「零細企業」という言葉は知っていても、定義や中小企業などとの違いについては分からない人もいるでしょう。零細企業の概要や強み・弱みについて解説します。自分の目指すものと一致していれば、零細企業への転職は大きなメリットをもたらすでしょう。
この記事のポイント
- 零細企業とは
- 中小企業の中で特に規模が小さい企業を指します。
- 零細企業の強み
- 地域密着型の戦略で、大企業にはまねしにくい強みがあります。
- 零細企業に向いている人
- 地域に密着した仕事をしたい人や、将来的に自分で事業を立ち上げたい人にとって、学びの機会が多く得られます。
零細企業とは何か?定義を解説
零細(れいさい)企業という言葉はよく耳にしても、具体的にどのような企業を指すのか、いまいちピンとこない人も多いでしょう。零細企業の定義と、言葉の使い方について解説します。
一般的な定義と中小企業庁が定める零細企業
零細企業とは、一般的に中小企業の中でもさらに規模が小さい企業のことです。例えば、家族経営の会社や小さな商店などがこれに当たります。
中小企業庁の「中小企業基本法」では、零細企業を「小規模企業者」と定義しており、その範囲は商業・サービス業で従業員数が5人以下、製造業で20人以下の事業者とされています。
零細企業は、従業員数が少なく経営規模も限られているため、地域に密着した営業を行うことが多いのが特徴です。
出典:中小企業基本法(中小企業者の範囲及び用語の定義)第2条第5項|e-Gov法令検索
言葉としての使い方もチェック
零細企業という言葉は、主に中小企業よりも規模が小さな企業を指す際に使われます。特に、経済やビジネスに関する文脈で頻繁に出てくるでしょう。
<使用例>
「地元の零細企業が地域経済に貢献していることを忘れてはならない。」
「零細企業でも、創意工夫で大きな成果を上げることが可能です。」
「零細企業は、大手企業に比べて柔軟な対応ができるメリットがあります。」
また、英語では以下のように表現します。
- 大企業=large-enterprise
- 中小企業=Small and Medium-sized enterprise
- 零細企業=micro-enterprise
零細企業の割合と他企業との違い
日本における零細企業・中小企業・大企業の割合とその違いについて見ていきましょう。
2021年の時点で8割を超える
以下は、日本における事業者の割合です。
- 中小企業99.7%(うち小規模事業者84.5%)
- 大企業0.3%
中小企業庁が2023年に発表したデータによると、2021年6月時点では、国内企業の8割以上もの企業が零細企業(小規模事業者)として分類されています。零細企業は、従業員数が少なく規模が小さいながらも、地域社会の経済を支える重要な役割を担っています。
零細企業は地元での雇用促進や各種サービスの提供、消費者との密接な関係構築に貢献しており、国内経済の基盤を支える存在として欠かせません。
出典:中小企業庁:中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)の集計結果を公表します
中小企業との違い
中小企業と比較すると、従業員数や資本金の規模においても明確な違いがあります。
<中小企業>
- 製造業・建設業・運輸業その他の業種:資本金3億円以下または従業者規模300人以下
(※ゴム製品製造業:資本金3億円以下または従業者規模900人以下)- 卸売業:資本金1億円以下または従業者規模100人以下
- サービス業:資本金5千万円以下または従業者規模100人以下
(※ソフトウェア業・情報処理サービス業:資本金3億円以下または従業者規模300人以下)
(※旅館業:資本金5千万円以下または従業者規模200人以下)- 小売業:資本金5千万円以下または従業者規模50人以下
<零細企業(小規模事業者)>
- 製造業・建設業・運輸業その他の業種:従業者規模20人以下
- 卸売業・小売業・サービス業:従業者規模5人以下
(※宿泊業・娯楽業:従業者規模20人以下)
中小企業は、零細企業を含む広範囲の企業を指し、規模は中規模から大規模に迫る企業までさまざまです。
出典:中小企業庁:中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)の集計結果を公表します
出典:中小企業・小規模企業者の定義 | 中小企業庁
大企業との違い
大企業と零細企業の主な違いは、従業員数と資本金にあります。
大企業は規模が大きく、国内外で広範囲に事業を展開しているのが特徴です。大企業における明確な定義はありませんが、中小企業の定義を上回る企業を指します。
零細企業は規模が非常に小さく、主に地域密着型の事業を行っているのが特徴です。
みなし大企業とは、規模が小さい企業であっても、一定の基準に基づき大企業と見なされる企業のことです。主に、グループ企業や関連会社が一定の規模を超える場合、その企業全体をみなし大企業として扱います。
ベンチャー企業との違い
ベンチャー企業と零細企業は、企業の目的やビジネスモデルにおいて明確な違いがあります。
ベンチャー企業は、規模や資本金に明確な定義はありません。新しいアイデアや技術に基づいて、急成長を目指して設立された企業です。外部の投資家から資金を調達することが一般的です。
設立当初は少数の従業員でスタートし、事業の拡大に伴って急速に従業員数が増える傾向にあります。
一方、零細企業は、地域社会に密着した事業を行い、安定した経営を重視します。急成長よりも長期的に安定した運営を目指し、地域に根ざした経済活動を行います。資金調達は、自己資本や地元からの融資が中心で、外部からの大規模な投資を受けることは少ないでしょう。
零細企業の強み
零細企業は小規模なビジネスですが、さまざまなメリットがあります。世の中には零細企業だからこそできるサービスや商品がたくさんあり、多くの人がその恩恵を受けているでしょう。零細企業の持つ強みについて解説します。
地域密着型である
零細企業の強みは、地域密着型の経営が可能な点にあります。小規模だからこそ、地域のニーズや顧客の特性に合わせた細やかなサービスが提供可能です。個別対応によって少しずつ信頼関係を築き、ますますその企業は地域から愛される存在になります。
例えば、地元の祭りに合わせて限定の商品を少量販売する、地域の特産品を取り入れたメニューを提供するといったケースが挙げられます。
サービスが地域に根付けば、地元社会において欠かせない存在となるでしょう。地域密着型のアプローチは、零細企業が競争において優位性を出せる戦略の1つです。
経営環境の変化に順応しやすい
零細企業は事業規模が小さいため、経営環境の変化に柔軟に対応できるのも強みです。従業員が少ないことで、経営層から現場までの意思疎通がスムーズに通じ、市場変化や経営変化に迅速に対応できます。
例えば、コロナ禍で外食業界が厳しかった中、飲食店がテイクアウトやデリバリーサービスを急速に導入した事例が挙げられます。
地域の特産物を使ったオリジナルメニューをイベント前に急きょ販売したり、参加者向けの限定グッズを販売したりと、機敏な対応も可能です。経営環境の変化にすぐに対応できるのは、規模が小さく地域密着型だからこそできることでしょう。
専門性・独自性の高さ
特定分野に特化した専門性や独自性を追求できるのも強みです。他社や大企業が手を出しにくいニッチな市場で、独占的なポジションを築くことが可能です。
例えば、地元名産の無農薬野菜を使ったオーガニック食品を提供する企業や、地元産の天然素材を使った家具を製作する工房など、オリジナルの市場を開拓できます。
独自性の高いこうした戦略は大企業が参入しづらいため、零細企業の独占状態となる場合もあります。
零細企業の弱み
零細企業は強みがある一方で、弱みも抱えています。例えば、資金力のある大企業ならば容易にできる全国展開も、零細企業にとっては難しい課題です。零細企業の弱みについて解説します。
商圏の拡大が難しい
零細企業の弱みとして、商圏や販路の拡大が難しいことが挙げられます。規模が小さく、広域展開に必要な資金や人員が不足しているケースが多いためです。
また、零細企業のビジネスモデルは基本的に、企業が直接消費者に商品やサービス提供をするBtoC型です。このビジネスモデルでは、主に地域に根ざした展開が中心になり、商圏の拡大には限界があります。
商圏を広げるためには、新たな戦略が必要となるでしょう。零細企業にとって、商圏拡大のための資金調達や新たな戦略を練ることは、大きな課題です。
資金融資の難しさ
零細企業は、銀行などの金融機関から融資を受ける際に、厳しい審査基準に直面することもあります。これは、大企業・中規模の企業に比べて経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)であり、返済能力に対する信用度が低く見られがちなためです。
零細企業は担保となる資産が少ない場合も多く、これも融資のハードルを高めています。資金不足により、新たな設備投資・人材採用・広報活動など、事業拡大や競争力強化のための施策を行うことが難しくなります。
このような状況を打開するために、何とか自己資本を充実させたり、クラウドファンディングなどの新しい資金調達手段を検討したりと、日々奮闘している零細企業は多いでしょう。また、公的支援制度などを利用し、資金調達の選択肢を広げるケースも見られます。
事業継承の問題が起きやすい
経営者の高齢化が進めば、事業継承が課題となることもあります。企業自体が黒字であっても、次世代を担う後継者が見つからず、やむを得ず廃業に追い込まれるケースも見られます。
特に、家族経営が多い零細企業では、親族が事業を引き継がない場合、必要とされているにもかかわらず、廃業せざるを得ないことも少なくありません。
また、経営者が培ってきたノウハウや人脈が個人に依存している場合、引き継ぎ自体が難航することもあるでしょう。
零細企業に向いている人の特徴をチェック
零細企業に向いている人の特徴を解説します。地域密着型のビジネスが好きな人や、将来的に事業を起こしたい人など、精力的に動ける人がふさわしいでしょう。
主体的に行動でき自分の成長を望む人
零細企業で活躍できるのは、自ら主体的に動き、成長意欲が高い人です。従業員が少ないため、1人1人が担う役割が大きく、時には複数の業務を兼任することもあります。
営業と並行してマーケティング業務を担当したり、現場業務と管理業務を兼任したりするケースも珍しくありません。1つの専門分野にとどまらず、多角的なスキルを身に付けることができます。
零細企業で働くとビジネスの全体像を理解できるようになり、キャリアアップにもつながります。大企業にはない柔軟性があり、自分次第で個人の成長を最大限に生かせる環境が整っているのが魅力です。
独立を目指すなど経営について学びたい人
経営に興味があり、将来的に独立を考えている人にとって、零細企業は理想的な環境です。従業員が少ないため経営者との距離が非常に近く、日常的に経営判断や事業運営のノウハウを直接学ぶことができます。
例えば、売上管理・コスト削減の取り組み・マーケティング戦略の立案など、大企業では分業されている業務も、零細企業では経営者自らが関与していることが多いため、そのプロセスを間近で見られるでしょう。
経営者の考え方やビジネス哲学を直接吸収し、実践的な経営スキルを身に付けやすい環境です。自分でビジネスを立ち上げたいと考えている人は、貴重な経験を積むことができるでしょう。
零細企業を知って転職すべきかを検討しよう
零細企業には、地域密着型の強み・素早い意思決定ができる柔軟さ・専門性の高さなど、多くのメリットがあります。
一方で、商圏の拡大が難しく資金調達や事業継承に課題があるなど、特有の弱みを抱えている企業も少なくありません。しかし、その分経営者との距離が近く、幅広い業務を経験できるため、自分の成長を求める人や経営を学びたい人には向いている環境といえます。
転職先として零細企業を選ぶ際には、自分の価値観やキャリアプランと合っているかをしっかり見極めましょう。転職の際は、求人情報一括検索サイト「スタンバイ」を活用してみてください。自分に合った企業を探しましょう。