みなし残業でトラブルが起こることも?正しく残業代を受け取ろう

みなし残業制を導入している会社で働く場合は、制度の仕組みをしっかりと理解しておく必要があります。会社が賃金を正しく計算していない場合、泣き寝入りもやむを得なくなる恐れがあるためです。みなし残業の基本や注意点について詳しく解説します。

給料に残業代が含まれていることがある?

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企業によっては、給料に残業代が含まれている『みなし残業制』を採用しているケースがあります。まずは、みなし残業制の基礎知識を知っておきましょう。

「みなし残業」「固定残業制」とは

みなし残業とは、一定時間分の残業を固定給として支給する仕組みのことです。固定残業制と呼ばれるケースもあります。

一定の残業時間が想定される場合に、みなし残業制が採用されます。法律で定められているわけではなく、みなし残業や固定残業という呼称はあくまでも俗称です。

みなし残業代は、基本給に含まれる場合と基本給にプラスされる場合があります。『基本給20万円(固定残業代3万円含む)』や『基本給18万円+固定残業代2万円』といった表記になります。

ボーナスが出る会社の場合、みなし残業代が基本給に含まれるかどうかチェックしましょう。ボーナスは基本給を基準に計算するため、みなし残業代が基本給に含まれていれば、ボーナスを多めにもらえる可能性があります。

残業代の扱いについて確認するには

自分の会社がみなし残業制を採用しているかどうかは、就業規則や雇用契約書を見れば確認できます。みなし残業制を採用する場合、企業は就業規則や雇用契約書にその旨を記載することが義務づけられているためです。

そもそも、みなし残業制は会社と従業員の合意の上で実施されなければなりません。雇用契約を交わした時点で、みなし残業制のもとで働くことに合意しているとみなされます。

会社が求人を出す場合も、求人票の賃金表示に適切な記載を行う義務があります。求人票ではみなし残業を記載せず、採用後に制度を適用することは認められていません。

会社がみなし残業制を取り入れる理由

会社が残業代を給料に含める理由の1つに、人件費の見通しの安定化が挙げられます。みなし残業制を取り入れることで人件費が変動しにくくなるため、月ごとのコストを把握しやすくなります。

従業員による故意の残業時間延長を防げることも、会社がみなし残業制を採用する理由です。

残業時間が長くなるほど残業代が増える会社では、故意に残業時間を延ばそうとする従業員も現れやすくなります。しかし、残業代が固定されれば一定時間までは残業代を延ばすメリットがなくなるため、無駄な残業の抑制が可能です。

みなし残業制のギモン

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残業をしなかった場合や残業が多かった場合、みなし残業制ではどのように扱われるのでしょうか。それぞれのケースにおける正しい考え方を紹介します。

残業をしなくても受け取れる?

あくまでも一定の残業時間が想定されるケースで実施する給与体系です。予想した時間より実際の残業時間が短かった場合も、固定した残業代は減らせません。

残業をしなくても仕事が終わるのであれば、みなし残業代を意識して無理に残業する必要はないのです。残業時間がなかった月でも、あらかじめ固定された分の残業代はきちんと支払われます。

ただし、定時に帰れない社風の会社なら、残って働かなければならないと感じる人もいるでしょう。みなし残業分を消化することが、社内で暗黙の了解となっている可能性があるためです。

残業時間が多かったらどうなる?

みなし残業制を採用している会社でも、固定分を超える残業代が発生した場合は、超過分が支払われます。しかし、企業によっては超過分を正しく支払わないケースもあるため、残業時間は自分でもきちんと管理しておかなければなりません。

残業代が不正確な場合は、残業したことの正当性や証拠をそろえた上で、会社と交渉しましょう。主張が正しければ、会社は未払い分を支払ってくれるはずです。

ただし、会社に強く訴えられない性格の人は、泣き寝入りすることにもなりかねません。未払いがあったときに言えないタイプの人には向かない給与体系です。

みなし残業制で働くときに気を付けること

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残業代が給料に含まれている場合は、以下に挙げる3つのポイントを確認しましょう。会社から不当な労働を強いられていないかどうかが分かります。

割増賃金が含まれているか

みなし残業制の会社で働くときには、固定残業代に割増賃金が含まれているか確認しましょう。深夜残業や休日出勤をした場合は、通常の時間外労働に割増分が上乗せされるためです。

例えば、通常の残業における割増率が1.25倍であるのに対し、深夜に残業した場合は割増率が1.5倍になります。実際の残業時間に正しい割増率を適用させた残業代が固定残業代を上回った場合は、超過分を会社に請求することが可能です。

過去の事例では、従業員が労働基準監督署へ申告し、労働基準監督官の指導により約185万円が支払われたケースもあります。固定残業代に割増賃金が含まれているか確認するだけでなく、正確な残業代を毎月計算してみることも重要です。

参考:令和元年申告処理の事例 | 厚生労働省山形労働局

残業時間の上限が守られているか

1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えて従業員に働いてもらいたい場合、会社は従業員と36協定を締結しなければなりません。

36協定で定められている法定時間外労働時間の上限は月45時間です。特別条項を付帯すれば45時間を超えて労働させることも可能ですが、特別条項はあくまでも臨時的に発動できるものであるため、みなし残業には適用できないとされています。

したがって、みなし残業制の会社で働くときには、固定残業時間の上限が月45時間を超えていないかチェックしましょう。

最低賃金を下回っていないか

会社が基本給を決める際は、最低賃金を下回ってはならないことが法律で定められています。みなし残業制の給料を見るときには、基本給が最低賃金以上かどうか確認しましょう。

給料自体は最低賃金以上であっても、固定残業代を除いた基本給が最低賃金を下回っていれば違法です。固定残業代を利用し、会社が不当に賃金を抑えていることになります。

最低賃金は地域別に時給の形で公表されています。基本給を所定労働時間で割って時給を算出し、自分の地域の最低賃金と比べてみましょう。

参考:地域別最低賃金の全国一覧 | 厚生労働省

みなし労働時間制が使われることも

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みなし残業制と似た言葉に、みなし労働時間制と呼ばれる制度があります。両者はまったく別の仕組みであり、意味を混同しないように注意しましょう。

みなし残業やフレックスタイム制とは別もの

みなし労働時間制とは、労働時間を正確に把握できない従業員について、一定の労働を行ったものとみなす制度です。

1日の労働時間をあらかじめ設定すれば、実際の労働時間を確認する必要がありません。みなし労働時間制はあくまでも労働時間をみなすだけの制度であり、残業時間とは関係のない制度です。

フレックスタイム制との違いも確認しておきましょう。出勤・退勤時刻や労働時間を自由に決められるのがフレックスタイム制です。所定労働時間を超えて働いた場合は、残業代が別に支払われます。

みなし労働時間制の種類

会社の外で仕事をする職種など、労働時間の算定が難しいケースで適用されるのが「事業場外みなし労働時間制です。

専門性が高い職種には、業務遂行の手段や時間配分を労働者に任せる『専門業務型裁量労働制』が実施されます。研究職・情報処理システム関連職・デザイナーなどが対象です。

事業運営や企画立案などを行う従業員に適用される『企画業務型裁量労働制』もあります。仕事の進め方を従業員の裁量に委ね、業務効率化や生産性向上を図る制度です。

働いた分はしっかり受け取ろう

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みなし残業とは、賃金に固定残業代が含まれていることです。残業が発生しなくても残業代を受け取れるほか、残業時間が多くなったら超過分をもらえます。

みなし残業制の会社で働く場合は、割増分が含まれているか、残業時間の上限や最低賃金が守られているかを確かめる必要があります。制度の仕組みを理解し、働いた分はしっかりと受け取りましょう。

小西道代
【監修者】All About 労務管理ガイド小西道代

労務トラブルを未然に防ぐ社会保険労務士・行政書士。行政書士法人グローアップ代表、社会保険労務士法人トップアンドコア役員。大学卒業後、日本マクドナルドに入社。幅広い年齢層と共に働くことで、法律や制度だけではない労務管理・組織運営に興味を持ち、弁護士事務所等で経験を積む。自身も喫茶店を経営した経験から、労務トラブル予防の労務相談を得意とする。
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