賃金日額』に記載されています。

転職後の賃金日額の計算式は『再就職後6カ月間の賃金の合計額÷180日』です。日給や時給で賃金を受け取る場合は、以下のいずれか金額が高いほうになります。

  • 再就職後6カ月間の賃金の合計額÷180日
  • (再就職後6カ月間の賃金の合計額÷賃金支払いの基礎日数)×70%

参考:再就職後の賃金が、離職前の賃金より低い場合には「就業促進定着手当」が受けられます

最大でいくら受け取れる?

受け取れる金額には上限があります。上限額の計算式は『基本手当日額×支給残日数×30%または40%』です。

基本手当日額は、雇用保険受給資格者証の第1面『19.基本手当日額』に記載されています。支給残日数とは失業保険の残日数であり、雇用保険受給資格者証の第3面で確認可能です。

上限額の計算式で最後に掛ける比率は、再就職手当の支給率により異なります。再就職手当の支給率が70%だった場合は30%、60%だった場合は40%です。

実際に受け取れる就業促進定着手当の額は?

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就業促進定着手当の支給額は、『(離職前の賃金日額-転職後の賃金日額)×再就職後6カ月の賃金の支払基礎日数』で求められます。実際の計算方法を解説します。

離職前と転職後の賃金日額の差を調べよう

就業促進定着手当の金額を求める場合、まずは賃金日額の差を算出しなければなりません。雇用保険受給資格者証の第1面14の金額から、『転職後6カ月間の賃金合計額÷180日』を引けば、賃金日額の差を求められます。

ただし離職前の賃金日額には上限が設定されており、第1面14の金額が上限を超えていれば上限金額を計算で使わなければなりません。上限は離職時の年齢により以下のように設定されています。

  • 30歳未満:1万670円
  • 30歳以上45歳未満:1万5190円
  • 45歳以上60歳未満:1万6710円
  • 60歳以上65歳未満:1万5950円

第1面14の金額が下限の2577円を下回っている場合は、2577円として計算することが可能です。なお、紹介した上限と下限は2022年8月時点の金額であり、毎年8月1日に改定されます。

暦日数をかけて支給額を知ろう

就業促進定着手当の計算式で用いる支払基礎日数は、月給制なら暦日数で計算します。

賃金を日給や時給でもらっている場合は、6カ月間で実際に働いた日数が支払基礎日数となります。支給額の計算結果が上限を超えていなければ、全額を受け取ることが可能です。

受け取るための条件

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就業促進定着手当をもらうためには、受給条件を満たしていなければなりません。申請を行う前に、自分が条件を満たしているか確認しましょう。

再就職手当の支給を受けた

就業促進定着手当を受け取るためには、再就職手当を受給している必要があります。再就職手当とは、早期に転職した人が条件を満たすことでもらえる手当のことです。

失業保険の支給残日数が1/3以上残っている状態で再就職すると、再就職手当をもらえます。受け取れる金額は以下の通りです。

  • 支給残日数1/3以上:支給残額の60%
  • 支給残日数2/3以上:支給残額の70%

再就職のタイミングが早いほど、手当を多めにもらえる仕組みとなっています。「失業保険をもらい残して損をしたくない」と考える求職者を減らし、より早く再就職してもらうための制度です。

再就職手当の申請時から引っ越した場合は注意

就業促進定着手当をもらう場合、ハローワークに支給申請書を提出しなければなりません。支給申請書は再就職してから約5カ月後に郵送されてきます。

支給申請書の郵送先は、再就職手当の申請書に記載されていた住所です。再就職手当の申請時に住んでいた住所から変わっている場合は、新しい住所で申請書を受け取れない恐れがあります。

再就職手当の申請後に引っ越している場合は、ハローワークに住所変更を届け出たり、郵便局に転居届を出したりしておきましょう。

再就職先で6カ月以上働いている

就業促進定着手当の支給対象者となるには、再就職先で6カ月以上働いている必要があります。雇用保険の被保険者として雇用されていなければなりません。

再就職から6カ月が経過する前に雇用保険の被保険者資格を失った場合、手当はもらえなくなります。再就職先が何らかの理由で雇用保険に加入していない場合も受け取れません。

なお、退職後に自営業となるケースでは就業促進定着手当をもらえませんが、失業保険と再就職手当は条件を満たせば受け取れる可能性があります。

就業促進定着手当を受け取るには申請が必要

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就業促進定着手当をもらうためにやらなければならないことを紹介します。準備すべき書類や再就職先に依頼することを押さえておきましょう。

必要書類をそろえてハローワークに提出

就業促進定着手当の申請時には書類を提出する必要があります。用意すべき書類は以下の4つです。

  • 就業促進定着手当支給申請書
  • 雇用保険受給資格者証
  • 就職日以降6カ月分の出勤簿の写し
  • 就職日以降6カ月分の給与明細または賃金台帳の写し

申請書が手元にない場合は、ハローワークの窓口かホームページで入手可能です。出勤簿や給与明細は該当期間の一部ではなく、6カ月分のすべてを求められます。

申請期限は再就職日から6カ月目の翌日から2カ月以内です。提出が遅れないように準備を進めましょう。

再就職先の人事担当者にお願いすること

支給申請書には再就職先に記入してもらう欄があります。提出期限に間に合うタイミングで、人事担当者にお願いしておきましょう。

出勤簿や給与明細も会社に発行してもらわなければなりません。人事担当者に事情を説明し、各書類の写しを発行してもらう必要があります。

各書類の写しには、原本と相違がないことを証明する原本証明が必須です。『日付』『事業主名』『代表者名』『代表者印』『原本と相違ない旨を証明する文章』を、各書類の写しの余白に記入してもらいましょう。

就業促進定着手当の支給後に退職した場合

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就業促進定着手当をもらった後に会社を辞めた場合、受け取った手当を返す必要はありません。条件を満たせば再度失業保険をもらうことも可能です。

条件を満たせば基本手当が受け取れる

就業促進定着手当の支給後に退職しても、条件を満たせば雇用保険の基本手当をもらえる可能性があります。雇用保険の基本手当とは、いわゆる失業保険のことです。

自己都合退職からの再就職であっても、12カ月以上働いていれば新たに雇用保険の受給資格が生じるため、その受給資格で基本手当の給付を受けられます。

ただし、短期間で転職を繰り返すのは、決して良い流れとはいえません。次の転職では失敗しないように、応募先の情報をしっかりと集めながら転職活動を行いましょう。

提出期限に注意して手続きをしよう

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転職で給料が少なくなった場合は、就業促進定着手当をもらえる可能性があります。再就職手当を受け取っていることや再就職先で6カ月以上働いていることが主な条件です。

手当を受け取るためには、必要書類をハローワークへ提出しなければなりません。再就職先にお願いしなければならないこともあるため、提出期限に注意して手続きを進めましょう。

小西道代
【監修者】All About 労務管理ガイド小西道代

労務トラブルを未然に防ぐ社会保険労務士・行政書士。行政書士法人グローアップ代表、社会保険労務士法人トップアンドコア役員。大学卒業後、日本マクドナルドに入社。幅広い年齢層と共に働くことで、法律や制度だけではない労務管理・組織運営に興味を持ち、弁護士事務所等で経験を積む。自身も喫茶店を経営した経験から、労務トラブル予防の労務相談を得意とする。
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