建設業界では、「建設DX」が注目を集めています。具体的に、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか?意味や事例のほか、建設業界でDXの推進が必要とされている理由や、デジタルツール導入のメリットも確認しましょう。
建設DXとは何か
建設DXとは、「建設業界のデジタルトランスフォーメーション」を指します。まずは、具体的にどのような意味を持つのか確認しましょう。
デジタル化により建設業界が抱える諸課題を解決する
建設業界の課題解決に向けて、デジタル技術を取り入れる動きが「建設DX」です。DXは、「Digital Transformation」を意味する略称です。Xが使われている理由は、「Trans」を「X」と略する英語圏の慣習が関係しています。
直訳すると「デジタルによる変化・変革」を意味する言葉です。デジタルツールやITを取り入れ、社会を変えていく意味を持っています。
建設業界では、国土交通省が推進する「i-Construction(アイコントラクション)」を含むデジタル技術の導入が、DXの中心です。
i-Constructionでは、建設現場への情報通信技術(ICT)の導入を推進しており、人手不足解消や職場環境の改善が期待されています。
建設業界でDXが必要とされる理由
なぜ建設業界では、DXの推進が必要とされているのでしょうか?主な課題と、デジタルツールの導入が急がれている理由を解説します。
若い人材が集まりにくい
建設業界では、高齢化が進んでいるといわれています。技能者の数自体も減っていますが、若い人材が集まりにくい点も懸念材料です。
国土交通省の公開する資料「最近の建設業を巡る状況について【報告】」によると、建設業界で29歳以下の若手人材は約1割となっています。これは、全産業と比べても低い水準です。
若い人材が集まらないため、建設業界では技能実習生の活用が進んでいます。しかし、技能実習生は原則最大5年間しか働けず、若い人材の定着には至っていません。
DXの推進は、人手不足や高齢化による問題を解決する手段として期待されています。
出典:最近の建設業を巡る状況について【報告】|不動産・建設経済局
出典:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)|厚生労働省
危険な業務や対面での作業が多い
建設業界の業務には、「建物の建設」「建材の運搬」「高所や危険エリアでの作業」などが含まれます。
重機や工事向けの機械は導入されているものの、危険な業務や対面で行うべき作業が多いといえるでしょう。
DXによって、誰でも安全に働ける環境をつくることが求められています。危険業務を機械・AIに代替できれば、人手不足による問題も解消されるでしょう。対面での作業を減らし、効率化を進める余地もあります。
働き方改革により時間外労働の上限が設けられる
2024年4月以降、建設業界では働き方改革により「時間外労働の上限規制」が設けられました。建設業は適用が猶予されていたものの、今後は人手不足の影響が避けられないでしょう。
具体的には、原則月45時間以内、年360時間以内が上限となります。臨時的に超えるケースは想定されていますが、「1カ月の時間外労働が45時間を超えるのは年6回まで」など、臨時対応にも上限が設定されています。
今までは長時間労働によって対処していた問題を、効率化によって解消していかなければなりません。DXの推進は、効率化を進める上でも重要です。人手が少なくても業務を進められるよう、早期の対応が求められています。
出典:建設業|適用猶予業種の時間外労働の上限規制 特設サイト はたらきかたススメ|厚生労働省
建設DXを推進するメリット
DXの推進には、さまざまなメリットがあります。建設業界でDXを進める上で、どのようなメリットがあるのか確認しましょう。
業務の効率化が進む
デジタル化を進めれば、業務の効率化が可能です。例えば、調査や測量に人手を割いている場合、デジタルツールを導入すれば多くの人が動く必要はありません。
監視・巡回など、今まで人が行ってきた作業も、機械に代替できます。肉体労働や単純作業も、ロボットやAIに置き換えの余地があるでしょう。
そのほか、細かい事務作業や手続きも、デジタルツール・システムの活用によって時間を短縮できます。
作業員が安全に業務を進められる
DXでは機械やAIを使い、今まで人が行ってきた作業を支援・代替します。危険な場所への出入りや作業を機械に任せると、作業員の安全が確保できるでしょう。
機械による監視や調査、AIによる危険感知など、さまざまな方法で安全性を高められます。例えば、崩落の危険がある場所や狭い場所でも、実際に作業をするのが機械であれば、人間に大きな危険性はありません。
安全に業務を進められるようになれば職場環境が改善し、新しい人材の確保も進む可能性があります。
技術や事業の継承を推進できる
技術や事業は、若い人材に継承されていきます。しかし、建設業界では若い人材が集まりにくく、技術を受け継ぐ人材も少ないのが実情です。
デジタル化を進めると、技術の情報共有ができます。カメラでの撮影や、動画で手順を説明するなど、すぐには継承が難しくても形に残すことが可能です。
誰でも高度な技術を活用できるように、AIの活用やシステム開発の促進も検討できます。人材の入れ替わりが激しい場合や、高齢化が進んでいる状況では、DXの推進による技術継承が大きなメリットになるでしょう。
建設業界でDXが進まない原因
国土交通省による推進や、DXを進めなければならない課題があるにもかかわらず、建設業界ではDXが進んでいないといわれています。なぜ、デジタル化が進みにくいのでしょうか?
デジタルに強い人材が少ない
建設業界では、肉体労働が多くなっています。部品の組み立てや建材の運搬に、パソコンやシステムを使用するケースはまれです。
ほとんどデジタルを使わないため、DXを推進できる人材は少なくなっています。高齢化も進んでおり、元々デジタルツールになじみのない従業員も多いでしょう。
DXを推進するには、ツール・機械を使いこなす必要があります。従業員が不慣れな場合は負担が大きくなるため、DXの推進を阻む原因になります。
関連会社や取引先のDXが進んでいない
建設業界は関わる企業が多いため、DXが進みにくいといえます。自社のみがDXを進めようとしても、関連会社や取引先が対応していなければ難しいでしょう。
対応できない企業に対してアナログでの処理を行う場合、二重に手間がかかります。業務効率化のためにDXを検討している場合、関連会社と足並みをそろえなければなりません。
小規模な企業や個人事業主との取引も考えられるため、全ての取引先がDXを進めるには時間がかかるといえそうです。
建設DXの主な事例
建設業界では、さまざまなデジタルツール・システムが導入されています。一般的な事例と、特徴を確認しましょう。
ドローンの活用
ドローンは、人手が足りない建築現場でも活躍しています。測量や調査を進める上で、ドローンを活用すれば人手を最小限に抑えられるでしょう。上空からの撮影によって、人間が出向かなくても作業が進みます。
また、危険な場所での活用も進んでいます。工事中の現場では重機が稼働し、人間が調査・監視を行うと危険が伴うケースも少なくありません。
小回りの利くドローンを使えば、工事中の現場や狭い場所であっても、スムーズに作業が進められます。
情報共有や3Dデータの活用
建築現場では、情報共有や3Dデータの活用が進んでいます。3Dデータは、建築設計をスムーズに進める上でも有効です。3Dプリンターによる建築など、さまざまな使い方ができます。
情報共有の面では、BIM/CIMが知られています。建設事業のデジタル化により、発注者・受注者間での情報共有を進め、事業全体の効率化を図るシステムです。3Dモデルの活用により、出来上がりのイメージ共有や複雑な部分の確認が容易になります。
2Dデータだけでは分かりにくい部分も、3Dデータの活用と情報共有によってスムーズな連携が可能です。
ウエアラブルデバイスの導入
建設DXには、「ウエアラブルデバイス」の導入もあります。ウエアラブルカメラやAIを活用した危険感知システムなど、内容はさまざまです。
ウエアラブルカメラの導入により、危険エリアの監視・巡回の手間が減ります。遠隔地との通信や、画像の共有なども可能です。研修にも活用できるでしょう。
人手が少ない現場でも、デバイスの活用により効率良く業務が進みます。生産性の向上や、長時間労働の是正に役立つアイテムです。
建設DXを進める上での注意点
建設DXの推進は、建設業界の課題を解決する上で有効です。しかし、デジタル化を進めさえすれば、どのような問題でも解決するわけではありません。注意点を理解し、転職先を探す上で役立てましょう。
初期コストや維持費がかかる
DXには、ツール・システムの導入が欠かせません。初期費用や維持にコストがかかり、予算を圧迫する可能性もあります。
効率・利便性は上がるものの、利益に直結しているかが重要なポイントです。たとえDXを推進していても、コストが膨大になり人件費にかけるお金が減ってしまう状況では、従業員にとってデメリットがあります。
建設業界への転職を検討している場合は、DXによって良い循環が生まれ、給与アップにもつながるかどうかを判断基準とするのもよいでしょう。
デジタルツールに不慣れな人への教育が必要
これまでパソコンやデジタルツールに触れたことがない人は、教育に時間がかかります。建設業界にはデジタルに強い人材が少なく、導入への反発や教育にかかるコストの増加も考えられるでしょう。
教育中は、アナログでの対応よりも時間がかかる可能性があります。あまりにも複雑な手順であった場合、ツールを使いこなせる人材がおらず、導入失敗に至るリスクも高いでしょう。
不慣れな人が多い企業では、サポートが徹底され誰でも簡単に使えるツールの導入が適しています。または、デジタルツールに強い人材を確保した上で、導入を進めていく必要があるでしょう。
建設DXは業界の発展をサポートする改革
建設DXの事例では、ドローンの導入や3Dデータの活用など、課題解決に役立つものが増えてきています。人手不足や長時間労働を早期に解決するため、DXを進める企業も増加傾向です。
建設業界へ転職を検討している場合は、DXの推進状況をチェックしてみてもよいでしょう。業務効率化により職場環境が良くなり、福利厚生の充実にもつながっている可能性があります。
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