転職先で人間関係がうまくいくかどうか不安なら、自己開示を理解しておくのがおすすめです。良好な人間関係を築きやすくなるため、新しい職場にもスムーズに溶け込みやすくなるでしょう。開示とは何か、意味や具体的な方法について解説します。
自己開示とは
自己開示とはどのようなことを指す言葉なのでしょうか。自己呈示との違いと併せて、まずは言葉の意味を押さえておきましょう。
ありのままの自分をさらけ出すこと
自己開示とは、自分の情報を正直に伝えることです。強みだけでなく弱みや過去の失敗なども含めて、ありのままの自分を他者にさらけ出すことを意味します。1971年に心理学者のシドニー・ジュラードが提唱しました。
自己開示を行う目的は、相手との相互理解を深めることです。自分をさらけ出すことで相手も心を開きやすくなるため、良好な人間関係を築くための手だてとなります。
自己開示により職場全体の活発な交流が促されるほか、営業のシーンでも相手からの信頼を得やすくなります。適切な自己開示を行えるようになれば、ビジネスのあらゆるシーンでさまざまなメリットを得られるでしょう。
自己呈示との違い
自己開示と似た意味の言葉に自己呈示(じこていじ)があります。自己呈示とは、自分をより良く見せようとアピールすることです。
自己開示では自分の情報を包み隠さずオープンにするのに対し、自己呈示では公開する情報を選択します。不都合な情報を伏せたり、わざと大げさに表現したりすることもある点がポイントです。
自分にとって有利になるように印象を操る自己呈示は、決して悪いことではありません。ただし、自分の評価を高められる可能性がある半面、過度なアピールにより信頼を失ってしまう恐れもあります。
自己開示のメリット
ビジネスシーンで適切に自己開示を行えば、さまざまなメリットを得られます。どのようなメリットがあるのか詳しく見ていきましょう。
短期間で相手と打ち解けられる
自己開示の大きなメリットの1つが、短期間で相手との距離を縮められることです。自分の情報をさらけ出すことで、相手の警戒心が弱まりやすくなるため、短期間で相手と打ち解けられるでしょう。
オープンに接してきた相手に対し、自分も相応の情報を示さなければならないという気持ちになることを、「自己開示の返報性」といいます。自己開示の返報性が働くことで、相手にも自己開示を促しやすくなり、お互いが自分をさらけ出して距離が近づきます。
例えば、入社して間もない時期は周囲の警戒心が強く、コミュニケーションを取りにくいでしょう。このような状況でも自己開示を行えば、新しい職場にもスムーズになじみやすくなります。
自己肯定感を高められる
自己肯定感を高められることも、自己開示で得られるメリットの1つです。自己開示により示した情報を肯定的に受け止めてもらえると、自分に自信を持てるようになります。
例えば、自分で考えたアイデアを相手に認めてもらうことで、実行する気力が湧いてくるでしょう。性格や価値観を相手に受け止めてもらえた場合、「自分はこのままでいいんだ」と思えるようになります。
自己肯定感が高まれば、何かにチャレンジしたいときにも勇気を出せます。失敗を恐れない姿勢が認められ、社内での評価を高めることにもつながるでしょう。
職場の心理的安全性が高まる
自己開示をする人が多い職場は、心理的安全性が高くなることもポイントです。心理的安全性が高まると、組織において自分の考えや気持ちを安心して発言できるようになります。
自分の意見が通りやすい組織では、より自分らしさを発揮できるようになるため、組織全体の活性化につながります。メンバーのモチベーションアップを期待できることや、イノベーションが生まれやすくなることもメリットです。
より働きやすい職場になるため、離職率も低下するでしょう。このように、組織内の心理的安全性が高くなることには、さまざまなメリットがあります。
自己開示のやり方
自己開示の適切なやり方を覚えておけば、どのような環境でも周囲との信頼関係を築きやすくなるでしょう。自己開示を行う際のポイントを解説します。
自分から自己開示をする
自己開示を行う場合、まずは自分から情報を開示しましょう。一方的にならないよう相手にも自己開示の機会を与えることで、自己開示の返報性が働きやすくなります。
自分の話ばかりに終始してしまうと、相手の心をオープンにできません。自分の情報を開示しつつ、相手にも興味を持って質問をすれば、相手が自己開示を行う機会をつくれます。
相手の自己開示に対しては、肯定的に受け止めてあげることが大切です。どのような部分に共感したのかを伝えることで、「自分の考えがきちんと伝わっている」と相手が好意的に感じやすくなるでしょう。
プライベートな話も盛り込む
職場や取引先の人と話す際は、どうしても仕事の話に偏りがちです。自己開示に進みやすくするために、プライベートな話も盛り込むようにしましょう。
プライベートな要素を交えた返答も効果的です。例えば、「今日は良い天気ですね」という発言に対し「そうですね」と返答するだけでは、自己開示につながりません。
「今日のような天気の日には、外で運動をしたくなります。何か運動をされていますか?」などと返答すれば、自分の自己開示につながる上、相手にも自己開示を促せます。プライベートな話で盛り上がり、本題に入る前に打ち解けやすくなるでしょう。
自分の弱みも開示する
自己開示では自分の強みだけでなく、弱みを開示することも重要なポイントの1つです。失敗談やコンプレックスを織り交ぜると、相手が心を開きやすくなります。
自分の強みや成功体験だけに話が終始する場合、結局は自己呈示と変わりません。自分を良く見せようとするのではなく、自分にとってマイナスな部分をさらけ出すことも大切です。
また、上司と部下のような関係では、部下が距離を置きがちになります。しかし、上司が部下に自分の弱みを開示することで、お互いの距離をより縮めやすくなるでしょう。
ただし、自己開示で重い話をすると、相手に負担を与えかねない点に注意が必要です。失敗談やコンプレックスは軽い内容にとどめ、適度に織り交ぜるようにしましょう。
自己開示の注意点
自己開示は相手との距離を縮めたい場合に効果を発揮しますが、気を付けたいポイントもあります。自己開示の注意点を見ていきましょう。
自分に負担がかからない範囲で行う
自己開示は自分が負担を感じない範囲で行うことが大切です。無理に弱みや失敗談を話してしまうと、後悔して自己嫌悪に陥ったり、ストレスをためたりすることにもなりかねません。
自己開示できる相手を自分で判断した上で、話す内容も相手によって変えましょう。深く話しすぎてしまったと感じたら、話題を変えるのも1つの方法です。
また、相手に自己開示を求める場合も、無理に話を引っ張り出そうとするのはNGです。相手の反応を見ながら、強弱をつけて話を進めていけば、相手がストレスをためてしまうのを防げます。
常に謙虚さを意識する
自分のことをさらけ出す自己開示では、強みや成功体験で自分をアピールしがちです。しかし、自分の話ばかりしてしまうと、自慢話に捉えられる恐れがあります。
最初は興味深く聞いていても、強みや成功体験の話が続くと、自分勝手な人だと思われかねません。表面上の感触は良くても、内心はイメージが悪くなっているケースもあります。
自己開示では常に謙虚であることを意識しましょう。弱みや失敗談を話したり、相手にも自己開示を促したりと、自分の話だけにならないようにすることが重要です。
【レベル別】自己開示に盛り込みたい内容
日本パーソナリティ心理学会の「自己開示の深さを測定する尺度の開発」では、自己開示でどこまで深く開示できるかのレベルが提示されています。自己開示に盛り込みたい内容をレベル別に紹介します。
出典:自己開示の深さを測定する尺度の開発 | 日本パーソナリティ心理学会
【レベル1】趣味や嗜好
自己開示の深さが最も浅いレベル1では、趣味や嗜好を開示するとよいでしょう。開示のハードルが比較的低く、打ち明けることによるリスクも低めです。共通の趣味や嗜好がある場合は、より深い話で盛り上がれます。
レベル1で開示できる具体的な例は次の通りです。
- 昔から好きなもの
- 最近はまっているもの
- 休日の過ごし方
趣味や嗜好について話したところで、自分の評価が下がってしまうことはほとんどありません。相手の質問に対してさらに話を広げられるようなテーマを決めておくことが大切です。
【レベル2】過去の困難な経験
レベル2の自己開示にふさわしい内容としては、過去の困難な経験が挙げられます。話題の例は以下の通りです。
- 困難な状況を克服した経験
- 困難な状況を他者に助けてもらった経験
- 過去の困難な経験から得た知識
ただし、唐突に過去の困難な経験を話し始めると相手が困惑しかねません。まずは相手の話から過去の困難な経験につながりそうな要素を見つけ、自然な流れで自分の話をするのがポイントです。
【レベル3】軽度の欠点や弱点
ある程度深い話題を展開できるレベル3では、軽度の欠点や弱点を開示することが可能です。具体例としては次のようなものが挙げられます。
- つい夜更かしをしてしまう
- 物事に熱中しすぎて自己管理を怠ってしまう
- 方向音痴で目的地に着けないことがある
致命的な欠点や弱点をさらけ出してしまうと、ビジネスにおいて自分の評価を下げてしまう恐れがあります。あくまでも軽度の欠点や弱点の開示にとどめましょう。相手に受け入れてもらえれば、自己肯定感を高めることにもつながります。
【レベル4】性格や能力における弱み
最も深い段階のレベル4で開示できるものとしては、性格や能力における弱みが挙げられます。さらけ出すのに勇気が必要な内容ですが、お互いが開示すれば心理的安全性が大きく高まるでしょう。具体例は以下の通りです。
- 他者を傷つけてしまった経験
- 何事も否定的に捉えてしまう性格
- 人の話を素直に聞けない性格
性格や能力における否定的な側面を話せる相手は、ある程度の信頼関係が構築できている人に限られます。大人数がいる場ではなく、相手と2人きりになった状況で打ち明けましょう。
自己開示には「ジョハリの窓」が効果的
適切な自己開示を行うために有効なフレームワークが「ジョハリの窓」です。具体的にどのようなことを行うのか、ジョハリの窓の意味や活用方法について解説します。
ジョハリの窓とは
ジョハリの窓は自己理解を促進するフレームワークです。心理学者のジョセフ・ルフトとハリー・インガムが考案し、それぞれのファーストネームから名前が付けられています。
ジョハリの窓には4つの窓があり、それぞれに次のような意味があります。
- 開放の窓:自分も他者も分かっていること
- 秘密の窓:自分は分かっているが他者には知られていないこと
- 盲点の窓:他者は分かっているが自分では気付いていないこと
- 未知の窓:自分を含めてまだ誰からも知られていないこと
自己理解や相互理解が深まることや、コミュニケーションの円滑化を図れることが、ジョハリの窓をチームで活用するメリットです。
基本的には、開放の窓を広げつつ未知の窓を狭めていくことで、コミュニケーションの円滑化や相互理解の促進を図ります。
「秘密の窓」を意識的に開放する
自己開示にジョハリの窓を用いる場合、まずは自分が考える自分のイメージと、他者から見た自分のイメージを書き出しましょう。他者から見た自分のイメージは、同僚や友人から聞き出すのがおすすめです。
それぞれのイメージが集まったら、開放の窓・秘密の窓・盲点の窓・未知の窓に振り分けていきます。全て書き終えたら秘密の窓に注目しましょう。
秘密の窓に書かれていることが多ければ、他者に知られていないことが多い=自己開示が足りないと判断できます。秘密の窓に書かれていることが開放の窓に移動していくよう、自己開示を進める必要があるでしょう。
なお、ジョハリの窓は自己PRや面接でも活用することが可能です。開放の窓や盲点の窓を見れば、さまざまな視点から集まった自分の強みが分かるため、自己PRや面接でのアピール材料に使えます。
自己開示について理解を深めよう
自己開示とはありのままの自分をさらけ出すことです。自分を良く見せようとする自己呈示と違い、自己開示では自分の弱みや欠点も開示します。
短期間で相手との距離を縮められることや、自己肯定感を高められることが、自己開示のメリットです。組織全体で自己開示を行えば、組織内の心理的安全性も高まります。
自己開示のやり方にはコツがあるほか、開示すべき内容もレベル分けされています。自己開示の適切な方法を理解し、新しい職場における人間関係の構築に役立てましょう。
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