スケールメリットとは、規模が拡大することで得られるさまざまな効果を意味する言葉です。スケールメリットの主な効果や注意点、業種別の具体例について解説します。
スケールメリットとはどういう意味?
まずは、スケールメリットの意味から確認しておきましょう。類似するその他の用語との違いについても解説します。
規模が大きくなることで得られるメリットのこと
スケールメリットとは、英語で「advantage(s)of scale」と表現される言葉で、同種のものが多数集まることで得られるメリットを指すビジネス用語です。
「規模のメリット」や「規模の利益」などとも言い換えられ、事業規模が拡大するほど、大きな成果を生み出せることを意味します。
例えば、製造業において生産量が増加すればコストを削減でき、利益率が向上するといった例をイメージすると分かりやすいでしょう。スケールメリットは、さまざまな業種や事業形態において期待できる効果です。
シナジー効果との違い
シナジー効果も、企業の成長や発展に関連する用語ですが、意味合いは異なります。スケールメリットは、「同種のものが多数集まる」ことによる効果で、事業の規模そのものがもたらすメリットを指す言葉です。
一方、シナジー効果は、異なる複数の事業や資源を掛け合わせることで生まれる相乗効果を意味します。同じ会社の別部署による共同事業や、企業間の業務提携などによって、単独で得るより大きな利益を得られる効果のことです。
スケールメリットが規模による経済効果に着目しているのに対し、シナジー効果は「1+1=2」以上の成果を生み出す相互作用に重点を置いているといえます。
規模の経済との違い
規模の経済とは、生産規模の拡大によって製品1個当たりにかかる固定費が下がり、結果として利益が大きくなるという経済の動きを指す言葉です。
例えば、家電メーカーでいうと、同じ型番の製品を大量に生産し、原料費などを安く仕入れて利益率を上げようとする動きのことを指します。
スケールメリットも、生産・事業規模の拡大によって得られる利益を意味する言葉です。しかし、規模の経済は、生産・事業規模の大小によって生じるデメリットも含んでいるという点が大きく異なります。
スケールメリットによる主な効果
スケールメリットには、さまざまな効果があります。事業規模を拡大することによる主な効果を3つ見ていきましょう。
コストを削減できる
スケールメリットによる主な効果の1つは、コストの削減です。例えば、製造業においては、同一製品を大量生産することによって生産設備や機械の稼働率が上がり、1個当たりにかかる人件費や光熱費の割合が低くなります。
必要な資材を一括して仕入れることで、原料費の削減も可能です。また、同じ製品をまとめて運送すれば、それにかかるコストも抑えられるというメリットがあります。
生産量を増やすことでコスト削減が可能になり、結果的に利益率が向上するという効果は、スケールメリットの大きな特徴といえるでしょう。
経営を効率化できる
経営の効率化も、スケールメリットによって得られる効果の1つといえます。例えば、グループ会社内で重複する事業を集約するなどの例です。
それまで個別で動いていた同じ事業を1つにまとめれば、業務システムの共同利用などによって、効率的に仕事を進められるようになるでしょう。
同じ業種の企業が、物流などのプラットフォームを連携して活用することで、生産性の向上を図れるというメリットもあります。
また、フランチャイズシステムもスケールメリットによる経営の効率化の一例です。フランチャイズ化で販路を拡大することにより、効率的な経営が可能になります。
知名度の向上により競争優位性を獲得できる
市場に流通する商品や店舗の数が増えると、知名度が向上します。コンビニやファミリーレストランなどのチェーン店が、その例です。
消費者の間にブランドとしての認知度が定着すれば、競合他社に対して差別化が可能になり、競争優位性の獲得にもつながるでしょう。知名度の高い企業に対抗するには多大な投資と時間がかかるため、新規参入者にとっての障壁にもなります。
結果的に、市場での地位を確立させ、さらなるシェア拡大が可能になるでしょう。また、知名度が向上することで、集客のための多額な宣伝費をカットできるというメリットもあります。
スケールメリットの注意点
スケールメリットには注意すべき点もあります。スケールメリットについて正しく理解するために、注意点についても把握しておきましょう。
効果が得られない業種もある
全ての業種にとって効果が期待できるわけではないということを知っておきましょう。もともと固定費が発生しない業種にとっては、規模の拡大によるコスト削減というメリットは得られません。
むしろ、事業を拡大することによって、人件費や光熱費などが増えてしまう可能性もあるでしょう。また、医療機関のように高度な専門性や個別案件への対応が求められる業種にとっては、規模の拡大によるメリットは限定的です。
利益率の向上を追求してコスト削減や効率化を重視した結果、提供するサービスの質が低下し、かえって市場での評価が下がる可能性もあります。
コミュニケーションコストが膨らむ
規模が拡大して業務に関わる人の数が増えると、コミュニケーションコストが増えるというデメリットもあります。事業規模の拡大に伴い、組織が大規模・複雑化すると、部門や拠点間での情報共有や意思疎通が困難になるためです。
情報の伝達に時間がかかり、承認や意思決定のスピードが低下する恐れもあるでしょう。情報の伝達漏れやミスなどによって、時間的コストがかかるだけでなく、業務そのものに支障を来す可能性もあります。
コミュニケーションコストの増大を防ぐためには、業務連絡や進捗報告などを効率的に行えるツールを導入するなど、コミュニケーションを取りやすい環境を整えることが必要です。
スケールメリットを効果的に得るポイント
スケールメリットの恩恵は、単に事業規模を拡大するだけで得られるものではありません。効果的に得るためのポイントについても知っておきましょう。
販売の仕組みを作る
商品を大量生産し、販路を広げても、それが売れる仕組みを作らなければ規模の拡大によるメリットを得るためには十分とはいえません。商品が売れなければ過剰な在庫を抱えるリスクが高まります。
まず、販売するための仕組み作りを考えた上で、生産計画を立てることが大切です。売れる仕組みを作るためには、広告による宣伝やPRなど、効果的な販促活動についても計画する必要があります。
また、販路を拡大する場合も、商品をスムーズに顧客に届けるための流通体制を構築しておくことが重要です。
市場分析によってニーズを把握する
市場分析によって顧客のニーズを把握する必要もあります。市場の需要を見誤ると、結果的に在庫を抱えたり、廃棄となって余計なコストが発生したりする可能性があるためです。
まず、ターゲットとする顧客層を特定することから始めましょう。その上で、アンケートやインタビューなど、さまざまな調査方法によって顧客のニーズを把握します。
顧客のニーズに対し、自社の強みを生かしてアピールするには、競合他社の商品を分析し、差別化できるポイントを明確にしておくことも大切です。
スケールメリットの業種別の具体例
スケールメリットの具体例を業種別に見ていきましょう。代表的な3つの業種で得られる効果について解説します。
飲食・小売業
全国規模で店舗を展開している飲食や小売のチェーン店は、スケールメリットの恩恵を得やすい業種といえます。店舗数の拡大に伴い、仕入れ量が増加することで、一括仕入れによるコストの削減が可能です。
また、多くの店舗を展開することで消費者の目に触れる機会が増え、知名度が高まるというメリットもあります。全店舗共通で使用できるクーポンやポイントカードなどを導入すれば、集客効果も期待できるでしょう。
運輸・運送業
運輸・運送業では、一度に多くの荷物や人を運ぶことで、ガソリン代や人件費などの固定費の削減が可能です。1回の輸送・運送にかかるコストを下げれば、利益率の向上にもつながります。
例えばトラックでの運送の場合、荷物を混載することで、必要な車両や人の数を削減できるだけでなく、効率も上がるでしょう。物流拠点の規模を拡大すれば、荷物の保管や仕分けを一括して管理できるといった効率化も期待できます。
また、人を乗せて運ぶ場合も同様です。バスや電車のように一度に多くの人を乗せられる場合は、乗客1人当たりにかかるコストも下がります。
教育・学習支援業
学校・塾・習い事・通信教育などの教育・学習支援業では、教室や生徒の規模拡大によるスケールメリットが期待できます。教室数を増やし、多くの生徒を獲得することで、知名度や認知度が上がるという効果があるでしょう。
知名度や認知度が上がれば、新規生徒も獲得しやすく、実績も上がります。規模が拡大することで講師の経験値が上がるのもメリットの1つです。
良質な教材や学習プログラムの開発につながり、さらに信頼性が高まるという好循環が生まれます。また、学校の場合、統合や再編などで運営を効率化させるなどの例もあるようです。
スケールメリットの意味を知っておこう
スケールメリットとは、同種のものを集めて規模を拡大することにより得られる効果を指す言葉です。得られるメリットには、生産量を増やすことによるコストの削減・業務の集約化による経営の効率化・知名度の向上による競争優位性の獲得などがあります。
ただし、業種によっては効果を得られない場合もあるため、事業の特性との相性を見極めることが必要です。また、単に規模を拡大させるだけでなく、販売する仕組み作りや市場のニーズの把握など、効果的に活用するためのポイントについても知っておきましょう。