短時間勤務制度は、育児・介護のために1日の所定労働時間を短縮できる制度です。2012年から、全ての企業に対して導入が義務化されているものの、内容についてよく分からない人も多いのではないでしょうか。制度の内容や利用方法などについて解説します。
短時間勤務制度とは?
短時間勤務制度とは、1日の所定労働時間を短縮して働ける制度です。具体的な内容について確認しておきましょう。
1日の労働時間を原則6時間とする制度
短時間勤務制度とは、育児・介護のためにフルタイムで働けない労働者が、1日の所定労働時間を6時間に短縮できる制度です。
2009年の育児・介護休業法の改正により2010年に施行された際は、労働者の人数が常時100人以下の企業に対し、適用を2年間猶予する措置が取られていました。
2012年に猶予措置が終了して以降、現在は全ての企業に対して制度の設置が義務付けられています(育児・介護休業法第23条)。育児・介護を行う労働者が、仕事を続けながら、家庭生活と両立することを目指している制度です。
出典:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 第23条|e-Gov法令検索
労働者に不利益な取扱いの禁止
労働者から制度の利用についての申し出があった場合、企業側はそれに応じなければなりません。育児・介護休業法第23条の2では、申し出をした労働者に対して不利益な取扱いをすることを、禁止しています。
不利益な取扱いに該当する例はいくつかありますが、代表的なものは以下の通りです。
- 解雇する
- 有期雇用契約の労働者に対して契約を更新しない
- あらかじめ決められていた契約更新回数を引き下げる
- 正規雇用から非正規雇用にするなど、雇用契約内容の変更を強要する
- 労働者に不利益となる降格・減給
出典:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 第23条の2|e-Gov法令検索
短時間勤務制度の対象者や利用期間
制度の対象者は、利用目的が育児か介護かによって異なります。また、適用の対象外となる労働者への、代替措置についても見ていきましょう。
育児による利用の場合
育児を目的として制度を利用する場合は、3歳未満の子どもを養育しているほぼ全ての労働者が対象です。ただし、以下の労働者は適用対象外となります。
- 日々雇用されている
- 1日の所定労働時間が6時間以下
また、以下の労働者は、労使協定によって適用が除外される場合もあります。
- 雇用されてから1年未満
- 週の所定労働日数が2日以下
- 短時間勤務が困難な業務に就いている
なお、制度を利用できる期間は、子どもが満3歳になるまで(誕生日の前日まで)とされています。
介護による利用の場合
介護のために利用できるのは、2週間以上にわたって常時介護が必要となる家族がいる、ほぼ全ての労働者です。ただし、以下の労働者は適用の対象とはなりません。
- 日々雇用されている
また、労使協定がある場合は、以下の労働者も対象外となります。
- 雇用されてから1年未満
- 週の所定労働日数が2日以下
介護のための短時間勤務等の措置では、企業に対して、以下のいずれかの措置を講じることを義務付けています。
- 短時間勤務制度
- フレックスタイム制度
- 始業・終業時刻の調整による時差出勤制度
- 労働者が負担する介護サービス利用料の助成、またはそれに準ずるその他の制度
なお、利用期間や回数は、介護を必要とする家族1人当たり、連続する3年間以上の間に2回以上です。介護休業を取得した場合は、休業していた期間を挟んで、3年の間に2回以上利用できます。
出典:短時間勤務等の措置とは
適用対象外の労働者への代替措置
労使協定により、制度の対象とならない人に対しては、以下の代替措置を用意することが義務付けられています。これらの措置は特に、育児を行う従業員の支援を目的としています。
- フレックスタイム制度:『コアタイム』(必ず出社が求められる時間帯)を守れば、労働者の裁量によって、出退勤の時間を決めることができる制度です。コアタイムが設定されていなくても問題はありません。
- 時差出勤:勤務する時間数は同じでも、子どもの送り迎えなどに合わせて始業と終業の時刻をずらすことができる制度です。
- 事業所内に保育施設を設置すること、またはそれに準ずる便宜を供与すること:企業内に3歳未満の子どもの託児施設を設置する制度です。または、以下のような支援を提供します。
- 労働者が雇うベビーシッター費用の負担
- 労働者からの希望による短時間労働が可能な部署への配置換え
短時間勤務制度を利用している間の給与
制度の利用期間中の給与などについても、確認しておきましょう。手当や賞与の扱い、社会保険料の手続きなども含めて解説します。
基本給は労働時間に比例して減額される
制度を利用して時短勤務した分の給与については、育児・介護休業法で定められていません。企業には、時短勤務分の給与の支払いが義務付けられていないため、原則として労働時間数の減少と比例して基本給が減額されます。
例えば、通常の基本給が月30万円の人が制度を利用した場合、減額後の基本給は「時短による基本給 = 所定労働時間の基本給 × 時短労働時間 ÷ 所定労働時間」の計算式で算出されます。
- 30万円×6時間÷8時間=22万5,000円
また、制度の利用中は、原則として時間外労働も制限されます。それまで給与に残業代が含まれていた人は、25%以上減額されることもあるので注意しましょう。
手当や賞与の扱いは企業によって異なる
手当が減額されるかどうかは、種類によって異なります。減額計算の対象となるのは、主に精勤手当や定期支給される交通費・昼食費など、時短勤務によって影響を受けるものです。
住宅手当・家族手当のように、勤務時間数に関係のないものについては、減額の対象外となる可能性が高いでしょう。資格手当・役職手当などは、企業側が任意に決めているケースが多いようです。
なお、賞与に関しては、査定期間中の働き方によって異なります。査定期間中に制度を利用している場合は、給与と同様に減額されるケースがほとんどです。
査定期間中に時短勤務していなければ、ボーナスが支給される時点で制度を利用していても、減額対象とはなりません。
社会保険料の手続きに注意
時短勤務で働く場合、社会保険料の支払い額の変更手続きが必要です。会社を通じて、年金事務所に「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出すると、時短勤務開始の4カ月後から、給与に応じて月々の社会保険料が減額されます。
また、「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出しておくと、支払う社会保険料が少なくなっても、将来受給できる年金額には影響がありません。
社会保険料に関する手続きは、労働者が希望しなければ行われないため、この制度を利用する際は、手続きを忘れずに行うことが重要です。
短時間勤務制度に関するQ&A
最後に、制度の利用に関するQ&Aをまとめました。時短勤務をスムーズに始めるために、疑問点があれば解消しておきましょう。
短時間勤務制度を利用するには?
まず就業規則などで、自社の制度について確認しておきましょう。企業によっては、法律で定められている以上の独自の制度を、導入している場合もあるためです。
利用を希望する場合は、時短勤務を開始したい日の1~2カ月前に、勤務先の人事担当者に申請書を提出しましょう。時短勤務の開始日が決まったら、勤務時間などについて周囲に知らせます。
業務の効率化や上司・同僚との仕事内容の共有など、短い勤務時間内に仕事をスムーズに進められるための、準備をしておくことも大切です。
期間は延長できる?
育児・介護休業法では、育児のための短時間勤務は3歳未満までと定められています。
3歳以上の子どもを持つ労働者への、短時間勤務制度の設置は企業の努力義務となっているため、期間の延長は難しいケースも多いようです。延長に関しては、企業の判断によるため、あらかじめ確認しておきましょう。
なお、介護による利用の場合は、連続3年以上の短時間勤務制度導入が企業に義務付けられており、期間の上限は決められていません。
短時間勤務制度の内容について知っておこう
短時間勤務制度は、育児・介護と仕事を両立させやすくするために、設けられている制度です。2012年から全ての企業に設置が義務付けられており、対象となる労働者が希望すれば、時短勤務などが可能になります。
企業によっては、育児・介護休業法で定められている以上の制度を設けているところもあるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
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