パタハラはなぜ起きる?主な事例や予防対策、解消方法も紹介

ハラスメントの種類には「パタハラ」もありますが、いったい何のハラスメントを指すのでしょうか?意味と定義、起きる原因を解説します。パタハラが注目されている要因や、事例・判例も確認しましょう。併せて、対策と解消方法も紹介します。

パタハラの意味・定義とは

ストップのイメージ

(出典) pixta.jp

ハラスメントの種類を意味する略語には、さまざまな言葉があります。「パタハラ」もその1つです。何に関わるハラスメントを指すのか、具体的な意味・定義を確認しましょう。

パタニティハラスメントの略

「パタハラ」は、「paternity harassment(パタニティハラスメント)」の略です。「paternity」は、英語で父性を意味します。「harassment」は、人を悩ませる行為や嫌がらせです。

直訳すると「父性に関わる嫌がらせ」ですが、具体例としては育休・育児に関わるハラスメントが該当します。

男性社員に対して育休取得を妨害するような行為や、育児への参加を否定する言動は、「パタハラ」「パタニティハラスメント」といえるでしょう。

女性に対するマタハラと似た意味合いを持つ

マタハラは、「maternity harassment(マタニティハラスメント)」の略です。「maternity」は、英語で母性や母らしさといった意味があります。

女性の産休・育休に対するハラスメントは、マタハラです。パタハラと同じような場面で使われますが、性別によって使う言葉は変わります。

女性の場合、マタニティに「妊婦」という意味があり、産前産後に使われることが多くなっています。パタハラは、子どもが生まれてから発生するケースが多いため、マタハラと全く同じ意味というわけではありません。

パタハラの発生が注目される要因

育児休暇申請

(出典) pixta.jp

近年、パタハラという言葉が注目を集めています。なぜ、「父性に関わるハラスメント」が関心を集めているのでしょうか?主な要因を解説します。

国の少子化対策による育休取得の推進

国の少子化対策の一環で、男性の育休取得が推進されています。背景には、女性が出産・育児で退職せざるを得ない状況があり、女性のキャリア継続と出産・育児の両立を推進する試みです。

男性が家事・育児に積極的な家庭では、女性の就業が継続されることが多く、第2子以降の出生割合が高いとされています。

両親ともに育休を取得すると、手取り8割程度が給付金として支給されるため、男性社員が育休取得を検討するケースも増えているようです。

今後は、給付金が手取り10割になる見込みもあります。育児参加を検討する男性社員が増えるに従って、パタハラも注目されていくと考えられます。

出典:男性の育児休業取得促進等について|厚生労働省

出典:育児休業給付金が引き上げられました!!|厚生労働省

出典:育児休業給付等関係資料|厚生労働省

大企業や公務員を中心に取得が増えている

男性社員の育休取得は、大企業や公務員を中心に増加しています。2023年4月からは、従業員1,000人以上の企業に対し男性育休取得率の公開が義務化され、ますます注目を集める要因となりそうです。

「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」 によると、調査対象となった一部の従業員1,000人以上の企業では、男性社員の育休等取得率は46.2%です。

回答企業では育休の取得日数が平均46.5日となっており、男性社員が積極的に育休を取得していることが分かります。ただし、全体で見ると男性育休の取得割合や日数は、まだまだ少ない傾向です。

国によって推進され、一部で広まっているとはいえ、現状では全員が長い休暇を取得できていないため、パタハラが注目されているといえるでしょう。

出典:「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」 (速報値)|厚生労働省

パタハラはなぜ起こるのか

悩む男性

(出典) pixta.jp

女性の場合、育休や産前産後休業の取得は多くの人が活用しています。ハラスメントを発生させないよう、企業でも広く研修が行われていますが、なぜパタハラは発生してしまうのでしょうか?

男性の育休取得・育児参加が広まっていない

日本ではかつて、男性が働き、女性が専業主婦となる生活スタイルが中心となっていました。現在でも男性が中心となって働き、女性が家事をしながらパートで働くケースは存在し、全ての家庭で男性の育休取得・育児参加が進んでいるとはいえません。

政府は、2025年までに男性社員の育休等取得率を上げ、1週間以上の取得率85%以上を目指すと目標を立てています。

しかし、厚生労働省の「令和4年度雇用均等基本調査」によると、男性育休取得率は17.13%にとどまっています。また、厚生労働省の「育児・介護休業法の改正について」を見ると、取得日数も2週間未満が5割を超えている状況です。

多くの男性社員が育休を取得していない状況の中、一部の社員が取得を希望すると、無意識なパタハラが発生する可能性があります。上司・同僚の理解不足や、周知不足によって起こるケースもあるでしょう。

出典:育児・介護休業法の改正について|厚生労働省

出典:男性職員の育児休業等の取得促進に向けた取組の更なる推進について|総務省

出典:令和4年度雇用均等基本調査|厚生労働省

育休取得の運用体制が整っていない

これまで、男性社員が育休を取得する機会がほとんどなかったことから、会社で育休取得の運用体制が整っていないことも、パタハラ発生の原因になっています。

育休取得の希望があったとしても、代わりに仕事をする人材の確保や、周囲の理解が必要です。時期・期間の調整を行う上で、運用体制の不備から配慮ができないと、ハラスメントのように感じてしまうケースはあるでしょう。

育休を取得する権利は、男女を問わずあるものの、取得しない人に対して罰則があるものではありません。育休を取得せず退職を選ぶ女性や、産前産後休業のみを利用し、育休を取得しない女性もいます。

取得する人がほとんどいない会社も存在するため、パタハラにつながる要因といえるでしょう。

パタハラの禁止を定める法律

六法全書

(出典) pixta.jp

パタハラは、法律で禁止されています。関係する法律の内容を確認しましょう。もし、上司・同僚がパタハラに該当しそうな言動・行動を繰り返す場合は、まずは法律に違反していないか確認してみるのもおすすめです。

育児・介護休業における不利益取扱いの禁止

「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」では、性別を問わず、育児・介護休業の申請・取得によって不利益を与えることは禁止されています。第10条の「不利益取扱いの禁止」が該当する条文です。

男性育休取得の妨害・嫌がらせを含むパタハラも、「不利益」に該当するため法律違反です。事業主は、男性が育休の申請をした場合でも、応じる義務があります。

育休の取得や時短勤務を取得し復帰した後も、正当な理由なく取得者を悩ませるような行為は許されません。本人の希望なく業務をさせない、退職を迫るといった行為はパタハラに該当します。

出典:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 第10条|e-Gov法令検索

事業主および労働者にも責務がある

「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」の第25条では、事業主および労働者の責務も定められています。

パタハラに該当する言動・行動が職場内であった場合、事業主は対策を講じなければなりません。労働者は、事業主の対策に協力し、他の労働者に対する言動に注意するよう定められています。

法律から見ても、男性の育休取得を妨害するような言動・行動は、事業主・労働者ともに禁じられているため注意しましょう。

出典:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 第25条・25条の2|e-Gov法令検索

パタハラの主な事例や判例

うつろな表情をする男性

(出典) pixta.jp

これまで、男性社員が育休を取得する割合は少なかったものの、実際にパタハラと認定された事例・判例もあります。よく知られている事例・判例を紹介します。

昇給・昇格試験の受験を認められなかった例

過去に、男性育休制度の利用を理由として昇給・昇格試験の機会が与えられず、昇給が認められなかったとして、昇給していた場合の差額と慰謝料を求める裁判が行われた事例があります。

昇給・昇格試験を受ける機会を与えなかったことが、法律で定められている不利益取扱いとして認められた例です。最終的に、育児・介護休業法第10条に反していると判断され、昇給分との差額と慰謝料を認める結果が出ています。

育休取得を理由に機会を与えないことは、パタハラに該当すると判断できる事例です。

出典:労働基準判例検索-全情報|公益社団法人全国労働基準関係団体連合会

育休の取得が認められなかった例

男性育休の取得を申請し、パタハラを受けたとして、証券会社社員が会社を訴えた事例もあります。

しかし、このケースでは母子手帳の提出ができず、父子関係を示すまで一時的に育休取得が認められなかったことはやむを得ないとして、育休取得の妨害には当たらないと請求が棄却されています。

父子関係の証明ができてからは育休を認めており、前例のない申請であったことが要因と判断されたようです。

なお、この事例では、育休取得後の休職命令や解雇に対しても訴えが起こされていますが、地裁・高裁ともに棄却されています。客観的な証拠がない場合、必ずしもハラスメントが認められるとは限らないと判断できる事例です。

パタハラ予防の対策や解消方法

上司と部下

(出典) pixta.jp

パタハラを予防し解消するには、何をすればよいのでしょうか?該当するような言動・行動があったときに、できる対策を紹介します。

上司・同僚に理解を求める

パタハラかもしれないと感じる言動・行動があった場合は、まず上司・同僚に理解を求めることが重要です。現状では取得しない人も多いため、理解不足によって配慮のない言動に見えてしまう可能性があります。

また、育休取得の時期・期間をお互いに相談することは、パタハラに該当しません。育休を申し出れば、即日自由に取得できるとは限らないため、相談があった場合は理解を求めた上で可能な限り応じる姿勢が大切です。

育休を取得したい理由を話し、どうしても必要であると説明してもよいでしょう。もちろん、理由を話す義務はなく、特別な理由がなくても権利として取得は可能です。

しかし、理解が得られていない状況で周囲に協力してもらいたい場合は、気遣いや納得できる説明が求められるでしょう。

社内の相談窓口に相談する

育休の取得が権利であること、会社側が対応しなければならないことを伝えても改善が難しい場合は、社内の相談窓口へ相談しましょう。

たとえ上司・同僚が理解していないとしても、法律やコンプライアンスに詳しい部署に相談すれば、育休の取得を認めてもらえる可能性があります。相談窓口から上司・同僚に説明してもらえれば、角も立ちません。

ハラスメントのような言動・行動が気になる場合も、同様です。育休を取得したからと仕事を与えなかったり、昇格させなかったりといった行為があるときも、相談窓口に相談しましょう。

もし、内部の相談窓口が機能していないときは、労働基準監督署や弁護士に相談する方法もあります。

男性育休制度が充実している企業に転職する

育休取得後にハラスメントが発生し、改善が見込めない場合や、いずれ育休を取得したいが今の会社では難しいと感じている場合は、転職も検討してみましょう。

男性育休制度が充実している企業に転職すれば、パタハラのリスクは低下します。一部企業に対して、男性育休取得率の公開が義務化されたこともあり、多くの男性社員が育休を取得しているか確認もできるでしょう。

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パタハラを予防し育休取得を検討しよう

男性社員

(出典) pixta.jp

パタハラは、父性に関わるハラスメントです。男性社員の育休取得にも、大きく関係しています。

現状、男性の育休取得は全ての企業に広まっているわけではありませんが、国が推進し権利として認められているため、取得は可能です。

パタハラと感じる言動・行動があった場合は、社内・社外の相談窓口を活用できます。状況によっては転職も視野に入れ、積極的な育児参加を目指しましょう。